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<コラム>ポップ・ミュージック新世代を象徴するブレイク、miletが放つ強烈な求心力
新世代アーティストたちの台頭
女性シンガー・ソングライター、miletのデビュー・アルバム『eyes』が大きな反響を巻き起こしている。
2020年6月3日にリリースされた同作は、Billboard Japanの総合アルバム・チャート”HOT ALBUMS“にて2週連続となる1位を獲得。同一のアルバムが2週連続で総合首位となるのは、2020年2月3日付にKing Gnu『CEREMONY』が記録して以来となる。昨年3月に1st EP『inside you EP』でメジャー・デビューを果たしたばかりのニューカマーであることを考えると、初のアルバムでの記録は快挙と言っていい。
milet「Until I Die」MUSIC VIDEO (1st full album『eyes』6.3 on sale)
そして、miletのブレイクは、新たなスターが次々と誕生しつつあるここ数年の音楽シーンの変化の一つの象徴と言うこともできる。
時代の変化の端緒となったのは、2018年のあいみょん「マリーゴールド」のヒットだろう。この曲をきっかけに“ストリーミングからブレイクした国内初のアーティスト”となった彼女。今年2月には同曲のストリーミング累計再生回数が2億回を突破し、新曲「裸の心」もBillboard Japanの総合ソング・チャート”HOT 100“でトップ10入りを果たすなど、その勢いはいまだ衰えていない。
そして、現在の音楽シーンは、いわば“あいみょん以降”とも言うべき活況を呈している。昨年に躍進を果たしたOfficial髭男dismやKing Gnuも、やはり「Pretender」や「白日」といったそれぞれの楽曲がストリーミング・サービスで再生され、ランキングを駆け上がったことがブレイクの起爆剤となった。
ただし、これらのアーティストのブレイクは、単に「ストリーミング発のヒットが生まれている」ということだけを意味するのではない。あいみょんもOfficial髭男dismもKing Gnuも、ポイントはアルバムが支持され、そのセールスを伸ばしていることにある。つまり、一過性の人気ではなく、アーティストとしての確かな才能と実力が支持に結びついているということだ。
注目を集めるきっかけは、やはり楽曲のメディア露出だろう。ドラマや映画の主題歌といったタイアップがそれを後押しする。ただ、従来と大きく違うのは、CDシングルの売り上げランキングに代わり、“HOT 100”のような複合型チャートがヒット・チャートとしての説得力を持つようになり、ロング・ヒットが可視化されるようになったこと。こうしたヒットは、リリース直後の盛り上がりだけでなく、その後も数か月以上にわたって楽曲が繰り返し聴かれ、浸透していくことで、”広さ“だけでなく”深さ“を持ってリスナーに届く。かつ、そういった何度も聴きたくなるタイプの曲が複数あることで再生回数の相乗効果が生まれる。だからこそ、一つひとつの曲が“点”で終わるのではなく、それが“線”となって像を結び、アーティストとしてのブレイクにつながるわけである。
miletの成功も、こうした“あいみょん以降”の音楽シーンの状況を踏まえたものと言えるだろう。
最初のフックになったのは、ハスキーで力強く、幅広い情感を表現する彼女の歌声が持つ魅力だ。2019年3月リリースのデビュー曲「inside you」は、ONE OK ROCKのToruがプロデュースを手掛けた曲。TVドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』の主題歌という大型タイアップもあり、“HOT 100”の最高位は11位。彼女の名前を世に知らしめる大きなきっかけになった。
そして同年8月にリリースされ、TVドラマ『偽装不倫』の主題歌となった「us」が飛躍のきっかけになった。この曲の“HOT 100”での最高位は14位。決して世を席巻するメガヒットになったわけではないが、解放感にあふれたメロディを持つこの曲は、リリース後も繰り返し聴かれ続け、ストリーミングの再生数を増やし続けた。
milet「us」MUSIC VIDEO(日本テレビ系水曜ドラマ『偽装不倫』主題歌)
歌声の可能性
その後も11月の『Drown/You & I』、そして今年2月の『Prover/Tell me』とEPのリリースを続け、歌声だけでなく、彼女自身のシンガー・ソングライターとしての才能に多くの人が気づいていった。グローバルなポップ・ミュージックとの同時代性、そして彼女の表現するエモーショナルな歌の世界に惹き込まれる人が増えていった。
miletのブレイクのもう一つのポイントは、同業者であるアーティストやプロデューサーの評価が後押しになったことだろう。その代表が桑田佳祐だ。彼は2019年末に放送されたラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』の恒例企画『桑田佳祐が選ぶ、2019年邦楽シングル・ベスト20』で「inside you」を1位に選出。あいみょん、Official髭男dism、King Gnuをブレイク前にいち早く評価したテレビ番組『関ジャム 完全燃SHOW』の人気コーナー『売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト10』でも、蔦谷好位置が「inside you」を4位、いしわたり淳治が「us」を1位に選出している。
こうして着実に支持を積み重ねていったことが、miletのアルバムでのブレイクにつながったわけである。
『eyes』はこうしたmiletのデビュー以降の歩みの集大成的な1枚でもあり、そして同時に彼女のシンガー・ソングライターとしての新たな可能性を感じさせるアルバムでもある。全18曲のうちには「us」や、『めざましどようび』のテーマソングとして書き下ろされた「STAY」のように、タイアップ・ソングとして制作された明るく爽やかなポップ・ソングも多い。しかしその一方で、「Dome」や「Until I Die」のようなノン・タイアップのアルバム収録曲には、沈み込むようなダークな曲調を持ったものも多い。極限まで削ぎ落とした緊張感あるサウンドに芯の強い歌声を響かせる「Fire Arrow」のような楽曲も大きな存在感を持っている。
こうした“暗さ”を表現する歌も、この先のmiletにとっての大きなキーになっていく予感がする。
eyes
2020/06/03 RELEASE
SECL-2574 ¥ 3,190(税込)
Disc01
- 01.Again and Again (eyes mix)
- 02.Parachute
- 03.航海前夜
- 04.Somebody
- 05.inside you
- 06.Drown
- 07.You & I
- 08.Grab the air
- 09.STAY
- 10.Dome
- 11.Tell me
- 12.Wonderland
- 13.us
- 14.Prover
- 15.Until I Die
- 16.Without Your Love
- 17.Fire Arrow
- 18.The Love We’ve Made
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