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<インタビュー>ロイ-RöE-が考えるTikTokのクリエイティビティ、カバー企画から生まれたEP『61Filter』について



インタビュー

 ロイ-RoE-(※)が初のカバーEP『61Filter』をリリースした。自身の名にちなんで61曲のカバーを1日1曲ずつ、7月1日からTikTokで動画にして公開してきた彼女。本作はその企画から派生した作品で、人気インフルエンサーたちによる投稿から火が点き、多くのユーザーのあいだでバズった「ラムのラブソング」を筆頭に、バラエティ豊かな5曲が収録されている。

 そもそもの企画の意図、ロイが感じるTikTokの面白さ、収録曲それぞれのアレンジに込められたこだわり、コラボレーターであるFace 2 fAKEとの関係性など、話を訊いた。

※oの正式表記はウムラウト付き

本当に届けたい人に届く感じ

――カバー企画『61Filter』はロイさん自身の発案によるものだそうですね。

緊急事態宣言が発令されて、レコーディングやライブが全然できなくなっちゃったじゃないですか。そんな中でも「何か発信はしたいな」と思ったんですよね。でも、私のプライベートなんて地味だからSNS映えしないし、そういうのじゃなく音楽的な発信をしたいなと思って、もともと「ラムのラブソング」と「ひみつのアッコちゃん」はカバーしていたので、だったら曲をたくさんカバーして、それをTikTokに投稿しようと。で、何曲ぐらいやろうかと考えた時に、“ロイ”なら“61”かなと思って、61曲を毎日公開するっていう企画にしたんです。

――今年に入ってTikTokから生まれる音楽のヒットが増えてきましたが、ロイさんは去年から活用していましたよね。最初はどんな動機で始めたんですか?

ラフに音楽を発信できるところがいいなと思って。でも、最初は全然やり方が分からなくて、何回も間違えたりしてました(笑)。笑顔で動画を撮ったりすることも恥ずかしかったし。なので、最初はイラストばかり描いてましたね。そしたら、そのイラストにけっこう反応があって。

――ひとりのユーザーとしては、TikTokにどんな面白さがあると感じていますか?

最初は「若くて可愛い子たちがリップシンクしてる」という印象があったんですけど、それだけじゃなくてアーティスティックな人もたくさんいるんですよ。イラストとかCGを使った、けっこうクリエイティブな動画もあって、私はそういうのをよく見て刺激を受けています。



――コンテンツに色んなバリエーションがありますよね。

知名度とか関係なく無差別に動画がおすすめされるから、拡散力もあるし。そのあたりはTwitterやInstagramとは違う感じがして、面白いですね。ずっと見ちゃいます。最近は猫の動画ばかり出てくるようになりました(笑)。

――レコメンドのアルゴリズムもしっかりしていて、自分の趣味嗜好がすぐに反映されますし。

そうなんですよ。それもいいですよね。自分が本当に届けたい人に届く感じがするし。あと、誰かがやったことや自分が投稿したものが他の人にマネされて広がっていくのも面白い。

――まさに「ラムのラブソング」はそういう広がり方をした曲だったと思うのですが、その現象を自覚したのはいつ頃?

曲をリリースしたのが2月14日のバレンタインの日で、そこから自分で色んな動画をイラストで作って投稿したんです。そしたら3月頃かな、徐々にみんなが使ってくれるようになって。“なえなの”ちゃんとか“ねお”ちゃんとか“あかせあかり”ちゃんとか、人気のインフルエンサーの方々が動画で使ってくれてから一気に増えたと思います。

――もともと「ラムのラブソング」のカバーも、TikTokでの聴かれ方を意識して作ったものだったんですか?

意識してましたね。最初の30秒ぐらいは特に。ボイパから始まる感じとか、動画で使いやすいように音を少なめにしたり、シャッター音を入れたりだとか、「こんな音だったら遊びやすいかな?」みたいなことを考えながらアレンジしました。

――ご自身のもとにはどんな反響が届きましたか?

自分としては聴いたら誰でも分かる名曲だと思っていたんですけど、若い子だとラムを知らない子もいるみたいで、そういう人たちから「初めて聴いたけどいいね」みたいな反響をもらったりしました。



[アレンジカバー] ラムのラブソング covered by ロイ-RoE-


――なぜ「ラムのラブソング」を選んだのでしょう?

自分のアーティスト活動のテーマが「飴と鞭」なんですけど、ラムも「好きよ」とか言っておきながら、すごく奔放じゃないですか。そういう二面性のあるところが好きで、昔からライブでもよくカバーしていたこともあって、カバー曲をリリースするなら最初は絶対にこの曲にしようと思ってました。

――この「ラムのラブソング」もそうですが、カバー企画で選ばれているのは年代の古い楽曲が多いですよね。きっとロイさん自身もリアルタイムではないような。

そうなんですよ。でも、いつも音楽を探す時ってサブスクとかYouTubeをめっちゃ掘るんですけど、出会った曲が古いか新しいかは全然気にしてないんです。なので、意識的に昔の曲を選んで聴いてるわけではなくて。自然と気になった曲が意外と懐メロだったことが多かったです。

――80~90年代の楽曲がロイさんのフィルターを通して、今の若いリスナーたちに届けられていく、そこにこの企画の意義を感じます。

小島麻由美さんも昔から好きで、企画では2曲カバーしたんですけど、どっちも反応が良かったですね。なかなか普段の生活では出会うことがないだけで、実際に聴いてみたらイイって思う人、きっとたくさんいるのにって思います。あと、カバーする時のリアレンジは勉強にもなりますね。

――カバーのリアレンジはロイさんの自宅で完結させてるんですか?

そうです。全部家でやってます。自粛してる証拠です(笑)。


自分のことを改めて理解した

――特にチャレンジングだったアレンジがあれば教えてください。

おもちゃ箱をひっくり返したような、ガチャガチャしたようなアレンジが好きなので、相対性理論さんの「チャイナアドバイス」とかチャットモンチーさんの「ハナノユメ」とかは、原曲からガラッと変えた雰囲気にしたんですけど、どんなアレンジにしても可愛いなって思いました。あと、セーラームーンの「ムーンライト伝説」はブラスの音が欲しくて、TikTokもやってるMOSっていう管楽器グループがいるんですけど、トロンボーンの子が友達だったので、私の動画でも吹いてもらったりしました。




――カバーする曲はどのように選んでいったのでしょう?

まず候補として300曲ぐらいをバーッと挙げて、その中から選んでいきました。

――選曲基準は?

好きな曲、カバーしたいと思える曲ですかね。流行ってるからとかではなく、自分が影響を受けて、なおかつTikTok用に短い尺にして、歌詞を部分的に切り取っても、ちゃんと映えるような音楽を選びました。結果的に歌謡曲ばかりになりましたね。あと、ORANGE RANGEさんの「DANCE2 feat.ソイソース」とかKyleeさんの「CRAZY FOR YOU」とかは、影響を受けたというよりも青春そのものって感じです。

――「DANCE2 feat.ソイソース」の動画は、当時話題になったポッキーのCMをオマージュしたような仕上がりでしたね。

あれは時間かかりました。新垣結衣さんみたいな素敵な笑顔がうまくできなくて。ぜかポッキーがグリーンバックと被っちゃって、ポッキーを持ってるのに見えなくなっちゃったりもして大変でした(笑)。




――音楽のアレンジも動画の編集もご自身で手掛けたとのことで、企画を通してクリエイティビティが磨かれていく実感もあったりしたのでしょうか?

自分のことを改めて理解したというか。「こういうのが好きなんだ」っていう自分の好みが分かったり、違う曲でも「やっぱりアレンジ似てるわ」って思ったりしました。私、コーラスが好きなんですよ。特に子供の声のやつ。EPにも収録されている「私の世界」とかまさにそうで。

――もともと純文学がお好きで、中原中也や三島由紀夫が教科書だったと仰っていたロイさんですが、一方でTikTokはエンターテインメント性の強いメディアですよね。そういう意味でも、今まで受けてきた影響とはまた違う、新しい刺激があったのではないですか?

ありましたね。今までは流行りものにあまり興味がなかったので、色々と調べたりもしてたんですけど、TikTokだったらすぐに“今何が流行っているのか”がリアルタイムで分かるし。あと、動画の撮り方もめっちゃ参考にしてます。上手な子がいっぱいいるんですよ。違う国の人も出てくるからすごく勉強になります。

――音楽の作り方にも影響したり?

オリジナル曲を作る時はまた別かなとは思います。ただ、今までは「あれはしない」「これはやだ」みたいな変なプライドが邪魔をしていたことも、今は「そういうのも別にやってみてもいいかな」って思うようにはなりました。視野が広がったというか。

――そして、企画でカバーした曲の中から5曲を収録したEP『61Filter』がリリースされました。収録曲はどんな観点で選ばれたのでしょうか?

61曲の中で特にやりたいと思った曲、フルで好きな曲、色濃く影響を受けた曲ですね。

――1曲目の「ラムのラブソング」に続き、2曲目の「学園天国」も長く愛されてきた名曲ですよね。

さっきの「コーラスが好き」って話とも繋がるんですけど、私、フィンガー5さんもめちゃくちゃ好きで。子供が好きな子の横顔を見つめながら「天国だよ」とか、逆に「もうグレちまうよ」とか言っちゃう感じが良くないですか? 大人がそれを言うとちょっとヤバいですけど、子供心として言われると、すごく強い言葉になるというか。「この子たちはどんな気持ちでこれを歌っているんだろうか」って勝手に想像したくなります。カラオケでよく歌ってました。



――定番ですよね。

やっぱり盛り上がりますよね。これを歌ったら知らない人たちもノッてくれますから。「ラムのラブソング」もそう。万人にウケます。

――レコーディングには、先ほど話にも出たMOSのメンバーが参加しています。

そうです。トロンボーンを吹いているErnaちゃんがもともと友だちで、よく二人で遊んだりする仲なんですけど、自粛期間中は一人でこの企画をやってきてちょっと寂しくなってきたから、誰かと賑やかにやりたいなと思って誘ったら「やろう」って言ってくれて。レコーディングも今まで男性のミュージシャンの方とご一緒することが多かったんですけど、仲の良い女の子とレコーディングできるのも楽しかったです。

――そして3曲目「私の世界」は、なんといってもリコーダーの音色が印象的で。

わざと拙い感じで吹きました。ちょっとサウンドトラックっぽくしたくて。例えばアニメとかドラマの陽気なシーンで流れる音楽って、木琴とかで和やかな雰囲気を出すじゃないですか。あの感じ。久々に家の引き出しからリコーダーを引っ張り出しました。

――対して「ひみつのアッコちゃん」は、非常にドラマティックで大胆なアレンジですよね。

この曲はメロディーも歌詞もいいから、どんなアレンジしても合うなと思って。原曲もいくつかバージョンがあるんですけど全部良くて、あえてどれも参考にしないで作ってみました。そもそも去年のハロウィンに向けて作ったアレンジなので、めっちゃダークなアッコちゃんにしてみました。アイドルの女の子たちがセンター争いをしてるような画がイメージとして浮かんできたので、ミュージック・ビデオもそういうテーマで作ってみました。



[アレンジカバー] ひみつのアッコちゃん covered by ロイ-RoE-


――ヴォーカルも特徴的で、特にサビの「それはひみつひみつひみつ ひみつのアッコちゃん」の部分は迫真ですね。

レコーディングはFace 2 fAKEのOh!Beさんが来てくれたんですけど、「こういうのできるんだからやりなよ」ってこっちの気分をのせてくれるですよ。そんな感じでまず最初に色んな歌い方を試して、その中で良かったものを極めていく。Face 2 fAKEは私が固めたアレンジとかもブラッシュアップしてくれるんですけど、ちゃんと元を生かしてくれるんですよね。自分が個性だと自覚してない部分にも気づかせてくれるから、すごく勉強になるし、安心感もあります。


今作ってる曲は裸みたいな感じの曲です(笑)

――Face 2 fAKEとの初タッグとなった「VIOLATION*」以降、両者の関係性はどのように進展していったのでしょうか?

お父さんみたいな感じ(笑)。人生の大先輩ですけど、あまりジェネレーションギャップを感じないです。私が歌謡曲とか好きだから、逆に同世代よりも話が弾みますし、自然体でいられます(笑)。

――制作の場におけるコミュニケーションも和やかに?

「これは違うよね」とか「それいいじゃん」ってラフに話し合えてます。そういうリラックスさせてくれる環境もありがたいなって思いますね。私は家で歌うのが一番得意なんですけど、その雰囲気をスタジオでも作れるようになってきました。最初は変に緊張して硬くなっちゃって、歌う前に疲れちゃったりとか全然あったんですけど、最近はそれがなくて。こうやってレコーディングを経て、人と関わることに慣れてきたのかもしれないですね。

――精神的な消耗がなくなってきたと。

以前はレコーディングが終わると「もう動けん…」ってソファに倒れて爆睡してました(笑)。特にレコーディングでのコミュニケーションって「これは何て言ったらいいんやろう」みたいに頭を使うんですよ。でも、最近は知識もちょっと増えてきて、言葉を出すのに苦労しなくなってきた。昔はリバーブが何かも分からなかったから。



――話をEPに戻しますが、5曲目の「雨」はまたちょっと趣向が違う感じで。

収録曲の中では一番新しい曲ですよね。長岡さんが路上ライブでこの曲を歌ってる動画を見て、その映像と歌声にビビッときて、一目惚れしました。なんか自分の本当の心で歌ってる感じがして。

――どんな部分に気をつけてアレンジしましたか?

まず自分の声に合うようにキーを変えました。あと、耳に馴染むというか、聴き心地がいいものにしたくて、雨音を入れたりして。聴いた時に雨とか雑踏とか、そういう場面が浮かぶようにしましたね。

――このEPの制作を通して、何か発見や学びなどはあったのでしょうか?

どの曲もテーマがしっかりあって、歌詞だけで楽しめるから、こういう音楽は自分のオリジナルでも極めていきたいなって思いましたね。文字だけでもかっこいいというか。メロディをなくして、淡々と歌詞だけ見ても恥ずかしくならないような。

――アレンジの面ではいかがですか?

私は楽器の音を楽器っぽく使わず、何かおもちゃを振り回すみたいに使うのが好きなんですよ。Face 2 fAKEの二人もそういう部分をちゃんと生かしてくれるから、「私の世界」とかすごく楽しかった。

――では、オリジナルの制作も順調に?

並行して作っていて、けっこうイイ感じの曲ができてます。映像もTikTokでカッコいいアニメーションとイラストを作る方を見つけて、実はその方にオファーして今、一緒に作品を作ってます。見つけた当初は動画もTikTokに1本しかあげてなくて、でもその動画1本で「この人のアート、絶対好きだ」と思って。

――『61Filter』という企画から、また新しいクリエイティブが生まれるということですね。

そうですね。今まで出してきた曲って畏まった感じというか、イメージとしてはスーツとか着物とかドレスを着てるような感じだったんですけど、今作ってる曲は裸みたいな感じの曲です(笑)。最低限の下着をつけてるぐらいの。イラストも妖艶な感じを目指して。

――新たなロイさんの一面が見られると。

もともとそういう曲も作ってはいたんですけど、そろそろ表に出そうかなと思って。

――コロナ禍における心境の変化もあるのでしょうか?

どうだろう。でも、私は家にいる時のほうが仕事してる感じになるから、そろそろ家から出たいです(笑)。



Interview by Takuto Ueda

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