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ユーライア・ヒープ 来日記念特集 ~ブリティッシュ・ハードロック全盛期を象徴する伝説的バンド
レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスらと並び、ブリティッシュ・ハード・ロック全盛時代を牽引したレジェンド・バンドと称されるユーライア・ヒープがビルボードライブへ初登場し3月に来日公演を行う。そんな彼らのデビューからの活動やその音楽性、直近でリリースした最新アルバムを引っさげて行っているツアーの模様などを振り返り、今なお現役として活躍するバンドの魅力を改めて紹介する。
ユーライア・ヒープがこの3月、来日公演を行なう。このシンプルな事実に対して「えっ、まだそのバンド続いてたの?」という反応をする人は、実は少なくないのだろう。
ブリティッシュ・ハード・ロックを象徴するバンドのひとつとして認識されているこの伝説的バンドが、ギタリストのミック・ボックスを中心としながら発足したのは1969年のこと。つまり【ウッドストック】が行なわれたのと同じ年のことであり、それからちょうど半世紀に相当する年月が経過している。今年、アメリカではその【ウッドストック】50周年を記念しての巨大フェスが開催されるとのことだが、結成50周年を迎えたユーライア・ヒープは、その大きな節目の到来に相応しいアニヴァーサリー感を前面に押し出すこともなく、むしろ例年通りに密度濃いライヴ活動を続けている。
▲Uriah Heep - "Grazed By Heaven" (Official Music Video)
長い歴史を持つバンドには解散と再結成のドラマがつきものだが、ユーライア・ヒープは一度も終わっていない。活動停止状態に追い込まれたこと、存続の危機に瀕したことはあるものの、ミック・ボックスが歩みを完全に止めてしまったことはないのだ。そのミックとともに現在このバンドに名を連ねているのは、バーニー・ショウ(vo)、フィル・ランゾン(key)、ラッセル・ギルブリック(ds)、そしてデイヴィー・リマー(b)という面々。オリジナル・メンバーはミックのみだが、バーニーとフィルが加わった1986年以降の布陣は比較的安定傾向にあると言っていい。2007年にラッセルが、2013年にデイヴィーが加わった以降は、これが不動のラインナップとなっている。
初来日公演は1973年にいち早く実現に至っており、その際に彼らは日本武道館のステージにも立っている。ただ、以降は残念ながら疎遠になり、バンドがふたたび日本上陸を果たしたのは、バーニーとフィルを擁する体制になってから5年ほどを経た1991年のことだった。以降、2010年と2016年にも彼らはこの国を訪れており、今回のジャパン・ツアーは、50年の歴史のなかで通算5回目ということになる。平均すれば10年に一度は日本の土を踏んでいる、というわけだ。
しかし驚くべきは、近年における彼らのライヴ活動の濃厚さとコンスタントさだ。2018年を例にとってみると、年間を通じての公演は約120本。しかも同年9月には、現時点での最新オリジナル作品にあたる『桃源郷(LIVING THE DREAM)』がリリースされており、つまりアルバム制作を挟んでいながらこれほどの本数を消化しているということになる。このアルバム発売当時のインタビュー記事のなかで、ミック・ボックスは、レコーディング作業に費やされたのがわずか19日間だったことを認めている。加えて、この象徴的なアルバム・タイトルの由来については「こうして活動を続けてきたなかで多くのバンドが生まれ、消えていくのを目にしてきた。自分たちとしては“いまだに夢を生きている”かのような感覚だといえるし、だからこそこの言葉が表題に相応しいと思った」と語っている。
『桃源郷』は、純然たるオリジナル作品としては通算24作目にあたるものであり、このバンドが創作面においても実にコンスタントな動きを続けてきたことを、その数字自体が証明している。そしてこの場で何よりも強調しておくべきは、この最新アルバムの充実ぶりだろう。ここに収められた10篇の最新オリジナル曲たちには、ユーライア・ヒープを特徴づけてきたさまざまな要素が封じ込められており、そこからはライヴ・バンドとして精力的な活動を絶え間なく続けてきた彼らならではの、現役感が伝わってくる。実際にずっと現役であり続けてきたバンドに対してこのような言葉を用いることは、失礼にあたるかもしれない。が、少なくともこのアルバムに、過剰なレイドバック感や“枯れ”の匂いはない。作品としての完成度を求めるあまり、ライヴ感を損なってしまうようなケースというのもロック・バンドにはあるはずだが、そこにも陥っていない。
ミック・ボックスは今作のプロデューサー/エンジニアに起用されているジェイ・ラストン(これまでにワイナリー・ドッグス、ストーン・サワー、ブラック・スター・ライダーズやヨーロッパなどの作品を手掛けている)の貢献の大きさを讃えているが、『桃源郷』を素晴らしいものにしている第一の要因が、ユーライア・ヒープという長い歴史を持つバンドが、ずっと現役であり続け、今なお現在進行形のままであるという事実にあることは疑う余地もない。このバンドならではのギターとベース、オルガンのユニゾンによる音の壁も、凝縮感のあるドラマティックさや特徴的コーラスワークも、リズム・セクションのパワー感も、まるで衰えとは無縁であり、今もその響きは瑞々しさすら感じさせる。
この『桃源郷』に伴うツアーは、2018年9月、デンマーク領フェロー諸島での公演を皮切りにスタートしている。以降、昨年のうちに42本もの公演を消化している彼らは、年末/年始のさほど長くない休暇を経たのち、2019年1月22日にフランスのパリでツアーを再開。その時点からこの3月に行なわれる東京・大阪公演までの間だけでも、実に25本ものライヴが組まれている。しかもその先には、昨年11月の来日公演も記憶に新しいジューダス・プリーストの大規模な全米ツアーに、スペシャル・ゲストとして同行することも決まっている。ちなみに今年はジューダス・プリーストもまた、このバンド名を掲げての活動開始から数えての満50年を迎えている。こうした老舗バンドが今もロードの日常を過ごし、前傾姿勢のまま走り続けているという驚異的現実に対しては、最大級の敬意を払わずにいられない。
▲『対自核』ユーライア・ヒープ
現在進行中のユーライア・ヒープのツアーは、アニヴァーサリー云々といったこととは無関係の、あくまで『桃源郷』という最新作に伴うものとして実践されている。が、そこでの具体的な演奏内容について調べてみると、このバンドの長い歴史を彩ってきた『対自核』や『悪魔と魔法使い』などをはじめとする名作群からも選曲されているのがわかる。ここ日本でも当然ながら、彼らのすべてが高密度に凝縮されたライヴ・パフォーマンスを堪能できることになるに違いない。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、そしてブラック・サバス。ユーライア・ヒープ以上に“伝説”という言葉が似つかわしいバンドも確かに存在する。が、彼らほど長きにわたり、沈黙とは無縁の活動を続けてきたバンドが他にいるだろうか?
2019年春、伝説ではなく今なお進行形であり続けているその生きざまと向き合うことのできる瞬間が到来する。その現実に、心から感謝の意を表したい。
公演情報
Uriah Heep
ビルボードライブ東京:2019/3/20(水)-21(木)
3/20 1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
3/21 1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
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ビルボードライブ大阪:2019/3/19(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
Text: 増田勇一
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