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特集:夏川りみ~代表曲「涙そうそう」誕生から現在まで

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 一ヒット曲というよりも、国民的な歌のひとつとなった「涙そうそう」。この名曲を大ヒットへと導いたのが、夏川りみである。沖縄の歌手が沖縄の歌をうたうという単純な図式だけでは、このヒットは生まれなかったし、そこに至る様々な紆余曲折が絡み合ったからこそ、彼女は素晴らしいシンガーとして成長した。ここでは、代表曲「涙そうそう」を軸に、彼女の魅力に迫ってみたい。

 夏川りみは、沖縄県の石垣島出身。幼い頃より歌が上手で、父親の指導により毎日2時間練習していたという。9歳の時に地元ののど自慢大会で優勝したのを皮切りに、全国各地で様々な大会に出場して入賞。1986年の長崎歌謡祭では、中学1年生にして史上最年少でグランプリを獲得する。これをきっかけにスカウトされ上京し、1989年に「星美里」という芸名で歌手デビューを果たした。しかし、演歌歌手としてのデビューであり、評価は高かったがヒットに恵まれず、数年で沖縄に戻ってしまう。

 運気が変わったのは、1999年に入ってから。演歌歌手として活動していた時のディレクターが独立し、彼女のマネージメントを買って出る。この時に、芸名を「夏川りみ」に変え、再び上京しビクターからシングル「夕映えにゆれて」で再デビューした。この曲はそれほど話題にならなかったが、翌2000年発表の2作目のシングル「花になる」は、NHKラジオ『新ラジオ歌謡』で使用されて話題になり、卒業式で歌われるようになった。その勢いで発表されたのが、3作目のシングル「涙そうそう」である。

CD
▲「涙そうそう」

 この「涙そうそう」には、ちょっとしたドラマがある。もともとこの曲は、森山良子がBEGINに楽曲を発注したことから始まっている。沖縄のライヴで親交を深めたことをきっかけに、BEGINがデモテープを作り森山が作詞した。ただ当初は、倉本聰や谷川俊太郎など錚々たる作家による楽曲を集めた森山のアルバム『TIME IS LONELY』(1998年)の中の一曲でしかなかった。それを、BEGINが2000年にセルフ・カヴァーし、シングルで発表する。しかしこれもそれほどヒットせず、あくまでも彼らのレパートリーのひとつであって、それほど大きな広がりにはならなかった。

 この「涙そうそう」は、再デビューして悪戦苦闘していた夏川に“再発見”されることになる。2000年に行われた沖縄サミットにおいて、BEGINはこの曲を披露したが、そのテレビ中継された様子をたまたま見ていた夏川は、どうしても自分で歌いたいと強く思う。そんな夏川にBEGINは新曲を書き下ろしたが、彼女はどうしても「涙そうそう」にこだわった。そして、念願叶って、2001年3月にシングルがリリースされるのである。

 最初は沖縄で火が付き徐々に全国へ広がっていった「涙そうそう」のパワーは、まさに心を揺さぶる歌詞とノスタルジックなメロディ、そして情感を込めた歌が三位一体によるものだ。けっして一気に売れたわけではないが、ロングセールスを続け、いつしか100万枚を突破。2002年末には日本レコード大賞の金賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場した。さらには多くのアーティストがカヴァーするようになり、なかでもハワイのケアリイ・レイシェルが現地語でカヴァーした「カ・ノホナ・ピリカイ」は、ハワイのグラミー賞といわれるナ・ホク・ハノハノ・アワードを受賞したことで、海外でも通じる楽曲であることを証明した。

CD
▲『あしたの子守唄』

 夏川は、この曲で一気に音楽シーンの第一線に立つことになった。6度に渡るNHK紅白歌合戦の出場、台湾、韓国、上海などアジア各国でのコンサートの成功、年末の一大イベント「第九ひろしま2015」へのゲスト出演など、その後の活躍ぶりは目覚ましいが、あせらず地道にキャリアを歩んでいるという印象だ。彼女は沖縄出身だが、あくまでもポップスのヴォーカリストである。自身のレパートリーも、沖縄の民謡から洋楽のカヴァーまで幅広い。ゲストやトリビュート・アルバムなどに声がかかるのも、その声の魅力と柔軟な姿勢だろう。イタリアのアンドレア・ボチェッリやブラジルのセルジオ・メンデスと共演するなど、世界を股にかけて魅了しているのもさすがだ。

 夏川りみにとって、2018年は再デビュー20周年を迎えようとしている記念すべきタイミングだ。アニバーサリ・ツアー“みーふぁいゆー”も間もなく始まろうとしている。出世曲となった「涙そうそう」を始め、これまで育んできた数々の歌がどう表現されるのかが、このツアーの聴きどころだろう。この機会に、ぜひ日本を代表する稀有な歌声に酔いしれていただきたい。

 

 

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