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<インタビュー>yonawoの1stフルアルバム『明日は当然来ないでしょ』サウンドの拡がりと、SF的な詞世界を紐解く
4月に1stミニアルバム『LOBSTER』をリリースした福岡出身の4人組=yonawoが、満を持しての1stフルアルバム『明日は当然来ないでしょ』をリリースする。
ザ・ビートルズやレディオヘッド、アークティック・モンキーズといったUKロックをルーツに持ちながら、ソウルやR&B、ヒップホップなどブラック・ミュージックのエッセンスを取り入れたグルーヴィーなアンサンブルと、荒谷翔大(Vo)のスモーキーかつソウルフルな歌声は今作でも健在。さらに、シンセサイザーを導入したスペイシーなサウンドと、荒谷による官能的でありながらどこか「死」の気配すら感じさせる歌詞の世界がとても印象的だ。メジャー・デビューからわずか半年で著しく成長を遂げた、4人の姿が本作には刻み込まれている。
新型コロナウイルスの感染拡大が、楽曲制作やレコーディングにも影響があったというyonawoの4人に、アルバム制作のエピソードについて詳しく訊いた。
歌詞と短編小説に共通する「出会いと別れ」というテーマ
――アルバム制作はいつ頃から始まったのですか?
荒谷:今年の4月、コロナで自粛期間に入った頃から本格的に取り掛かりました。曲自体はけっこう前から作ってあったり、すでにメンバーに聴かせていたりしたものもあれば、自粛期間中に作ったものもいくつかあって。例えば「逢えない季節」という曲の歌詞は、自粛期間だからこそ書けた内容ですね。アレンジに関しては、これまでは雄哉の家にみんなで集まって、パソコンの画面を見ながら進めていたんですけど、コロナになってそれもちょっと難しくなってきて。それぞれ自宅からでもデータのやり取りができるように、メンバー全員がGarageBandやLogic Proといった音楽制作ソフトを使える環境を整えました。ただ、僕が基本となるメロディとコード進行を作って、そこにみんなで肉付けしていくプロセス自体は大きく変わってないです。
yonawoは福岡で結成された、荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)の4人組。4月に初の全国流通盤となるミニアルバム『LOBSTER』をリリースした。
――そんな中、「cart pool」という曲は田中さんが作詞作曲をしていますが、これも機材環境を整えた影響が大きい?
田中:そうです。最初はアルバムに入れるつもりも特になくて、以前からなんとなく頭の中にあったアイデアを使って、遊びのつもりでGarageBandをいじっていたらできた曲なんです。普段yonawoでやらないようなこと、「こういう音は入れんやろ」みたいな音も色々使って、自分だけの景色を描いていくのはすごく面白かったですね。
荒谷:以前から、僕以外のメンバーが作った曲もアルバムに入れたかったんですよ。でも、僕のほうから急かすわけにもいかないし、「みんな、そのうち作ってきてくれるだろう」と思ったら、早速作ってきたから嬉しかったです。しかも、めちゃくちゃかっこよくて。俺には作れないような曲だったので、絶対にアルバムに入れたいなと。最初、インストのつもりだったんですけど、慧の要望もあって、二人でアイデアを共有しながらメロディを詰めていきました。そういう作業も初めてだったので楽しかったですね。歌詞も俺が書くのはちょっと違うやろと思って、慧に無理矢理書かせてます(笑)。
田中:頑張って絞り出しました(笑)。以前、友人と話してるときに、自分ではそういうつもりで言ったわけじゃないことを、誤解して受け止められてしまったかもしれないと思って、心がざわついたことがあって。その感覚を思い出しながら、言葉に置き換えていきました。
――田中さんは普段から、何か感じたことなどを書き留めておいているのですか?
田中:書いてますね。まだみんなには見せてないし、今後も絶対に見せないけど……(笑)。
――それと、今回は荒谷さんが執筆した短編小説がブックレットに掲載されています。
荒谷:J・D・サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を読んで、「自分でも小説を書いてみたい」と思って、誰に見せるでもなく以前から書き溜めていた小説があって。
斉藤:それを読ませてもらったらとても良かったから、「アルバムに載せようや」という話になったんです。
荒谷:「だったら小説みたいなタイトルつけたらかっこよくない?」という話になって。それで俺がその場で考えたのが『明日は当然来ないでしょ』というタイトルでした。
――その短編小説と今作の歌詞には何かしら関連はありますか?
荒谷:根底に流れる思想のようなものは共通してる気がしますね。「出会いと別れ」みたいなことがテーマにあるのかなと。
田中:あと、歌詞の内容は前よりもスペイシーな要素が増えたよね。それでサウンドのスケール感も広がったというか。
荒谷:そうだね。アレンジ面でもその影響は強かったと思う。
yonawo - rendez-vous【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
――たしかに、全体的にSFっぽい印象が強くなりましたよね。「rendez-vous」「蒲公英」「close to me」あたりの楽曲は特にそう思います。
荒谷:子供の頃は物理学者になりたかったんですよ。「死ぬまでに宇宙へ行きたい」という気持ちが小学生の頃からあったし、実は高校生くらいまでは理系だったんです。
――クリストファー・ノーランの映画作品とか、物理学的な要素も散りばめたSFが多いですが、好きですか?
荒谷:『インセプション』は知ってますけど、他の映画は見たことないですね……。あ、SF映画だったら『猿の惑星』が好きです(笑)。宇宙といっても遠い星の話というよりは、「内在する宇宙」みたいな捉え方で。「私」という存在の意味を問い直すような。それを曲として表すことができたらいいなと思ってるんです。
――なるほど。SFと哲学はとても近いところにありますよね。サウンド的にも宇宙っぽいというか、サイケっぽかったりスペイシーだったりしたのですが、前作から新たに導入した機材などはありましたか?
荒谷:ローランドTR-909を生ドラムと重ねたりしたよね?
野元:たまたまスタジオに実機が置いてあったので、「これは使うしかない!」って(笑)。もともと荒ちゃんのデモにもTR-909の音色を使っていたので、「同じだ!」って盛り上がったよね。ちなみに「close to me」は、完全にTR-909だけの曲です。
荒谷:それと今回、シンセベースを導入してるんですけど、音源はMoog Subsequent 37を使いました。「生き別れ」のシンセは、GarageBandのソフト音源を使用していて、そこに雄哉がエレクトリック・シタールを重ねてます。
斉藤:それもたまたま、ギターテックの人が変なギターをたくさん持ってきていて(笑)。
荒谷:「この音、入れたい!」ってなって、雄哉に弾いてもらいました。
「ヒップホップっぽさ」の正体
――SFっぽさと同時に感じたのは、ある種のエロティシズムです。これも『LOBSTER』の頃から思っていたことですが、荒谷さんの書く歌詞はジェンダーレスであり官能的ですよね。例えば、「good job」の“朧月の下 じんわり 溶け始めた瞳 味わっていたいのよ”や“この哀愁漂う 抱擁 芳醇な風味で兎にも角にも病みつきよ”、「close to me」の“そばにおいでよ 肌寒い宇宙で 君の香りが溶けた 毛布に包まって”とったラインには、そこはかとない色気を、「告白」の“女かしら 男かしら”というフレーズには、ジェンダーレスな趣があります。
荒谷:エロティシズムか……。
全員:(笑)。
荒谷:いや、魅力は感じてます(笑)。エロティシズムの中にある「美」をうまく言葉にできたらいいなと思ってますね。直接的な表現ではないけど、どこか官能的だと感じてくれるようにはしてると思います。
――yonawoのグルーヴやテンポ、サウンドのテクスチャなど、全てがマッチョイズムとは対局の色気があると思うんですよね。
荒谷:さっき話した「出会いと別れ」というテーマも、「誕生」が根本にあると思っていて。そうすると、やっぱりエロティシズムは欠かせない要素ではないかと。
――たしかに「出会いと別れ」は、究極的には「生と死」ということですからね。
荒谷:まさにそうですね。その中から、自分が「美しい」と思うことを歌っていきたいと思ってます。
――これも前作から感じていたことですが、yonawoの楽曲にはヒップホップっぽさが内包されていますよね。特に今作はポーティスヘッドのような、いわゆる「トリップホップ」にも通じるダウナーさがあると思いました。
荒谷:慧がポーティスヘッド大好きなんですよ。俺も慧から教えてもらって大好きになったんですけど。でも、アレンジを決めるときにはまだそこまで知らなくて。
野元:レコーディングの途中からみんな騒ぎ出したよね。
荒谷:なので、そもそもああいうサウンドが好きだったということなんでしょうね。
田中:ヒップホップっぽさという意味では、「天神」のドラムとか結構そうかもしれない。
野元:LO-FI LE-VIの一見シンプルなようで、実は複雑なドラムフレーズがすごく好きなんですよ。そういうイメージのリズムループを「天神」ではやってみたかった。
田中:「天神」は荒ちゃんの歌も、ちょっとヒップホップっぽさがある気がする。ベースも、荒ちゃんのヴォーカルに合わせにいってるところがあって。歌い上げるというよりは、ボソボソ呟いてる感じ……。ポエトリー・リーディングみたいな。
荒谷:たしかに。直接的な影響はないと思うけど、ケンドリック・ラマーやディアンジェロは以前から好きだし、自分の歌詞の乗せ方はラップっぽいというか、メロディに乗せてるというよりは、リズムの上で転がってる感じだとは思ってました。ちなみに「天神」は高3の頃、初めて日本語で歌詞を書いてみようと試みた曲です。なので、ちょっと英語っぽく聞こえるような日本語の響きや歌い回しを意識しながら作りましたね。
yonawo - 天神【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
――ワードセンスも相変わらず独特ですよね。「ヨドメキ」という造語や(「トキメキ」より)、「ぶすくれた意地悪お坊ちゃん」「カバンになけなしのメロディー」「汗水流し 齷齪遊ぶ」「かつて愛した輩もエレベーターで成仏」というライン(「麗か」より)など、クスッと笑える要素もあって。
荒谷:「ヨドメキ」は実際にある言葉だと思って、普通に使っていたらみんなに突っ込まれたんです(笑)。「麗か」に関しては、ありそうでない世界というか。普段から使い慣れてる言葉も、組み合わせ次第で「わ、なんや?」となることに魅力を感じてるんですよね。難解な言葉ではなく、身近な言葉を組み合わせて、今まで見たことのない景色が立ち上がってくることが、めちゃくちゃいいなと思ってるんです。
――頭の中にまず映像が浮かんで、それを言語化していくことと、言葉の組み合わせで映像を作り出していくこと、どちらが多いですか?
荒谷:どちらもありますね。その時の歌詞の書き方によって違うんだと思います。
次は「コンセプトを決めたアルバム作り」
――斉藤さんのギターは、ノイジーだったりエフェクティブだったり、これまでにないエクスペリメントなアプローチが多い気がしました。
斉藤:『LOBSTER』のときはジャズっぽさというか、クリーンなギターを意識したんですけど、今回はファズばっかり使っていて(笑)。気分的なものももちろんあったんですけど、楽曲のコンセプトとしてスペイシーなサウンドにしたいという話があったし、荒ちゃんもフワッとしたシンセを入れていたので、そういうところには歪んだギターのほうがマッチするかなと。TR-909とシンセベースの上で鳴っていても、ちゃんと存在感のあるサウンドになりますし。
――「good job」のエンディングで、ベースにかけているエフェクターはワウですか?
田中:そうです。言われてみれば、ベースにペダルエフェクターをかましたのも初めての試みですね。基本的にコード進行はずっと一緒で、フレーズもずっとループしてる感じだったんですけど、「エンディングでちょっと変化つけたいね」という話になって、それでワウをかますことになった気がします。
――「202」というのは国道の名前ですよね。電車の音はフィールド・レコーディング?
荒谷:そうです。リハーサルスタジオへ行く時に、いつも使ってる電車の音をレコーディングしました。国道202号とは全く関係ないんですけど(笑)、この曲は「蒲公英」と繋げたいというアイデアがあって。なんか生活音というか、SEを挟んで弾き語りの「家っぽさ」に繋げたらいいよねっていう話になったんだよね?
斉藤:そう。リハスタから自宅へ移動してるイメージで、電車の音を入れてみました。スタジオにリビングがあるんですけど、そこにiPhoneを置いてボイスメモをずっと回しっぱなしにして。いい部分を切り取って使ってます。「202」も僕の部屋で録るかスタジオで録るかでずっと悩んでいて。結果的にスタジオで録ったんですけど、「部屋っぽさ」を出す意味でも生活音を入れてよかったです。
荒谷:「蒲公英」と「202」の空間の違いがうまく出せたよね。いま思ったんですけど、空から降りてくるようなイメージにもなった気がします。
――「生き別れ」と「202」は、同じアコギの弾き語りですが、音像が全く違うところも面白いですよね。
荒谷:そこはエンジニアさんの手腕というか。僕らとすごく近いところで一緒にやってくれてる方なんですけど、曲のイメージだけ伝えて、あとは全てお任せしました。「生き別れ」のリヴァーブの感じは俺もすごく好きですね。
――「生き別れ」はとてもユニークな曲構成ですよね。ずっとアンビエントなインストが続いて、後半でアコギの弾き語りが出てくるという。
荒谷:最初はインストのまま終わらせようと思ったんですけど、ちょっと違う展開を入れたくなって。曲名の「生き別れ」というテーマから、全く別のセクションを加えたくなったんです。
――さっきyonawoのサウンドを「ヒップホップっぽい」と言ったのは、基本的に音数は少なくて「音の隙間」を大事にしたアンサンブルなのですが、質感の違うギターやベース、キーボードを重ねていくことで、音像に立体感を生み出していくというか、新たな文脈を作り出してる印象があったからなんですよね。
荒谷:たしかに。遠くでファズギターが鳴ってるかと思えば、耳元でクリーンなアコギが爪弾かれてるみたいな、音色のコントラストはあえて作ったかもしれない。
斉藤:そうだね。歪んだエレキギターを入れたときは、必ずクリーンなアコギを入れていて、それが音像に深みを出してると思います。
田中:「rendez-vous」も「蒲公英」もそんな感じだったよね。
荒谷:そうだね。「rendez-vous」は歪んだヴォーカルと、時々抜けてくるリヴァーブの効いた綺麗な声のコントラストが、個人的にはめちゃくちゃ好きですね。
斉藤:緊張感あるよね。ずーっと歪んでいて、サビでふわっとリヴァーブがかかるところとか。
荒谷:「蒲公英」の後半のヴォーカルも、けっこう気合を入れて歌いました。「独白」のアカペラコーラスも、ずっとやりたかったことだったんですけど、今回イメージ通りに仕上がって満足しています。
――yonawoとして次にやりたいことも、すでに見えていますか?
田中:「生き別れ」という曲を最初に聴かせてもらったときに、なんか今まで荒ちゃんが作ってきた曲とはまた違った景色が見えた気がして。ちょっとノスタルジックで、SF的な要素もあり、生命の神秘というか、そういうキーワードも色々浮かんできたんですよね。それをうまくまとめてコンセプト・アルバムのような作品を作ってみたいと、自分の中で勝手に思ってます(笑)。
荒谷:たしかに。最初からコンセプトを決めたアルバム作りもやってみたいよね。あと、いま僕らは福岡にプライベート・スタジオを作りたいと話していたりもして、いずれはそこで全ての制作ができるようになったらいいなと思ってます。
Photo by Yuma Totsuka
明日は当然来ないでしょ
2020/11/11 RELEASE
WPCL-13245 ¥ 3,080(税込)
Disc01
- 01.独白
- 02.逢えない季節
- 03.トキメキ
- 04.rendez-vous
- 05.good job
- 06.cart pool
- 07.蒲公英
- 08.202
- 09.天神
- 10.ムタ
- 11.麗らか
- 12.close to me
- 13.生き別れ
- 14.告白
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