Billboard JAPAN


Special

<アニサマ対談インタビュー(後編)>齋藤P×オーイシマサヨシが語る、新企画“大人な夜のアニサマ”の見どころ/アニソンの今後



インタビュー

 2005年に第1回目が開催され、昨年には15周年を迎えた世界最大のアニソンフェス【Animelo Summer Live(通称アニサマ)】。2020年は“COLORS”をテーマに掲げ、8月28日から30日までの3日間、さいたまスーパーアリーナにて行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、今年の開催は見送りとなった。そうした状況を受け、新たに“大人な夜のアニサマ”として企画されたイベント【アニサマナイト】が8月30日、ビルボードライブ横浜にて行われる。

 これを記念してBillboard JAPANでは、アニサマの統括プロデューサーであり、ライブの総合演出も手掛ける齋藤光二(以下、齋藤P)と、作家としてアニメ『けものフレンズ』オープニングテーマの「ようこそジャパリパークへ」をはじめとする多くのアニソンを手掛け、今年のアニサマではテーマソングの制作も担当し、アニソンシンガーとしても活躍中のオーイシマサヨシ(以下、オーイシ)の対談インタビューを実施。

 後編となる本稿では、アニサマ開催延期にまつわる胸中、新イベント【アニサマナイト】の見どころ、そしてコロナ禍におけるアニソンシーンの今後など、話を訊いた。

色んな人の希望を挫いてしまう可能性があった

――新型コロナウイルス感染症の影響で、今年のアニサマは来年に“継承”という形になりました。やはり様々な葛藤があったのではないでしょうか?

齋藤P:最近は配信ライブも増えてきましたけど、仮にアニサマを配信でやったとしても、無観客なので客席のカラフルな光景が生まれない。それはもうみんなと一緒に創り上げるアニサマではないと思ったんです。もっと言えば、最後のテーマソングをみんなで歌うとなると、そこは密になってしまう。20人ぐらいがステージに上がるユニットだってあるし。

――特に大型フェスは問題が山積みですよね。

齋藤P:じゃあ、出演者の数を制限して、テーマソングも歌わず、約3万人がマスクをつけて黙って観る、そんなアニサマをみんなが望んでるのか、とか。色々なことを考えさせられましたね。それこそ今回の“COLORS”をテーマにしたアニサマは先ほども言った通り、明るくてハッピーな状況をみんなで祝いたいって気持ちで準備してきたので、それを完全な形で実現するために、やっぱり今年の開催を見送ろうと。だから、テーマもテーマソングも引き継ぐし、お声がけしていた出演者の方々にも、当然100%そのままで持ち越せるかは分からないですけど、来年の出演もお願いしてます。

――オーイシさんは開催の見送りについて、どんな心境で受け止めたのでしょうか?

オーイシ:よく延期を決断したな、すごいなって思いました。並々ならぬ行動力とバイタリティがないと無理だと思います。もちろん自分の作ったテーマソングが無駄にならず、次の年に継承されることも嬉しかったですけど、それと同じぐらい、主催の皆さんがその選択をしてくれたこと自体に嬉しくなりました。プロデューサーを前にこんな話をするのもどうかと思うんですけど、買われたチケットが来年に引き継がれるってことは、つまり1年の興行収益を2年でシェアすることになるわけじゃないですか。それって興行主としては本当に勇気がいる選択だったと思うんです。これだけ大きなイベントならなおさら。



――現実的な話、裏側の事情が一番のハードルですからね…。

オーイシ:あと、個人的にはもう一つ思ってることがあって。お客さん、アーティストの皆さん、そして毎年アニサマを守ってきてくれたスタッフの皆さんに再会できるチャンスがちゃんとあるっていうのが嬉しいです。齋藤Pが言うように、どこまで同じ顔ぶれが揃うかは分からないですけど、その再会の場所を用意してもらえたことに対して、「こういうご時世でも負けないぞ」っていうエンタメ魂みたいなものを感じました。

――2005年に始まったアニサマは、年々成長してきたアニメ市場の歴史と共に歩んできたイベントで、その年のアニソンを総括するフェスとしても、特に00年代以降のアニソンシーンとは切っても切り離せない存在だと思うのですが、そんな大切なマスターピースが今年は欠落してしまうということで、シーン全体に与える影響も大きいのではないかと感じます。

齋藤P:5月頃まではまだ、夏ぐらいには状況が良くなるんじゃないかって希望が世間的にもあって、そういう意味でもアニサマが延期を発表することで、色んな人の希望を挫いてしまう可能性があったわけですよ。具体的な枚数は言えないですけど、チケットの売れ行きもよかったですし、それだけたくさんの人がアニサマを楽しみにしてくれていたわけで。そういう方々に何かしらのポジティブなメッセージを伝える方法についてはずっと考えてました。それが【アニサマナイト】にも繋がるんですけど、配信ライブについて考えた時、無観客でスタッフも最小限にして、会場もどこか別の大きなスペースに変えて、カラオケでアニサマをやるとして、それは違うと思うんですよ。コンサートは晴れ舞台であり、アーティストにとっては命を懸ける場所だし、出演者をカッコよく見せるために照明さんが頑張って、カメラマンがいいアングルで撮って、ステージ下にいるスタッフがポップアップを必死に持ち上げて、そうやってみんなで作り上げるからこそ、伝わるものがある。

――それがアニサマのアイデンティティでもあると。

齋藤P:だから、配信ライブでやるのであれば、いつものアニサマのライブとは全く違う別物になる。とはいえ、アニサマの開催日にちゃんとアニサマのアイデンティティを持った、クオリティの高いコンサートを届けたい。それで【アニサマナイト】に向けて色々と調整しました。ただ、やっぱりオーイシさんが賛同してくれなければ実現しなかったと思いますね。

オーイシ:ライブができなくなってフラストレーションが溜まってるのはお客さんだけじゃなく、実はアーティストもそうで、みんな自分を表現できる場所、パフォーマンスできる場所を探し求めてたと思います。なので、僕は自宅から「お金はいいから家に遊びに来てよ」ぐらいの感覚で配信してましたけど、サザンオールスターズさんの配信ライブはすごく希望的だったというか、あれで世の中が「あ、有料の配信ライブをやっていいんだな」って風向きになり始めていった気がするんですよね。あと、配信チケットもちゃんと売れるんだということが分かったという意味でも、業界の中で一つの指針になったと思うんです。

――そうだと思います。

オーイシ:こういう形でアニソンアーティストたちが集まれるというのは、僕としても非常にチャンスだなと思ったので、【アニサマナイト】に関してはけっこう二つ返事で「出演させてください」とお返事させていただきました。なので後押しするというより、後押しされた立場だったなと思います。あと、やっぱり齋藤Pはただでは転ばへんなと思いましたね(笑)。



【CM】アニサマナイト8/30(日)開催!チケット発売中!


齋藤P:アニサマはたくさんの人がペンライトを振ったり、声を出したり、時には泣いたり、言ってしまえば演出のほとんどが“お客さん”なんですよ。先日、三森すずこさんやfhánaの配信ライブを拝見しましたけど、チャット機能だったりでコミュニケーションは取れるものの、その場で拍手が起きたり、「オーイシ!」とか「キャー!」みたいな声は飛ばないわけじゃないですか。だから、もうそのあたりは逆手に取ったほうがいいと思って。

――なるほど。

齋藤P:配信ライブって普通のライブと比べて、より一層の歌唱力やパフォーマンス力が求められると思うんです。オーイシさんは日々、自宅から気軽にやってるように見えるかもしれないですけど、この人は歌とコミュニケーションが並外れて上手いから成立してるわけで。なので、今回のラインナップを見ていただければ分かる通り、アニソン界の大型新人がいたり、早見さんとか森口さんとか、歌唱だけで戦えるような方たちが出演するわけです。あとは、設定として“大人な夜のアニサマ”っていうコンセプトがあるので、アニサマは酒気帯びNGですけど、配信ライブならお酒を飲みながら観るのもいいんじゃないかと思って。


ベストセレクションだと思います

――普段のアニサマとは違った楽しみ方ができますね。

齋藤P:アニソンはシーケンスで電子音を多用しますけど、今回はアコースティックな響きとか、ミュージシャン同士のセッション感みたいなものを大事にして、音楽性もぐっと高めようと考えてます。こういう状況で制約が多いからこそ、その制約を逆手に取ったほうがいいと思っていて、別にビルボードジャパンの取材だから言うわけじゃないですけど、今回ビルボードライブ横浜さんとご一緒できることになったのはめちゃくちゃ良かったなと。

――会場との相乗効果は一つの見どころになりそうですね。

齋藤P:私が勝手に“いとうかなこ方式”って呼んでるんですけど、いとうさんが歌う時は照明1本で、後ろのLEDは真っ暗にしたりするんです。要するに、歌唱だけでその先の世界に連れていける方には、ほかの要素は一切出さないっていうやり方。それこそオーイシさんが自室だけで成立させられるように、ビルボードライブは非常にゴージャスなハコなので、そういう空間でアニソンアーティストたちを観るというのが、やっぱりアニサマとはまた違う新鮮さを生むと思ってます。だって本来なら、バート・バカラックがハコのこけら落としを務めるはずだったんですよね。


会場のBillboard Live YOKOHAMA


――そうなんです。

齋藤P:っていうのが映像的な見どころで、もっと音楽的な部分で言うと、アニサマはお祭りなのでアッパーな曲が多いんですけど、今回はちょっと大人な選曲や楽器編成だったりになると思うので、これも新鮮ですね。

オーイシ:僕もすごく楽しみです。どこまで言っていいのか分からないですけど、出演者さん同士の関係性から生まれる、いわゆるセッションめいた化学反応にもご期待いただければと。本当にみなさん上手な方ばかりなので、誰と誰がコラボしても高次元な音楽をご提供できるかなと思っております。

齋藤P:当然のことながら、楽曲もビルボードならではのアレンジになると思いますし、アニサマ名物の一つとして、もちろんコラボレーションも面白いことを考えてます。

――配信ライブならではの楽しみもあったり?

オーイシ:生のライブって歓声とか声援は飛び交いますけど、感想は伝えられないじゃないですか。例えば「歌うめー」とか「演奏すげー」とか。でも配信ライブだと、そういうコメントがバーッと流れてくることによって、観てる人たちの心理が高まっていくというか。自分で配信していても、そういう楽しみ方ってあるよなって思いましたね。

齋藤P:ビルボードライブでお酒が提供されるように、今回はギフトっていうニコニコ生放送の機能もあるので、双方向のやり取りを楽しんでもらえると思います。例えばオーイシさんなら「おしゃべりウォーター」っていうのを用意するんですけど…。

オーイシ:水ですけどね(笑)。

齋藤P:飲むと滑舌が良くなって、MCでドッカンドッカン沸かせられるっていう、詐欺商法みたいな水(笑)。あと、今回は『キンカン』さんが【アニサマナイト】を応援してくださるので、何か起こるんじゃないかっていう予感があります(笑)。

オーイシ:オーイシ課長としては聞き捨てならないですね(笑)。



オーイシマサヨシ「キンカンのうた2020」Music Video Full ver.


――そんなオーイシ課長にぜひ意気込みを語っていただきたいです。

オーイシ:そうですね。さっきも言った通り、配信ライブならではの楽しみ方があるのはよく知ってるつもりなので、一つのエンタメを一緒に作れたらいいなと思ってます。あと、やっぱりいつも以上に技術面のクオリティが必要になってくる現場だと思うので、しっかり褌を締めなおしてから臨みたいなと。

齋藤P:今回出演していただく方々は皆さん、歌のスキル、MCのコミュニケーション力、音楽に対する熱さ、全部を兼ね備えてる人たちなので、ベストセレクションだと思います。短い期間での立ち上げでしたけど、そんな状況下でこれをやる意義をちゃんと理解していただき、色んな面で協力してくださってる方々なので、絶対にイイものができると思ってますよ。

――すでに手応えを感じられているようですね。

齋藤P:ここは重要なポイントなんですけど、今回はチケット代が5,000円で、配信ライブの相場では高い部類だと思うんです。ただ、これは素晴らしいアーティストが届けるクオリティの高いライブへの対価ということで、自信の表れとして捉えてほしいと思ってます。バンドもフルで金管(キンカン)とかも入れたいわけですよ。オーイシさんにも、すごく楽しんでいただけるんじゃないかなと思ってます。

オーイシ:はい。僕は楽しむ気満々でいます。

――コロナ禍において音楽シーンは苦しい状態が続いてますが、それを逆手にとったエンタメの一つの在り方としても、当日のパフォーマンスが非常に楽しみです。

オーイシ:別に楽観視してるわけではなく、僕は“withコロナ”の時代は終わると思っていて。5年後10年後に元に戻っていないわけがないと信じつつ、今は我慢の時期だと思うんです。みんなで寄り添い合いながら、今できるエンタメを作っていく。でも、これが主流になることはないと思ってます。生でライブを届けられることに勝るものはない。同じレーベルのアーティストさんの話なんですけど、密を避けるために観客を半分にして公演を開催して、そのチケット代を倍にしちゃいますと。その時のお客さんの反応がすごく励みになって。

――というと?

オーイシ:お茶の間の反応は「2倍にするなんて何てことだ」とか「そんな高いチケット代は払えないだろう」って感じだったんですけど、オタクの反応が面白くて。まず「推しに会いに行ける環境を作ってくれてありがとう」と。あとは「高いのは別にいいけど、当選の倍率が2倍になってしまうのが大変だ」っていう声。

齋藤P:あの件は僕も見ていて、すごく勇気のある行動だと思いましたね。ご本人にも大きなプレッシャーだったと思うし。

――ファンはどちらかと言うとポジティブな反応なんですね。

オーイシ:あれを見た時、ファンのみなさんには信頼しかないなと思って。みんな飢えてるし、会いに行きたがってる。こういう気持ちがある現場、こういう気持ちがあるジャンルなら、この厳しい時代を乗り越えるだけのパッションが絶対にあるなと思いました。けっこう確信に変わったぐらいの、とてもポジティブな出来事でした。色んな人が色んなことを画策してる現状だとは思うんですけど、お客さんも含めてこの状況を耐えうる信頼できる仲間たちがちゃんといるんだっていうことを感じながら、僕らも引き続き頑張っていきたいなって思います。



インタビュー前編はこちら

Interview by Takuto Ueda

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