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スノー・アレグラ初来日記念特集 ~コモン、ドレイク、ジョン・メイヤー、そしてプリンスの眼鏡にも適った美貌R&Bシンガーの実像に迫る
コモンを初期から支え、カニエ・ウェストのメンターとなったシカゴの大御所ヒップホップ・プロデューサーであるノー・I.D.。ドレイク、カニエ、ジェイ・Zらの全米トップ5ヒットも手がけた彼が送りだした美貌のR&Bシンガー、スノー・アレグラがこの秋、ついに初来日公演を行う。コモン、ヴィンス・ステイプルズ、ロジックといった実力派ラッパーたちから、ジョン・メイヤーとまでコラボレーションを経験し、ドレイクが大ヒット作の中でその歌声をサンプリングし、生前のプリンスの眼鏡にも適ったスノー・アレグラとは何者なのか? ミステリアスなこの女性シンガーの実像に迫る。
コモン、ドレイク、ジョン・メイヤー、そしてプリンスの眼鏡にも適った美貌R&Bシンガー
ノー・I.D.が立ち上げた自主レーベル ARTiumの新人としてシーンに登場したスノー・アレグラ。2012年には、ノー・I.D.が当時バックアップしていたミッキー・ホールステッドの「Pain」のビデオにカメオ出演していたが、おそらく多くの人が初めてその名を認識したのは、コモンの2014年作『Nobody’s Smiling』ではないだろうか。この話題作に収録された「Hustle Harder」にフィーチャリング・アーティストとして名を記され、冒頭でブルージーな歌声を聞かせていたのが彼女だった。そして同作発売の3ヵ月後には、そのコモンをフィーチャーした「Bad Things」を発表し、翌月、ノー・I.D.全面プロデュースのEP『There Will Be Sunshine』でメジャー・デビューを果たしたのだった。
以降、スノー・アレグラは、RZAのプロデュースによる、ソウルフルな「Emotional」といったシングルや、BBNG、フランク・デュークス、ボーイ・ワンダといったトロント勢から、スタジオの外でばったり出会ったジョン・メイヤーまでも駆けつけたEP『Don’t Explain』を発表し、Pitchforkの年間ベスト4位に選出されるなど称賛されたヴィンス・ステイプルズの『Summertime ’06』(2015年)へのゲスト参加など活動を続けていったが、最初に注目されたのは、やはりドレイク『More Life』への参加だろう。これは、『Don’t Explain』に参加していたボーイ・ワンダが橋渡ししたもの。新作をレコーディング中のドレイクのためにボーイ・ワンダが彼女の歌声を求め、ちょうど書き上げたばかりの「Time」というバラードのアカペラ音源を送ったところ、気に入られて、2017年3月にサプライズ・リリースされたドレイク『More Life』の最後を飾る「Do Not Disturb」の全編でサンプリングされることとなったのだ。彼女はちょうど、その1ヵ月後の4月にデビュー・アルバム『FEELS』をリリース予定であり、まさに絶好のタイミングでの採用だったと言える。ちなみに、『FEELS』に収録された「Time」は2009年に亡くなった父親を想って書いた曲であり、奇しくも『More Life』はドレイクの父親がアートワークを飾る作品でもあった。
▲Snoh Aalegra – Emotional
▲Drake – Do Not Disturb
そして本格的なブレイクは、『FEELS』発売よりさらに1年以上先、2018年後半のこと。『There Will Be Sunshine』のデビューから数えて4年。しかし実は彼女は、すでに10年近いキャリアを誇るシンガー・ソングライターであり、最初にレコード契約を手にしたのは今から19年近くも昔のことだ。
スノー・アレグラはスウェーデン出身。イランからスウェーデンへと移り住んだペルシア人の両親のもと、1987年に誕生した。本名はシェリー・ノールージといい、スノーは幼少期からの彼女のニックネームから、イタリア語で「陽気な」などを意味するアレグラは「もっとハッピーな人間になれるかも」という想いを込めて付けたもの(綴りは変えてある)。なお、後に彼女はスノーを正式な名前としており、現在の本名はスノー・シェリー・ノールージになっているようだ(ファーギーに触発されたのだろうか?)。
ペルシア語、スウェーデン語、英語のトリリンガルとして育った彼女だが、一般的なペルシア人家庭とは違い、マイケル・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、スティーヴィー・ワンダーなどをこよなく愛する母親の影響で、アメリカのソウル~ポップスに幼少期から親しんでおり、9歳で初めて自作した楽曲も、第三言語である英語で書いたのだとか。この頃から歌手になる夢を持ち、母親の応援もあって、13~14歳の時にはソニー・スウェーデンとの契約を手にしている。学校終わりにスタジオに通い、シンガー・ソングライターとしての才能を育む一方、ソニーからのデビューは叶わなかったものの、その後、2009年に「シェリー」名義でデビュー。翌年にはアルバム『First Sign』を発表した。ジャック・スプラッシュからガンズのリチャード・フォータスまで参加した同作からは、映画『イージーマネー』の主題歌に起用された「U Got Me Good」がスウェーデンのチャートで最高2位のヒットとなっている。
▲Sheri時代のプロモーション映像
しかし、「自分を特別な存在と思ってはならない」といった、謙虚さを尊び競争を忌む価値観(いわゆる「ヤンテの掟」)が根強いスウェーデンにあって、彼女の夢は大きすぎた。なにせ、初めての自作曲を全編英語で書き、子供の頃から母国の小さな町を飛び出してアーティストとして成功したいと考えていたのだから。ほどなくして国外へと飛び出した彼女は、ロンドンを経てLAへと渡り歩き、現在の彼女のホームとなっている。
レコーディングでも訪れたLAだったが、彼女をかの地に導いた背景には、ノー・I.D.の存在があるだろう。というのも、ノー・I.D.が交際し、2011年に結婚した女性は、スノー・アレグラの従姉妹イザベルだったのだから(スノーのマネージャーでもある)。ゆえに、ノー・I.D.のARTiumと契約することになったのも、自然の成り行きと言えるだろう。
こうして彼女は「スノー・アレグラ」という新たな名前でLAから心機一転を図るわけだが、彼女が打ち出した「シネマティック・ソウル」と謳うその音楽性は、やはりノー・I.D.なくして語れない。それはサウンドだけでなく、ボーカルにおいても。ポップ・シンガー然としていたシェリー時代とは大きく異なり、エイミー・ワインハウスらと比較される今の彼女の歌唱スタイルは、ノー・I.D.の指導によって確立されたようなのだ。彼女は2015年のi-Dのインタビューの中で、「彼はヒップホップ・プロデューサーだけど、ボーカル面でもプロデュースしてくれた。ノー・I.D.は私に、これまでと全く違う歌い方を教えてくれたの。さながら演技レッスンみたいに。そのおかげで、これまで使ったことのない自分の声を発見できた」と話している。
そして、生まれ変わった彼女を最初に“発掘”したのは、あのプリンスだった。2014年、まだデビューEPリリース前に数曲をネット上にアップロードしていただけの時点で、プリンスから連絡をもらったのだ。以降、コンサートに招待されるなど交流を持ち、両者にはコラボをしようという話もあった(が、実現する前にプリンスが旅立ってしまった)。そして、彼女が「Emotional」を最後にEpicとのメジャー契約を終え、インディペンデントの道を志したのも、プリンスの影響が大きいのだという。彼女がインディへ移っての第一弾リリースとなったEP『Don’t Explain』は、2016年4月8日――すなわちプリンス逝去のおよそ2週間前に発表されている。
公演情報
ビルボードライブ東京:2019/10/1(火)※中止
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
関連リンク
Text: 末﨑裕之 @hsuezaki
音楽的アイドルたちへのオマージュが散りばめられた最新アルバム
さて、ドレイク『More Life』の1ヵ月後、2017年4月にデビュー・アルバム『FEELS』を発表したスノー・アレグラは、同年後半にダニエル・シーザーが敢行した世界ツアー北米公演での前座を務め、2018年8月には収録曲「Out Of Your Way」に新たにルーク・ジェイムスを迎えたデュエット・バージョンを発表するなど、時間をかけて『FEELS』のプロモーションを継続。これが功を奏したのだろう、昨年9月を機に、『FEELS』から「Nothing Burns Like The Cold」と「Fool For You」の人気に火が点くことになる。
▲Snoh Aalegra - Nothing Burns Like The Cold (Lyric Video) ft. Vince Staples
クリスチャン・リッチが制作し、ヴィンス・ステイプルズとの再共演となった「Nothing Burns Like The Cold」は、ちょうどアレッシア・カーラの前年の大ヒット「Here」でも使用されていたサンプリング・クラシック=アイザック・ヘイズの「Ike’s Rap II」使いのドラマティックなトラックに、彼女のハスキーかつソウルフルな歌声が響く様が、まさに“シネマティック・ソウル”と呼ぶべき楽曲。2018年9月からiPhone XSおよびiPhone XS MaxのCMに起用されたことも大きく影響し、リリック・ビデオの再生回数は150万回を超えるなど、彼女の代表曲のひとつとなっている。またiPhoneのCM抜擢の直前には、人気YouTube番組『A Colors Show』に出演。ここで披露されたメロウなバラード「Fool For You」は、人気ドラマ『インセキュア』第3シーズンでも使用されるなど、こちらもまた彼女の楽曲において一二を争う人気曲だ。
▲Snoh Aalegra - Fool For You | A COLORS SHOW
この勢いを背景に、2019年、彼女はプロモーションやマーケティング機能なども持つ次世代デジタル・ディストリビューターの雄であるAWALとの契約を発表。ニュー・アルバム『- Ugh, those feels again』をこの8月に発表した。
前作『FEELS』の続編という意味合いも込められたタイトルのこの新作だが、明確な変化を見せる作品でもある。彼女は、夜が明けるまで続くような深夜のセッションを止め、「健康的なアプローチ」で今回は制作したそうだが、彼女自身も言及するとおり、特に「A面」にあたる前半7曲には「もっとアップテンポだったり、もっとハッピーだったり」とポジティブな――彼女の芸名を借りればアレグラな――雰囲気が漂う。本作からの第一弾リード曲でもあった「I Want You Around」の夢見心地な雰囲気からしてそうだし、続く「Situationship」での90sヒップホップ・ソウル的なグルーヴに乗る姿も新鮮だ。ブライソン・ティラー作品で知られるネスとロブ・ハラデイらによる制作の「I Want You Around」は、8月時点で米アダルトR&Bエアプレイ・チャートのトップ20入りを果たしており、彼女にとって米ビルボード誌に初めてチャートインした楽曲に。相手役をエイサップ・トゥエルヴィが務めている愛らしいミュージック・ビデオのYouTube再生回数も200万回を突破、彼女の新たな代表曲となっている。
▲Snoh Aalegra – I Want You Around
『- Ugh, those feels again』は、前作に続いてノー・I.D.がエグゼクティヴ・プロデューサーを務め、自身、数曲のプロデュースも手がけているが、ノー・I.D.を除く、制作陣のほとんどの顔ぶれは一新されている。「Situationship」は、ゴールドリンク最新作『Diaspora』やビヨンセによる『The Lion King: The Gift』での活躍で人気急上昇中のP2Jが手がけたもの。他にも、ダニエル・シーザーのプロデューサー/マネージャーであるマシュー・バーネットから、D・マイル(ビヨンセ&ジェイ・Z、ラッキー・デイなど)、マニーシュ(ドレイク、dvsnなど)、ジョナ・クリスチャン(ノーマーニ&ブラック、ジェイ・プリンスなど)、ジョエル・コンパス(ジョージャ・スミス、ティナーシェなど)といったフレッシュな名が並ぶ。また制作陣で言えば、マーカス・セマージ(マーカス・ジェイムス)の貢献も目を惹くところ。人気を呼んだ「Fool For You」のソングライターだった彼は今回、「I Want You Around」、「Find Someone Like You」など半数の7曲に関わっている。
前作とは一転、ゲスト・アーティストを一切排しているのも『- Ugh, those feels again』の特徴であり、特長だろう。つまり、改めてスノー・アレグラがどんなアーティストであるのかを表現し、はっきり打ち出そうとするものなのだ。本作には、彼女の音楽的アイドルたちへのオマージュが散りばめられている。「I Want You Around」でスティーヴィー・ワンダー(の『Innervisions』)に言及したかと思えば、トロント勢とトロントで実際にレコーディングされたその名も「Toronto」では自身も認めるとおりプリンスを意識している。「You」で聞かせるハイトーンはジャネット・ジャクソンを想起させるだろうし、ノー・I.D.絡みの「I Didn’t Mean to Fall in Love」ではローリン・ヒルがちらつく瞬間もある。自らを「オールドスクール」だと認める彼女は本作について、「(前作に続いて)変わらずオールドスクールなヴァイブでありつつも、ニュースクールな面もある」と表現しているが、「ニュースクール」という言い回しは、無闇に流行に寄せることなく、彼女のオールドスクールな魅力を現代的な感覚でさらに磨き、引き立たせ、輝かせたようなこのアルバムに相応しい表現ではないだろうか。
そして、この新作『- Ugh, those feels again』発表から2ヵ月と経たない2019年10月1日(火)、スノー・アレグラがビルボードライブ東京で初来日公演を行う。母国スウェーデンを含む欧州公演を経ての来日ということで、バンド・メンバーとの呼吸もしっかり整っていることだろう。エヴァ・メンデスやナタリー・ポートマンらを引き合いに出される美貌、シンディ・クロフォードら90年代のスーパーモデルたちを敬愛するファッション・センスとスタイルの良さで、伊ヴォーグ誌にもフィーチャーされるスノー・アレグラ。天性の華やかさを兼ね備え、さながら女優の佇まいで響かせる彼女の「シネマティック・ソウル」を間近で味わえる貴重な機会となるはずだ。
公演情報
ビルボードライブ東京:2019/10/1(火)※中止
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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Text: 末﨑裕之 @hsuezaki