Billboard JAPAN


Special

井上三太監修『DA BEST of 90s Blazin’ Hot R&B and New Jack Swing』コンピ・インタビュー&プレイリスト



 New Jack Swing誕生30周年の2018年。ブルーノ・マーズの活躍によって火が着いた90年代前半のR&Bが音楽的に、そしてファッションなどのトレンドとして幅広い層からいま注目を集めている中、「TOKYO TRIBE」、「隣人13号」などで知られる漫画家・井上三太が選曲・監修を務めたコンピレーション『DA BEST of Blazin' Hot 90s R&B and New Jack Swing』が12月5日リリースされる。90年代から常にストリートのリアルを描く傍ら、本人もクラブDJやラッパーとしても活動するなど、日本のR&B/HIP-HOPシーンにおいて影響力を持つインフルエンサーのひとりである井上三太が、80年代末から90年代前半=R&B黄金期にフォーカスし「Upper」、「Smooth」、「Mellow」の3つのテーマに色分けして選曲、3枚組のコンピレーションとなっている。ジャケット等アートワークはすべて井上三太の描きおろし、ライナーノーツも本人が執筆を手掛けるなど、R&B、そしてNew Jack Swingへの情熱が隅々に込められている本作のリリースを記念してインタビューを行った。

 さらに、本作のために選曲した楽曲の中から、残念ながら収録できなかった楽曲をプレイリスト化、本人コメントも添えて公開する。

取材・文:林 剛

「テディ・ライリーが自分にとって神様だってことを伝えたかった」

 映画化された『TOKYO TRIBE』や『隣人13号』などで知られる漫画家の井上三太氏がR&Bやヒップホップに造詣が深いことはよく知られている。デ・ラ・ソウル『Art Official Intelligence: Mosaic Thump』(2000年)の日本盤ジャケットを描いたことも有名で、時にはDJやラップもやる。そんな三太氏(1968年生まれ)がかつて貪るように聴いていた80年代末から90年代のR&B(ヒップホップも含む)をCD3枚組のヴォリュームでコンパイルしたのが『Da Best of 90s - Blazin Hot 90’s R&B and New Jack Swing』だ。ジャケットなどのアートワークはすべて氏によるもので、TLC、SWV、モニカ、アリーヤ、ブランディ、エクスケイプ、R.ケリー、ハイ・ファイヴ、ジョーなど、90s R&Bを代表するアーティストの曲がリミックスも含めて並ぶ。タイトルにもあるように、とりわけ氏に大きな影響を与えたのが、ガイ/ブラックストリートを率いたテディ・ライリーを始祖とするニュー・ジャック・スウィング(以下“NJS”)。ブルーノ・マーズ“Finesse”のヒットを機に、生誕30周年を迎えたNJSがリバイバルとなっているタイミングで出すコンピは氏にとっても感慨深いものだったようだ。

 「テディ・ライリーが自分にとって神様だってことを伝えたかったんですよ。僕は20歳前後にレンタル・ヴィデオ/CDショップでバイトをしてたんだけど、当時はNJSを全部聴きたいと思っていたくらいで。聴いていくと、好きな作品には“アップタウン”とか“MCA”、あと“ルイル・サイラスJr.”のクレジットが入っていた。だから今回のコンピは、20歳の時にこういう音楽を聴いていた自分に50歳になったおじさんが“お前は間違ってなかった”っていう、青春の答え合わせみたいなもの。テディ・ライリーとは彼がビルボードライブ東京にブラックストリートのライヴで来日した時(2009年)に会っていて、自分のアパレル会社(Santastic!)で作ったゴールドチェーンをせがまれて...安いもんじゃないけど“青春代”ってことで渡しましたね(笑)」

 とはいえ、通常のNJSコンピには必ず入るガイやボビー・ブラウンの常連曲は入れていない。青春時代の思い出を反芻しつつも、今の自分にとって新鮮な曲を優先した結果だ。何しろコンピの冒頭からしてトニー・テリーの“Bad Girl”(90年)とくる。これを含め、ズィー・ルック“I Wan U 4 Myself”(91年)やアーツ&クラフツ“All Of It”(93年)など、一般的にはそれほど知名度の高くない曲にも光を当てた。諸事情で僅かしか出回らなかったア・フュー・グッド・メン『A Thang For You』(94年)から“Chillin’”が収録されているのも貴重だろう。

 「30年近く光が当たらなかったけど、自分の“心のベスト10”に入っていた曲に自分なりの価値観を見出して、愛したいっていうか。戦場に散っていった名もなき天才、漫画家にもいるんですけど、そういう墓標に名前が刻まれないような戦士たちを入れたかった。全然売れなかったけど俺は大好きだよっていうね。NJSやR&Bのコンピっていろいろあると思うんですけど、自分が買う時に、聴いたことのない曲、もっと知らないカードを見せてくれって思うことがあるんです。だから、今回はストリーミング・サーヴィスに入っていない曲も入れたんですよ」

 NJSブーム末期にはテディ・ライリーやLA&ベイビーフェイスの作法を真似た二番煎じ的な曲も多く登場したが、三太氏は「そういう志の低いものも愛している」という。当時のR&Bは好きな曲ばかりなので、例えば「ジャーメイン・デュプリ主宰のソー・ソー・デフからはどの曲を入れようか?」など、選曲にはかなり時間がかかったようだ。そんな中、テディ・ライリー以外に今回のコンピで愛着を示したかったのがフル・フォースとトゥループ。特に“Ain’t My Type Of Hype”(89年)などが収録されたフル・フォースには格別の思い入れがある。


▲フル・フォース - Ain’t My Type Of Hype

 「87年のアルバム『Guess Who's Comin' To The Crib?』を初めて聴いた時にフル・フォースってカッコいいなと思って。その時既に売れていたリサ・リサ&カルト・ジャムもそうだけど、フル・フォースがプロデュースする曲を全部聴くぞ、と。ジェイムズ・ブラウン『I’m Real』(88年)のプロデュースなんか最高ですよね。彼らはラップがちょっと古臭いけど、それも含めてファンクというか、古きに学ぶ…みたいなところもいいね。松尾潔さんも言っていたけど、リヴァートとともにヒップホップとR&Bの架け橋となったのがフル・フォースだった」

 かくしてヒップホップとの境界線が薄れていった90年代のR&Bはストリートと直結し、ブラック・コミュニティを越えて全米の若者を熱狂させた。日本では、氏が言うように「TLCがいくら流行ってもR&Bが音楽の中心になることはなかった」が、それを“使って”きた人も少なくない。そんなR&Bの特性を踏まえて今回のコンピは、3枚のディスクを〈Upper〉〈Smooth〉〈Mellow〉と色分けしている。



NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 「今回はジャケットを書き下ろして、デザインも凝ったものにしました」
  3. Next >

「今回はジャケットを書き下ろして、デザインも凝ったものにしました」

  「ダンス・ミュージックを作っても踊れなかったり、セクシーな気分にさせたいと思ってもエッチな気持ちにならないんだとしたら、それは作ったアーティストの負け。でも、ここにあるのはそういう効能がある曲。〈Upper〉編にもスムーズな曲はあるし、〈Smooth〉編にもメロウな曲はあるけど、友達や恋人とのドライブでもいいから、とにかく使ってほしい。できれば、どう生活の中で使われているかも見てみたい」

 こうした思いは、氏が2017年末に生活と仕事の拠点をLAに移したこととも少なからず関係しているのだろう。例えば〈Mellow〉編に収録したC+Cミュージック・ファクトリーの“Take A Toke”(94年)はLAでサンセットの時間帯にドライブしている時とてもマッチするそうで、“Gonna Make You Sweat (Everybody Dance Now)”(90年)のようなバキバキのダンス・ナンバーのイメージが強いC+Cにも、こんなオーセンティックでメロウなR&Bがあったことを伝えたかったという。一方、「バブル期の日本で、20歳の頃に自分よりちょっと年上の大人たちが車の中で聴く“ブラコン”と呼ばれていたようなアーベインな音楽」の代表として、アレクサンダー・オニールやメアリー・デイヴィスのようなタブー音源も収録した。今回は、サントラ『Life』(99年)からR.ケリーが制作したマックスウェルの“Fortunate”もめでたく収録されたが、これもR&Bのメロウネスを体現したような曲だろう。

 「マックスウェルの声って気持ちいいシルクのベッドみたいな声ですよね。全てが良い夜っていうか、綺麗な服を着て素敵な女性を迎えに行く高級車がホテルの玄関に音もなくスッと入ってきて、車のドアの開け閉めの音さえ遮断された場景みたいなのが目に浮かぶんですよね」


▲マックスウェル - Fortunate

 今やストリーミング・サーヴィスで自分のプレイリストを公開すれば済む時代だが、そこで今回、あえてモノとしてコンピを作った理由はこうだ。

 「CDを買ってもらうことに対する付加価値として、今回はジャケットを書き下ろして、デザインも凝ったものにしました。そのためにプラケースを3枚組の分厚いやつ(24mm厚)にしてもらって、それは(24mm厚のケースに入っていた)ノトーリアスBIGの遺作『Life After Death』(97年)へのオマージュでもあるんだけど、90年代を通過してきた者としての“モノ感”への愛着というかね。CDとかアナログを買っていくと部屋の中がどんどん狭くなっていく。でも、そのモノ自体に小さい神様が宿っていると思うんですよ。曲をハードディスクに入れておけば部屋はスッキリするし、ミニマリストみたいに断捨離していくのもクールなんだけど、思想家の家に本がいっぱいあるように、たくさんレコードがあるような人、不器用に生きている感じが自分にとっては魅力的で。例えば、この先5年間はデータでいいかもしれないけど、今日買った曲をハードディスクに入れて15年後に思い出すかというと、忘れちゃってると思うんですよ。だから、分厚いCDにしてモノとしての存在感を持たせたかったんですよね。あと、漫画家がこういうコンピを作ったということで、“2018年の永井博”になりたいという(笑)」

 “漫画家・井上三太”にとっても、イラストを発表する場はネットの画面では物足りない。

 「漫画でも、書店が棚に置きやすいサイズの本を作れば喜ばれるけど、こっちが棚に合わせるんじゃなくて、棚の方が作家に合わせろと思ってるの。自分の本が出たら、書店がそれに合わせた棚を作らざるをえないくらいにならないと」

 この3枚組もレコード・ショップで幅を利かせているはずだ。



NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 残念ながらコンピに収録できなかった楽曲プレイリスト
  3. Next >

01. The Best Things In Life Are Free - Luther Vandross and Janet Jackson with Special Guests BBD and Ralph Tresvant

Jam&Lewisが丸々指揮したサントラより豪華な布陣によるアッパー。


02. Money Can't Buy You Love - Ralph Tresvant

ラルフとジャム&ルイスのケミストリーもいい感じ。


03. DJ Keep Playin’ - Yvette Michele

こういった曲がよく渋谷のクラブやレコード屋で流行ってたけど、どこかに消えてしまった。


04. Get It Up - TLC

The Timeの曲をTLCがファンキーに料理してる。


05. ANYTHING (Remix) - SWV ft. Wu-Tang Clan

ODBが存命の時のWu TangとSWV。楽しいリミックス。


06. Can We Talk - shiro

士郎でも四郎でもないけどShiro。でも男性じゃないです。時代に散った徒花。


07. Fantasy - Mariah Carey, Ol' Dirty Bastard

今年も元気にニューアルバムをドロップしたおマラのODBとの傑作Remix。


08. Free - For Real

この静かな佳作をどうしてもコンピに入れたかったが、許可が下りなかった・(>_<)・゜。


09. Alright - Kris Kross

ジャーメイン・デュプリのsoulに対するセンスのよさが見える。


10. Mackin’ ain’t Easy - Kris Kross

クリスクロスのジャケ、原爆投下の写真を使ってて日本では写真差し替えになったんですよね


11. A Rose Is Still A Rose - Aretha Franklin

女王アレサとローリン・ヒルの組み合わせ。


12. Thank God I Found You - Make It Last remix - Mariah Carey, Joe, Nas

キース・スエットの替え歌をマライヤがJoeとか呼んで来て豪華にやっているリミックス。豪華盛り、全部のせ。




Billboard JAPANのApple Musicプレイリストはこちらから>>>

関連キーワード

TAG

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    櫻坂46、躍進した2024年の集大成を魅せたグループ4周年ライブでZOZOマリン史上最大となる72,000人を動員

  2. 2

    <インタビュー>YUTA(NCT) ミニアルバム『Depth』に込めたソロアーティストとしての挑戦――「たくさんの経験があったから今がある」

  3. 3

    和楽器バンド、活休前最後のツアーが開幕 10年分の感謝をこめた渾身のステージ

  4. 4

    JO1、ワールドツアー開催を発表「ここから世界に羽ばたいていきます」

  5. 5

    <インタビュー>米津玄師 新曲「Azalea」で向き合った、恋愛における“距離”――「愛情」の源にある“剥き身の生”とは

HOT IMAGES

注目の画像