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GLIM SPANKY(グリムスパンキー)『ストーリーの先に』インタビュー



GLIM SPANKY(グリムスパンキー)『ストーリーの先に』インタビュー

 超メジャーであり、超マニアックである。
 その真逆の両方をちゃんと持っているバンドで在りたい。

 音楽シーンに対するクエスチョン、それを自らのアプローチへと昇華しながら道なき道を進み、しっかりとその音楽への支持者も増やし続けているGLIM SPANKY。ドラマ主題歌でもあるニューシングル『ストーリーの先に』についてはもちろん、今の時代だからこそ鳴らしたい音楽、自分たちが追い求めるバンド像など、もしかしたら今のシーンにおいてはカウンター的存在なのかもしれない、ゆえにシーンの革命児にも成り得るかもしれない、そんな期待に胸躍る話をガッツリ聞かせてくれた。

 全音楽ファン、必読。

ただ音楽やってりゃいい訳でもないと思うんで

--昨年、日本武道館ワンマンを大成功に収め、フジロックのグリーンステージにも立ち、今年でメジャーデビュー5周年を迎えた訳ですが、今現在はどんなモードで音楽と対峙できているなと思いますか?

GLIM SPANKY - 焦燥
GLIM SPANKY - 焦燥

亀本寛貴:おぉー、それは教えてほしい。良い機会! お願いしまーす! どんな感じなの? 松尾ちゃん。

松尾レミ:メジャーデビューしてからは結構目まぐるしくて、制作スピードを速めなきゃいけないフィールドに突入したんですけど、それまでの私は曲を書くペースがめちゃくちゃ遅かったんです。1年に2曲とか3曲しか書かないぐらいだったんですよ。でもメジャーデビュー後はその何倍も書かなきゃいけなくなって、そのスピードに自分を慣らして、でもクオリティは上げていかなきゃいけないし、そういう状況下でずっと戦っていたんですけど、最近は自分なりに試行錯誤しながらそのペースでも気持ち良く曲が書けるようになってきたので、今は逆にデビュー前の気持ちに戻ろうと思って。元々レコードがすごく好きなんですけど、マニアックな、自分のド趣味の、サイケデリックとかアシッドフォークとかそっち系をよく買って聴くようにしています。

--原点回帰をしているんですね。

松尾レミ:初心を忘れたことはないんですけど、より制作的に、感覚的に、初心に戻れるように心がけています。なんか逆に新しい発見が生まれそうな気がして。

--そもそも何が好きで音楽を聴いたり作ったりしていたのか。そこへ立ち返りながら実感していく作業をしている?

松尾レミ:そうですね。なので、レコードはもちろん、文学だったり、絵だったり、そういうモノに触れていくという、制作をしていく上であたりまえのことをちゃんと意識的にやっています。それまでは、時間がない中でソレをやる感じだったんですけど、今はもうちょっと余裕を持って、レコードをディグったりしています。

--今、その成果は如実に出てきているんですか?

松尾レミ:今【Velvet Theater 2019】というコンセプトライブを東名阪でやっていて、メジャーデビュー前の曲をたくさんやったりとか、自分の好きな幻想文学だったり、アングラな世界観、ディープな世界観をフィーチャーしているんですけど、そのイベントがあったからより「原点に戻りたい」という思考になったのかもしれないですね。よりいろんな知識を蓄えて、幻想文学をもとに昔書いた曲や、シュルレアリスムをもとに書いた曲をよりふくよかな状態にして、みんなに発信できていると思っているので、リアルタイムだとそういうところで表現できています。

--亀本さんはいかがでしょう?

GLIM SPANKY -2018.05.12「GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館」 LIVEティーザー映像
GLIM SPANKY -2018.05.12「GLIM SPANKY LIVE AT 日本武道館」 LIVEティーザー映像

亀本寛貴:常々楽しくやっているんですけど、大きい舞台に立たせて頂く機会も増えていて。ワンマンライブもそうですし、フェスティバルやテレビに出て行ったりとか。そういうフィールドにいることが多くなっていて……なんて説明したらいいのかな。そのフィールドにいるアーティストの方々は、いわゆる大衆的なシーンでちゃんと評価を得ている人たちじゃないですか。みんなすごい才能を持っているからたくさんの人に人気なわけで、そういう方々と同じ場所で音楽をやれるのは、それはそれですごい楽しいんですけど、でも「それだけだとつまんねぇな」と思ったりもするじゃないですか。だから休みの日とか遊びの時間は昔出ていた小さなライブハウスへもよく行きますし、そういうところで音楽を聴いていると、これが意外とまた楽しいんですよね! で、そっちも楽しいなと思ってずっとそこに居ると、今度は「やっぱり売れてる人たちはすげぇな」ってなるんですよ。その両方の幅があると、どっちも楽しめるのよね!

松尾レミ:うんうん。

亀本寛貴:ずっと売れている人たちの中にいると「つまんねぇな」ってなるし、ずっと売れてない奴らの中にいると「やっぱり売れてない奴らはだめだな」ってなるけど(笑)、両方にいると「どっちも楽しいな」ってなるんだよね。そういう感じで、わりとどんな風にも音楽を楽しめてはいますし、自分のバンドでは「もうちょっと大きなフィールドへ行きたいな」という気持ちがすごくあるので、そこへどうやって行くかは常々考えなきゃいけなくて。ただ音楽やってりゃいい訳でもないと思うんで、やっぱりいろいろ考えてやっていかなきゃいけない。でもそれが楽しさでもあるし。「何やっても大丈夫だよ」と言われても逆に面白くないじゃないですか。「次はこれ出して売れたらいいな。売れないとヤバいな」とか考えて、その上で音楽を作っていったほうが絶対に楽しいんですよね。

松尾レミ:あと、逆に言えば、曲が売れたところで、その音楽性にバックボーンがしっかりないとダメだし、人生のバックボーンだけじゃない部分、知識や経験のバックボーンも必要なので、そういうところを音楽好きとしてちゃんと構築していく。それは好きだから出来ることなんですけど……

GLIM SPANKY(グリムスパンキー)『ストーリーの先に』インタビュー

亀本寛貴:なんで僕の話をしていたのに、松尾さんの話になっちゃったんだよ(笑)?

松尾レミ:え、今、もう終わったんじゃないの?

亀本寛貴:まだ終わってないよー。

松尾レミ:ごめん、ごめん!

亀本寛貴:終わってないけど、いいよ! 話して、話して! 最後まで続けていいよ!

松尾レミ:(笑)

亀本寛貴:急に松尾さんの話にすり替わっちゃったもん(笑)。

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聴かれる音楽が一辺倒になり過ぎちゃっているのが怖い

--すり替えた訳じゃなくて、補足ですよね(笑)。

David Bowie ? Space Oddity (Official Video)
David Bowie ? Space Oddity (Official Video)

松尾レミ:でも今の話を聞いていて「そういうのって大事だよな」って。例えば、めっちゃ売れてる同世代のバンドたちと話したときに「デヴィッド・ボウイ? 何それ?」とか……

亀本寛貴:まぁ、あるよね!

松尾レミ:それはそれで売れているから立派だし、日本のシーンの影響を受けてやっているバンドもいてそれはそれで良いと思うんですけど、でも小さいライブハウスに行くと「ジミヘンの研究家かよ?」って思うぐらいの、超マニアックな若者とかがウジャウジャいる訳じゃん。それがすごく不思議で! ライブハウスで活動している友達はめちゃくちゃ音楽詳しいのに、メジャーシーンに行くとロックの話で語り合える友達が本当にいないっていう。私はそれがちょっと寂しくって。同じフィールドで売れているバンドこそ「どっちもあってほしい」って思うから、私はそういう人になりたいなと思って。自分のバンドをもっと上のフィールドに持っていった上で、売れているから凄いんじゃなくて、ちゃんと自分のバックボーンが確立されていて、なおかつ売れているから凄い。そういう表現者になりたいって、いろんなシーンを見てきて、いろんな舞台に立ってきたからこそ思いますね。ごめん、私の話は終わった。

亀本寛貴:松尾さんの話になっちまったじゃねーかよ。

--(笑)

亀本寛貴:まぁでも選んでいるのはリスナーだからね。

松尾レミ:そうそう。だから関係ないんだけどね。でもミュージシャン的にそう思っている。音楽ファンとしても。

--いろんな音楽を聴いていれば聴いているほど、それをある意味「継承したい」という気持ちも生まれるじゃないですか。例えば、LOVE PSYCHEDELICOのおふたりは、毎回インタビューさせて頂くたびにボブ・ディランやビートルズやレッド・ツェッペリンの話が出てきて、それらの音楽から受け取ったモノがあるから「僕らの音楽がきっかけでボブ・ディランを聴いてもらえたら嬉しい。音楽ってバトンだから、塞き止めたくない」みたいな話をされていて、だからそういう感覚で音楽活動をしていきたい気持ちはよく分かります。

松尾レミ:うれしいです。その時代やカルチャーに憧れを持ってマネしてきたみたいな。ロックってマネの文化ですから。その憧れをちゃんと音楽に落とし込んでいきたいんですよね。

--ちなみに、オーバーグラウンドとアンダーグラウンド、それぞれの良し悪しを体感してきた亀本さんから見て、今現在の音楽シーンやロックシーンはどんな風に映っているんでしょう?

GLIM SPANKY - 「怒りをくれよ
GLIM SPANKY - 「怒りをくれよ

亀本寛貴:サブスクがぼちぼち普及し出して来て、より一極化みたいなモノが進んでいる感じはしますよね。勝者は完全に勝者だし、その勝者は超ひと握り。それ以外は本当にそれ以外になっちゃっている。そういうシステムになっているから、例えば、100人のリスナーがいたとして、20人ずつが違うバンドやアーティストを聴いているんじゃなくて、まず100人全員がいちばんの上のバンドやアーティストを聴いていて、下に行くほどその比率が下がっていくだけっていう。だから結果的に全員が聴いているいちばん上の人が最強みたいな。そういう絵には見える。

松尾レミ:だからこそ、特に若い人たちが「なんでこれを聴くか」とか「何が好きか」とかちゃんと選択して情報を受け取っていくことが、より大事になってくると思っていて。今は聴かれる音楽が一辺倒になり過ぎちゃっているのが怖いなって。

--ただ、GLIM SPANKYはそういったシーンの流れに逆らうように台頭してきましたよね。

松尾レミ:ハハハハ!

--今の音楽シーンの中でどう在りたいと思いますか?

亀本寛貴:まずすごく大事だなと思うのは、今話したようなところではなく、積極的に出て行けるところには顔を出して行って、自分たちの音楽を知ってもらうこと。そこで気になってしっかりファンになってくれる方の数をどれだけ増やせるかの勝負だとは思っているので、音楽に対してあんまりアクションしない人たちの分母を増やしていくというよりは、しっかりと好きになってくれる人たちの母数を増やしていく。そういう方式じゃないとダメなんだろうなと自分たちは思っているので、だから音楽もそういうスタンスで作ってはいるんですけど、でもお茶の間レベルでみんなが知っているような楽曲を持つことも大事だとは思っているので、そういう1曲が欲しいなとは漠然と思いつつ、常に音楽を聴いたり作ったりしている感じはしますね。

松尾レミ:デビュー当時からずっと思っていることなんですけど、超メジャーであり、超マニアックである。その真逆の両方をちゃんと持っているバンドで在りたいなと思っていて。本当に深く音楽を聴いてくれるファンの人が多いので、そういう人たちに向けて【Velvet Theater 2019】もやっているんですけど、60年代後半の実際のリキッドショーの方法をそのまま実施していたり、幻想文学の詩の朗読から入ってひとつの世界観に引き込んだり、理解してもらえるか分からないけど、ちゃんとアートな部分を発信し続けることによって、みんな耐性が少しずつ付いてくると思うんです。だからそういうアプローチをずっと続けていきたいなと思っていて。

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自分らの言語で「めちゃくちゃ格好良い」と思わせる音楽

--なるほど。

松尾レミ:例えば、フェスでも、私たちがデビューした当時は、BPMが遅い、2ケタ台のロックをやってもみんなノリ方が分からなかった。でも最近はゆっくりなビートのバンドもだんだん増えてきて、みんなノリ方が分かってきている。そういうシーンの流れを見てきてたので、それのもっと年数が長いバージョンみたいな感じで(笑)、ロックファンだけじゃなくて、その子供だったり、恋人だったり、そんなにロックに詳しくない人たちに向けても、楽しいカルチャーを使って遊べるような空間をロックで作っていきたい。みんなの知っている楽曲もあれば、とてもマニアックな楽曲もあって、それが両立しているロックって、ビートルズもそうだったし、私たちも大事に体現していきたいなと思っていて。

--それは今回のシングル『ストーリーの先に』にも通ずる話だと思うんですけど、実際、どんなイメージやヴィジョンを浮かべながら制作したんでしょう?

GLIM SPANKY - 「ストーリーの先に」
GLIM SPANKY - 「ストーリーの先に」

松尾レミ:表題曲もそうですし、今回のシングル収録曲の3曲はぜんぶ、何かを始める前で終わらせている歌詞世界なんです。結果を書かないし、踏み出す一歩手前でリスナーに投げる。例えば、本当に疲れているときって、背中を押す為にめっちゃ「がんばれ!」と言われても届かなかったりするし、それをウザいと思ったりもする。だから動き出す為の、ほんのちょっとのきっかけ。それによって「一緒に進んでいる」という温もりを感じられる楽曲にしたいなと思って、だからBPMも遅いんです。私たちは今BPMが遅い曲を作りたくって、それは何でかと言うと、デビュー前の私たちはそういう曲ばかりやっていたからで、実は得意な部分でもあって。BPMが遅いけど、ちゃんとロック。そこに改めて挑戦したいなと思って、そういう楽曲で伝えられる歌詞を考えたときに「一緒にいる。でも決定的なことは言わない」っていう世界観がピッタリなんじゃないかなと。

--問いかけから答えまですべて表現する楽曲が主流の中で、そうした音楽や表現の在り方の面白さ、重要性を提示したかった?

松尾レミ:はい、そうです。「自分で考えてください」っていう。さっきの音楽の聴かれ方の話とも繋がると思うんですけど、すべてが分かりやすく、やさしくなる必要はないと思うんですよね。生きていくことって簡単なことじゃないし、ただポンと何かを言われて解決するモノでもないし、やっぱり自分で導き出すモノだと思うので、あまり限定的な言葉を書きたくなかったんです。いろんな見方で歌詞を聴くことができるようにしたかった。もしかしたら日によって違うかもしれないし、その時々によって違う。それぐらいのニュアンスの歌詞をこういう時代だからこそ投げかけたらどうなるんだろうと思って。

--それがテレビドラマ『Re:フォロワー』の主題歌として流れる訳ですよね。

ドラマL『Re:フォロワー』第8話 11月24日(日) よる11時35分放送
ドラマL『Re:フォロワー』第8話 11月24日(日) よる11時35分放送

亀本寛貴:ドラマの主題歌として書き下ろしたので、しっかりと視聴者の耳に残る楽曲ではありたい。そういう前提で作っているので、リアクションは楽しみですね。

松尾レミ:深夜に流れるっていうのがキーだなと思っていて。あと、ドラマ自体の内容がそんなに明るい訳でもないので、そういうテンションでちゃんと楽曲が耳に入ってくるような歌い方だったり、ちょっとファンタジーな歌詞世界だったり、でも聴いてくれる人それぞれの生活に当てはまる部分もあったり、そういうところは意識して作りましたね。

--『ストーリーの先に』というタイトルに掛ける訳ではないのですが、この先の、2020年以降のGLIM SPANKYはどうなっていくんでしょう?

松尾レミ:やっぱり楽曲制作はどんどんブラッシュアップして、世界のロックバンドと肩を並べられるような、格好良いサウンドを突き詰めていきたい。あと、去年、海外でレコーディングをしたり、ツアーでアジア圏へ行く機会も増えてきたので、そういうところにもちゃんと目を向けて、国とか関係なくちゃんと格好良いと思ってもらえる楽曲を作っていきたいです。

GLIM SPANKY(グリムスパンキー)『ストーリーの先に』インタビュー

亀本寛貴:やっぱりまずちゃんと楽曲が格好良くないといけない。ただ、それもすごく難しいことではあると思うんですよ。アメリカとかイギリスのロックの音ってめちゃくちゃ格好良いですし、ノリとかも全然違うし、そこの壁はすごく感じるんですけど、でもちゃんと自分たちが格好良いと思えるモノを作れれば、別に音楽は50代、60代、70代になっても出来る訳で、その中で良い機会に恵まれればいいなと思うし、需要のあるところにはちゃんとライブしに行く。それがいちばんナチュラルな、グローバルな活動なんじゃないかなって。アメリカに行きたいから英語を頑張って英語で歌うのも悪くはないと思うし、自由なんですけど、僕らは日本人で、日本語ネイティヴなので、それはあんまりニュートラルなニュアンスがしないというか、健全ではないなと思っているので、まずは自分らの言語で「めちゃくちゃ格好良い」と思わせる音楽を作ることが大事なのかなって。それで求めてくれる人がいれば「ライブ観てもらいたい」と思ってどこへでも行くスタイル。

松尾レミ:あとは、趣味がサイケなので(笑)、東洋人であることは結構な強みだなと思っていて。だから東洋人だからこその格好良いサイケロックだったり、そういう音使いを極めていくことが自分の趣味でもあるし、海外の人には出来ないことでもあるので、そこは誇りを持ちたいなとすごく思います。

Interviewer:平賀哲雄

GLIM SPANKY - 「ストーリーの先に」
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