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大橋トリオ、ニューアルバム『This is music too』リリースインタビュー 「古い音楽には、まだまだヒントが眠っているという感じはある」



 『関ジャム完全燃SHOW』(2月9日放送)で音楽プロデューサーの蔦谷好位置が、そして、『Love music』(2月9日放送)ではKing Gnuのベーシスト新井和輝が“紹介したいアーティスト”“最近聴いているアーティスト”として挙げるなど、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしても注目されている大橋トリオ。通算14枚目となるオリジナルアルバム『This is music too』でも、洗練されたソングライティング、豊潤なアナログ・サウンド、そして、奥深い響きをたたえたボーカルによって、極上の音楽世界を描き出している。3月12日からは全国ホールツアーもスタート。音楽に関する技術、センス、志の高さが一つになった『This is music too』の制作プロセス、ライブに対するスタンスなどについて大橋自身に語ってもらった。

20年後でも普通に聴けるものを作ること

――ニューアルバム『This is music too』が完成しました。前作『THUNDERBIRD』ではアナログ・サウンドの追求をテーマにしていましたが、今回の制作ではどんなことを意識してましたか?

大橋トリオ:テーマは何もなかったですね。サウンドに関して言えば、前回のアルバムでアナログの音を追求したことで「これだな」と思って。この方向をもっとやるべきだと思ったし、もっと言えば、これが一生のテーマだなと。「自分はこれをやっていくんだ」と決めたんですよ。



――アナログ・サウンドを追い求め続けると。

大橋トリオ:ええ。アナログこそが良い音というか、あえてテーマにするまでもなく、「それを目指して当然」と思っているので。レコードも出すし、カッティングにも立ち会って。CDはロンドンでマスタリングしたんですけど、自分としてはむしろアナログのほうに重きを置いてるんですよね。

――徹底してますね。

大橋トリオ:音に関してはそうですね。今はどんどん機材が進化していて、解像度も上がってるから、「そっちのほうがいいに決まってる」と誰もが思うじゃないですか。ただ、人間の耳には限界があるし、これ以上は伸びしろがないだろうなと。音楽の聴き方自体は、じつは3つしかないんですよ。最初はモノラル、ステレオになって、次はサラウンド。サラウンドは全然浸透していないしーー映画は別ですけどーーバイノーラル録音とかはあるけど、今後、音楽の聴き方が革命的に変わることはおそらくないだろうと。そのうえで「じゃあ、何がいちばんグッとくる音か?」と言えば、やっぱりアナログなんですよね、僕にとっては。なので今回のアルバムも、「レコードで気持ちよく聴ける」ということを突き詰めようと。

――アナログで聴くことを前提にすると、作曲やアレンジにも影響しますよね?

大橋トリオ:そうですね。僕のなかのアナログのイメージは、音数が少なくて、ひとつひとつの音に存在感があるということなので。それはレコーディングに参加してるミュージシャンもわかってくれていて。時代には完全に逆行してますけどね。

――現代的なポップスとはあえて距離を置いている?

大橋トリオ:まったく考えてないですね、そこは。音楽を作る人間として何が正解かと言えば、そのときにバーッと売れることよりもーーもちろん、それも大事ですけどーーまったく考えてないですね、それは。20年後でも普通に聴けるものを作ることなので。そのためには流行りに左右されたらダメだし、極端な音作りもしないほうがいい。アナログが自分の好みの音だと言えば、それまでなんですけど(笑)。

――そのスタンスは『This is music too』というアルバムタイトルにも表れてますよね。直訳すると「これも音楽だ」ということですが。

大橋トリオ:インディーズ時代の2作目のタイトルが『THIS IS MUSIC』(2008年)なんですが、それは俳優の村上淳さんが考えてくれたんです。当時、「世の中に対して挑戦的じゃないですか?」と言ったら、「そう? “THIS IS MUSIC”ってかわいいじゃん」って(笑)。今回はテーマがなかったから、タイトルも何でもよかったんですけど、スタッフの誰かが「『This is music too』はどうですか?」と言い出して。“two”じゃなくて“too”というのが面白かったし、じゃあ、それでいいやって(笑)。

――深読みしたくなるというか、現在の音楽的なトレンドに対するカウンターのような意味合いにも取れますが。

大橋トリオ:そう取ってもらってもいいですけどね。音楽にはこだわってるけど、一般的にウケる、売れるものとは違うわけで、「これも音楽なんだけどね」と拗ねてるところもなくはないので。

――楽曲自体も非常にオーセンティックですよね。トラックメイカー的な作り方ではなくて、コード進行とメロディ、ハーモニーがしっかり練られていて、生楽器を主体としたアンサンブルがあって。

大橋トリオ:そうかもしれないですね。実は今回、あまり曲が出来なかったんですよ。なので、けっこう裏技を使っていて。たとえば「ポラリス」は、10年くらい前にカコイミクという女性シンガーに提供した曲のセルフカバーなんです。タイトルと歌詞を変えて自分でやろうと。


▲大橋トリオ「ポラリス」(Lyric Video)

――今回のアルバムのために制作した新曲は?

大橋トリオ:「LOTUS」「夕暮れのセレナーデ」「青月浮く海」ですね。「LOTUS」は3年前くらいにイントロだけ作って、「良くなりそうですね」と言われてたんだけど、全然できなくて。一昨年、去年と断念して、今回いよいよ曲が足りなくなって、何とか形にしたという感じです(笑)。アルバムのメイン曲みたいになってますけど、ずっと向き合ってきたので、良いかどうか自分ではわからなくなってますね。


▲大橋トリオ「LOTUS」

――“大橋トリオのロック・サイド”という雰囲気で、めちゃくちゃ良い曲だと思います。もしかして“大橋トリオとして成立する曲”のハードルが上がってるんじゃないですか?

大橋トリオ:制限が多いですからね。自分の声に向いてる曲、向いてない曲があるので。世の中にある“歌モノ”のなかで、たぶん99%は僕に向いてないんです。

――え、そんなにですか?

大橋トリオ:97%くらいにしておこうかな(笑)。カラオケとかで歌うこともあるけど、僕が歌うことで味が出る曲って、ほとんどないんですよ。自分で作った曲でも、いざ歌ってみたらしっくりこなくて、「全然やりきれなかったな」というままリリースした曲もあるし(笑)。

――そういう歌と声のバランスやニュアンスって、大橋さんにしかわからないのでは…?

大橋トリオ:うん、そうだと思います。音楽的なことはほぼ自分だけでやってるから、スタッフとかも介入できないんですよ。作家から曲を募集したこともあるんだけど、上手くいかなかったし。

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古い音楽には、まだまだヒントが眠っているという感じはある

――なるほど…。今回のアルバムには、シンガーソングライターの東川亜希子さん、ベーシストのRay Kondoさんが楽曲を提供していますね。

大橋トリオ:信頼できるサポートの面々に曲を募集したんです。東川さんには2曲(「Let us go」「Ways and scenes」)、Rayさんからは1曲(「quiet storm」)もらったんですが、どの曲も良かったですね。付き合いも長いし、大橋イズムみたいなものをわかってくれていて。あと、僕に影響を受けてる可能性もあるんですよね。実際、「大橋トリオに関わるようになって、すごく勉強になってる」みたいなことも言ってくれるし。おべっかかもしれないけど(笑)、才能のある同業者に影響を与えられてるとしたら、それほど嬉しいことはないので。

――「Lady (2020)」は、メジャー1stフルアルバム『I Got Rhythm?』の収録曲「Lady」のセルフカバー。ソウルフルなバラードですが、この曲を取り上げたのはどうしてですか?

大橋トリオ:蔦谷好位置さんがSNSで「自分で作ったことにしたい曲」として紹介していて、「お!」と思って。それからしばらく経って、彼のYouTubeチャンネル(『MUSIC FUN!』)で、「売れなかった名曲」として取り上げてたんですよ。そのタイトルはどうかなと思ったけど(笑)、とにかくすごい熱量で語っていて、「『Lady』にすごく思いがあるんだな」と。さらにこの前、“関ジャム”(『関ジャム完全燃SHOW』/2月9日)でも蔦谷さんが「Lady」を紹介してくれて、そこでも熱く解説してくれて。10年前の曲ですけど、自分でも「また思い切ったことやってるな」と思いますけどね。


▲大橋トリオ「Lady」 (ohashiTrio & THE PRETAPORTERS YEAR END PARTY LIVE 2019 at NHK Osaka Hall 12.11)

――どういうところが「思い切って」るんですか?

大橋トリオ:英語詞だし、とんでもないコード進行だし。間違いなく一般ウケはしないじゃないですか。ただ、この曲を作ったときに「どこかのタイミングで、音楽好きの人が話題にしてくれたらいいな」と思ってたんですよ。それが10年越しで叶ったというか。

――先ほど大橋さんが言っていた、「20年後も聴ける曲」ということになりそうですね。

大橋トリオ:そうですね、「Lady」に関しては。サウンド面を含めて、シンプルな名曲を作ることがいちばんだと思うので。

――アルバムのリリース後には、全国ホールツアーが開催されます。ステージで演奏し、歌うことに対するスタンスも、時期によって変化しているんですか?

大橋トリオ:最初の頃は苦痛でしかなかったんですよ、じつは。デビューしたばかりの時期はライブに対して、いろんなストレスがあって。いちばんは自分のことですけどね。歌のクオリティだったり、ピアノの技術の足りなさだったり。あとはドラムのグルーヴ、ベースの音作りなどもそうだし、それを一つ一つ、削っていったんですよ。サポートミュージシャン、PAのスタッフを含めて、いろいろと変えていって、3年くらい前にようやくストレスのない状態になって。


▲大橋トリオ (ohashiTrio & THE PRETAPORTERS YEAR END PARTY LIVE 2019 at NHK Osaka Hall 12.11 Digest)

大橋トリオ:今は音楽が大好きな人間ばかりが集まっているし、同じところを見ながらライブを作っていけるようになったので、逆に楽しくてしょうがないです。ライブをやるためにアルバムを作ってると言っても過言ではないですね。「ここで彼にソロ演奏してほしい」ということも考えるし、ライブのために曲のなかに余白を作ることもあるので。そういう状況を作るために努力したし、がんばってよかったなと。それは言い訳できない環境でもあるんですよ。ライブが良くなるかどうかは、自分のクオリティ次第だから。

――『This is music too』がライブでどう表現されるかも楽しみです。大橋トリオの次のビジョンに関しては?

大橋トリオ:そうですね…。自分のなかのポップスの部分は、既に出し切ったと思っていて。ツウ向けの曲もだいぶ作ってきたし、そろそろインプットの方法を考えないといけないなと。古い音楽には、まだまだヒントが眠っているという感じはあるんですけどね。

――レコードの時代の音楽には、まだまだ発見があると。

大橋トリオ:だといいなと思っています。アナログ・サウンドからこそ成り立つフレーズ、曲の展開もあるし、まだまだ可能性は残されているので。新しい音楽も聴きますけど、情報として受け取って、必要なければ受け流すという感じです。たまに「お!」と思う曲もあるけど、聴き過ぎるのも良くないんですよ。ファレル・ウィリアムスの「Happy」って、めちゃくちゃ流行ったじゃないですか。僕もハマって、ライブでカバーもしたんですけど、ちょっと引っ張られ過ぎたんですよね。「Happy」は10年に1回のレベルだと思うんですけど、ああいうものを狙って作るのはものすごくハードルが高くて……ということに、今気づきました(笑)。


▲Pharrell Williams「Happy」

――(笑)。「Happy」のように、クオリティとポピュラリティを併せ持った楽曲を作ってみたいという気持ちも?

大橋トリオ:うーん…。作曲って、特許みたいなものなんですよ。特許って基本的に“0から1”というより、何かの応用じゃないですか。音楽にもそれしか残ってないと思うけど、いつかは“0から1”みたいな世紀の大発見をしてみたいという気持ちはありますね。あったとしても、一生に一度でしょうけどね。

写真

大橋トリオ「This is music too」

This is music too

2020/02/19 RELEASE
RZCB-87021 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.LOTUS
  2. 02.ポラリス
  3. 03.Let us go
  4. 04.夕暮のセレナーデ
  5. 05.Ways and scenes
  6. 06.LIFE
  7. 07.青月浮く海
  8. 08.Lady (2020)
  9. 09.quiet storm

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