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マライア・キャリー『コーション』発売記念特集~全米アルバム・チャート初登場TOP5入りを果たした最新作を解く
2015年に移籍したソニー系メジャー・レーベルのエピック・レコードから、初のオリジナル・アルバム『コーション』を2018年11月16日リリースした、マライア・キャリー。全米アルバム・チャートでは初登場5位を記録し、1990年のデビュー・アルバム『マライア』以降すべてのオリジナル・アルバムがTOP10入りを果たすという快挙を成し遂げている。本作は、アイランド在籍最後のアルバム『ミー。アイ・アム・マライア』(2014年)からおよそ4年ぶり、通算15作目となるスタジオ・アルバムで、移籍後に発表したベスト盤『#1 インフィニティ』以来のアルバム・リリースとなる。ファンからは「ようやくマライアが帰ってきた!」、「女王の復帰を待ち望んだ」など、多くのコメントがSNSに寄せられた。
そんな彼女が一足早くクリスマス・プレゼントとして届けてくれた待望の新作『コーション』は、「復帰を待ち望んだ」ファンの期待に添えるべく意欲作。リリース前に公開された“青いマライア”がインパクト絶大のカバー・アートからも、これまでの14作とはテイストの違う、“責め”の姿勢がうかがえる。全11曲・トータル42分(輸入盤は10曲・38分)と小粒ながらも、1曲1曲に注いだ情熱を感じられる内容になっている。そんな新作『コーション』の魅力について、アルバムの詳細と共に紹介していく。
今を時めく売れっ子“ヒットメイカー”たちと形成した最新作
本作の発売日である11月中盤から12月末までの“ホリデー・シーズン”といえば、マライア。1994年10月にリリースした「恋人たちのクリスマス」は、歴代のクリスマス・ソングの中で最もヒットした定番中の定番曲として、世界中で愛され続けている。『コーション』が初登場5位にデビューした2018年12月1日付ソング・チャートでは、29位にリエントリーを果たし、今年もクリスマス・ウィークまでセールス、ストリーミング、エアプレイの主要チャートを上昇する。94年のリリース当初から徐々に人気が拡大し、2016年12月のチャートでは9位に、22年越しのTOP10入りを果たした。アメリカでは300万枚、日本ではドラマ『29歳のクリスマス』の主題歌に起用されたことで、洋楽のシングルとしては異例の120万枚を突破する大ヒットを記録。ワールド・セールスは1,400万枚を超え、ミュージック・ビデオも4億4,000万再生という驚異的な数字を叩き出している。ジャスティン・ビーバーが2011年にリリースしたクリスマス・アルバム『アンダー・ザ・ミスルトウ』収録のデュエット・バージョンはじめ、アリアナ・グランデ、フィフス・ハーモニー、マイケル・ブーブレなど、人気アーティストのカバーも絶えない。同時に、「恋人たちのクリスマス」 が収録されたアルバム『メリー・クリスマス』(1994年)も売り上げを伸ばしはじめ、クリスマス・シーズンから年末にかけてはショーやイベントを毎年開催するなど、このシーズンのマライアは大忙しだ。2018年の冬も、またマライアが世界各国のホリデー・シーズンを彩ってくれるのだろう。
▲Mariah Carey - All I Want For Christmas Is You
そんなマライアが届けてくれた最新作『コーション』は、アルバムの発表にあたり、トータル・プロデュースを大ヒット作『MIMI』(2005年)を手がけたL.A.リードが担当する、との説も浮上したが、彼の名前はクレジットされておらず、マライア本人と今を時めく売れっ子“ヒットメイカー”たちが作品を形成した。ゲストは、ポスト・マローンとタッグを組んだ「サイコ」が全米No,1を獲得したタイ・ダラー・サイン、共に90年代のブラック・ミュージック・シーンを盛り上げたスリック・リック、今年リリースしたアルバム『ニグロ・スワン』が話題を呼んだ、デヴ・ハインズによるソロ・プロジェクト=ブラッド・オレンジ、そして、リル・ベイビーとコラボしたアルバム『ドリップ・ハーダー』が大ヒット中の若手ラッパー、ガンナという面子。また、日本盤(配信)には宇多田ヒカルの大ヒット・アルバム『Fantôme』(2016年)の参加で大注目されたヒップホップ・アーティスト=KOHH(コー)がフューチャーされた「ラウンウェイ」のリミックスも収録されている。
アルバムの冒頭を飾るのは、9月に先行トラックとして公開された「GTFO」。ドレイク、リアーナ、ニッキー・ミナージュなどのトップ・アーティストを多数手がけるナインティーン・エイティファイヴによるプロデュースで、ソングライターには、ドイツ・ベルリン出身の女性シンガーソングライター=ビビ・ブレリー(カミラ・カベロ、リアーナ等)の名前もある。レディー・ガガなどのリミックスを手掛けるアトランタの人気DJ、ポーター・ロビンソンの「グッドバイ・トゥ・ア・ワールド」(2014年)をネタ使いした、アダルトR&Bで、「Get The Fuck Out (失せて)」を意味するタイトルの如く、「あなたのせいで失望させられたまま / 荷物をまとめて出て行って!」と歌う、元恋人への気持ちが憎悪と怒りを綴った内容。愛犬もカメオ出演したミュージック・ビデオでは、美しくも睨みつけて歌う(ような)マライアの演出が光る。同曲は、世界20カ国の iTunesチャートで1位を獲得した。
▲Mariah Carey - GTFO
この曲から、同 iTunesチャートで世界13カ国の1位をマークした先行シングル「ウィズ・ユー」に繋ぐ。こちらは、昨今のR&B~ヒップホップ・アーティストのヒットに欠かせないヒットメイカー=DJ マスタードによるプロデュースで、マライアがお得意とする、歌い上げ系の伸びやかなバラード曲。「ヒーロー」(1993年)や「ウィ・ビロング・トゥゲザー」(2005年)といったNo,1ヒットともまた違う、年齢と経験を重ねたからこそ醸し出せる“味”がある。困難な状況を迎えても、愛の力で乗り切るという、まさに今の彼女の状況を歌った歌詞の説得力も抜群。ハリウッドで撮影されたアーバンなミュージック・ビデオもすばらしく、10年ぶりに出演した【アメリカン・ミュージック・アワード 2018】でのパフォーマンスが大反響を呼んだのも納得できる。
▲Mariah Carey - With You
3曲目の「コーション」は、日本でいう西野カナの「トリセツ」的な(?)、自身の取り扱いについて歌った“女王らしい”リリックのR&B。サウンド的には2000年代初期の作品に近い感じで、タイトル曲としてはインパクトに欠けるが、噛めば噛むほど…のスルメ系で、リフレインする「コーション、コーション…」が頭にこびりつく。プロデュースは、シカゴ出身のトラックメイカー=No I.D.。カニエ・ウェイストの「ハートレス」(2008年/2位)や、ジェイ・Zの「ラン・ディス・タウン」(2009年/2位)などを大ヒットさせたベテランだ。彼らしからぬ、という感じも否めないが、そこはマライアにフィットしたサウンドに仕立てたのだろう。
▲Mariah Carey - Caution (Audio)
軽快なエレクトロ・サウンドのイントロではじまる「ア・ノー・ノー」は、フィーメール・ラッパーの代表格=リル・キムのクラシック・ナンバー「クラッシュ・オン・ユー」(1996年)をサンプリングした、90'sヒップホップを再現したナンバー。その世代の方には、懐かしくも聴こえるはず。フューチャリングにはクレジットされていないが、原曲にあるビギーのラップもバックに使われている。プロデュースは、同96年にマライアの「オールウェイズ・ビー・マイ・ベイビー」を全米1位に送り込んだ、ジャーメイン・デュプリが担当。
▲Mariah Carey - A No No (Audio)
アルバム発売直前に先立って公開された、タイ・ダラー・サインとのコラボ・ソング「ザ・ディスタンス」 では、ラップを絡めたコーラスにファルセット、低音と高音の高低差と類稀なマライアのボーカル・スキルを思う存分堪能することができる。タイ・ダラー・サインの登場も、わずかながら存在感を放っている。彼もまた、唯一無二の声質をもつ貴重なアーティストの一人だ。プロデュース/制作は、グラミー受賞から大物アーティストのプロデュースまで手掛ける、エレクトロ・シーンのトップ・アーティスト、スクリレックス。一般的には2015年に全米最高8位をマークした「ホウェア・アー・ユー・ナウ」(ディプロ&ジャスティン・ビーバーとのコラボ)で知られているが、この曲は「ホウェア~」路線ではなく、マライアとの整合感を重視したサウンドを生み出している。
▲The Distance (Live on The Tonight Show Starring Jimmy Fallon)
リリース情報
『コーション』
- マライア・キャリー
- NOW ON SALE
- 国内盤 | SICP-5996
- ※日本限定ボーナス・トラック1曲収録
- ※初回仕様限定オリジナル・ステッカー封入
- [定価:¥ 2,592(tax in.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
<収録曲>
01.GTFO
02.ウィズ・ユー
03.コーション
04.ア・ノー・ノー
05.ザ・ディスタンス feat.タイ・ダラー・サイン
06.ギヴィング・ミー・ライフ feat.スリック・リック&ブラッド・オレンジ
07.ワン・モー・ゲン
08.エイス・グレイド
09.ステイ・ロング・ラヴ・ユー feat.ガンナ
10.ポートレイト
11.ランウェイ (日本限定ボーナス・トラック)(国内盤CD+国内盤配信)
12.ランウェイ feat. KOHH ★日本限定ボーナス・トラック(国内盤配信のみ)
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Text: 本家一成
「軽快な曲から心情を綴った深い曲まで、ファンの求める作品を心血を注いで作った」
主にブラッド・オレンジこと デヴ・ハインズがプロデュースした「ギヴィング・ミー・ライフ」も、昔懐かしいヒップホップ・サウンドをベースとしたマライア“らしい”トラック・。当然、スリック・リックのラップもしっくりハマる。単調な旋律を淡々と歌っているようで、想いを寄せる相手について綴ったドラマティックな展開が聴きどころ。もしかしたら、恋愛とは違う“誰か”なのかもしれない。この曲も、初聴は然程インパクトに残らなかったが、何度もリピートする中でフックが脳裏をよぎる、いわゆる中毒系といえる。デヴ・ハインズっぽさも所々に表れていて◎。マライアも、本作の中で最もお気に入りとして挙げていて、次のシングルになる可能性も高い、とのこと。
▲Mariah Carey - Giving Me Life (Audio) ft. Slick Rick, Blood Orange
ピアノの奏ではじまる「ワン・モー・ゲン」は、リアーナの「ラブ・オン・ザ・ブレイン」(2016年)を大ヒットさせたノルウェー出身の音楽プロデューサー=フレッド・ボールによる、90年代風のミッド・チューン。また、今年リリースされたヒップホップ・アルバムの代表作ともいえる、トラヴィス・スコットの『アストロワールド』に参加したワンダガールの名前もクレジットされている。浮遊感漂うサウンドに、マライアのファルセットを乗せたスウィートなナンバー。儚い想いを優しく歌うマライアのボーカル・ワークは見事としかいいようがない。ティンバランドがプロデュースした次曲「エイス・グレイド」も同路線のミディアムで、本作はこういったライト・メロウなボーカル・ナンバーで統一されている。
▲Mariah Carey - One Mo' Gen (Audio)
一方、マライア以上のインパクトでフロウを聴かせる、ガンマが参加した「ステイ・ロング・ラヴ・ユー」は、スウィートな本作の中でも“ハード”寄りなナンバー。ガンマの存在も大きいだろうが、マライアも自身のスタイルに基づいた歌唱とヒップホップ感覚を見事に溶け合わせている。同曲は、3曲の全米TOP10ヒットを輩出したブルーノ・マーズの大ヒットアルバム『24K・マジック』(2016年)をプロデュースした音楽プロダクション=ザ・ステレオタイプスが手掛けたナンバーで、昨今の流行からみて、もっともシングル向きのタイトルといえる(ガンマの起用も含めて)。
▲Mariah Carey - Stay Long Love You (Audio) ft. Gunna
そんな流行を一切無視したかのようなゴスペル・バラード「ポートレイト」で締めくくる本作。余計な音は用いず、ピアノの伴奏のみで仕上げたスタイルは、初期の作品からアイランド移籍後のアルバムにも共通しているもので、マライア・キャリーの真骨頂とはまさにこの曲のようなスタイルといえるだろう。ピアノの伴奏とプロデュースを担当したのは、ツアーにも参加したダニエル・ムーアというアーティストで、困難な道を前進する歌詞の世界観を見事、サウンドとして表現した。新作にも起用したということは、ツアーでの活躍が高く評価されたのだろう。
▲Mariah Carey - Portrait (Audio)
日本限定ボーナス・トラックとして収録された「ラウンウェイ」は、自身について歌った曲というよりは、ファンやリスナーに向けられた応援歌的なナンバー。自らの経験も含め、「困難を乗り越えて飛び立つの」と後押ししてくれるリリックに、スクリレックスが手掛けたポップなサウンドがはまる。前述にもあるように、日本盤にはジャパニーズ・ラッパーのKOHHがフューチャーされていて、マライアの曲に日本語のラップが乗っかるというのは、なんとも斬新というか、これもまた新しい試みで面白い。
衝撃のデビュー・アルバム『マライア』(1990年)や、第2次ブレイクを果たした『MIMI』のような凄まじいインパクトはないが、個人的にはアイランド移籍後初のアルバム『チャームブレスレット』(2002年)のような、地味だがアーティストとしての信念みたいなものを感じるアルバムだと解釈した。マライア自身も「軽快な曲から心情を綴った深い曲まで、ファンの求める作品を心血を注いで作った」と公言しただけはある。ということは、マライアの第3次ブレイクは間もなく…?そういった期待を感じさせてくれるアルバムだと、断言しよう。10月29日~11月1日に開催されたジャパン・ツアーでも、「前回の来日とはまったく違う素晴らしいパフォーマンスだった」と絶賛されていただけに、彼女の“勝負”はこれからだ。
リリース情報
『コーション』
- マライア・キャリー
- NOW ON SALE
- 国内盤 | SICP-5996
- ※日本限定ボーナス・トラック1曲収録
- ※初回仕様限定オリジナル・ステッカー封入
- [定価:¥ 2,592(tax in.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
<収録曲>
01.GTFO
02.ウィズ・ユー
03.コーション
04.ア・ノー・ノー
05.ザ・ディスタンス feat.タイ・ダラー・サイン
06.ギヴィング・ミー・ライフ feat.スリック・リック&ブラッド・オレンジ
07.ワン・モー・ゲン
08.エイス・グレイド
09.ステイ・ロング・ラヴ・ユー feat.ガンナ
10.ポートレイト
11.ランウェイ (日本限定ボーナス・トラック)(国内盤CD+国内盤配信)
12.ランウェイ feat. KOHH ★日本限定ボーナス・トラック(国内盤配信のみ)
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Text: 本家一成
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