Billboard JAPAN


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クリストファー・チュウ(POP ETC)× 尾崎雄貴(Bird Bear Hare and Fish)スペシャル対談インタビュー



POP ETC

 2018年10月3日、2年振りのオリジナル・アルバムにして日本への愛を込めた作品『ハーフ』をリリースしたPOP ETC(ポップ・エトセトラ)。10月16日に単独公演、その翌日17日にはミニライブとサイン会を東京で開催した彼らは、19日には盟友=Bird Bear Hare and Fishの初ツアー【Moon Boots Tour 2018】ファイナル公演に、スペシャル・ゲストとして参加した。Billboard JAPANは、この来日中、POP ETCのソングライターにしてフロントマン、クリストファー・チュウと、Bird Bear Hare and Fishの尾崎雄貴に対談形式のインタビューを実施。2人のこれまでの関わりや共通点、新作『ハーフ』に収録されている共作曲「We'll Be OK」についてなど、様々なトピックスについて語ってもらった。5年以上の長きに渡って真摯な関係を築いてきた2人ならではの、興味深いやり取りとなった。

「アメリカとは全然違うシリアスさがあって感銘を受けました。」

−−普段はどういう形でコミュニケーションを取ることが多いんですか?

クリストファー・チュウ(以下:クリス):僕が日本に来るときは、こういう形で対談させて貰うことが多いですね。普段はLINEでやり取りしています。

−−LINEの会話は日本語と英語のどちらで?

尾崎雄貴(以下:尾崎):ほぼ日本語です。クリスは日本語で打てるので。後は『スターウォーズ』とかのスタンプを上手く活用したりして。

クリス:最初は今ほど日本語が得意じゃなかったから、翻訳アプリとかを使っていました。

尾崎:ひらがなも多かったよね。今は漢字で送っても全然大丈夫。

クリス:(日本語で)でも、まだ読めない(笑)。


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−−クリスさんが日本に頻繁に来るようになったのは2010年以降ですよね?

クリス:『ビッグ・エコー』の後だから、2011年くらいですね。最初は年に2回くらい、自分のバンドのプロモーションのために来ていたけど、4年前くらいからGalileo Galileiや、他の日本のーティストの作品にも関わるようになって、頻繁に来るようになりました。

−−日本語をよく使うようになったのも、そのくらいの時期から?

CD
▲『ALARMS』

クリス:Galileo Galileiの『ALARMS』のプロデュースをしたときに彼らが教えてくれたのが、きっかけで上達していきました。コントロールルームから、(尾崎)和樹がよく「了解です!」って叫んでいて、覚えてよく使うようになりました(笑)。

−−クリスさんはそれまでにバンドのプロデュース経験はあったんですか?

クリス:当時は自分たちのツアーで世界中を廻っていて、1年間200~250本近くライブしていたので、他人をプロデュースするということはあまりやってませんでした。でも、その前にはスタジオで働いていた時期もあって、その頃にミニチュア・タイガースというバンドのプロデュースをしたことはありました。

尾崎:僕は本当にファンで、モーニング・ベンダーズもミニチュア・タイガースも、どちらも好きで、そこの関わりも知っていたので、プロデュースをお願いする時には、そういった話も聞きたいと思っていました。クリスがスタジオで働いていたことは後から知ったんですけど。『ALARMS』で日本のレコーディング・スタジオに一緒に入って、最初は機材のこととかですれ違いが生じるかなと思っていたんですけど、クリスがよく知ってくれていたので、そんなこともなくて。その頃は、僕らの方はスタジオ・レコーディングについての知識はあまりなかったので、その部分についても、クリスからすごく影響を受けました。今思い返しても良いマッチングだったなと思います。

クリス:最初に一緒にレコーディングした時にびっくりしたのは、彼らが今よりもすごく若くて、和樹なんてまだ十代だったのに、みんなすごくプロフェッショナルで、楽器や音楽に関してシリアスに向き合っていたこと。アメリカとは全然違うシリアスさがあって感銘を受けました。


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尾崎:当時は、ずっと幼なじみの3人で音楽の研究をやっていて、クリスたちと出会ったきっかけもその研究からでした。3人とも、まさか実現すると思っていなかったレコーディングだったので、何が何でも成功させて良いものを作りたいという感じでしたね。

クリス:本当にそうだったよね。レコーディングが終わって、飲みに行った時に、初めてみんながガードを緩めたように感じて、それもすごく楽しかったな。

−−初めて年齢相応に見えた?

クリス:そう! 和樹はちょうど二十歳を迎えて、初めてお酒を飲んだんだよね(笑)。それも記念すべきタイミングだったね。

尾崎:初めて和樹が二日酔いになった日(笑)。

クリス:でも、次に会った時、あんなに純粋だった和樹が髭を生やして、タバコも吸うようになっていて、突然10歳くらい歳をとったような感じで……それも衝撃的だったな(笑)。



▲POP ETC - Broken Record (Official Video)


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「クリスと関わることで、洋楽をもっとリアルに感じられるようになったんです。」

CD
▲『MOON BOOTS』

−−話は戻りますが、クリスさんと出会った頃、尾崎さんたちがスタジオ・レコーディングについてそこまで詳しくなかったというお話は、改めて興味深いなと思いました。というのも、BBHFの最新作の『MOON BOOTS』は、バンドの演奏とプログラミングに加えて、レコーディングの技術的な部分が全て組み合わさったような作品ですよね。もちろん、クリスさんも関わっているとは言え、そういう作品に至るまでに、機材のことにそれほど詳しくなかった当時からクリスさんの影響を受けてきたということは、すごく大きなことのように思います。

尾崎:そうですね。その頃は今よりもずっと若くて、他のメンバーと一緒に住んで音楽を研究して、自分たちの音楽性を煮詰めていたので、今よりもずっと前のめりでした。クリスにも「日本語と英語は違うから!」みたいなことも変に説明し過ぎていて……。今でも覚えているのは、「日本語と英語の差を今回のコラボレーションで埋めたい。それができたら面白いものができると思う」みたいな長文のメールをクリスに送っていて……。今思うと、ちょっと前のめり過ぎたかな、とも思います(苦笑)。

クリス:その時のことはよく覚えているよ。でも、個人的にはそれがすごく良かったんだ。そこから皆が成長をしてきたのも見ているし、自信がついた今の彼らを見られていることもすごく嬉しいけど、スタートから成長を共にしたことで、いろんな関係値を築いてきて……。そういう変化を過ごせたことで、お互いを本当によく知ることができたと思う。

−−クリスさんが日本に頻繁に来るようになったのは2010年以降ですよね?

クリス:『ビッグ・エコー』の後だから、2011年くらいですね。最初は年に2回くらい、自分のバンドのプロモーションのために来ていたけど、4年前くらいからGalileo Galileiや、他の日本のーティストの作品にも関わるようになって、頻繁に来るようになりました。

−−今では5年以上に渡って、メンバーの次に作品づくりをともにして来た仲間ですね。

尾崎:そうですね。クリスにプロデュースしてもらった作品と作品の間には、彼とのレコーディングで得たものを自分たちだけで試してみた作品(『Sea and The Darkness』/2016年)もあったんですけど、そういう時期でも、クリスとは連絡を取り合って、お互いに聴いている音楽をシェアしたり、僕らが聴いている音楽に対して「じゃあ、こういうものも聴いてみれば?」みたいなことを提案してもらったりという “音楽の先生”のような関係を続けられました。それについても本当に感謝しています。


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クリス:それは僕にとってもそうなんだ。最初はすごく若くて、色んな質問もされたけど、今は同じところに立っていて、僕自身が彼らから学ぶことがすごくある。日本の音楽については特にそうで、今回の『ハーフ』に収録されているくるりの「ばらの花」も、彼らから教えてもらったんだ。あとはスタジオに一緒に入って、彼らの成長ぶりに接する時も本当に驚くね。彼らは本当に色んな影響を受けているバンドで、レコーディングに対するアプローチもすごくユニークなんだ。日本の中でもかなりユニークなんじゃないかな? そういう部分に僕もすごく刺激を受けますね。




−−クリスさんの“音楽の先生”としての姿で、印象的な場面はありますか?

尾崎:クリスと80年代の音楽が流れるバーに行くと「今流れてる曲、知ってる?」みたいな話によくなって、それを後で聴いてみたりします。あと、クリスと一緒にいて変わったことが、僕らは邦楽のシーンの中で活動していて、洋楽については“勉強する”感覚で聴いていたんですけど、クリスと関わることで、洋楽をもっとリアルに感じられるようになったんです。生活や思い出と楽曲がちゃんと密着するようになったというか。例えば、ダイアー・ストレーツを聴くと、その80sバーでの情景を思い出すようになったり。そういう意味でも、僕らのミュージシャンとしての人生が大きく変わったと思います。

クリス:僕が覚えているのは、彼らがフリートウッド・マックを知らなかったことだね。アメリカでは誰もが知ってるバンドだから。ディランは知っていてもフリートウッド・マックは知らないっていうのは、すごく不思議でした。でも、そこから彼らが興味を持って、今度は僕が知らないような70年代のアーティストの名前を挙げるようになったりして(笑)。それも面白かったですね。



▲Fleetwood Mac - Seven Wonders (Official Music Video)


−−なるほど。でも、海外の音楽を聴くリスナーの肌感覚としては、その国のメジャーなものを、むしろ知らない、というのはわかる気がします。

クリス:そういう国ごとの違いって、すごくあるのかも知れないですね。最近でも、バンド側がレコーディングの参考にミックスを作って送ってくれるんだけど、僕は全然聴いたことがないようなバンドも多いくて。最近だと、ピースとか、キャット・フィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンとか。日本では有名なのかも知れないけど。


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−−単純な疑問なのですが、クリスさんは『MOON BOOTS』をプロデュースする際、バンド側から貰ったデモなどの素材に対して、どんな風に考えてイメージを拡げていったのでしょうか?

クリス:良い質問だね。今回、僕にとってもチャレンジングだったのが、Galileo Galileiとも成長をともにしてきて彼らのアイデンティティも分かっている中で、でも、今回は違うバンドで、でも、メンバーには同じ人も居て、でも、作品は違う、という状況でした。だから、彼らが新しいサウンドやアプローチに挑戦することもサポートしたいと思う一方で、彼ら自身のアイデンティティにも自信を持って欲しかった。あまり考え過ぎないようにしつつ、新しいサウンドなんだけど、同時に彼らにとって自然体で進められるサウンドを一緒に作ることが出来たら良いんじゃないかと思っていました。デモを聴いた時も、彼らのアイデンティティを理解して、新しい方向性にもっていけるように考えて。いま思い出したんだけど、レコーディングの時も、「とにかく自信を持って怖がらずにやってみよう」「他の人がどう思うか、とか、期待されているものについては考えずに、とにかくやりたいことをやろう」って彼らに言ってましたね。



▲Bird Bear Hare and Fish - Moon Boots (Official Album Trailer)


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「自分たちがどこに属しているのか?」というアイデンティティの葛藤

CD
▲『ハーフ』

−−また時代が遡りますが、尾崎さんたちがクリスさんにプロデュースを依頼した時期、クリスさんたちも、モーニング・ベンダーズからPOP ETCにバンド名が変わった時期で、それと重なるようにサウンドも、アコースティックなバンド・サウンドから、シンセサイザーを多用したものに変わっていきました。そして、今では新作の『ハーフ』がまさにそうですが、その両面があるということが、クリスさんやPOP ETCのサウンドのアイデンティティになっているように感じます。この“両面がある”ということについて、クリスさんはどんな風に考えていますか?

クリス:BBHFと同じく僕らも色んな音楽から影響を受けていて、アコースティックなものもエレクトリックなものも大好きということは、まずあります。でも、もっと深い部分で言うと、僕も弟も(血筋的に)「ハーフ」であって、「自分たちがどこに属しているのか?」というアイデンティティについて葛藤することが多くて、「どこのコミュニティにも属せないんじゃないか?」っていう不安が常にあったんです。きっと、BBHFはそこも一緒だよね? 「自分が日本のシーンのどこに属しているのか?」っていう葛藤が、彼らにもあると思う。そういう部分も僕らの共通点だったんじゃないかな。今回の『ハーフ』っていうアルバムは、そういう自分たちの葛藤を、どうにか受け入れてもらえないか? と考えてアプローチした作品なんです。

尾崎:彼らが『ハーフ』を制作している時、クリスから「最近はアコースティックなものを多く聴いている」って聞いていたので、「じゃあ次はアコースティックか、バンド・サウンドになるのかな?」って思っていたんです。でも、変な風に作品に干渉したくないから、その時は「そうなんだ。」みたいな感じで話を終えて。でも、実際に完成した『ハーフ』を聴いた時、「もうエレクトリックとか、アコースティックとか、あるいはバンドとかって分け方って、なくなってくるんだな」って思ったんです。それはクリスがプロデュースしてくれた自分たちの音源を聴いても思うことで、それが「アコースティック・アルバムだ」って言えば、そうだし、逆もまた然り。もちろん聴くひとによっても違うだろうし。クリスは、そういう部分からは自由なんだろうなって思ったんです。

 それは僕らも共感するところで、できることが増えるにしたがって「○○のジャンルをやろう!」みたいな考え方からどんどん離れてきて、「シンセがスタジオにあるからそれを使おう」とか「ギターがあるからそれを使おう」とかになってきて。クリスもそういう感じなんだろうなって一緒にやっていて思います。目の前にあるものを手にとって、パッとやる感じというか。


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クリス:すごく謙虚な言い方ですよね。ジャンルを離れて、目の前にあるものを選んでそれをやるってことは、口で説明するほどに簡単なことじゃない。それはもちろん、僕にとってもそうで。彼らみたいに色んな国の色んなアーティストに影響を受けた上で、それができるのって本当にすごいことだと思う。あと、それをするには、すごく勇気も要ると思います。

−−ジャンルなり、何か依るものあった方がイージー?

クリス:うん。そうじゃない? もちろん、何か一つのことを突き詰めるアーティストも素晴らしいけど、リスナーとしての自分にとっては、そのアーティストのどれか1つのアルバムがすごく好きになっても、全てのアルバムが好きになることって、まずないような気がするな。

尾崎:逆に、日本の方がジャンルレスになりやすいのかなと思います。アメリカで音楽をやっていたら、出発点である程度ジャンル分けされるような気がしますけど、日本の場合は、J-POPやJ-ROCKの間でも、あんまりジャンルの境がないですよね。僕らは、勇気が要る行為というよりは、もっと自然なものとしてジャンルレスになっているというか。さっきクリスが挙げてくれた、くるりとかも多分そういうバンドだと思う。だから僕らの視点からすると、何らかのジャンル観を突き詰めているバンドから、むしろ影響を受けることが多いんです。色んな音楽を吸収している人たちより、分かりやすくジャンルを追求しているバンドに、最近は惹かれますね。どっちが良い悪いは無いですけど、日本人としては正直、ジャンルや出発点がある音楽って羨ましいな、っていう気持ちがあります。

−−日本だと放っていくと「何でもあり」になっちゃいますもんね。

尾崎:そうなんです。

クリス:それもすごい理解できる。でも、それでも僕の視点から見ると、アメリカだと最初の作品から、すぐにジャンルの枠に入れられてしまって、次の作品でもそれをしなきゃいけないんじゃないかっていう期待を感じて、プレッシャーになることも多いんだ。だから日本の感じが羨ましいとも思うんですよね。



▲POP ETC - Losing Yourself (Lyric Video)


−−そういう音楽的な自由さも、クリスさんが日本に惹かれる理由の一つなのでしょうか?

クリス:そうですね。それ以外にも、外から日本を見ると、アーティストへのリスペクトもあって、仕事がすごく丁寧だったり、尊敬すべきものが音楽の世界でも、たくさん存在しているように見えます。でも一方で、本当はそこに存在しているプレッシャーや葛藤のことも、雄貴たちを通して知ることができて。だから、知れば知るほどに、感銘を受けたり影響を受けたり、という単純な話ではなくなってきていて。僕の視点から見る魅力もあるし、逆に、そこにリアルに存在する葛藤も理解しているつもりです。

−−前提にはお互いの友情があるのだと思いますが、そういうディープな部分も含めてお互いに影響を与えあっているということは、とても意義のある関係に思えます。

クリス:僕はすごくラッキーですよね。アメリカに帰って「日本で何をしているの?」「日本の何が好きなの?」って聞かれても、一言では答えられない。雄貴たちと築いた関係や、本当にリアルな話、他の日本の友達とかの存在が、本当に僕の中で大きいんです。それを誰かに説明するのが不可能なくらい、自分にとって特別な国であって、特別な関係になっている。そういう場所に自分がいられることが、すごく光栄だなと思います。

 そう言えば、昨日ちょうど人と話していて自分でも気がついたんですけど、今回の『ハーフ』でBBHFと一緒に作った「We'll Be OK」は、僕らでも雄貴たちでも、どちらのサウンドでもなくて、何のサウンドかも分からないものになって。たぶん、僕たちが持っているカルチャーがお互いに混ざり合って、両方にとってユニークな曲になったのかなと思います。だから、こういうことをまた続けていければなと思いますね。



▲POP ETC - We'll Be OK (Official Video)


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