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熊木杏里【熊木杏里 表参道FAB】
2003.10.11(土)at 表参道FAB|セットリスト
今夜も彼女のライヴはフルバンド。現時点で熊木杏里の魅力を最大限に引き出せるバンドメンバーたちが、ステージ上で各々の楽器のチューニングをしている。やがてパーカッションの音色が激しく会場に鳴り響き、その音に導かれるように今夜の主役がステージに登場した。彼女が今夜最初に歌い始めた曲は「窓絵」。自信の現れだろうか、度重なるライヴで確実に自身のオリジナリティを身につけた彼女の表情は少し逞しくなった気がする。ライヴ仕様の清々しいアレンジが施された演奏が作り出す音の世界の中で、彼女の歌声は優しさを全面に押し出しながらも力強く僕らの心に響き渡る。
「ありがとうございました。どうもこんばんわ!熊木杏里です。一番最初だからアウトでもホームランでも大丈夫ということで(笑)、気楽にズルいですけどやらせていただければと思います。」、そんな彼女らしい挨拶の後、熊木杏里の詞の世界を語る上で欠かすことのできない“時”をテーマにした一曲「今は昔」が披露された。この曲も実に魅力的なアレンジが施されていた。その中で彼女も、オリジナルを凌駕する、感情をしっかり感じさせる魅力的な歌声を聴かせる。本当に素晴らしい歌声である。素敵な歌声を堪能させてくれた後は、また独特のワールドを持つ彼女のMCの時間。ここでのテーマは、熊木杏里に“華”があるか?ないか?各バンドメンバーが一生懸命に“華”はあると語っていた(笑)。
ほのぼのとするMCで会場の空気を暖めたところで、彼女のプロデューサーでもある吉俣良氏が音楽を手掛けたドラマの曲に、熊木杏里が詞を乗せた一曲「短話」が披露された。ピアノの音色だけをバックに響き渡る彼女の歌声・・・完全に心を掴まれてしまった会場中の人々。ものすごくノスタルジックな気分に浸らせてくれる曲である。そんな優しく静かな時間の流れの中で、曲は「ひとつ/ふたつ」へ。朝の連続小説ドラマ「こころ」の挿入歌として流れていた曲だ。すでにドラマでチェックしていた人はもちろん、今夜初めてこの曲を聴いた人も、名曲の誕生を体感。短いけど、そこの彼女の魅力のすべてが集約されたこのナンバーにオーディエンス一同感動モードであった。
ピアノの吉俣氏以外のバンドメンバーを再びステージに呼び戻し、彼女が歌い始めたのは、熊木杏里の楽曲群の中で最も深く重いテーマ“死生観”について描かれた「二色の奏で」。ライヴでしか表現できないダイナミックなアレンジを施した演奏と共に、静かな表情と歌声の奥底で爆発する彼女の葛藤。熊木杏里ファンでなくても、彼女のこの曲における表現力には完全ノックアウト。強く強く彼女に魅力を感じていたはずだ。
FM-YOKOHAMAで彼女がパーソナリティを務める「ウィルソンと一緒」で、新たに書き下ろした小説を毎週公開している話をした後、今夜のライヴの最後を締めくくるナンバー「夢見の森」を披露。吉俣氏が奏でる静かなピアノの音色。そこに静かに乗っかってゆく各メンバーの指先から奏でられる音色たち。そして、彼女の聴く者の心を包み込む歌声が、会場中を熊木杏里の世界に染め上げていく。最高の演奏と歌声に、今夜は今までの彼女のどのライヴより強く感動を覚えた。
p.s.今夜は、続いて登場したSHUUBIのライヴにも熊木杏里が登場!二人でSHUUBIの代表曲「うららかな」を披露してくれた。これがまたなかなか新鮮で、いつもと違う熊木杏里ワールドを感じさせてもらいました。
セットリスト
2003.10.11(土)at 表参道FAB
- 01.窓絵
- 02.今は昔
- 03.短話
- 04.ひとつ/ふたつ
- 05.二色の奏で
- 06.夢見の森
Writer:平賀哲雄
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