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<Billboard JAPAN×NTTデータ>ビルボードライブ横浜のプロモーションビデオを脳科学で分析してみた
複数のデータからなる総合ソング・チャート“HOT 100”を立ち上げ、音楽の“社会的浸透度”を測ってきたBillboard JAPANと、脳科学の事業応用に取り組むNTTデータおよびNTTデータ経営研究所が、2019年9月に共同研究開発プロジェクトをスタート。「チャートデータ」と「楽曲の脳情報化技術」を融合させ、世界的にも類を見ない新たな「音楽ヒット分析」の手法を開発した。研究の大まかなプロセスは以下の通り。
①楽曲の脳情報化による新たな特徴の獲得
②上記の結果にチャートデータなどを加え、ヒットソングの特徴を可視化
③未来の音楽トレンドを予測
※対象楽曲:2016年12月から2020年5月までのチャートデータおよびチャートイン楽曲
研究の背景や分析結果の詳細を紹介した前々回、そして①と②の成果を活用し、ザ・ビートルズの音楽を脳科学の視点から分析、現代のトレンドと照らし合わせた前回に続き、今回は今年7月にオープンしたビルボードライブ横浜のプロモーションビデオを分析してみた。
脳科学でプロモーションビデオを評価
研究で用いた技術『NeuroAI-Music』は、音楽を聴いている時の脳活動の推定を通して、脳で潜在的に表現されている楽曲特徴(脳内楽曲特徴)を定量的に抽出するというもの。本研究では、2016年12月~2020年5月のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“HOT 100”を対象に、そのチャートイン楽曲を分析することで、直近4年間におけるヒットソングの脳内楽曲特徴を可視化した。さらに、それらの週単位のチャート・データ、そして定量化した歌詞特徴とコード進行特徴も加え、週単位で「どんな楽曲特徴(脳内楽曲特徴+歌詞特徴+コード進行特徴)を持つ楽曲が上位にランクインしたか」を示すチャート予測モデルを構築し、その時系列変化から未来のトレンド予測を試みた。
http://www.billboard-japan.com/special/detail/2991
(A)週単位のチャートポイントを目的変数、「脳情報・歌詞特徴・コード進行特徴・アーティストの前週のチャートデータ(通常のチャートデータと共にzscore化したトレンド指標も利用)」を予測子として、予測・説明するモデルを構築した。週単位×指標単位で実施。(B)モデル構築に用いたLASSOアルゴリズム。N:特定の週の特定のチャートポイントデータがある楽曲数、yi:曲 iの特定の週の特定のチャートポイント、xi:曲iの特徴データ (楽曲特徴p次元分のベクトル)、β:モデルのウェイト。楽曲特徴 p次元分の長さを持つベクトル、β0:切片、λ:正則化パラメータ。10分割交差検定で最小誤差を実現したλを採用した。
この技術では、例えばリリース前の楽曲でも、その楽曲特徴から“ヒットのポテンシャル”を探ることができる。ということは、CMに使われているBGMに対しても同様に“ヒットのポテンシャル”を見出すことができるのではないだろうか。そこで今回は、2020年7月20日に神奈川・横浜のKITANAKA BRICK&WHITE内に正式オープンした『ビルボードライブ横浜』のプロモーションビデオ(以下PV)を対象に、BGMが異なる3つのバージョンを用意、それぞれがどのようなプロモーション効果をもたらすか、分析してみた。
まずは2020年上半期のチャート予測モデルを使い、そのBGMを“2020年上半期のトレンド順”に総合チャート、および各8指標で順位付けしてみた。
ビルボードライブ横浜 / Billboard live YOKOHAMA PV sample1
ビルボードライブ横浜 / Billboard live YOKOHAMA PV sample2
ビルボードライブ横浜 / Billboard live YOKOHAMA PV sample3
ビルボードライブ横浜のPVは「新しい」
続いて、印象評価について見ていこう。NeuroAIは、コンテンツを脳が認知した時、脳がどんなことを知覚し、その結果として、どんな印象を持つのか、を推定することができる。これを活用し、任意の印象ワード(計15単語)ごとに、それぞれ脳情報の相関を導き出すことで、コンテンツごとの印象評価が得られるというわけだ。その結果を図2のグラフに示した。縦軸のスコアが高いほど、高い印象を受けていることになる。
グラフを見ると、3種類のPVは共に同じような印象評価を受けていることが分かる。最も脳情報の相関が高い印象ワードは「新しい」であり、次いで「レストラン」「高級」「新鮮」が来ているのも分かるだろう。反対に、最も相関が低い印象ワードは「やんちゃ」であり、次いで「おしゃれ」「躍動」「ライブ」と続いている。
そして、今回の3つのPVをCM好感度としてまとめて評価したのが図3だ。ここでいう好感度とは、CM総合研究所が調査しているCM好感度データをもとに、クリエイティブと音楽の総合特徴から、獲得が見込まれる好感度値を予測したものであり、グラフの縦軸の数値は1kGRP(延べ視聴率)あたりの好感度を示している。これを見ると「sample2」の好感度が、他よりも高いことが分かるだろう。
また、前々回の研究発表時に公開したプレイリストや、前回のザ・ビートルズの類似楽曲ピックアップのように、3つのPVに使用されているBGMと類似した脳内楽曲特徴を持つ楽曲を、前々回『NeuroAI-Music』に分析させた約2,000曲の中から選定。図4がその結果で、それぞれ類似楽曲を3曲ずつピックアップした。
今回はビルボードライブ横浜のPVで分析してみたが、想定される応用範囲は広い。例えばオンエア前のテレビCMの評価。そのCMがプロモーションの狙い通りの印象を示すかどうか、あるいは、目的の印象に合致したタイアップソングは何なのか、といったことも分析可能だろう。主観的なイメージとはまた別軸の評価が可能となり、脳科学に基づいた広告の展開ができるようになる。
既存の価値観を超え、潜在的な脳内楽曲特徴から音楽のトレンドに迫る『NeuroAI-Music』が今後、音楽マーケティングに新しい風を吹き込めるよう、Billboard JAPAN、NTTデータ、NTTデータ経営研究所の3社は引き続き研究を進めていく。
※「NeuroAI」は株式会社NTTデータの登録商標です。その他の商品名、会社名、団体名は、各社の商標または登録商標です。