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The Free Nationals 来日記念特集 ~アンダーソン・パークを支えるバンドが単独名義での初ライブを開催!彼らが東京を選ぶ理由とは(Text:長谷川町蔵)
2019年12月にデビューアルバムをリリースしたばかりの「The Free Nationals(ザ・フリー・ナショナルズ)」の“世界初ライブ”がビルボードライブ東京で2020年2月に緊急開催されることが決定した。東京公演を皮切りにインドネシア、カナダ、アメリカをまわるツアーも発表されている。アンダーソン・パークのライブバンドとしても知られる The Free Nationals が、バンドの単独名義では“初”という超プレミアムな公演を、なぜここ東京(日本)からスタートさせるのか。貴重な来日公演を前に長谷川町蔵氏に彼らのキャリアと音楽性からその理由を考察してもらった。
アンダーソン・パークにとって不可欠な存在となった「The Free Nationals」
今年の1月27日に発表されたグラミー賞で、ベストR&Bアルバム賞を獲得したのはアンダーソン・パークの『Ventura』だった。
製作総指揮を務めたのは前作同様ドクター・ドレー。スヌープやエミネム、ケンドリック・ラマーを世に送り出してきた彼のコネクションによって、アンドレ3000からスモーキー・ロビンソン御大まで豪華なゲスト陣が迎えられているのだが主役はあくまでパーク本人。彼の伸びやかなヴォーカル、ヒップホップの強度とメロウでオーガニックな音楽性を併せ持ったサウンドスケープは、現代のポップ・ミュージックのひとつの到達点といえるだろう。
▲Anderson .Paak Wins Best R&B Album | 2020 GRAMMYs Acceptance Speech
この傑作のボトム部分をがっちりと支えていたのが、ホセ・リオス(ギター)、ケルシー・ゴンザレス(ベース)、ロン"T-NAVA"アヴァント(キーボード)、カラム・コナー(ドラムス)からなるプレイヤーたちだ。
ザ・フリー・ナショナルズと名乗る彼らは、パークのデビュー当時からライブでもバックを務めていた。いや、バックバンドというと語弊があるかもしれない。ドラマーでもあるパークがスティックを握るときにはカラムがDJに回り(2014年のデビューアルバム『Venice』収録曲の大半は彼がLo_Def名義でプロデュースしていた)、ゴンザレスやアヴァントもヴォーカルを取るなど、完全にひとつのグループとして機能していたのだから。
▲Anderson .Paak & the Free Nationals Live Concert | GRAMMY Pro Music
ドレーが、2015年のソロアルバム『Compton』でパークを大フィーチャーしたばかりか自身のアフターマス・レーベルと契約したのも、彼らが強力なライブ・パフォーマンスを展開していたからこそ。パークにとってザ・フリー・ナショナルズは不可欠の存在なのだ。
そんなザ・フリー・ナショナルズが昨年末にデビューアルバム『Free Nationals』を発表した。もちろんパークも参加しているのだが敢えて一曲に留められ、代わりに多くのゲストシンガーやラッパーをフィーチャーすることで、バンド自身の音楽性と人脈を披露した意欲作に仕上がっている。
神秘的なオープニング曲「Obituaries」で渋い語りを聴かせているのは、エリカ・バドゥやビラルといったネオソウル系アクトのプロデュースを手掛けてきたユニット、サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズのシャフィーク・フセインだ。ホームレス同然だったパークをアシスタントに雇い、音作りの極意を伝授した人物である。おそらくザ・フリー・ナショナルズにとっても師匠的な存在なのだろう。
▲Free Nationals - Obituaries (Audio) (feat. Shafiq Husayn)
二曲目以降は、ファレルやジョン・メイヤーが参加したデビュー作を昨年発表したダニエル・シーザーをはじめ、MIKNNA、日本人とアメリカ人の両親を持つジョイス・ライス、サンダーキャットらが参加したアルバムを発表しているカリ・ウチス、マルチインストゥルメンタリストでもあるカディア・ボネイといったロサンゼルス拠点のR&Bシンガーたちが次々と登場する。
こうした歌物の合間に“キング・オブ・サウス”ことT.I.をはじめ、J・コールが主宰するドリームズヴィル・レコーズ所属のJID、エミネムのシェイディ・レコーズ所属のウェストサイド・ガンといった実力派ラッパーが参戦。意外なところではジャマイカのルーツ系レゲエシンガー、クロニックスやサイケデリック・ポップ・バンドのアンノウン・モータル・オーケストラなんてゲストも登場する。
▲Free Nationals & Chronixx - Eternal Light (Audio)
こうしたジャンルを越境したポップ・ミュージックは、パークとザ・フリー・ナショナルズだけではなく、故マック・ミラーやザ・インターネットといった地元ロサンゼルスの同志と協力しあいながら作られてきたものだ。その証拠にアルバムにはミラーやザ・インターネットのシドの参加曲も収録されている。
注目すべきはそのシドが歌ったナンバー「Shibuya」だ。この曲、歌詞そのものには渋谷が登場せず、ワーカホリックな恋人に対する揺れる想いを歌ったナンバーなのだが(ひょっとしてワーカホリック→日本人→渋谷という発想だろうか?)、セブンスコードを多用した爽やかな曲調が、まるで90年代に日本で一世を風靡した渋谷系アーティストの曲みたいなのだ。
▲Free Nationals & Syd - Shibuya (Official Audio)
そういえばザ・インターネットが所属するオッド・フューチャーの中心人物タイラー・ザ・クリエイターは、最新アルバム『IGOR』で渋谷系の元祖といえるシティポップの神、山下達郎の名バラード「FRAGILE」をカバーしていた。いまのロサンゼルスと日本の音楽的な距離は結構近いのである。
アルバムに収録された「Apatrment」でも繊細なヴォーカルを聴かせているシンガーソングライターのベニー・シングスがceroや安藤裕子、土岐麻子といったシティポップ〜渋谷系のDNAを受け継いだ日本のアーティストと頻繁に共演しているように、ザ・フリー・ナショナルズが日本のシーンにコミットする日もそう遠くないのかもしれない。彼らが奏でている音楽は、そのくらいいまの日本にフィットしている。
▲Free Nationals - Apartment (Audio) (feat. Benny Sings)
彼らがバンド単体としては世界初となるライブを行う場所に日本を選んだのは、だから決して偶然ではないはず。アルバムがどのように再現されるのか楽しみにしたい。
公演情報
The Free Nationals
ザ・フリー・ナショナルズ
ビルボードライブ東京:2020年2月25日(火)- 26日(水)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
<Member>
ホセ / Jose(Guitar, Vocals)
T.ナヴァ / T. Nava(Keyboards, Vocals)
ケルシー / Kelsey(Bass, Vocals)
カラム・コナー / Callum Connor(Drums, Vocals)
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Text:長谷川町蔵