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アレステッド・ディベロップメント来日記念特集~ヒップホップ界の革新的グループの足跡を辿る
ヒップホップの革新的グループといわれるアレステッド・ディベロップメント。天才的なラッパーであるスピーチを中心に、オーガニックなサウンドとスピリチュアルな佇まいで一世を風靡し、従来のヒップホップが持っていたイメージを大幅に変えていった。ここではそんな歴史的なスーパー・グループの足跡をたどってみよう。
アレステッド・ディベロップメントのスタートは、1988年にまで遡る。ジョージア州アトランタのアートスクールで、スピーチとDJヘッドライナーの2人が出会ったのがその始まりだ。間もなく、ドラムスのラサ・ドン、ヴォーカル兼スタイリストのアーリー・タリー、ダンサーのモンチョ・イーシー、そしてスピリチュアル・アドヴァイサーのババ・オージェという奇妙な編成のグループとなった。そして、そのユニークなスタイルが認められ、1992年に満を持してファースト・アルバム『3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of...』でデビューを果たした。
この『3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of...』は、グループの編成同様に、非常にユニークで画期的な作品だった。ジェイムス・ブラウンやスライ&ザ・ファミリー・ストーンといったファンク、そしてリズム&ブルースへのオマージュのようなアーシーで泥臭いサウンド、NYやLAといった都市部のギャングスタ系ラップとは一線を画し、人種差別やホームレスといった社会問題をテーマにしたライム、女性コーラスを交えながら歌うように語っていくスピーチのラップと何もかもが新鮮で、これまでになかったオリジナルかつオルタナティヴなヒップホップのスタイルを作り上げた。
そして本作からは、プリンスをサンプリングした「Tennessee」、ディオンヌ・ファリスをフィーチャーした「People Everyday」、スティーリー・ダンのフレーズを引用した「Mr. Wendal」という3曲が、ビルボードのHot100でベスト10に入るビッグ・ヒットとなり、一躍ポップ・フィールドにおいても人気アーティストとなった。この勢いはとどまることを知らず、この年のグラミー賞では、最優秀新人賞と最優秀ラップ・パフォーマンス賞を受賞し、名実ともにヒップホップ・シーンの頂点に立った。
▲ 「People Everyday」(Live)
▲ 「Tennessee」MV
翌1993年には、MTVアンプラグドのライヴを収録した『Unplugged』をリリース。「Tennessee」などのヒット曲を含めてバンド・サウンドによるヒップホップを見事に構築し、プリミティヴなダンスを交えたパフォーマンスの空気感がそのままパッケージに収められている。さらに、1994年には2作目のオリジナル・アルバム『Zingalamaduni』を発表。アフリカ回帰とでもいうべき精神的な指向性や、メンバーを増強して生み出したジャジーでソウルフルなトラックと相まって、他者を寄せ付けない崇高なヒップホップ作品へと昇華することに成功した。この当時、ここまでアフロ・アメリカンのアイデンティティを謳い上げたヒップホップ作品は珍しく、メディアやファンからも絶賛された。
ただ、評価が高かったとはいえ、『Zingalamaduni』からはシングル・ヒットが出せず、商業的にも思ったほどのセールスには結びつかなかった。そして、クリエイティビティの相違を理由に、1996年に解散してしまう。スピーチはそのままソロ・アーティストとして成功し、個々のメンバーもそれぞれの活動を行っていった。
彼らが再び集結するのは、それから4年後の2000年のことである。『Da Feelin' EP』(2000年)を皮切りに、『Heroes Of The Harvest』(2002年)、『Extended Revolution』(2003年)、『Among The Trees』(2004年)、『Since The Last Time』(2006年)と力作アルバムを立て続けに発表。2010年には日本先行で『Strong』を発表し、シングル・カットされた「The World Is Changing」は日本のチャートを賑わした。そして、近年も『This Was Never Home』(2016年)などの傑作を発表し、同じく2016年には配信のみのアルバム『Changing The Narrative』もリリースし、その健在ぶりをアピールしている。長年グループと活動を共にしたババ・オージェは、現地時間2018年10月26日、急性白血病のために88歳で死去している。
▲ 「The World Is Changing」MV
▲ 「In 1 Day (Whole World Changed)」MV
アレステッド・ディベロップメントは非常に強烈な個性を持ち合わせていることもあり、多くのアーティストに影響を与え続けている。ザ・ルーツ以降のホーカス・ポーカスやアートオフィシャル、そして日本のSuchmosやサナバガンにいたる生バンド系ヒップホップは、少なからずアレステッド・ディベロップメントを参考にしているはずだ。また、ラッパーだけでなく後のネオ・ソウルやオーガニック・ソウルにもインスピレーションを与えたことも忘れてはならないだろう。
社会派とはいえ、アレステッド・ディベロップメントから放たれるメッセージは、常にポジティヴでハッピーなイメージが強い。もちろん、そのステージに関しても同じようなムードに包まれており、ヒップホップ・ファンでなくても楽しめるだろう。2018年は東京と大阪の年の瀬を盛り上げてくれることが決まっている。彼らのパフォーマンスを体感してから、2019年へと歩み出してみるのはいかがだろうか。
公演情報
ビルボードライブ大阪:2018/12/28(金) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
ビルボードライブ東京:2018/12/30(日)-31(月) >>公演詳細はこちら
12/30 1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
12/31 1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 21:00 Start 22:30
※12/31(月) 2ndステージはカウントダウン公演となり、公演料金が異なります。※全席グラスシャンパン付き
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Text: 風奏陽
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