Special
sumika『Chime』インタビュー
「この人たちと家族になりたいな」という気持ちが芽生えた―――
劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』のオープニングテーマ・劇中歌・主題歌のすべてを担当する等、現在ブレイク中! 今後の日本の音楽シーンを牽引していく存在になるであろう大人気バンド・sumikaが最新アルバム『Chime』のリリースを記念し、そのバンドストーリーやメカニズムについて語ってくれた。
「僕たちはポップスをやっています」と胸張って言えるようになった
--自分たちでは、sumikaが今どんなバンドになっているなと感じていますか?
【2019/3/13発売】sumika / 「Chime」全曲試聴teaser
一同:(笑)
片岡健太:sumikaの活動形態がゲストメンバーを迎えながら音楽を作っていく。ライブも然り、レコーディングも然り。結成当初からそういう風に作っていて、そのメンバーだけでは完結しないシステムを最初は弱点だと捉えていたんです。「何でもメンバーだけで出来なきゃダメだ」みたいな。でも、メンバー4人だけだったらどんなに頑張っても75点しか出せないっていう中で、25点の空白が実は武器なんじゃないかなと思えるようになっていったんですよね。空白を違う音楽家の方に任せることで、化学反応が生まれて100点に止まらず、120点、150点にしていくことができる。その空白が音楽を作っていく上でとてもポジティブに機能してきているし、その空白に対して「何が生まれるのか」だんだん楽しみになってきているなって。--その空白のメカニズムが、例えば劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』のオープニングテーマ・劇中歌・主題歌のすべてを制作するプロジェクトをはじめ、タイアップとの組み合わせにおいても生きている感覚はありますか?
片岡健太:ありますね。今回の『Chime』はタイアップ曲が多く含まれているアルバムなんですけど、タイアップ曲を手掛ける度にメンバー内で話しているのは、その曲単体でどうこうではなくて、きちんと「sumika×タイアップ作品」であることをイメージしながら音楽を作っていくことが大事だよねっていう。曲単体でも勝負できるモノではあると思うんですけど、そのタイアップと掛け算されたときにちゃんと強さが増す。例えば「ホワイトマーチ」(JR SKISKI 2018-2019 キャンペーンテーマソング)であれば「なるほど、冬のスキーの映像と合わせて聴くとこうなるのか」とか、劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の楽曲であれば「映画館だとこういう風に音楽が聴こえるのか」とか、そうやっていろんなモノを掛け算で成立させていく考え方が出来ているなという自覚はあります。--sumikaはポピュラリティのある音楽を目指している印象があって、ポップスは何でも許容して音楽表現の可能性を広げていくジャンルだと思うんですけど、今の空白のメカニズムのお話を伺って「なるほどな」と合点がいきました。
片岡健太:それを実現していく上で「バンドである」ということが時に窮屈に感じたこともあって、バンドである=オールインワンでなければいけない美学がなんとなく頭の中にあったんですけど、sumikaがメンバーだけで成立していないことによって、自分の中でのバンドの価値観を良い意味で崩してくれましたし、いわゆるバンドの方程式に当てはまらないからこそ、「バンド」という言葉の呪縛から解き放たれたこともあって、何のネガティブな感覚も持たずに「僕たちはポップスをやっています」と胸張って言えるようになったんです。いちばん最初の話に戻っちゃいますけど、バンドだけど、ちゃんと空白があって、それを武器に出来たから、そうなれたんだと思いますね。--荒井さんはどう思われますか?
荒井智之:「バンド」っていう言葉に対するイメージは一般的に言うと、エッジの効いたロックサウンドが思い浮かぶと思うんですけど、実際には「バンド」とひとえに言ってもいろいろあるし、ジャズバンドもあるし、ポップスバンドもあるし、もっと言えばバックバンドというバンドの形だってあるし、実は「バンド」はいろんな音の印象を内包している言葉だと思っていて。sumikaも固定された「バンド」のイメージだけではないんだよなと思うし、sumikaの音楽を聴いたときに抱く印象ってソロアーティストのバックバンドの演奏だったり、音の使い方から受ける音楽のイメージも多少なりあるんじゃないかなと思うんです。で、今の時代のソロアーティストはポップスを表現していく上でのひとつの完成形だと思うし、ボーカル以外の音はそれぞれの分野から欲しいモノを集めて表現していくじゃないですか。メンバーや構成は自由に変えながら欲しい音、良い音をどんどんどんどん凝縮していっている。今のsumikaはそういうことに近いことも抵抗なく出来ているんじゃないかなって。--たしかに、バンドでありながら、欲しい演奏や音を取り入れていく自由度はソロアーティストが制作するポップス的ですよね。
荒井智之:元々「ベースがいない」ところから始まったことも大きいと思うんですけど、「メンバーの楽器の音は絶対に使う」とか「メンバーの顔がよく見えるように作る」みたいな制約は作らない。メンバーの担当する楽器の音が入っていない楽曲があってもいいし、メンバーの顔が見えない楽曲があってもいいし、そういうモノもひっくるめて「sumikaの音楽だよね」って言える。なので、いわゆるバンドの音楽といわゆるソロアーティストのポップスの間というか、どっちの良いところも取りたいなと(笑)。そういうモノを提示していきたいと思っているし、それを今は少しずつ純度高く表現できる状態になってきているのかなと思います。- 「声が戻らなくてもいいから一緒にバンドをやろう」と言ってくれて
- Next >
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
「声が戻らなくてもいいから一緒にバンドをやろう」と言ってくれて
--それが出来るのは、この4人のメンバーの音楽的キャラクターがバラバラであることも大きいかもしれませんよね。ツイッターひとつ見てみても、ひとりは反田恭平さんのお話をされていて、ひとりはaikoさんのお話をされていたり……
【2019/3/13発売】sumika / 「sumika Film #5」 ~sumika special session~ teaser
一同:(笑)
--なので、そういうバンドになるべくしてなる組み合わせだったのかなと。自身ではどう思われますか?
片岡健太:各々好きな音楽がバラバラなんですけど、「バンドは個性をぶつけ合うものだ」「個々に持っているモノは大事にするべきだ」という意識はちゃんと持ちながら活動しているんですよね。いわゆるセールスを伸ばすために作られたバンドではないし、誰かにコントロールされた事務的なバンドではないし、好きなモノに対してはメンバー個々でちゃんと大事にしているし、みんなそれを尊重している。その上で「sumika」というチームで音楽を作っているので、そこも良いバランスで活動できていると思います。--小川さんは、2015年2月に正式加入したんですよね?
小川貴之:僕は元々sumikaのゲストメンバーとして鍵盤とコーラスを務めている期間が1年半ぐらいあって、そんな中で自分がやっていたバンドが解散することになって、そのタイミングでsumikaの正式メンバーとしてお誘い頂いたんです。で、自分は元々ボーカルをやっていて、プレイヤー側にまわるということでそれなりの覚悟もあったんですけど、みんなから温かく迎えてもらえて。あと、すごく大好きな音楽性だったので「より良いモノに出来るように」と思って加入しました。--sumikaには、小川さんがメインボーカルを務める楽曲もありますよね。そのあたりもすごくsumika的だなと感じます。
小川貴之:2015年に活動休止の時期があったんですけど、そのときに「sumikaが音を鳴らしていれば、sumikaの曲になるんじゃないか」みたいな話をしたんですけど、その意識をしっかり共有できているバンドだと思うんですよね。だからこそ、いろんなチャレンジが出来ているんだと思います。--活動休止は、片岡さんの体調不良によるものだった訳ですが、その時点で「sumikaが終わる」可能性はなかったんでしょうか?
片岡健太:大いにありました。そのときは「多分、もう音楽は出来ないだろうな」と思いましたね。sumikaを組んで2年ぐらいかな。2013年結成で、2015年4月の終わりぐらいに声が出なくなって。それまではノンストップで走り続けてきて、客観的にsumikaを見る機会がなかったんですよね。で、僕が休んだ時期に「ボーカリストがいない状態でワンマンライブをやる」ということになって、加入したてであったにも関わらず小川くんがメインボーカルを務めてくれたんですけど、そこで客観的にバンドを観たときに「すごいチームだな!」と思って。無事にワンマンライブを終わらせて、そのあとに僕の声が出るようになってバンドに戻っていくんですけど、そのとき「僕が客観的に見たsumikaというのはこうだったんだよ」という話をして、「僕が抜けてバンドとしてどうだったのか」という話も聞いて、それで「キーボード&コーラス、ドラム&コーラス、ボーカル&ギター、ギター&コーラスっていう自分の楽器にアイデンティティがある訳じゃなくて、sumikaというチーム自体に意義がある」と気付いたんです。--なるほど。
片岡健太:「自分たちの楽器の音が入っていなくても、このチームの空間で作られたモノがsumikaの音楽である」と。で、僕は幸い声が戻りましたけど、3人は「声が戻らなくてもいいから一緒にバンドをやろう」と言ってくれて、自分の声が楽器として必要だから求めているんじゃなくて、人として必要としてくれているんだなと思えたんです。なので、今回のアルバム『Chime』で言うと、13曲目「ゴーストライター」はピアノとチェロとボーカルしか入っていないので、メンバーの中で楽器で参加しているのは2人しかいないんですけど、「やっぱりsumikaの曲だな」と思いますし、それは休止期間中に「楽器じゃなくこの人と一緒に組んでいるチームがsumikaで、そこから生まれるモノはすべてsumikaの音楽である」とちゃんと言葉に出して話せたからなんです。それでやれているアレンジもあるし、あの2015年の活動休止はすごくポジティブに働いた出来事でした。--その関係性に友情や絆はもちろんあると思うんですけど、この4人でいるから生まれる音楽がある。そういったミュージシャンシップに則った上で「あなたが必要です」となっているところは本当にポジティブですよね。
片岡健太:実はすごくバンドっぽいマインドですよね、それって。僕が10代の頃に好きになったバンドの絆ってそういうモノだった。それが目には見えないけど、ちゃんどバンド内にあるんだろうなと思わせるバンドがいっぱいいて。だからいわゆる「バンド」とは違う音楽の作り方をしているんだけど、マインドは逆にすごく「バンド」っぽい。「こいつらは一生俺のダチだぜ」みたいな。一同:(笑)
片岡健太:そういうことを口に出すバンドは減ってきていると思うんですけど(笑)、僕らみたいなバンドが実はそう思っているというのは、すごく素敵なことだなと思います。--ちなみに、黒田さんは、その片岡さんの休止期間はどんな気持ちで活動されていたんでしょう?
黒田隼之介:一大事だと思っていたんですけど、でも「必ず治して戻ってきてくれるだろう」とは思っていたので、彼が戻ってきたときの為に「一緒に音楽できる場所を守らなくちゃ」という気持ちでしたね。その為に出来ることがあれば何でもやる。「何もしないほうが良いんじゃないか」という意見もあったし、いろんな選択肢がもちろんあったんですけど、みんなで話し合いをして「やれることはなんでもやろう」と。それで小川くんがメインボーカルをやってくれたり、ゲストメンバーの方がベースを弾いてくれたり……「みんなで片岡さんが帰ってくる場所を守りましょう!」みたいな気持ちでいましたね。リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
「この人たちと家族になりたいな」という気持ちが芽生えた
--sumikaファンの熱量って間違いなくその歴史によるモノでもありますよね。その時代を共に体験しているからこそ、昨年の飛躍していく流れとかを見たときの感慨もひとしおだったと思いますし。
片岡健太:そうですね。いわゆる2015年の状況ってマイナスに見えていてもおかしくなかったと思うんですけど、それからいろんな方にライブを観て頂けるような機会が増えたり、メディアに出ていろんなところから自分たちの音楽が流れたりして。そうなると「私たちの手を離れていっちゃった」と寂しがる人たちも増えたりするじゃないですか。でもsumikaの場合はちゃんと喜んでくれている感じがするんです。sumikaに家族がちゃんと帰ってきて、無事に誰も欠けることなく歩んでいっている状況、それを本当に家族のように喜んでくれている人がいっぱいいるし、そこは本当に…………救われますよね。ライブをやる度にフロアからもらうパワーがある訳ですけど、「こんなにもらるんだ?」と思うんですよ。復帰してから「ステージに立てるということはあたりまえじゃないんだな」と思ったし、それをフロアにいる方々も感じていると思うし、それってなかなかない経験だよなって。--だからこそ歌にも演奏にも魂が乗るし、それを受け止めた人はそのライブを一生忘れないだろうし。
片岡健太:一度休止しちゃったんで「今日が最後のライブかもしれないな」といつも思うんですよね。これから先の人生もずっとそう思うと思うんですけど、僕は前日までライブをしていて、翌日に急に声が出なくなったんで、そこで「1日で変わっちゃう」ってことを体験しちゃったからこそ「今日のライブで最後かもしれない」というのは毎回ステージに上がるときに思っています。条件反射でフラッシュバックするんですよ。このメンバーがいて、スタッフチームがいて、ゲストメンバーがいて、来てくれる方々がいて、今日があって。だけど「明日はないかもしれない」っていうことを2015年を経て思うことができているから、あれは僕にとって一生忘れられない経験になりました。--今日の話を聞いていて思ったのは、sumikaというバンド名もそうですし、ライブやアルバムのタイトルにもしてきて、今回はアルバム『Chime』の最後を締め括る楽曲のタイトルになった「Familia」もそうですけど、そうしたワードたちが今すごく強い意味を持っていますよね。ファンも含めてチーム全体が本当にsumikaだし、Familiaになっている。
片岡健太:そうですね。やっぱり言霊っていうのはあるんですよね。今回のアルバム制作で言うと、まず『Chime』というタイトルから決めていて。前回のアルバムが『Familia』というタイトルだったんですけど、それはsumikaのずっと大事にしてきたコンセプトで、来てくれる人に対しては「おかえりなさい」と言って、帰ってきた人は「ただいま」と言う。で、またどこかへ戦いに行くときは「いってらっしゃい」と見送る。そして、sumikaはいつも同じ場所に立っている。という意味で『Familia』だったんですけど、今度は「僕たちが僕たちの足でみんなの家へチャイムを鳴らしに行くべきなんじゃないかな」と思って『Chime』にしたんです。そういう気持ち的な部分で、スタッフチームもそうだし、ゲストメンバーもそうだし、まわりのみんなのおかげだと思うんですけど、今のsumikaだったら「ちゃんと自分たちの足でもっと歩いていけるんじゃないかな。だからみんなの家に行ってチャイムを鳴らそう」と覚悟を決めて、それから『Chime』の中の新曲たちを制作していったんです。--なるほど。
片岡健太:それで13曲作って、14曲目の「Familia」が出来たのはいちばん最後だったんです。僕が最後までずっと秘密にしていたからなんですけど(笑)。スタッフにもタイトルも内容も言わずに「14曲目レコーディング」というスケジュールだけバミっていて。そこで初めて明かした「Familia」がどんな曲かと言うと、自分が生まれたときに目の前に居る両親や兄弟や姉妹ももちろん家族だと思うんですけど、僕は「他人ともちゃんと家族になれるんだな」という経験をしたので。それは身近なところで言うと、皆さんに置き換えたら結婚と同じようなことだと思うんですよ。他人と家族になるという意味で。それは僕にとってはメンバーやスタッフチームで「この人たちと家族になりたいな」という気持ちが芽生えたので、それをちゃんと伝えなきゃなって。13曲聴いてもらって、最後に「血が繋がっていなくても家族になれるんですよ」っていう話を「Familia」でして、それを聴いてくれる人の胸にしっかり刺して「あ、あの人とも家族になれるんだ」って……それが僕たちだったら嬉しいですけど、僕たちじゃなくても、身のまわりにいる人たちを大事にする気持ちを今一度思い出してほしいなって。それは僕がこの曲を作って、僕自身が思い出したからなんですけど、その気持ちを伝えた上で『Chime』というアルバムを終えたいなと思ったんです。--とても有意義な流れだと思いました。
片岡健太:それで、1stフルアルバム『Familia』に帰っていく。で、そのアルバム最後の曲「Door」でまた行っちゃう。一同:(笑)
片岡健太:無限ループになったら最高だなって(笑)。--そんなニューアルバム『Chime』リリース後は、どんな展開を考えていたりするんでしょう?
片岡健太:まずはアルバム『Familia』の楽曲たちをライブで演奏して、ちゃんと五感で体感してもらいたいですね。客席でどう聴こえているか、ステージ上で僕らがどう演奏しているのかも含めてキャッチして頂いて、そこで初めて『Familia』というアルバムがひとつのゴールテープを切れると思うので、ぜひライブに来て頂きたいです!【2019/3/13発売】sumika / 「Chime」全曲試聴teaser
リリース情報
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
関連商品