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<Chart Insight>『サヨナラまでの30分』上杉柊平・萩原健太郎監督インタビュー ヒップホップ好きの二人が語るこれからの音楽/映画との向き合い方



『サヨナラまでの30分』インタビュー

 新田真剣佑と北村匠海のW主演映画『サヨナラまでの30分』が1月24日より公開する。一年前に亡くなった人気ミュージシャンの宮田アキ(新田)と、人付き合いが苦手で就活も失敗続きの大学生・窪田颯太(北村)。出会うはずのない2人を繋いだのはアキが遺した1本のカセットテープだった。そのテープを再生している30分間だけ、アキは颯太の体を借りて、恋人やバンド仲間に会いに行くが、次第に2人が入れ替われる時間は短くなっていき……。

 本作の劇中歌は、音楽プロデューサーを務めた内澤崇仁(androp)と、odol、mol-74、雨のパレード、Ghost like girlfriend、Michael Kanekoが書き下ろした。劇中バンド「ECHOLL」のメンバーを演じるキャスト陣の、バンドマンさながらの立ち振る舞いや演奏技術の高さに音楽ファンのみならず映画ファンも納得することだろう。今回、ECHOLLのドラマー・重田幸輝を演じ、総勢16名からなるヒップホップクルー・KANDYTOWNのHolly Qとして音楽活動も行う上杉柊平と、本作のメガホンを取り、多くのTV-CMのほか、乃木坂46「今、話したい誰かがいる」やJUJU「東京」のミュージックビデオを手掛けた萩原健太郎監督に、普段聞いている音楽や近年の視聴傾向に加え、今作に込めたこだわりなど、ミュージシャン/俳優/映像クリエイターの視点から語ってもらった。

――Billboard JAPANでは毎週、8つの指標から作成する複合チャートを発表していまして、本作の撮影監督でもある今村圭佑さんがミュージックビデオを撮られた米津玄師の「Lemon」が、Billboard JAPAN 2019年間総合ソングチャート【HOT 100】で2年連続1位に輝いたんです。お二人は普段、音楽チャートを見ますか?

上杉柊平(以下:上杉):あまりチャートは見てないですね。iTunesとかの人気上位曲って、Billboard JAPANのチャートに載っているアーティストだと思うんですけど、俺はその辺りを聞かなくて、どっちかというとSpotifyのプレイリストを探ることが多いです。今アツい曲とかアーティストとか、新しい曲が知れるし、俺が好きなジャンルのプレイリストが随時更新されるので、よくプレイリストを聴いてます。

萩原健太郎(以下:萩原):僕もあまりチャートを見ないですね。

――ちなみに、監督はどんな音楽がお好きなんですか?

萩原:僕はヒップホップが大好きです。ホントにヒップホップしか聞いてこなかったんで、今回の映画を機にロックを聞き始めまして、現在、開拓中というところです(笑)。

――お二人とも、音楽の話が合いそうですね。

上杉:この前、監督がKANDYTOWNのZEPPツアーに来てくれたんですよ。監督は結構コアなアーティストが好きですよね?

萩原:そう、90年代のアーティストが好き。

上杉:NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDとかお好きですよね? 「日本のヒップホップと言えばこれだ」みたいな、俺が聞いて育ったアーティストばかりで、監督とはめちゃくちゃ話が合いました。

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――おふたりは海外生活のご経験もあるので、洋楽アーティストもお好きだと思うのですが、どうでしょうか?

上杉:最近、ビリー・アイリッシュが超カッコいいって思ってます。

萩原:カッコいいよね!

上杉:日本のアーティストだと、サカナクションも好きですね。ちゃんとバンドの世界を持っていて、カッコいい。ジャンルも含めて新しい音楽やトラックメーカーが目まぐるしいスピードで出てきていると思うので、アメリカでは「Lemon」のように2年連続1位を獲るなんてかなり難しいと思います。今の時代、サブスクもあるから、邦楽と洋楽の両方を聞いてる人はいっぱいいるんじゃないかな。

――そうですよね。ちなみに、最近買ったCDはありますか?

上杉:竹内まりやさんが出されたベストアルバム(『Turntable』)を買いました!

萩原:僕は、最近、10年ぶりぐらいにCDを買いまして……KANDYTOWNの新しいアルバム(『ADVISORY』)を買いました(笑)。

上杉:あざーっす! ぶっちゃけ、もうCD買わないですよね?

萩原:KANDYTOWNのアルバムを買ったんだけど、曲はSpotifyで聞いてるんだよね(笑)。

上杉:俺はこのアルバムがストリーミングされてないので買ったんですけど、盤で持っておきたいものってありますよね。ちなみに、買われたのは初回限定盤ですか?

萩原:そう。白い大きな本が付いてるCD。ライブに行く前に聞き込みたいと思って買ったんだ。

上杉:いやぁ、ありがとうございます!



――サブスクはライブの帰り道とか、テレビで流れたときに、すぐ調べて聞けるので便利ですよね。

上杉:逆に、すぐ次の曲に飛ばされちゃうから、最近はイントロに尺が使えないんですよ。いかにイントロで掴めるか、もしくはキャッチーなフレーズから入るとか、プレイリストに入れてもらえるようにするとかが重要な部分になってきていて、作るほうは、結構ハードだって聞きました。色々とめんどくさいっぽいです。

萩原:今の若い子はTikTokでパッと次に行くことに慣れちゃっているからね。映画の予告編も一緒で、配給元のロゴをすぐに入れちゃうと次に飛ばされちゃうから、最近はトップカットに、わりといい画を持ってきて、3〜4カット目ぐらいにロゴを入れる傾向がある。

上杉:好きなものしか聞かない、見ない時代ですからね。昔は簡単に飛ばせない時代だったから、好きじゃないけど、無理に見たり聞いたりしていましたよね。

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――映画館でも上映中にスマホを観る人が増えてきたってニュースが話題になっていましたよね。

上杉:体の細胞がそうなっちゃうんでしょうね。好きじゃなきゃ、見なくていいっていう時代になっていくと思うんです。でも、2時間ずっと楽しい映画なんて、『ワイルド・スピード』くらいですよ!

一同:ハハハ(笑)!

――10年後、20年後の状況に合わせて、作る側も変わっていかないといけないですね。

上杉:いやぁ、大変だと思います。(萩原監督に)でも、変えたくないですよね?

萩原:変えたくない。だから好きにさせる入り口はそうして、そこから先は今まで通りでいいんじゃないかな。

――動画再生もチャートを作る上で、重要な指標なのですが、最近お二人が気になったミュージックビデオはありますか?

萩原:ビリー・アイリッシュのビデオ(「all the good girls go to hell」)はすごく良かったですね。

上杉:ちょっと前の作品ですけど、サカナクションの「忘れられないの」のビデオ。あれはレトロでめちゃくちゃカッコよかったですね。今村さんが撮ったサカナクションの「ナイロンの糸」も好きです。最近のビデオはどれもカッコイイんですよね。




――上杉さんは近年、俳優業に加え、KANDYTOWNでの活動も注目を集めていますが、ラッパーになろうと思ったきっかけは何だったんですか?

上杉:ラッパーになりたいって思ったというよりも、俺の周りにラップをやってる奴らがいっぱいいて、その影響で俺も始めたって感じです。好きな音楽が一緒の高校の仲間とそのままグループ組んで、活動してるって感じですね。

――先ほど、尺のことやトラックのことを話されていましたが、上杉さんもその辺りは気にしていらっしゃいますか?

上杉:KANDYTOWNにはビートメーカーがいるので、俺は彼らが構成したものに歌詞を付けて歌うだけですね。「イントロは喋った方がよくない?」くらいのことは言いますけど、基本はトラックメーカーがプロデュースしてます。

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――『サヨナラまでの30分』の劇中歌は、アーティストと井手陽子プロデューサーと萩原監督が何度も話しあって作られたそうですが、監督は全体像として、この映画にどういった音楽が欲しかったのでしょうか?

萩原:バリエーションは欲しいと思いましたね。バリエーションがありつつ、一つのバンドが作ったような統一感がある音楽が欲しいと思いました。

上杉:それ、超難しそう。

萩原:アキと颯太の思想に寄り添ってもらうために、バンドの方々には、わりとキャラクターや裏設定を緻密に説明しましたね。

――黒色がハッキリしていたり、登場人物が左寄りや右寄りに映っていたりなど、バランスが取られているようにも感じましたが、画に関しては、どういうところをこだわりましたか?

萩原:アキは最初、みんなに必要とされている存在なので、画面の中心にいるんです。でも、だんだん颯太がバンドメンバーたちと絆を深めていくにつれて、アキは画の端にいるようにしています。物語の主役ではあるけど、アキの主役感をなくしていくことで、だんだんとアキを孤立させていくことをカメラマンと相談しましたね。あと、アキは颯太以外には見えない存在なので、引き画に入っていないんです。客観的な画でアキの存在を無くすことで、アキはいないけどいるようなフレーミングになるように意識しました。

上杉:空白があって寂しい感じがしますよね。

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――「風と星」のシーンで、アキの恋人のカナ(久保田紗友)の目元がアップになる瞬間がとても素敵でした。あのシーンはどう作られたのでしょうか?

萩原:最初はアキが歌っているだけの、インサート(カットの間に入る挿入映像)も何もないシーンだったんですが、より情景的なものにしたいと編集の平井(健一)さんと話をしました。アキはカナに2度と触れられないということを、印象的な絵で繋ぎたいと思ったんです。カナの目元が映ったのは、<目を閉じればいつだって君を抱きしめているのに>という歌詞に合わせて、編集さんが入れたんだと思います。

――編集の部分は、ある程度委ねているのでしょうか?

萩原:そうですね。「こうしたい」っていう自分の要望を共有しつつ、いろんな方のアイデアをいっぱい取り入れています。この作品はみんなでアイデアを出しながら作っていきましたね。

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――映画はプロデューサーや脚本家、俳優の方々などが力を合わせて作られてますが、萩原監督は、“監督業”はどのような役目を担っていると思われますか?

萩原:うーん、僕は基本、喋るだけなんですよ(笑)。

上杉:でも、俺は監督には敵わないって思ってます。俺が想像しない絵を監督が見せてくれて、それに敵わないって思うから監督に付いていくんです。監督は、そういう一個一個のピースを繋いでくれる方だって認識してますね。

萩原:「こういう作品にしたい」っていう道筋を作って、僕はそこにたどり着くようにみんなに言葉で導いていくだけです。

上杉:たとえ脱線しちゃったとしても、それが面白いものだったら、監督が新しい線路を引いてくれるし、違う方向に行ってしまったら、軌道修正してくれます。いろんなアプローチをする監督がいますけど、萩原監督は特にみんなと話しながら、一つの作品をゴールに持っていって下さる方だと思いました。

萩原:この映画は原作がないので、キャラクターに「絶対これ!」っていう正解がないんです。台本と照らし合わせながら、みんなで話し合って、キャラクターを深掘りしていく作業は楽しかったですね。

上杉:俺は萩原監督と、すごくやりやすかったし、今までこんなに話した監督はいなかったですね。でも時々、監督から難しい質問が飛んでくるんですよ! 「重田は今、何を考えてるの?」って聞かれて、思ってることはあるんですけど、それがなかなか言葉にならなかったです。

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萩原:みんなと話をすることで僕もいろんな発見ができるし、みんなが自分で発見して活かしていかないと、プラスにならない気がするんです。こちら側が指示したことをそのままやっても、想像通りでなにも面白くないので。今回のスタッフは、わりとそういう考えの人たちでした。

上杉:めちゃくちゃONE TEAMでした!

萩原:ラグビーよりもめちゃくちゃ先にONE TEAMだったよね(笑)。

一同:(笑)

上杉:撮影が終わっても、いつも誰かと一緒にいて、飲んで、話して、次の日現場で会って撮影の毎日でした。その空気感が自然と出てると思います。

萩原:どの部署のスタッフとか関係なく、みんなで話し合ってゴールに向かっていきましたね。美術の方なのに、フェスのシーンでエキストラの衣装が気に入らないからって、自分の帽子を被せたりしてさ(笑)。

上杉:そう! 全く関係ないもの同士が喧嘩したり、ニヤニヤしながら現場を覗きに来たりして、年齢がバラバラの学校みたいで、今までにない現場でした(笑)。

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――(笑)。ECHOLLのメンバーとも、まるで何年も活動していたくらいの一体感が感じられました。

萩原:やっぱり下北沢で練習したのが良かったんじゃない?

上杉:撮影で長野に行く2日前に、2日連続で連日10時間、キャスト全員が下北沢のスタジオに集まって練習したんです。それまでの5か月間は各自で練習していたんですけど、練習のときは想像するしかなかった他のメンバーの音を、スタジオで生で聞けたおかげで、共演者の性格も、役としての性格も分かったし、重田がECHOLLでどんな立ち位置にいるのかも分かったんです。とにかく、あの2日間が重要でしたね。

萩原:今回、ドラムが本当に難しんだよね。

上杉:マジ難しかった! 一個の基礎を覚えたら応用できるとかじゃなくて、「また一から覚えなきゃいけないの!? どこかのプレイを使い回せないですか?」からの「それは通用しません!」の繰り返しでした(笑)。

一同:ハハハ(笑)!

上杉:大変だったけど、スタッフとキャストがみんな、曲が完成してから同じ曲を何回も聞くという曲の共有ができていたので、そこが良かったんだと思います。

萩原:全員、どの曲も気に入ってくれて良かったです。

上杉:どれもいい曲ばかりなんですよ。(楽曲提供アーティストに)すごいメンツが集まってますよね!

萩原:ドラムのプレイもカッコよかったよ!

上杉:いやぁ、カッコよく映ってて良かったです。いいところを使ってもらえたって感じですね。間違えたとき、カメラが回ってるのに「ヤバい、ミスった」って変な顔しちゃいましたもん。

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――本当にカッコよかったですし、アーティストの皆さんも上杉さんのドラムを絶賛してました。andropの内澤さんはスティックの振り方がよかったというのと、上杉さんのドラムのおかげで、ECHOLLのサウンドが締まったっておっしゃっていました。

上杉:ホントですか!? (内澤に)電話しちゃおう~。

――(笑)。ライブハウスの撮影にお邪魔したodolのミゾベリョウさんは、サウンドチェックの時の様子がバンドマンのようだったっておっしゃっていました。

上杉:俺がイヤモニをしてなかったので、返しの音が全然聞こえなかったんです。ライブハウスのシーンもですけど、フェスのシーンは特にクリックが聞こえなくて、全部リズムがズレちゃって、「クリックあげて!!」は100回以上言いました(笑)。でも、すごく楽しかったです。

萩原:フェスの撮影はめちゃくちゃ大変だったでしょ!?

上杉:俺、足つりました(笑)。エキストラの方々も本当に大変だったと思います。

萩原:フェスのシーンは3日間撮影したんですけど、1日目にずっとフェスの撮影をして、2日目は最初に坂を走るシーンを撮っちゃったので、後半はみんなキツそうでしたね。

上杉:あれは辛かったです(笑)。

萩原:みんなには負荷かけちゃって申し訳なかった(笑)。


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