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2020年冬ドラマの視聴率とタイアップ楽曲のチャート変遷の関係を分析 ~Billboard JAPAN Hot 100より~
ドラマ視聴率の変遷とタイアップ曲のチャート変遷を分析する
Billboard JAPAN.comでは過去にも、音楽番組とチャートの関係(vol.1 / vol.2)や【ラグビーワールドカップ2019日本大会】におけるタイアップ曲のチャート変遷など、テレビで楽曲が露出することによるチャートへの影響を分析してきた。今回は、2020年の1月から3月に放送された、いわゆる“冬クール”のテレビドラマにスポットを当てて、そのタイアップ曲のチャートがどのように変遷していったかを、テレビドラマの番組平均世帯視聴率の変遷と照らし合わせながら見ていきたいと思う。
今回の分析対象ドラマは、放送期間平均の世帯視聴率のトップ5に絞った以下のドラマである(画像は各ドラマの公式サイトより)。
※左上から順に『テセウスの船』、『恋はつづくよどこまでも』、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』、『ケイジとケンジ 所轄と地検の24時』、
さらに、タイアップ楽曲のチャート変遷に関しては、Billboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”を形成する8指標のうち、ダウンロード指標、ストリーミング指標、動画再生指標というデジタル領域の動きを表す3指標に注目してみることにした。
なお、本コラムで使用する番組平均視聴率は、株式会社ビデオリサーチに許諾を得たうえで、共同研究としてすべて関東地区の世帯視聴率を用いるものとする。また、以下ではポイントの変遷を表したグラフがいくつか出てくるが、折れ線グラフがデジタル領域の3指標のポイントの変遷(紫がダウンロード、青がストリーミング、赤が動画再生)を、棒グラフが世帯視聴率の変遷を表しており、ポイントの実数は伏せていることをご了承いただきたい。
ダウンロード指標の変遷に注目
まず注目したいのは、冬クールの平均世帯視聴率5位であった、毎週木曜21時に放送されたテレビ朝日系『ケイジとケンジ 所轄と地検の24時』だ。その主題歌であった宮本浩次「ハレルヤ」のチャートポイント変遷と世帯視聴率の変遷は以下のようになった。
グラフ1:宮本浩次「ハレルヤ」のポイント変遷
▲宮本浩次「ハレルヤ」
配信リリースやミュージックビデオの公開はドラマ放送期間の中盤にスタートしたので、途中からダウンロード指標と動画再生の指標が出現している。また、ストリーミングは放送期間中300位圏外であったため、グラフ上には表れていない。
また、3月5日にダウンロードおよび動画再生の指標が上昇しているが、これはその時期に同曲が収録されたアルバム『宮本、独歩。』がリリースされたためと考えられる。それ以外の期間では、同じような世帯視聴率をとる中、ダウンロード指標も動画再生指標も減少する傾向を見せていた。これを踏まえて、次のグラフを見てみよう。
グラフ2:家入レオ「未完成」のポイント変遷
グラフ2は、フジテレビ系で毎週月曜21時に放送された『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』の世帯視聴率(平均世帯視聴率は4位)と、その主題歌である家入レオ「未完成」のチャート変遷を表している。「未完成」はCDリリースに先行して1月27日に配信され、ミュージックビデオは1月9日にショートバージョンではあるが公開されている(フルバージョンは4月15日に公開)。また、ストリーミングでは3月4日にストリーミング配信され(ストリーミング指標はオンデマンド型国内主要音楽聴き放題サービスとプレイリスト型ストリーミングサービスの再生数の合算により生成)、それ以降週ごとにポイントを上昇させている。
そして、ダウンロード指標では「ハレルヤ」同様ポイントが減少傾向にあるが、動画再生指標は少しではあるがポイントを週ごとに上昇させている。世帯視聴率の変遷が上昇したり減少したりする中、一定のペースでポイントを上昇させた動画再生指標の変遷を見る限り、YouTubeやGYAO!を日常的に使用する層に着実に訴求できたことがうかがえる。
▲家入レオ「未完成」
ここまでの2つのドラマは、世帯視聴率の変遷がはっきりと上昇・減少しているものではなかったが、この後紹介する平均世帯視聴率トップ3のドラマは、全てクール後半になると世帯視聴率は上昇している。そのような上昇傾向の中、チャートはどのように変遷したのか見てみよう。
上昇する世帯視聴率の中でのチャート変遷
グラフ3:JUJU「STAYIN' ALIVE」のポイント変遷
毎週土曜22時『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(平均世帯視聴率3位)の主題歌であるJUJU「STAYIN' ALIVE」は、2月8日に先行配信およびストリーミング配信がスタートし、同日にミュージックビデオも公開されている。このドラマのエンディングでは、「STAYIN' ALIVE」にのせて主演の天海祐希らがダンスする映像が流れており、それによる訴求効果もあってか、動画再生指標は低調であったものの、ストリーミング指標は週を重ねるにつれ上昇している。
また、ダウンロード指標を見てみると、チャートイン2週目に大きくポイントを伸ばしている。これは本楽曲が2月8日の土曜日に配信されており、チャートの集計期間が毎週月曜日から日曜日で区切っていることを考えると、実質2週目が初週ととれることができるための現象と捉えられる。しかし、3週目から5週目までのダウンロード指標も上昇しており、本ドラマの世帯視聴率の上昇による視聴者の増加や音楽番組等への露出効果が表れていると言えるだろう。
▲JUJU「STAYIN' ALIVE」
では、平均世帯視聴率2位だったTBS系毎週火曜22時放送の『恋はつづくよどこまでも』と主題歌であるOfficial髭男dism「I LOVE...」、そして平均世帯視聴率1位だったTBS系毎週日曜21時放送の『テセウスの船』と主題歌であるUru「あなたがいることで」の変遷を表したグラフを2つ同時に見てみよう。
グラフ4:Official髭男dism「I LOVE...」のポイント変遷
グラフ5:Uru「あなたがいることで」のポイント変遷
「I LOVE...」と「あなたがいることで」に共通するのは、ともにストリーミング指標が上昇していること、「あなたがいることで」は少し減少する週があったものの全体的には動画再生指標も上昇していることの2点が挙げられる。しかし注目すべきは、ダウンロード指標のポイントが「I LOVE...」では、減少する週はあったものの、クール全体で見れば増加傾向だったのに対し、「あなたがいることで」はチャートイン3週目から6週目まで世帯視聴率が上昇しているにもかかわらず減少している点だ。
世帯視聴率が上昇するにつれダウンロード、ストリーミング、動画再生の指標が上昇するのはドラマタイアップによる訴求効果があったと言えるが、「あなたがいることで」のようにダウンロード指標のみ減少したという変遷をたどったのは注目だ。これはあくまで推測の域だが、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』や『恋はつづくよどこまでも』の世帯視聴率の上昇と、『テセウスの船』の世帯視聴率の上昇は同じ“上昇”ではないのではないかという仮説が出てくる。それは、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』や『恋はつづくよどこまでも』は恐らくクール途中での新規流入の視聴者が多く(ただしクール途中での離脱も多い)、『テセウスの船』は新規流入の視聴者が少ない(ただし離脱も少ない)という仮説である。
▲Official髭男dism「I LOVE...」
▲Uru「あなたがいることで」
つまり、新規流入の視聴者が多いと、新たにタイアップ曲を耳にする人が増えることにつながり、それがダウンロード数の増加につながるということだ。反対に新規流入の視聴者が少ないと、リリース初週以降ダウンロード数が減少していく。ここで注意したいのは、新たにタイアップ曲を耳にする人が増えることは、ストリーミングにおいても増加につながるのではということである。ここで、ドラマの「初回」と「最終回の1つ前の回」でのストリーミングポイントを比較して、その増加率を「あなたがいることで」、「I LOVE...」、「STAYIN’ ALIVE」で出してみた。「最終回の1つ前の回」を比較対象としたのは、最終回はそれまで何かしらの放送回を見た視聴者が「結局最終回はどうなるのだろう」と一気に見るというある意味“異質な動き”をする回だと考えられ、新規流入の視聴者を考えるにあたって不適切と考えたためである。
表1:ストリーミングポイント増加率
さらに、下記の表2も見てもらいたい。ここでは各タイアップ曲のドラマのクールを通しての世帯平均視聴率に加え、ダウンロード・ストリーミングのポイントの平均増加率を世帯視聴率の平均増加率で割った値(単位DL増加率・単位STRM増加率)を並列して記載している。ポイントの増加率を世帯視聴率の増加率で割ったのは、同一の視聴率の伸びでポイントがどれだけ伸びたかを評価できるためである。ちなみに、最終回は先ほど同様に除き、世帯視聴率の増加率はダウンロードもしくはストリーミングが初めてチャートインした週以降を対象としている。
表2:世帯平均視聴率と単位ダウンロード・ストリーミング増加率
上記2つの表を見る限り、世帯平均視聴率がトップであった『テセウスの船』の主題歌「あなたがいることで」が、「STRMポイント増加率」および「単位Dl増加率」と「単位STRM増加率」のどちらも他2曲より低い結果となった。このことからも、『テセウスの船』の新規流入の視聴者が少なく、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』や『恋はつづくよどこまでも』は新規流入の視聴者が多いことが推測される。そして、もし新規流入が多いとなると、そこから広告効果がより見込めることになるだろう。タイアップ曲のダウンロードやストリーミング指標の変遷からドラマを評価するという、純粋な世帯視聴率の変遷とは別軸での評価方法も可能ではないだろうか。
以上、ドラマの世帯視聴率とタイアップ楽曲のチャートにおける変遷を、デジタル指標に絞ってこれまで見てきた。しかし、テレビを取り巻く状況は大きく変わってきている。4月1日にNHKが地上放送のテレビ番組を放送と同時にインターネットに流す同時配信サービスがスタートし、民放キー局5局も今秋以降、同時配信を始める方向で準備しているという報道が出ている。また、新型コロナウイルスによる生活環境・習慣の変化も不可避だろう。視聴体験が大きく変わってくる2020年以降と予想されるが、ビルボードジャパンでは、引き続きジャパンチャートデータとテレビ番組の関連について考察を進め、当サイトで公表していきたい。
Text by ビルボード事業部 ビルボード総研グループ 太田明宏
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