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新たなムーブメント~TikTok発のシンガーソングライターの台頭

TikTokから、ヒットチャートへ

 TikTok発のシンガーソングライターの台頭が続いている。若者たちを中心に広まったショートムービーの新しい潮流が、ヒットチャートを賑わす新たな世代のアーティストの躍進につながっている。

 TikTokの日本でのサービス開始から3年。当初はダンスチャレンジなどに用いられるリズミカルな楽曲がアプリ内でブームになることが多かったのだが、去年あたりから徐々に増えてきたのがエモーショナルな歌詞とメロディを持った楽曲への注目だ。日常の思い出をシェアする動画、恋人同士や友達同士で撮った写真や動画と共に、リスナーの心情に寄り添うタイプの歌がアプリ内でフィーチャーされることが多くなってきた。弾き語りでのカバー動画が人気となることも増えてきた。

 2020年に入り、特にコロナ禍の外出自粛期間となった春以降にはエンタメ業界や世の中全体のムードが大きく変わったこともあって、そうした傾向にさらに拍車がかかっていった。TikTokにおいては“リズム”よりも“歌”がムーブメントを起こすようになっていった。そして、ドラマや映画主題歌、CMタイアップなどマスメディアへの露出とは全く別のところからチャートを賑わすヒット曲が生まれるようになっていった。全くの無名な存在から「香水」のバイラルヒットをきっかけに紅白歌合戦への出場も決まった瑛人はその代表的な存在だろう。



▲ 瑛人「香水」


 ただし、ここで書くべきポイントは、これが1人のアーティストによる突発的なヒットで終わるような動きではなさそうだ、ということ。あくまできっかけはTikTokというプラットフォームではあるのだが、起こっていることは、単なるブームというよりもむしろ、新たな才能と感性をもったシンガーソングライターが次々と登場してきている、ということだ。そして、アイドル的な人気と話題性ではなく曲への共感をきっかけに徐々に波及していくがゆえに、こうしたアーティストは楽曲がヒットチャート上に長くとどまる傾向がある。こうした動きが、ストリーミングが普及し、CDではなくデジタル配信が前提となった音楽シーンにおける一つの波になってきている。

 たとえば、その代表的な存在にもさを。がいる。顔も本名も公開せずYouTubeで弾き語りのカバーを公開してきたシンガーソングライターで、7月27日に配信リリースしたオリジナル曲の「ぎゅっと。」は8月10日付の総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”(以下Hot 100)で初登場47位、その後も17週連続チャートイン(本稿執筆時点の11月30日付まで・以下同)とロングヒット。9月7日にリリースした「きらきら」もHot 100で初登場62位、その後11週連続チャートインと着実に支持を重ねている。



▲ もさを。「きらきら」


 Rin音、Tani Yuuki、優里も今年に大きな飛躍を果たしたアーティストだ。Rin音の「snow jam」は4月6日付けのHot 100で初登場46位を記録し、その後35週連続チャートインしている。

 TikTokのCMにも用いられたTani Yuuki「Myla」は7月13日付けのHot 100で初登場41位を記録し、その後21週連続でチャートイン。優里の「かくれんぼ」は6月15日付けのHot 100で初登場84位となってから徐々にランクをあげ、11月30日付けで37位を記録している。

 他にもTikTokをきっかけに躍進を果たしたシンガーソングライターは沢山いる。りりあ。は、5月にリリースした初のオリジナル曲「浮気されたけどまだ好きって曲。」がスマッシュヒット。そのりりあ。と共演も実現した「ばーか」で大きな話題を呼んだあれくんは、先日にはユニット「夜韻-Yoin-」のヴォーカリストとしてメジャーデビューも果たした。

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1曲のヒットから、継続的な支持を得るためには

 こうしたブレイクの特徴は、まずTikTokで楽曲がユーザーに“発見”され、動画のBGMとして使われることで若い世代を中心に話題となり、LINE MUSICのランキングやSpotifyのバイラルチャートなどストリーミングサービスのランキングに登場することでTikTokの外に現象が広がり幅広いリスナーに可視化されていくということにある。ひらめ「ポケットからきゅんです!」、まつり「だーりん。」、Sui「可愛い君が愛おしい」、川崎鷹也「魔法の絨毯」なども、こうした流れで生まれたヒット曲と言っていいだろう。

 ただし、TikTokのプラットフォームとしての特徴は、よくも悪くも楽曲単位で聴かれるというところにある。楽曲がユーザーの投稿する動画と結びつくことで予想外の波及力を持つ一方、それをきっかけに曲を聴いたユーザーは必ずしもアーティスト本人のことを深く知るとはかぎらない。曲への共感がそのままアーティストの支持に結びつくとはかぎらない。SNSをフォローする、YouTubeでチャンネル登録する、ストリーミングサービスで“お気に入り”に入れるというアクションは、CDの購入やライブへの参加に比べるとライトな行動であるため、それ単体では強固なファンダムには結びつきにくい。

 つまりは、ヒットした1曲の後に、次の曲、その次の曲と継続的な支持を得るかどうかが、アーティストにとっての正念場となるとも言える。

 そういう意味でも注目したいのが、11月30日にリリースされたもさを。の「冬のプレゼント」だ。

 新曲は、タイトル通りのウィンターソング。「ぎゅっと。」や「きらきら」など、これまでの楽曲と共通する特徴は「女性目線のラブソング」というところにある。

あなたの大きな身体でぎゅっと。
抱き寄せて離さないで
柔らかくて優しい声で
あたしの名前を呼んで
それだけで私は幸せだから



▲ もさを。「ぎゅっと。」


 こう歌う「ぎゅっと。」は、恋人との幸せな日常を女性目線で綴る一曲。「きらきら」も、「あたし」と「私」という二つの一人称を使い分けつつ、片思いの募る恋しさを歌う一曲だ。YouTubeには弾き語りを中心に投稿してきたもさを。だが、オリジナルソングにはいわゆるポップソングの王道としてのアレンジがほどこされている。

 「冬のプレゼント」はストリングスに加えてスレイベルを用いたクリスマスソングの定番のようなサウンドメイキングの一曲。テーマになっているのは、寒い季節、思いを寄せる相手への恋心を歌う“冬のラブソング”だ。

あなたに言いたい「ずっと好きです。」
友達のままじゃ終われないの
冷たい手と手を温めて
恋する気持ち届きますように

 曲はこんな歌い出しから始まる。「舞い落ちる雪」や「白い吐息」や「ホットココア」といった季節感を伝える言葉と共に、二人で過ごす幸せな情景が描かれる。

 11月30日には楽曲の配信と共にミュージックビデオも公開されたが、こちらも過去の楽曲と同じくイラスト主体の内容。コートを着てマフラーを巻いた恋人同士の姿がリスナーの想像をかき立てる作りになっている。



▲ もさを。「冬のプレゼント」


 もさを。自身はインタビューなどでは清水翔太をルーツと語り、平井大もカバーするなど、日常の心情を歌に込める男性シンガーソングライターに影響を受けたアーティストである。その一方で、「女性目線のラブソングが評判を呼んだり、ブレイクのきっかけになったアーティスト」という切り口としては、たとえばback numberやwacciにつながる系譜に位置づけることもできるだろう。

 「ぎゅっと。」、「きらきら」、「好きが溢れていたの」、「会いたい」と7月以降ほぼ1ヶ月ごとに楽曲をリリースしてきたもさを。。2020年10月から公開がスタートし12月に正式ローンチされたBillboard JAPANの新人チャート「JAPAN Heatseekers Songs」でも、「ぎゅっと。」は長らくTOP10圏内をキープし、「きらきら」もロングヒットとなっている。

 また、11月30日のLINE MUSICデイリーランキングでは「冬のプレゼント」は2位にランクイン。「ぎゅっと。」「きらきら」「会いたい」とTOP 50内に計4曲がランクインしている。こうした曲が複数増えていくことで、一つ一つの楽曲への注目がアーティストへの支持につながり、勢いが本格化していくはずだろう。

 これまでと違うブレイクの形が“新しい普通”になりつつある2020年の音楽シーン。「JAPAN Heatseekers Songs」はその勢いをいち早く可視化するチャートとしての役割を果たすようになっていくはずだ。一過性のヒットにとどまらない新たな世代のアーティストたちの活躍に期待したい。

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