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レイ・パーカーJr.来日記念特集 『A Woman Needs Love』徹底解剖

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 80年代の黒人音楽を聴いてきた人なら誰もが知っている「A Woman Needs Love(Just Like You Do)」(1981年)や「Ghostbusters」(84年)のヒットで知られるブラック・コンテンポラリー/アーバン・ソウルの名手=レイ・パーカーJr.が、自己のバンド「Raydio」を引き連れて『ビルボードライブ』に還ってくる。それも、名作『A Woman Needs Love』(81年)をステージで再現するために! 長い間、多くのファンが待ち望んでいたコンセプチュアルなライブによって、80’sブラコン/ダンス・グルーヴの傑作が2019年の新春、東京(1月29日・30日)と大阪(26日)で響き渡るわけだ。AORの1ジャンルとして80年代の洗練されたソウル・ミュージックが再評価されている現在、その“本家本元”を生で体験できる貴重な機会だ。時空を超えてスタイリッシュに、そしてときにはセクシーに響くレイ・パーカーJr.の都会的なディスコ/ファンク、そしてメロウ・チューン。エポック・メイキングなステージになるに違いない今回のライブを前に、ここでは『A Woman Needs Love』に溶け込んでいる音楽要素を整理しながら、間近に迫った公演の聴きどころを予習したい。

モータウンに夢中な少年から一流のセッション・ギタリストへ

CD
▲『ウーマン・ニーズ・ラヴ』

 レイ・パーカーJr.は1954年、ミシガン州デトロイト生まれ。幼少時代、モータウンに夢中だった彼はティーンエイジャーの60年代、同レーベルのハウス・バンド=ファンク・ブラザースの演奏に心をときめかせていたに違いない。実際、レイはモータウンから派生したレーベル=インヴィクタス/ホットワックスから71年にリリースされたハニー・コーンの「Want Ads」(R&B1位)のレコーディングに参加。キャッチーなカッティング・ギターが大きな話題になった。また、72年には憧れのモータウンでスティーヴィ・ワンダーが制作中だった『Talking Book』に収められている「Maybe Your Baby」の録音でファンカデリックばりのサイケデリックなプレイを披露。高い評価を得ている。

 そんな彼がセッション・ギタリストとして頭角を現したのは70年代半ばのカリフォルニア。スティーヴィのバック・バンド=ワンダーラヴに参加するため西海岸に移住した彼は翌73年、バリー・ホワイトのバンド=ラヴ・アンリミテッド・オーケストラに加わって評判に。その後はチャカ・カーン、アレサ・フランクリン、デニース・ウィリアムス、ボズ・スキャッグス、ハービー・ハンコックなど、ジャンルを横断したレコーディングに参加し、評価は急上昇していった。当時のブラック・ミュージックは、いわゆる“ニュー・ソウル”の革新を経て、都会的な音楽性が支持を集め始めていた時期。ジャズから洗練された響きのコード感覚を取り入れ、ラテンやアフリカの音楽から彫りの深いリズムを導入して従来のスタイルから大きく羽ばたいたニュー・ソウルを引き継ぎながらも、決してシリアスになり過ぎず、リラックスしたムードで聴けるサウンドと歌の世界観がミュージック・シーンを席巻し始めていた。当然のことながら、音楽の核であるリズムやグルーヴの革新も急ピッチで進んでいたが、レイはそんなシーンの中心にいたと言っていい。

 この時期、まさに破竹の勢いだったレイが自身のバンド=レイディオを結成してデビューしたのが77年。翌年にシングル・カットした「Jack And Jill」が全米8位のヒットになり、ファースト・アルバムも同27位(R&B8位)と順風満帆の船出を果たした。その後、セカンドの『Rock On』(79年)からも「You Can’t Change That」が全米3位の大ヒットに。順調に作品を重ね、81年に4枚目のアルバムとしてリリースしたのが、結果的にバンド名義での最終作となった『A Woman Needs Love』だ。


▲You Can’t Change That

シリアスなメッセージ・ソングからアーバンなダンス&メロウに

 ブラック・コンテンポラリーの傑作として定評を得ている『A Woman Needs Love』が産み落とされた背景には何があったのだろう? 本作がリリースされる前の78年には「Le Freak」(おしゃれフリーク)でシックがブレイクし、翌79年にはピーチェス&ハーブの「Reunited」やアイズリー・ブラザーズの「I Wanna Be With You(Part 1)」といったロマンティックなナンバーが、そして前年(80年)にはクインシー・ジョーンズがプロデュースしたマイケル・ジャクソンの「Rock With You」やナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズが全面的にバック・アップしたダイアナ・ロスの「Upside Down」が、それぞれR&Bチャート1位に。ブラック・ミュージックのトレンドはシリアスなメッセージ・ソングから、洗練された都市の日常生活をムーディに彩る、ある意味では享楽的なアーバン・ダンス&メロウにシフトしていった。一方、非ブラックも含むAORに目を移すと、同80年にはクリストファー・クロスのデビュー作がドロップされ、「Ride Like The Wind」(全米2位)や「Never Be The Same」(同15位)がヒットしている。また、それより少し前の76年にはボズの『Silk Degrees』がリリースされ、都会的なR&Bや洗練されたファンク・ミュージックが高い人気を得ていた。

リスナーの裾野を広げた都会的なサウンド・プロダクション

 幅広いジャンルで数多のレコーディング・キャリアを積んでいたレイが、時代の空気を皮膚感覚で理解し、黒人音楽の要素を洗練させるだけでなく、AORにも目配せしたサウンドを提示してみせたのが『A Woman Needs Love』だった。全曲をレイ自身が作り、ほぼすべての楽器を演奏し、歌っていたこの時期のレイディオ。後のソロ・キャリアに繋がる内容は、同時にバンドとしての集大成的な意味合いも持っていた。

 収録された8曲に散りばめられている音楽要素を整理すると、以下のように――。

①ストリングスやシンセをフィーチャーした、エレガントで耳ざわりのいいサウンド
②都市の日常生活を体現するクールで心地好いスピード感
③ファンクのバネを宿したダンスフロア仕様のリズム/グルーヴ
④トゥインクル・タイムから翌朝までのラヴ・アフェアに代表される、雰囲気重視の歌詞とライトなヴォーカル

 キレのいいリズムと丸みを帯びたメロウな肌ざわりのサウンド、そして決して感情移入過多にならない歌声――。ヴェトナム戦争以降の“疲れたアメリカ社会”に漂っていた癒しの空気や、それに続くようにして広がっていった享楽的/刹那的な気分の受け皿として、アーバンなブラコンやAORが人種を越えて多くの人の耳に魅力的に響いたのは間違いない。


▲A Woman Needs Love

 

 

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交互に押し寄せるメロウなミディアムとスタイリッシュなダンス・チューン

 アルバムは名刺代わりの1曲と言ってもいいタイトル・ナンバーで幕を開けるが、この典型的なブラコン・サウンドがリスナーの裾野を広げたのは確かだ。その証として全米ポップ4位、R&B1位という記録が残っているわけだが、この曲で聴ける汗臭さを微塵も感じさせないロマンティックなメロディとセクシーで甘いハスキー・ヴォイスは、リリース当時、まさに“女殺し”だった。浮世を忘れさせてくれる“泡”のように軽いアトモスフェア。イントロに絡むスキャットと気だるいベースライン、そしてシンプルながらもクセになる印象的なリフに、21世紀の今も思わず耳が釘付けになる。

 雰囲気が一転してシャープなギター・カッティングが聴こえてくる「It’s Your Night」は、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったシックを多分に意識したナンバー。ナイル・ロジャースのギターが称賛され始めていた80年代初頭、リズム・アプローチに一家言を持っていたレイが自身のプライドを賭けて、キレ味バツグンのカッティングを前面に出したダンス・チューンを作ったのだろう。たっぷり隙間を残しながらも饒舌にグルーヴするベースをバックに弾きまくるレイの姿が浮かんでくる。

 冒頭のタイトル曲が漂わせていたリラックス感は、3曲目の「That Old Song」に引き継がれていく。タイトルが示す通り、追憶感覚も蘇ってくるスムース&メロウな曲想は、弦とシンセによる絹のような肌ざわりの音によって洗練され、囁くようなヴォーカルと甘酸っぱいコーラスとの絡みが、まるで性感帯を突くようにくすぐったく響いてくる。この都会的なセンスは、黒人だけでなく白人にも受け入れられた。その証拠に、R&Bチャートでは26位だったのに対し、ポップでは21位と健闘し、さらにAORチャートでは7位まで駆け上って、「A Woman Needs Love」の11位を上回るアクションを残した。この曲に漂うムードは、ボビー・コールドウェルのデビュー作(78年/イヴニング・スキャンダル)に収録されている「Take Back To Me Then」と繋がる部分が……。成熟した大人だからこそ表現できる味わい深い世界観であると同時に、ボビーのアルバムがベティ・ライトやティミー・トーマスが所属していたマイアミのレーベル『T.K.』の傍系だった『Clouds』からリリースされていることも含め、さまざまな部分でレイが刺激を受けていた可能性が大きい(ボビーのデビュー作は、彼の顔写真を出さずに黒人音楽系ラジオ局を中心にプロモーションし、そこから火が点いたという事実も)。ひょっとするとレイは、ボビーとは正反対の売り方で白人層にアピールしようと目論んでいたのでは。彼もいた70年代半ばの西海岸で活動していたこともあるボビーとのミッシング・リンク、あるいはレイとAORのミッシング・リンクと言えるかもしれない。

 続く「Get Down」は、ジーン・ペイジが仕切るストリングスの優雅な響きとグルーヴィなベース・ギターが奇跡的なコントラストで官能的に耳をくすぐる曲。また、このミディアム・ファストなBPMは都市のスピード感を連想させ、まさに都会のサウンドトラックのように聞こえるのは僕だけだろうか。

 5曲目の「You Can’t Fight What You Feel」は、再びシックを意識したナンバー。彼らの「Good Times」に酷似したベースラインが腰を直撃するが、こういうファンク感覚を色濃く残したダンス・チューンが人気だった背景にナイル&バーナードの功績があるのは確実だ。このような状況を、当時のレイはどんな気分で眺めてだろう? 曲名も含め、典型的なニューヨーク・サウンドを踏襲する彼の複雑な気持ちが伝わってくるようにも感じるのは考え過ぎか。

 再びメロウな曲想が心地好い「Old Pro」は3曲目の「That Old Song」と同様、レイの歌が雰囲気満点なミディアム・スロウ。1日の終わりを表しているかのようなダルなニュアンスの先に、摩天楼に滲むイルミネイションの瞬きが見えてくるよう。都市生活者の疲れを癒してくれるナンバーだ。

 溌剌としたビートとシンセによるグルーヴが印象的なインストの「Still In The Groove」は、まさにダンスフロア向けの楽曲。レイの面目躍如なリズム・ギターが炸裂し、中毒性の高いリフがクセになる。

 ラストの「So Into You」は、しっとりとしたアフター・ビートが気分をクールダウンしてくれるナンバーだ。ゆったりとしたブラコン・サウンドに身を任せ、ソファに沈み込みながらワインを傾けたくなる――そんな浮世離れした感覚も伝わってくる。

スタイリッシュな黒人音楽の1スタイルとして

 洗練を極めたダンス・ミュージックを含む、ブラック・コンテンポラリー/AORの名盤である『A Woman Needs Love』。各曲の詳細については、『AOR CITY 1000』シリーズの1枚として2016年に再発された本作CD(ソニー・ミュージック/SICP 4856)のライナーノーツにも記しているので、機会があれば目を通していただきたいが、閃きとキレに満ちたリズム・アレンジと、都会的な雰囲気が満載のこのアルバムを、レイは今回のステージでどのように聴かせてくれるのだろう? 収録された曲順通りに演奏していくのも一興だし、スロウからダンス・ナンバーに繋げていくのも粋だが、どのような構成にせよ、リリースから40年近くを経た今も聴かれ続けている事実が、80年代のリアル・タイムなファンとしては嬉しい。

 ノーブルで洒落たムードを放つ、セクシーかつリッチなアーバン・メロウ&ダンス・グルーヴ――このトレンドは、例えばジョージ・ベンソンが「Give Me The Night」(80年)をヒットさせたり、グローヴァー・ワシントンJr.の『Winelight』からシングル・カットした「Just The Two Of Us」(81年/クリスタルの恋人たち)でビル・ウィザースがメロウな歌を聴かせたり、マイケル・マクドナルドやドナルド・フェイゲンがソロで躍進したり(共に82年)と、ソウル/ジャズ/ロックが文字通りクロスオーバーし、フュージョンしていった“象徴”の1つだったし、黒人音楽が洗練を極めていく過程の1つだったとも言える。その影響は、ジェイムス“JT”テイラーを起用したクール&ザ・ギャングやコモドアーズから独立したライオネル・リッチー、さらにはダズ・バンドなどにまで及んでいる。

 

 

レイ・パーカーJr.&レイディオ「ウーマン・ニーズ・ラヴ」

ウーマン・ニーズ・ラヴ

2016/07/27 RELEASE
SICP-4856 ¥ 1,100(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ウーマン・ニーズ・ラヴ
  2. 02.イッツ・ユア・ナイト
  3. 03.ザット・オールド・ソング
  4. 04.ゲット・ダウン
  5. 05.ユー・キャント・ファイト・ホワット・ユー・フィール
  6. 06.オールド・プロ
  7. 07.スティル・イン・ザ・グルーヴ
  8. 08.ソー・イントゥ・ユー
  9. 09.ゲット・ダウン (Remix) <ボーナス・トラック>
  10. 10.イッツ・ユア・ナイト (7” Ver.) (Mono) <ボーナス・トラック>
  11. 11.ウーマン・ニーズ・ラヴ (7” Ver.) <ボーナス・トラック>

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