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<コラム>LiSA「紅蓮華」「炎」大ヒットの背景にある“ロックヒロイン”としての実力
「炎」大ヒットの軌跡
LiSAの最新シングル「炎」が記録的なヒットを続けている。
2020年下半期を代表する1曲になることは間違いないだろう、この曲。Billboard JAPAN総合ソング・チャート“HOT 100”では、11月16日付時点で4週連続となる総合首位を獲得し、リリースから1か月以上が経ってもなお、ヒットチャートの頂点に君臨し続けた。
特にストリーミングサービスでの再生回数は圧倒的だ。11月2日付のBillboard JAPANストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”では、週間の再生回数としては歴代最多となる1800万回以上の再生回数を記録。その後も勢いは衰えることなく、2位以下に大差をつけて4週連続(11月23日付時点)で首位をキープしている。
LiSA 『炎』 -MUSiC CLiP-
ここ最近の日本では、ストリーミングサービスの普及と共に「累計1億回再生」がヒット曲の新たな基準となってきているが、その最速達成記録の更新も目の前に迫っている。これまではBTS「Dynamite」のチャートイン11週目が歴代最速、続いてNiziU「Make you happy」、Official髭男dism「I LOVE...」、瑛人「香水」の3曲がチャートイン15週目となっている。このままの勢いなら「炎」がこれらの曲を上回る短期間での累計1億回再生を達成することも確実だ。
さらに、同曲は日本だけでなく、世界200以上の地域のストリーミング再生数およびダウンロード数をもとに算出されるグローバルなヒットチャートでも快挙を達成している。米ビルボードが10月27日に発表したグローバル・チャート“Global 200”(10月31日付)では、同曲は前週の62位から8位に急上昇し、初のトップ10入りを達成。アメリカ以外のデータを集計したチャート“Global Excl. U.S.”では、BTS「Dynamite」に続く2位となった。同曲は11月14日付のグローバルチャートでも“Global 200”で15位、“Global Excl. U.S.”で4位と健闘している。特筆すべきは、日本だけでなく東アジア地域での支持が広がっていることだ。Apple MusicとSpotifyのチャートを見ると、同曲は本稿を執筆している11月17日時点で、香港では1位、台湾では2位となっている。
背景にあるのは、もはや説明すらいらないほどの『鬼滅の刃』のヒットだ。「炎」が主題歌となっている『劇場版『鬼滅の刃』無限列車編』は10月の公開以来、日本では記録的な興行成績を実現し、次いで公開された台湾、香港でも人気を呼んでいる。
“ロックヒロイン”としての実力
ただし、大きなポイントはこのヒットが単なる“『鬼滅の刃』の人気”ではなく、LiSAのシンガーとしての確かな実力によってもたらされたものである、ということだろう。
そもそもLiSAは“ロックヒロイン”として着実に支持を広げてきたキャリアの持ち主だ。2011年のソロデビュー以来、数々のアニメの主題歌を歌いつつ、ロックフェスやライブの場でも熱狂を生んできた。2014年には初の武道館公演、2015年には幕張メッセ公演を実現。アリーナクラスの動員を誇り、アジアツアーも開催している。2018年にはベストアルバム『LiSA BEST -Day-』『LiSA BEST -Way-』をリリースし、Billboard JAPAN総合アルバム・チャート“HOT ALBUMS”で1位と2位を独占している。ヘヴィでダイナミックなサウンドに、力強い歌声の表現力で、多くのロックファンを魅了してきた。
TVアニメ『鬼滅の刃』のオープニングテーマとして社会現象的なヒットとなった2019年の「紅蓮華」は、『紅白歌合戦』への出場もあり、LiSAの名をさらに広げる1曲になった。しかしそれ以上に、この曲は、アニメの世界観に寄り添いつつ、ロックシンガーとして着実な成長を遂げてきたLiSAだからこそ歌えた曲でもあった。話題性だけでなく、確固たる実力がヒットの裏付けになった。アーティストの一発撮りのパフォーマンスを届けるYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」での渾身の歌唱が評判を集めたのもその証拠だろう。
LiSA - 紅蓮華 / THE FIRST TAKE
その「紅蓮華」を収録した5枚目の最新アルバム『LEO-NiNE』も、追い風を受ける今だからこそ、それだけに留まらないシンガーとしてのLiSAの多面的な魅力を詰め込んだような内容となっている。
リード曲の「play the world! feat.PABLO」は、聴き手を鼓舞するような勇壮な曲調と「この世界を遊びつくせ」と歌い上げるフレーズが印象的な1曲。ミクスチャーロックバンド、Pay money To my Painのギタリスト、PABLO aka WTF!?が作曲を手掛け、フィーチャリングとしても参加している。彼だけでなく作曲家陣に第一線で活躍するロックミュージシャンが揃っているのもアルバムの大きな特徴だ。「赤い罠(who loves it?)」や「マコトシヤカ」は、今年9月にリリースされた最新アルバム『Patrick Vegee』も好評のUNISON SQUARE GARDENの田淵智也が作曲を担当。BIGMAMAの金井政人が手掛けたキュートな曲調の「わがままケット・シー」も印象的だ。
「play the world! feat.PABLO」live at RAINBOW SIX JAPAN CHAMPIONSHIP 2020
また『LEO-NiNE』では、ヘヴィでアグレッシヴなナンバーだけでなく、壮大なサウンドの「unlasting」や初のドラマタイアップ曲となった「愛錠」など、類まれなる歌唱力を発揮している情感豊かなバラードも大きな位置を占めている。静かに抑えた歌い出しから徐々に熱量を上げていくパワーバラードの「炎」は、こうしたLiSAの表現力ありきで成立する1曲だと言えるだろう。
LiSAは年末の『NHK紅白歌合戦』への2年連続となる出場も決定している。この後も「炎」がロングヒットを記録していくのは確実だ。さらに2021年初頭には『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の北米公開も予定されているという。
トラップ、ラテン、アフロビートなどを取り入れたラップやポップソングがチャートを占め、ダンサブルなリズムと耳馴染みのいいメロディが主体となっている昨今の世界的なポップミュージック・シーンのトレンドからすると、ドラマティックで重厚な「炎」の曲調は異質とも言える。しかし日本だけでなく、この曲がグローバルなヒットチャートで存在感を示していることは、とても興味深い現象だ。
この先のさらなる飛躍にも期待したい。
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