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HAN-KUN『Musical Ambassador』インタビュー
湘南乃風のボーカリストで、ソロとしてもメジャーデビュー10周年を迎えるほどのキャリアを積んできたHAN-KUNが、アニバーサリーイヤーに初のJ-POPカバーアルバム『Musical Ambassador』(TUBE、WANDS、スターダストレビュー、秦 基博、スピッツ、Mr.Children、T-BOLAN、MONGOL800等々の名曲カバーを収録)を完成させた。レゲエに対して並々ならない拘りを持つことで有名なHAN-KUNだが、どのような想いの変遷があって今作のリリースに至ったのか。ぜひご覧いただきたい。
レゲエグループの湘南乃風と言われている中で、出している曲が「純恋歌」とか。
--ソロメジャーデビュー10周年に突入した今、HAN-KUNがどんなアーティストになっていると自身では感じていますか?
HAN-KUN「海の声」【カバーアルバム『Musical Ambassador』5/29発売】
--インディーズ時代を入れると20年近く活動してきている訳ですが、レゲエを日本に広げていくことはもちろん、レゲエのフィールドを飛び出したところでも音楽を続けてこれた要因は何だと思いますか?
HAN-KUN:レゲエということだけに関して言うと、やっぱり「好きだ」という気持ちがあるということ。あと、今も音楽をやらせてもらえているのは、間違いなく聴いて下さっている方がいるからだし、サポートしてくれる仲間やスタッフがいるから。あとはやっぱり湘南乃風というグループがあったことは何より大きいのかなと思います。湘南乃風というグループで活動させてもらって、そこで自分たちを知ってくれた人たちが「あ、HAN-KUNってソロもやってるんだ。こういう志でレゲエをやっているんだ」と知るきっかけになったりしているとも思うし。あと、純粋に音楽を生業として続けるというのは凄く難しいと思うんですけど、グループでみんなと切磋琢磨し合ったりとか、自分の中にはないアイデアとか価値観とか人間的な部分も含めていろいろ刺激になっていて。--メンバーとの関係性も大きく作用した訳ですね。
HAN-KUN:みんな俺より年上で、何歩も先の人生を経験しているから、そこから学ぶこともたくさんあったので。それは自分が音楽を続けていく上ですごく大きかったのかなと思います。--そもそもHAN-KUNさんが人生を丸々捧げるほどレゲエに魅せられた要因は何だったんでしょう?
HAN-KUN:シンプルに言うと、リズムとかノリとか含め音が好きだったんですよ。歌詞とか世界観とか文化というのは後々知っていくことなので、最初に衝撃を受けたのは音だったと思いますね。あと、同時に日本人のレゲエアーティストの方の歌も聴いて好きになったんですけど、それで「なんで今の俺の気持ちを知ってるんだろう?」と思ったりすることもあって、自分が今悩んでいることに対してのメッセージを胸に突き刺してきたんですよね。それも大きかったかもしれない。あと、レゲエの本国は経済の問題とかもあるし、貧困から生まれた嘆きの声だとか、政治に対するレヴェルな部分だったりとか、もちろん「良くしていきたい」という発想からだと思いつつも、そこには日本の文化との大きな違いがあるから一概に「レゲエはこうだ」と言えないですけど、でも根底にあるピースを求める部分とか、それこそ「靴がなければ裸足でいいじゃん」とか「雨が降ったら洗っちゃえばいいじゃん」じゃないけど、そういう大胆なポジティブな部分を音から感じ取って、それを紐解いていったら「やっぱりそうだった」と。だから一番最初にレゲエから受けた衝撃は、純粋に音だったのかなと思います。--そんなHAN-KUNさんが日本中にレゲエを届けていく立場になる訳じゃないですか。湘南乃風のブレイク=日本中がレゲエに振り返った瞬間、そう言えるぐらいの存在になれたときはどんな気持ちだったんでしょう?
HAN-KUN:純粋にガムシャラに「とりあえず一番になるぞ」と言っていたんですよね。一番と言っても何の一番か分かんないし、何の一番を目指していたのかも分かんないですけど、でも漠然と「一番になるぞ」と思っていた男たちだったので、そういう気持ちのもと突っ走って、いろんなきっかけとご縁があって作品を出させてもらえたりして、その中で俺たちは形を変えてでも多くの人の耳や心に届ける方法を選べる人間だったと思うんです。でも、他のメンバー3人はその辺にすごく柔軟で、それに対して自分はどうしても頑固というか……だからそこに対してはすごく戦っていて。自分は「譲れない」という考え方。でも彼らはもっと大きな視野で見て「レゲエを大きく広めるチャンスだからこそ、柔軟になることが未来に繋がるんじゃないか」という考え方を持っていて、それを理解するまでにはすごく時間がかかりました。--葛藤があった訳ですね。
HAN-KUN:正直「レゲエだ、レゲエじゃない」という考え方よりも、自分たちの名前をより多く広めていく考え方。そして実際に広まったと感じたときに「今、俺たちは全然レゲエしてねぇな」と思ったので、だから逆にすげぇツラかったかもしれない。レゲエグループの湘南乃風と言われている中で、出している曲が「純恋歌」とか。あれは全然レゲエじゃないし。でもそれのおかげで今があるし、あのムーヴメントがあったから今があると思うんですけど、ぶっちゃけ当時はイヤでしたね。本当に「辞めたい」と思うぐらい。「俺がやりたいのはこんなんじゃない」と思っていました。でもそう思いながらもどこかで自分も「これは未来の為に必要」と思っていたし、だから俺は歌ったし、今も湘南乃風のメンバーのままだし、今はそういう楽曲たちに感謝してるし、おかげで俺は自分のアイデンティティを突き詰めながらレゲエを聴いてもらえている今があるし、純粋に楽しく音楽ができている。- カバーアルバムにはいろんな角度でレゲエを知ってもらえる可能性がある
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リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:カワベミサキ
カバーアルバムにはいろんな角度でレゲエを知ってもらえる可能性がある
--では、湘南乃風とソロは自分の中で大きくセパレイトしていた?
HAN-KUN「離したくはない」【カバーアルバム『Musical Ambassador』5/29発売】
--今作『Musical Ambassador』はJ-POPの名曲カバーアルバムじゃないですか。湘南乃風の「純恋歌」も同じくJ-POPの名曲として日本中で愛されています。そういう楽曲を残せたことに対して、今は純粋に嬉しいと思えている自分がいる?
HAN-KUN:例えば、地元の友達とたまに会うと「カラオケでよく歌っているよ」と言ってくれたりする。それは純粋にすごく嬉しいですよね。--そう思えるようになった自分がいてこそ、J-POPの名曲カバーアルバムがこうして制作されたところもあると思うのですが、実際にはどのような流れで生み出されたモノだったんでしょう?
HAN-KUN:「レゲエという音楽を突き詰める」という自分のスタイルに付き添ってくれたスタッフたちがいて、それで10周年というタイミングを迎えて。今までは自分が出したアイデアとか考え方に対して、スタッフはそれをより多くの人に伝えようとしてくれたり、より良い作品になるように考えてくれていたんですけど、今回はスタッフの人たちにも歩んできた人生がある訳だから、そこの音楽の世界と自分の音楽の世界を重ね合わせてみたんです。そしたら俺たちは日本に住んでいるし、J-POPというフィールドの中に生きているし、そこで繋がれる部分がたくさんあるんじゃないかなと思って、カバーアルバムを制作することになって。で、一緒に楽曲をセレクトして、もちろん自分が通ってきたモノじゃないと、オリジナルの楽曲に対するリスペクトを込めようとしたときに嘘になっちゃうんで、そこだけはブレないようにしつつ、お互い重なるところを探しながら楽曲を選ばせてもらう流れでしたね。--ゆえのJ-POPカバーアルバムだったんですね。
HAN-KUN:そのJ-POPの名曲たちを自分のアイデンティティを通して……具体的に言うと、楽曲をジャマイカで作ったりとかレゲエに昇華することで、今まで歩んできたスタッフたちと初めて肩を並べて歩けるなと思って。スタッフは先輩から後輩からたくさんいらっしゃるんですけど、メモリアルじゃないですけど、彼らと肩を並べて一緒に作れたことが嬉しいですね。あと、レゲエってカバー文化でもあるし、カバーアルバムにはいろんな角度でレゲエを知ってもらえる可能性があるし、レゲエの文化や背景もこの作品にはすごく詰まっているので、そこも含めて楽しんでもらいたいですね。--J-POPの名曲をジャマイカに持っていって、そこに自身のアイデンティティや血を注ぎ込む制作は初めてだったと思いますし、物凄くクリエイティビティを刺激される作業だったんじゃないですか?
HAN-KUN:人が作ったモノを歌ったり演奏することは経験上なかったし、レゲエアレンジはしているものの、大切なメロディーや歌詞は変える訳じゃないので、元々の楽曲の魅力を損なわず、尊敬を込めて制作する分、原曲をどこかで超えて聴かせる部分が絶対にないと、オリジナルのファンの人たちにも失礼だと思うから。だからしっかりと「なんでこの楽曲をこういう風に昇華したのか」聴いてもらって判断してもらえるようなモノにしなきゃいけなかったので、そこはすごくプレッシャーになったんですけど、自分にない世界観を体に自然と入れ込めるチャンスだったので、それは刺激的でしたね。ただ、J-POPってすごく複雑だし、展開も多いので、レゲエとはだいぶ掛け離れていると思うんですよ。レゲエは緻密なことを簡略化した音楽だと思うので。だから向こうのミュージシャンも譜面とか読まないんですけど、今回は譜面を持っていって、一緒に指で追いながら作ったりとか(笑)。でもそのミュージシャンたちがすごく楽しんでくれたんですよね。「これをレゲエに昇華して日本に戻したいんだ」という自分たちの気持ちを加味して音にしてくれたなと感じています。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:カワベミサキ
世界に「日本人でこんなアーティストがいるんだ」という風に思ってもらえるように
--原曲を表現してきた人たちの歴史もあって、聴いてきた人たちの愛着もあって、それをカバーするということは、自身のオリジナルアルバムを制作する以上にハードルが高いモノですよね。
HAN-KUN 「あなたに」【カバーアルバム『Musical Ambassador』5/29発売】
--(笑)
HAN-KUN:でもそれって俺的にはすげぇポジティブなんですよ。笑顔で「俺、いらねぇじゃん!」って言ってたから。その楽曲を本人がいないところで披露して、全く違うジャンルのお客さんが大合唱してるって、これ以上ないリスペクトだし、これ以上ない楽しみだし、この為に俺はカバーをやらせてもらえたのかなって。この気持ちを感じる為に降りてきたモノなのかなって感じました。その楽曲はモンパチ(MONGOL800)の「あなたに」だったんですけど、そういう体験をさせてもらって嬉しかったです。思わずキヨサク(vo,g)に連絡しちゃったもん。「今日歌ったんだけど、超ヤバかった! 本当にありがとう!」って。そしたら島のマークの絵文字が返ってきました(笑)。--めっちゃピースフルなエピソード。
HAN-KUN:すごくアイリーな感じ。元々が名曲だから歌っていて気持ち良いし、自分で新しいモノを作らなきゃいけないプレッシャーと全く違うプレッシャーだったから、初めてアルバムを制作したときぐらい、すごくフレッシュな気持ちで取り組めたので、そのプレッシャーを忘れるほど楽しさが大きかったです。すごく良いモノが出来たと思うし。だから早くリリースパーティーをやって、ライブでもっともっと歌いたい。--今作『Musical Ambassador』の仕上がりを聴いたときはどんな印象を持たれましたか?
HAN-KUN:「俺、カラオケでよく歌ってたなぁ」って。一同:(笑)
HAN-KUN:でも「すげぇレゲエになったじゃん!」とも思います。胸張って「聴いてほしい」と言えますね。--そんな名曲カバーアルバム『Musical Ambassador』を完成させた今のHAN-KUNさんから見て、今の日本のレゲエシーンがどんな風に映っているのかも興味があります。
HAN-KUN:若い世代がどんどん出てきて、俺も中堅~ベテランの域に達している今、すごく良い意味でヒップホップとの距離もより近くなっているのかなって思うし、世界的ヒットもある中で一般の人が耳にする機会も増えているだろうし。でも現場に足を運ぶというよりかは、ネットで聴いたり観たりできる時代なんで、もしかしたらシーンが欲している答えとは逆に行ってるかもしれないなとは正直思います。ヒップホップで言うと、例えば『フリースタイルダンジョン』が現場とお茶の間を繋げているし、大きく見たらすごく可能性がある時代なのかなと思うんですけど、夜遊びする人が全体的に少なくなっている気がするし、情報が広がった分、自分で選ばなきゃ欲しい情報に辿り着けなくなっているし、オールジャンルのパーティーには人が集まっているから、そういうところにレゲエやヒップホップやブラックミュージックを知っている人はたくさんいると思うんですけど、でもそこから「レゲエの現場に行こうか」という人はそんなにいないのかもしれなくて。ただ、そこには世界で活躍しているプレイヤーもたくさんいたりするので、だからもっとそこに光が当たるように俺たちも頑張っていかなきゃいけないなと思うし。--なるほど。
HAN-KUN:今、まさに変革期だと思うんですよね。世界でのレゲエの戦いとかでも日本代表としてぶっちぎっている人たちもたくさんいるし、世界のチャンピオンの人もいたりするので、あとはボタンさえハマればいつでも行ける準備があるというか、そこは変わらず沸沸と燃え続けている。だからきっかけさえあれば爆発してひっくり返せるぐらいの力と蓄えをみんな持っていると思うんで、そういった意味でオーバーグラウンドで活躍する人間がすごく必要な時代なのかなと思います。シンプルにレゲエのヒット。それが求められているのが今のシーン。音楽なんで、綺麗事抜きでヒットは絶対求められていると思います。--そんなシーンの中で、今後どんなアクションを起こしていきたいと思っていますか?
HAN-KUN:この10年の足跡を振り返ったときの答えがもしかしたら『Musical Ambassador』という言葉になるのかなと思って、今回の作品のタイトルにさせてもらったんですけど、もちろん日本とジャマイカを自分の中で繋げていけることがあれば、それは全力でやりたいと思っているし、それと同時に、日本はまだまだ小さいマーケットだし、だから日本の音楽シーンの中でのジャンルを繋げるアンバサダーでもありたいなと強く思ってます。俺が「これがレゲエだ」といくら言っても、やっぱりジャマイカ人から見たら「日本人がやっているレゲエっぽい音楽」でしかないのかもしれないし、俺たちもそれはよく分かっているから、であれば「レゲエ」というジャンルで聴いてもらわなくてもいいなと思う部分もあったりして。長い目で見れば、それを称する新しいジャンルの名前とかもいずれ出てくるのかもしれないし。例えば、アフロビーツやトロピカルハウスみたいに。なので、世界に「日本人でこんなアーティストがいるんだ」という風に思ってもらえるようになりたいです。その為にも世界へどんどん挑戦していきたいし、ジャマイカ人のマネじゃなくて、自分の音楽性をブレンドして新しいモノへ昇華した音楽で勝負していきたいですね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:カワベミサキ
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