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インテリアプロダクトブランドHAY チーフ・マネージャー木村洋一氏「音楽は香りにも似ている」



 デンマークのインテリアプロダクトブランド、〈HAY〉によるショップ〈HAY TOKYO〉が、2018年10月、表参道のGYREにオープンした。

 〈HAY〉はデンマークのインテリアデザイナー、ロルフ・ヘイとメッテ・ヘイが1950〜60年代にデンマークで生まれた個性的なデザインに敬意を払いながら、新しくモダンな感性を加えたインテリアプロダクトが特徴のブランド。日本初出店となるこのショップは、スキーマ建築計画の長坂常が設計した「可動式」のユニークな内装に先ず驚かされる。むき出しのコンクリートが存在感を放つインダストリアルな店内には、リビングやダイニング、オフィスなど様々な空間を彩る〈HAY〉のプロダクトが所狭しと並んでいる。

 そんな中ひときわ目立つのが、SonosとHAYのコラボレーションによる「Sonos One HAY Limited Edition」だ。丸みを帯びたキュートなデザインと、5色のカラー・バリエーションは「スピーカーといえばモノクロ」という固定観念を壊し、音楽を「目で楽しむ」という新たなライフスタイルをも提案している。特にHAY TOKYOは、Limited Editionの他、Sonosの現行モデルも販売。店舗内のスピーカーにもSonosが起用されており、現在、店内のBGMはオリジナルのプレイリストが流されているという。店舗にとって「音楽」はどのくらい重要なのか。選曲を担当しているというHAY事業部チーフ・マネージャー木村洋一氏に訊いた。((注)現在「Sonos One HAY Limited Edition」はSonos公式サイトでのみ販売中。)

スピーカーそのものを楽しめるデザインを一緒に作りたい

――まずは、木村さんとSonosの出会いから教えていただけますか?

木村洋一:2018年10月19日に弊店『HAY TOKYO』はオープンしたのですが、それに先立ち4月にイタリア・ミラノで開催された「ミラノデザインウィーク」で、SonosとHAYのコラボレーション・スピーカー「Sonos One HAY Limited Edition」が発表されました。僕は音楽が大好きなのですが、いわゆる「オーディオ・マニア」ではないため、恥ずかしながらSonosのことも知らなかったんです。でも、担当の方とミーティングを重ねていくうちに「これは面白い」と。

もちろん『HAY TOKYO』でもSonosは販売したいですし、お店のBGM用スピーカーとしてもSonosを導入してみてはどうだろうか?という提案をしたのがそもそもの始まりですね。

――Sonosのスピーカーを「これは面白い」と思ったのは、どんな点ですか?

木村:そもそもスピーカーは「音を楽しむためのもの」ですので、その存在自体は消すという発想からカラーリングも黒か白が多かったと思うんです。でも、HAYのデザイナーのうちの一人メッテ・ヘイは、Sonosとの打ち合わせの際に「スピーカーそのものを楽しめるデザインを一緒に作りたい」と。

――5色のカラー・バリエーションを展開していたのはそういう経緯があったのですね。

木村:はい。音質だけにこだわるのではなく、ライフスタイルや置く場所に合った色を、お客様が自由に選べるスピーカーにしよう、と。ライフスタイルの中にプロダクトを融合させるという発想は、HAYの考え方とも非常に親和性が高いと思ったんですよね。

――最近は音楽も、スマートフォンにダウンロードして聴くのが主流となっています。そんな中、スピーカーのデザインやカラーリングにこだわり、音楽を「目」でも楽しむという発想はとても斬新です。

木村:僕も家でSonos Oneを使っているのですが、家で音楽をただ聴くという時間が今とても楽しいですね。個人的な感想なのですが、なぜかCD WALKMANを思い出すんですよ。若い頃アルバイトの初給料で購入したのがCD WALKMANだったんですがタワーレコードやHMVで話題の新作CDを買って、それをCD WALKMANにセットして聴くのが何よりも楽しみだったことを思い出しましたね。音楽をいじるのはなく、音楽そのものを聴くという楽しみを再発見したというか。

時代はどんどん移り変わっていき、テクノロジーも著しく進化を遂げました。音楽は再生専用機で聴くのではなくiPhoneで聴く。そんな時代にスピーカーが再び存在感を持つなんて、ちょっとワクワクします(笑)。とても新しいテクノロジーなのに、行動自体はとてもアナログなところがとくに。

――お店とSonosの相性についてはいかがですか?

木村:弊店の内装デザインは、スキーマ建築計画の長坂常さんによるものです。パーテーションは可動式のため、シーズンごとにインテリアの組み換えが自由に出来るのが特徴です。コンセントも天井の設置されたコードリールなので、どこでも電気をとることが出来る。Sonosのスピーカーも、どこに動かしても最高のサウンドを再生してくれるという点は、偶然ですが共通点を感じます。ちなみに現在、Sonosのスピーカーを10数台連結して使用しています。

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朝、昼、夜と、流したい音楽も変わってくる

――ところで、HAYのコンセプトはどのようなものでしょうか。

木村:HAYは、ロルフ&メッテ・ヘイ夫婦が立ち上げたデンマークのインテリアプロダクトブランドです。大きく「家具」と「ハウスウェア」に分かれているのですが、家具の特徴はシンプルでナチュラルかつモダンなデザイン。これまで北欧のブランドというと、北欧デザインを牽引してきた巨匠による高価な家具か、とてもリーズナブルなコンシューマー向けの家具に二極化してしまっていました。そこでロルフは「今の時代を表現する、『将来のウェグナーやフィン・ユール』となるようなデザイナーたちと一緒に、デザインセンシティブな人たちに向けた良質な家具を作れば、多くの人たちが喜んでくれるのではないか?」と考えたんです。

――なるほど。プロダクトにはどのような特徴がありますか?

木村:「北欧」という地域にこだわらず様々な国のデザイナーやクリエーターとコラボレーションを行っています。そこがHAYの特徴の一つですね。Sonosとの取り組みも、そうしたコンセプトのもと実現したプロジェクトといえるでしょう。それと、HAYにはセミカスタムができるプロダクトが多くあります。例えば「アバウトチェア」というシリーズは、シェルのカラーリングだけで14種類から選ぶことができ、また脚の仕上げも選べるようになっています。

「ハウスウェア」も家具と同様、世界中の優れたデザイナーと一緒に、「北欧」という枠にとらわれない切り口で製品を作っています。マーケティングの理論というよりは、「この人と、こういう作品を作ったら面白いのでは?」という純粋な好奇心から始まっている。ある意味「インディーズ精神」というか、「好きなものを好きなように作っている」という姿勢が素敵だなあと思っています。

――ところで、こちら「HAY TOKYO」のBGMは木村さんが担当しているそうですね。

木村:はい。普通は海外のブランドは厳しいレギュレーションがある場合が多いのですが、お店のBGMに関しては一任してもらっています。特にこのお店は、他国のHAY STOREとは全く違う雰囲気なんです。デンマークでは、自然光を生かしたナチュラルな内装が特徴ですが、ここは窓が一つしかないですし、長坂さんによるコンクリート打ちっ放しのインダストリアルな空間は、他の店舗と全く世界観を異にしています(笑)。なので、他のお店と同じ選曲にしてもそぐわないというのがあって。それで、僕なりのやり方で選曲させてもらっているんですよね。

――反応はいかがでしたか?

木村:オープンの前日、2018年10月18日にレセプション・パーティーを開いたのですが、会場を訪れたヘイ夫妻がお店のBGMについて「すごくいい。誰が選んだの?」と言ってくださいました。

――それは嬉しいことですね。私も木村さんのセレクトしたプレイリストを拝見しましたが、ディアハンターやアンノウン・モータル・オーケストラのようなインディーロックから、リアーナやエリカ・バドゥといったニューソウル、さらにはYMO、冨田ラボと古今東西様々なジャンルの音楽が散りばめられています。ここではどんな基準で音楽を流しているのでしょうか。

木村:そこまで騒がしくなく、とはいえダウナーすぎない音楽、というのがベースにあります。また、アップビートなものがかかった後には、少しゆったり目の楽曲をかけるなどのバランスも考えていますね。以前、勤めていたお店でもプレイリストを作っていたのですが、ただ曲を選んでも面白くないなと思うんです。実際、朝、昼、夜と、流したい音楽も変わってくるじゃないですか。なので今回、「朝用」「昼用」などと分けるのではなく、ずっと流しっぱなしで楽しんでもらいたくて、営業時間とほぼ同じ尺のプレイリストを作ってみました(笑)。

――はい。9時間もあってびっくりしました(笑)。

木村:もう一つ、弊店ならではの特徴がカフェを併設しているところなんですよ。カフェでくつろいでいるお客様と、お店の中をご覧いただいているお客様とでは、時間の使い方が違いますよね。そこのバランスが非常に難しいですし、今も試行錯誤を繰り返しています。

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――木村さんご自身はどんな音楽が好きなのですか?

木村:僕は完全に雑食ですね。クラシックを聴きたい気分の時もあれば、ジャズを楽しみたい時もある。Jポップを聴く時もありますよ。家に猫がいるので、お酒を飲みつつ猫と遊びながら妻と聴きたい音楽を聴く、というのが最高に贅沢な休日の過ごし方ですね(笑)。最近良かったのは、ニック・ウォーターハウスのアルバム『Nick Waterhouse』かな。いつもはサブスクリプションの「オススメ機能」を使ってどんどん深く掘っています(笑)。あとは、Pitchforkなど海外の音楽メディアサイトを覗いて、気になるアーティストをチェックしています。海外では、お店でかかっている音楽をShazamすることもありますね。

――選曲は昔から好きだったのですか?

木村:ただの音楽好きなだけですよ。ミュージシャンでもないしプロのDJでもない。でも、いろんな音楽をたくさん聞いてきたので、そこで無意識に学んだものが(選曲をする上での)一つのベースにはなっている気がします。個人的には、行った時に心地よい音楽が流れていて、あとからその曲を聴くとお店のことを思い出すような。そんな場所が好きですね。世界中のお店を回っていると、すごくこだわりのあるBGMのお店もたくさんあるんですよ。

――例えば?

木村:残念ながら2017年に閉店してしまったパリのコレットは、サラ・アンデルマンさんのやりたいことが、品揃えから店構え、選曲に至るまで徹底したお店でした。一時期何度も通ったのですが、クラブ系の音楽がかかっていて店員も一緒に踊っているんですよ(笑)。それも含めての「コレット」だったなあと。

あと、サン=トゥアンにある「クリニャンクール蚤の市」には、すごく素敵なアンティークのお店がありました。そこももう、残念ながらなくなってしまったのですが。1900年代初めに劇場で切符を売っていたボックス型のアンティーク家具を、そのままDJブースとして使っていて。もちろん、それも商品なんですが。朝買い付けに立ち寄ったところ、コーヒーを出してくれて、「好きな曲かけてあげるよ。何がいい?」って訊いてくる。「なんでもいいよ」と答えたところ、ストーンズの「Paint It Black」が流れ出したんですよ(笑)。気分上がるじゃないですか。そういうホスピタリティが素敵だなあって。

――そのオーナーさんのやりたいこと、ポリシーが見えるお店が好きなのですね。

木村:音楽との付き合い方が、日本とは違うんですよね。例えばアメリカでは街ごとにラジオ局があり、ジャズやヒップホップ、クラシックというふうに、ジャンルごとに分かれている。そうすると、自分が好きなジャンルをずっと聴いていられるわけです。

これはアメリカではなくベルギーの話ですが、以前たまたま覗いたアントワープの本屋さんではアフリカのトライバル・ミュージックをずっとかけていて。本を選びながら、そういう音楽を聴いているのって本当に楽しい。現に、こうやって今でも印象に残っているわけですしね。

――お店にとってBGMはものすごく重要なのですね。

木村:お店のBGMなんて、意識的にやらなければ、いくらでも手を抜くことができる。でも、そんなところにも手間暇をかけ、自分たちがやりたいことを多角的に見せようとすれば、お客さんは無意識にキャッチしてくれるし「あそこにまた行ってみたいね」と思ってもらえるかもしれない。そういう意味で、BGMとしての効果は大きいと思うんですよね。

あと、音楽は香りにも似ているなと思っています。お店に入った時に、いい香りがするとすごく嬉しいじゃないですか。目には見えないけれども、すごく大事な要素だなと思っていて。

――確かに。嗅覚や聴覚は、五感の中でも特に無意識レベルに訴えかける要素があるかもしれないですね。

木村:今、弊店にはキャンドルや香水はないので、余計に「音楽」の役割は大きいのかなと思っています。

――今日お話を聞いていて、お店の哲学や美学を伝える手段としての音楽と、お客様をもてなすホスピタリティとしての音楽、そのバランスが大事なのかなと思いました。

木村:同感です。そういう意味ではヘイ夫妻がこのお店に来て、BGMを喜んでくださって本当に嬉しく思います。自分なりに試行錯誤した解釈が、間違ってなかったのだなと思ってホッとしました(笑)。

――11月には、【Sonos Movie Night】というコラボイベントも企画されているとか。

木村:「Sonos」、「Do it Theater」とともに、HAY TOKYOにてホームシアター型上映イベントを開催します。Kan Sanoさんにセレクトしていただいたデイヴィッド・リンチ監督『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』を鑑賞するイベントで、会場には住空間をイメージした複数のコーナーにスピーカーを設置し、ホームシアターの臨場感を味わいながら、HAYとSonosのプロダクトによって、ご自宅にいるかのように寛いでいただけるイベントになっています。





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