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<インタビュー>ストリーミング特化型レーベル「VIA」が設立 レーベルヘッド松崎氏が語るこれからのアーティストとレーベルの関係



 TikTok、LINE MUSICで2020年リリースの「浮気されたけどまだ好きって曲。」が10代を中心に大きな話題を呼んでいるシンガーソングライター、りりあ。が、オリジナル曲「蛙化現象に悩んでる女の子の話。」をリリースした。彼女の新曲は、トイズファクトリーが2020年に新設した、ストリーミング特化型レーベル「VIA」から配信される、というサポート体制で、デジタル戦略を手掛けられている。

 SNS、ストリーミングからインディペンデント・アーティストを発掘し、配信ではThe Orchardという世界的なディストリビューターと組んだVIA。世界の音楽業界では、こうしたレーベルがTikTokでヒットを作るなど、もはや当たり前な存在だが、日本ではまだまだ新しい。セルプロデュース力の高いアーティストの良さを最大限に引き出すことを狙うVIAは、SNSから音楽をファンに発信したいアーティストにとって、既存のレーベルに代わる、新しいパートナーとなる可能性が大きい。

 そこで、VIAのレーベルヘッドである松﨑崇氏に、レーベル設立の意図、そしてりりあ。に代表されるSNS発アーティストの持つ大きな可能性について語ってもらった。

セルフプロデュースできるアーティストとA&Rの役割

――最初に伺いたかったのは、なぜこのコロナ禍のタイミングで、レーベルを新規設立したのか。経緯をお話しいただけますか?

松崎崇(以下:松崎):2019年の夏頃から、トイズファクトリーの社内でも、ストリーミングでシェアを取っていけるアーティストを発掘しないといけないなと考え始めていました。

社内の実績を色々見てきて、当初はやはり、パッケージに強いアーティストが大勢いるなという印象が強かったです。ですが、ここ2年ほどで、ストリーミング再生が伸びているアーティストも増えてきていたことも、背景にあります。

そして今年、コロナの影響でライブハウスでの活動ができなくなりました。その代わりに、新しい音楽やアーティストと触れ合う時間が、YouTubeやTikTokなどSNSへと移行してきました。そうした音楽の変化を目の辺りにして、会社としても自分としても、よりストリーミングを意識したタイミングだったことも重なり、レーベルの企画を本腰入れて作りました。

――VIAというレーベル名の意味は何でしょうか?

松崎:「ストリーミング特化型レーベル」と称していますが、Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKEN、ゆずなどのレーベルアーティストと、ストリーミング特化のアーティストの架け橋になるようなレーベルになるといいなあ、と思っていまして、この名前にしました。

――時期としては、設立までのスピード感はどれほどかかりましたか?

松崎:社長の稲葉にレーベルの構想をプレゼンしたら「ぜひ爆速でやった方がいい」と言っていただきまして。そこから一気に動いて今に至ります。

――ジャンルではなく、「ストリーミング特化型」という形式にレーベルをフォーカスさせた理由はどこにありますか?

松崎:理由は2つあります。まず一つは、VIAからリリースするりりあ。が代表的かと思いますが、ご一緒したいのは、ジャンルではどこにもカテゴライズできないアーティストだからです。仮に我々が「トイズファクトリーからりりあ。をリリースします」と言っても、世の中には馴染まない。りりあ。のようなアーティストは、SNSで独自の世界観をこつこつと積み上げてきた実績があります。VIAではそうしたアーティストにストリーミングで居場所を作ってあげたいと思っています。

2つ目の理由は、トイズファクトリー社内でも、他社さんとも差別化を明確にしたかったという点です。今回、VIAは設立からディストリビューターのThe Orchardにご一緒頂き、座組をしっかり作っています。トイズのデジタルチームと共に、The Orchardと協力して、アーティストをプロモーションしていきます。特に、海外へのプロモーションはThe Orchardにサポートしてもらい、国内はトイズと一緒にプロモーションしていくという役割を明確にしました。

――.りりあ。さんとはどのようにしてサイニングに至ったのでしょうか?

松崎:TikTokですね。最近だと、「TikTok系」というアーティスト像が増えてきている感覚もある中で、VIAで新しい女性アーティストをやるとなったら、明確な違いや良さを出したいと考えていました。りりあ。の良さは、オリジナル曲だと思っています。LINE MUSICなどで話題になった「浮気されたけどまだ好きって曲。」がすごく衝撃的で。曲と歌詞が印象的だったことがまず一番の理由です。



松崎:りりあ。はオリジナル曲が良いだけでなく、加えて、SNSのセルフプロデュース力も高い点もプラスでした。カバーアーティストは日本でも大勢活躍していますよね。その中でも、彼女は、僕たちレーベルが「こうやってリリースしましょう」という前から、自分のファンに何が良いか、を考えられるアーティストだと感じました。VIAでは、彼女のようなアーティストと絶対ご一緒したいと考えていました。



松崎:りりあ。に限らず、日本のレーベルのA&Rの問題だとも思います。あらゆるアーティストがセルフプロデュースできる現代は、「A&Rは何ができるのか?」が問われる時代だと感じています。最近の若手アーティストは、大人に対してアレルギー反応がある。「何ができるの?」という感覚で大人を見ていると思うんです。僕はそういうアーティストがやってほしいことを先に予測して、丁寧に説明して、少しずつ良さを分かってもらう。そういう関係性で話をしています。

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アーティストは施策だけで売れることはない

――りりあ。さんとの契約では、今後これまでのレーベルのようにCDもリリースされるのですか? VIAではCDを売っていくことも目指しますか?

松崎:そこは、重要な議論かと思っています。りりあ。の世代は、そもそもCDを買ってきていない世代なんですよ。僕たち目線だと、CDを出してお店に並ぶことがアーティストにとって嬉しい、という感覚が残っているんですね。ですが、CDに触れてきていない世代にとっては、ストリーミングにリリースすることだけで凄く喜んでくれる。早く曲をファンに届けることを楽しみにしてくれる。そういう認識の中で、「CDを出しましょう」という提案をこちらから持ちかけるのは、おかしいと感じています。「フィジカルを出したい」とアーティスト本人が自然に考えた時に出せればいいと思います。CDを10代が本当に欲しがっているのか、考え直す必要はあります。りりあ。の10代のファンに合うフィジカルで良いはずです。例えばイラスト集や詩の方が喜んでくれるなら、それがフィジカルの答えだと思います。

――CDをリリースする、しないは、今後のレーベルやマネジメントのビジネスモデルを考えさせられる議論ですね。日本の業界人では大勢が気にしていると思います。

松崎:当たり前ですが、収支だけで考えるとパッケージの利益率は単純に高いですよね。一方、ストリーミングはコツコツ積み重ねていく中長期的な狙いです。

――ストリーミングやSNSを得意とするアーティストとの契約条件も、これまでのアーティスト契約とは異なる内容に変わっていくと思われますが、いかがでしょうか?

松崎:ケースバイケースでフレキシブルに対応しています。自分たちのペースを変えず、活動していける、とアーティストには感じてもらいたいですね。

――The Orchardをディストリビューション・パートナーとして選んだ理由としては、どこに惹かれましたか?

松崎:トイズと似ている部分を感じました。代表の金子さんのインタビューを拝見した時、アーティストにもディストリビューター側にも両方に選ぶ権利があるという言葉を読みまして。良いと思った音楽に対して取り組んでいく考え方に共鳴しました。それがYOASOBIやBTSにも繋がっていると思いますし。トイズも、凄くやりたいという想いの強い各担当者が、アーティストと向き合ってきたレーベルです。売れるなら誰でもいい、という数字だけの瞬間的な売上だけで考えたくない社風があります。そうした共通の考え方があって、中長期的に一緒に良い作品を作っていくということを目指す上で、The Orchardさんと組みたいと思った理由です。

そして、The Orchardを選んだのは、やはり海外を意識している点ですね。ちゃんとスタートラインに立てることがまず大事だと思いました。各国均等に曲が聴ける状態を整理したいと思って、そこが得意なThe Orchardさんに声をかけさせて頂きました。

――ストリーミング発のアーティストが増えている昨今、これまでヒットに繋がってきた既存のプロモーション手法や、トラディッショナルなメディア戦略が通用しないという、新しい変化が音楽業界内で起きています。その中で、ストリーミングでヒットを作るためには重要だと考えていますか?

松崎:ヒットの作り方は大きく変わっていくと思います。今までの施策では、確実に通用しなくなる。反対に、良い曲が作れるパワーを持ったアーティストを発掘して、アーティストと合うレーベルとマッチングしていく組み方が、まずは重要かと思います。そして、ストリーミング施策の多くは、SNSシェア・キャンペーンなどに代表されるように、瞬間風速的な数字での結果を求めてしまいます。ですが、こうした施策を何度行っても、コアファンの初動は起こせても、次に繋がらなかったり、ライト層が気付くキッカケまでは自然と広がりにくい。ストリーミング時代において、アーティストは施策だけで売れることはないと思っています。

――施策に依存しないでも、ヒットの兆しを作るためにレーベルができることは多い。

松崎:ストリーミングでは、アーティストのコミュニケーションの内容とか、SNSのタイミング、リリース日を考えたりする方がより重要になってきています。アーティストのアイデンティティに直接結びつくからです。そして、曲がどう世の中に出ていくか、タイミングが大事になっていくと思っています。水曜日が発売日で、といったお決まりのリリース日に当てはめるのも違うかなと。りりあ。の場合、彼女の誕生日をリリース日にしました。その方が、ファンにとって曲を知るキッカケになりやすいし、一緒に盛り上がれる特別な日になるからです。それをどう決めるかは、ファン主体ですね。何をアーティストに求めているかを、先にキャッチできるかは、レーベルにとって重要になってきます。


▲りりあ。「蛙化現象に悩んでる女の子の話。」

――立ち上がって早々ですが、ストリーミング特化型レーベルの課題は何だと思われますか?

松崎:新しい世代のアーティストの本質を、伝えたい人と共有することかと思います。例えば、TikTokを普段見ていない人やメディアに、りりあ。の良さや内面を感覚的に共有するのは難しいんです。僕がたまに思うのは、音楽業界の日常にSNSがまだ無いことだったりするんですね。ですので「TikTok1位です」とか「フォロワーこれだけいます」でアーティストを要約してしまいがちです。SNSを普段見ていない音楽業界の人からの情報を、人はシェアしないし、メディアにも伝わらない。そういうやり方は、VIAでは変えたいと思っています。楽曲の本質的な良さを、共有したがっている人と、綿密に共有していくことが、アーティストとファンの一番健全な関係と考えています。

――最後に、VIAの目指すレーベル像を教えて下さい。

松崎:目標は続けて行く事。いろいろレーベルにはあり方があると思いますが、いきなり派手に打ち出すのではなくゆっくり始めようと思って、VIA第一弾としてりりあ。の1組でスタートしました。ストリーミングで長く続けていくためには、新しいアーティストを見つけ、リリースを計画的かつコンスタントに進める必要があります。継続的にリリースする、レーベルを続けていくことは、このストリーミング時代においては難しいことですが、それが当面の目標です。

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