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塀の中から復活を遂げたレゲエ界のカリスマ=ブジュ・バントン、10年ぶりの新作で問う彼ならではの“タイムレスな音楽”とは?

インタビュー

 レゲエ界切ってのカリスマ、ブジュ・バントンが帰ってきた。アメリカのフロリダで、おとり捜査だった可能性も高い麻薬の取引に関与した件で2011年に投獄され、刑期を終えてジャマイカに戻ったのが2018年の暮れ。1年半でドロップする『アップサイド・ダウン2020』は、<ロック・ネイション>と契約してリリースされ、ブジュ・バントンらしい威風堂々とした復帰作だ。ジョン・レジェンド、ファレル・ウィリアムス、スティーヴン・マーリーらが参加、ルーツからダンスホール、スカ、R&B寄りのラヴソングなど多くの要素を配置しつつ、芯を突っ切るのは唯一無二のブジュの極太ヴォイス。2020年5月22日、キングストンのブジュに電話取材をした。

戦争が意味するところは平和だし、愛には憎しみが隠れているし、善と悪はセット

ーー期待通りのすばらしいアルバムで、最初に耳にしたときは涙が出ました。12年ぶり、4回目の取材です。まず、アルバムの制作期間を教えてください。

ブジュ・バントン:4回目?すごいね(笑)。制作期間は実質的に9~10か月。でも、出所してからずっと取り組んでいたから1年がかりだ。

ーー以前から書き溜めたリリックはありますか?

ブジュ:ほとんどが最近書いた曲だ。その中に、以前に考えたリリックもあるだろう。君と俺では“以前”の定義が違うから、答えようがない。

ーーラスタファリアンは「アンダースタンド(わかった)」の「アンダー(下)」を嫌って、「オーバースタンド」って言いますよね。タイトルの「アップサイド・ダウン(ひっくり返す)」にも隠れた意味があるのかな、と思ったのですが。

ブジュ:隠れた意味は、全くない。世界はすべてつながっていて、人々の前にあるものはひっくり返っている。戦争が意味するところは平和だし、愛には憎しみが隠れているし、善と悪はセットだし、アップ(上昇)したらダウン(下降)するしかない。教科書に書いてあることを信じていたら、無知なまま、ぼんやりした世界から出られない。だから、俺は自分が考える、正しいこととまちがえていることを伝えているんだ。

ーーいまの時点で、音楽は聴けましたが詳細を受け取っていません。参加しているプロデューサーやミュージシャンを教えてください。

ブジュ:ドノヴァン・ジャーメイン、デイヴ・ケリー、それから昨晩亡くなったボビー・デジタル。彼と最後にもう1回仕事ができて本当によかった。あとレンキーやジャーメイン・リードとか昔からの友達と作った。

ーー手元のクレジットには名前がありませんが、「Yes, My Friend」はスティーヴン・マーリーが歌っていますよね?トラックを作ったのも彼ですか?

ブジュ:そう、長年の友達、スティーヴンと一緒に歌っている。トラックを作ったのも彼だ。プロデューサーとしても彼はすばらしい。

ーー「Buried Alive」は辛い状況から抜け出す曲です。曲調を含めて、ジミー・クリフの「Struggling Man」を思い起こしました。

ブジュ:なんの話?あれは俺の辛かった経験から生まれた、肉体を支配されていた俺の言葉で書いた曲だ。ジミー・クリフは関係ない。曲の構成の話をしているなら、そういう意見もあるだろう、としか言えない。音楽の聞こえは人によって違うから、みんないろんなことを言う(爆笑)。

ーー「生き埋めにされたけれど、まだ息をしている」という歌詞は非常に力強いです。どのような心情を伝えようとしたかったのか、説明してもらえますか?

ブジュ:みんな生き埋めにされたような状況で生きている。君もそうだ。毎日、起きて家族のために働き、友達を助ける。大変な状況でもそうするしかない、ってこと。聖書にも書いてある。説明をなにも、聴けばわかるでしょ。

ーーダンスホール・ファンが待ち望んでいたデイヴ・ケリーとの再タッグも実現しました。これは、どういう経緯で?

ブジュ:俺もデイヴもレゲエを進める役割を担って生まれた。タイミングが合えば一緒に音楽を作る運命にあり、今回はそのタイミングだったわけだ。

ーーその「Trust」では服役中のヴァイヴス・カーテルについて、Gazaという言葉を用いて言及しています。なぜでしょう?

ブジュ:彼のいまの状況がよくわかるからだ。不正な手続きを経て刑務所に入っているのは、曲の主旨とも関係があるから歌詞に入れた。



▲ 「Trust」MV / Buju Banton


ーーこの曲はトリー・レーンズが参加したリミックスもあります。彼がジャマイカ人のように歌えるので驚きました。調べたら、彼はジャマイカ系ではないんですよね。

ブジュ:驚くことでもないでしょ。ジャマイカの文化、音楽が好きでそのスタイルを取り入れる人は多い。それを彼らなりに表現して貢献しているんだよ。リスペクトの念からやっているわけ。ジャマイカまで来て、このカルチャーを理解して尊敬の気持ちを表現している。

ーードレイクが率いる<OVO>に所属しているdvsnのコンピレーション・アルバムにも参加しましたよね?<OVO> のプロデューサーのボーイ・ワンダもジャマイカ系ですし、ドレイクと今後、一緒に組む可能性はありますか?

ブジュ:同じ業界にいるんだから、なんでも起こり得る。可能性はあるよ。



▲ 「Trust」(Audio) / Buju Banton ft. Tory Lanez


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つまり、レゲエのためになるかならないか

ーーリード・シングルの「Memories」はジョン・レジェンドをフィーチャーしています。彼とのコラボは2回目ですよね?

ブジュ:その通り。ジョン・レジェンドと音楽を作ったのは2回目で、この曲はとてもスペシャルな曲だ。なぜなら、メモリー(記憶)がなければ、俺たちは生きていないも同じだから。いい思い出も、悪い思い出も全部いまの自分を作っている。そういう曲だ。



▲ 「Memories」(Official Lyric Video) / Buju Banton ft. John Legend


ーージャマイカ国内外を問わず、あなたと一緒に曲を作りたがっているアーティストは多いでしょうね。

ブジュ:そうだね、話はたくさん来る。それ自体は、問題ない。問題は、俺が彼らと曲を作る意味があるのか、ということ。俺には自分のスタイルも基準もある。そのスタンダードに見合わないのなら、条件が良くてもやる必要はない。つまり、レゲエのためになるかならないか。

ーーファレル・ウィリアムスが作った「Cherry Pie」について伺います。彼のトラックは相性がいい人と、乗りこなせない人の両方いるように思います。あなたは完全に自分のモノにしていましたが、制作過程について教えてください。

ブジュ:ファレルはジャマイカまで来てくれたんだ。それで、俺のスタジオで作業をした。アイディアをたくさん交換して、冗談抜きでチェリー・パイを食べながら作った曲だ。

ーー次のシングル向きの曲だと思います。

ブジュ:そう思う?参考にするよ。

ーー「Beat Dem Bad」は新しいタイプの、2020年のダンスホール・レゲエだと思いました。

ブジュ:ひとつお願いしていい?俺はいい音楽を作ることにしか興味がない。俺の音楽に“2020年”とか時間を示すスタンプを押すのはやめてほしいんだ。俺がやっているのは、ダンスホール・レゲエであって、ほかのジャンルのふりもしない。目指しているのは、時間に左右されないタイムレスな音楽だから。俺はいつかこの世を去る。それでも、俺の音楽は残り、聴き続けられる。そういう音楽を作っている。レゲエはタイムレスなんだ。

ーーわかりました、「新しいレゲエ」という表現は避けます。「Steppa」はあなたの<ガーガメイル・レーベル>が出したリディムでもあり、デリー・ランクスやゴーストといったアーティストも曲を出しています。レコーディングの際はあなたも立ち会うのですか?

ブジュ:あれは、ヘンリー・ジュンジョ・リディムのリメイクだよ。ずっと好きなリディムだから、自分で作り直してみた。ほかのアーティストの歌入れには、立ち会うこともあれば、他の人に任せることもある。



▲ 「Steppa」MV / Buju Banton


ーー「Helping Hand」と「Unity」はいまの世の中に特別な意味をもって響くメッセージ・ソングです。これは、いつ頃に作ったのでしょうか?

ブジュ:「Helping Hand」は俺にとっても、非常に特別な曲だ。ジャマイカに帰ってきてすぐ、昔からの友人のボビー・デジタルに会いに行って、一緒に曲を作った。彼は昨日、亡くなってしまったから結果的に一緒に作った最後の曲になったんだ。さっき、集会に行ってきたところだけど、まだ実感がない。信じられないよ。あの曲で伝えたかったのは、どんな相手であっても助け合って生きていくのが大事だ、ということ。男性と女性、男の子と女の子、そういう違いを超えてね。いまの世の中はたくさんの境界線を引いて人を隔てる。経済格差、教育の違い、人種の違い。そうやってずっと線を引いいて人を分け隔てている。社会的な距離を取れ、とかいう新型コロナウイルスは、その線をくっきり浮き立たせた。



▲ 「The Road To #UpsideDown2020 (Episode 1)」


ーー今週末、バウンティ・キラーとビーニ・マンがVerzuz.TV に登場します。仮に、あなたがオファーされたとして、相手は誰を希望しますか?

ブジュ:まず、第一に誰も俺にそんな依頼はしない。俺は自分と同じように音楽を作っている兄弟たちをライバルに見立てて優劣を競ったりはしない。注目度が高いのはわかっているけれど、俺はやらない。

ーー実はその答えを想定はしていたのですが、エリカ・バドゥとジル・スコットは友好的なムードでしたし、必ずしも「闘う」イベントではないです。

ブジュ:言いたいことはわかるよ。でも、どっちが上とか決めるのは興味がない。だいたい、誰も俺に闘いを挑んでくる奴なんていない。

ーー今回、契約した<ロック・ネイション>は国際的なプロモーターでもあります。日本のファンは首を長くして待っているのですが、来日の可能性を教えてください。

ブジュ:日本には楽しい思い出がたくさんあるから、早く行きたいね。高松、名古屋、渋谷、大阪‥‥いろんな人と会ったし、Mighty Crown もよくしてくれた。もう少し音楽を作って、状況が追いついたら今度は長めに滞在したい。音楽やダンス、物の考え方、(日本のみんなと)分かち合えることはたくさんある。この状況を乗り切ったら、みんなでお祝いしないと。

ーー数え方によりますが、最初のヒット曲やアルバム・リリースでいくと来年はレゲエ・アーティストとして活躍し始めて30周年です。なにか特別なプランはありますか?

ブジュ:……(爆笑)。

ーー私、合ってますよね?

ブジュ:合ってるけどさ、いやぁー、長いことたくさん音楽を作ってきたんだなぁ、と思って。これからもずっと同じだよ。たくさんいい音楽を作る。それだけ。

ーー日本のファンにこれだけは伝えたい、ということがあれば。

ブジュ:長年のサポート、本当にありがとう。日本のファンはレゲエ・カルチャー全体を理解してくれている。みんなジャマイカに来てくれるしね。日本のファンには、ポジティヴなレゲエの火を絶やさないでほしい、とだけ強く願う。日本とジャマイカの関係も、外交を含めて良好だと嬉しい。


 アーティストであり、ラスタファリアンであるブジュ・バントンとの会話はときに禅問答のようになる。圧倒的な才能とカリスマ性の持ち主であり、その光がときとして大きなトラブルを招く、数奇な運命のもとに生まれた人だ。昔からのファンはスケールがまた一つ大きくなった彼の新作を無条件で楽しめるだろうし、「名前は聞いたことあるけど」という人は、まずは先入観を取っ払って彼の音楽に向き合ってほしい。



▲ 「The Road To #UpsideDown2020 (Episode 2)」


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