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<追悼・再掲>セルジオ・メンデス来日記念特集~数多くのアーティストがカバーし愛される名曲 「Mas Que Nada」と共に辿るキャリアの軌跡
ブラジリアン・ミュージックの魅力を世界に伝えたセルジオ・メンデスが2024年9月5日に83歳で逝去されました。1941年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで生まれ、幼い頃からピアノを学んだセルジオ。1966年にセルジオ・メンデス&ブラジル'66を結成し、ジョルジ・ベンの名曲をカヴァーした「マシュ・ケ・ナダ / Mas Que Nada」は世界で大ヒットとなりました。2018年に掲載した特集を再掲し、ご冥福を心よりお祈りさせていただきます。 ======== 1966年の「Mas Que Nada」の大ヒットによって世界にボサノヴァを浸透させたブラジル音楽の大家、セルジオ・メンデスが今年もまたビルボードライブのステージに帰ってくる。ボサノヴァ誕生60周年のメモリアルイヤーとなる2018年、絶好のタイミングで実現した来日公演に向けて、改めてセルジオの栄光の軌跡を振り返ってみたい。そして、彼が2度にわたって世界的ブレイクに導いた代表曲「Mas Que Nada」が生まれた背景にも迫っていく。
デビュー、そしてグラミー受賞に至るまで
今年は、ボサノヴァの誕生からちょうど60年。ボサノヴァの起源は1958年に発表されたジョアン・ジルベルト「Chega De Saudade」(邦題「想いあふれて」)とされているが、そのジョアンや(「Chega De Saudade」の作曲者である)アントニオ・カルロス・ジョビンらと共にボサノヴァを世界に広めた最大の功労者のひとりに挙げられるのがセルジオ・メンデスだ。
セルジオ・メンデス(本名:セルジオ・サントス・メンデス)は1941年2月11日、ブラジル南部に位置するリオ・デ・ジャネイロ市近郊の小さな街ニテロイにて生を受ける。幼少期からリオの音楽学校でクラシック・ピアノを学んでいた彼は、12歳のころに当時ブラジルでも人気が高まっていたジャズに魅了されてみずからトリオを結成。10代にして早くもクラブなどで演奏するようになる。
その後、1950年代後半にジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビンの影響を受けてジャズからボサノヴァへ転向すると、1961年にはデビューアルバム『Dance Moderno』をリリース。翌年になるとボサ・リオ・セクステットを率いて国内外で精力的に活動を展開する。このころセルジオが参加したアメリカのジャズ・ミュージシャンの作品としては、キャノンボール・アダレイ『Cannonball's Bossa Nova』やハービー・マン『Do the Bossa Nova』などがある(いずれも1962年)。
▲Tristeza De Nos Dois - Sergio Mendes (1961)
1964年にブラジルで軍事クーデターが起こると、セルジオはアメリカへの移住を決意。ロサンゼルスに拠点を置いてチェット・ベイカーやバーニー・ケッセル、バド・シャンクといったジャズ・ミュージシャンとセッションを繰り広げる傍ら、レコード会社のオーディションを受け続けてジェリー・モスとハーブ・アルパートが設立した新興のA&Mレコードとの契約を手中にする。
そして、1966年にはアメリカのシンガーやミュージシャンらとセルジオ・メンデス&ブラジル'66を結成。記念すべきファーストアルバム『Herb Alpert Presents Sergio Mendes & Brasil '66』を発表する。ここからシングルカットされた「Mas Que Nada」はポルトガル語で歌われているにも関わらず全米チャートで最高47位まで上昇するスマッシュヒットを記録。ボサノヴァをポピュラー化した新しいサウンドを駆使して一躍大きな成功をつかみ取る。
▲Sergio Mendes & Brasil '66 - Mas que nada - English subtitles
続くセカンドアルバム『Equinox』(1967年)を挟んでリリースしたサードアルバム『Look Around』(1968年)からは、ダスティ・スプリングフィールド「The Look of Love」のカバーが全米チャートで4位にランクイン。その勢いに乗じて出した4thアルバム『Fool on the Hill』からもタイトル曲のビートルズのカバー「Fool on the Hill」が6位、サイモン&ガーファンクルのカバー「Scarborough Fair」が16位につけるなど、トップアーティストとしての地位を盤石なものにした。
こうしてボサノヴァの存在を世界的に知らしめていったセルジオは、70年代に入るとグループ名をブラジル'77に改めて活動。『Pais Tropical』(1971年)、『Primal Roots』(1972年)、『Love Music』(1973年)、『Vintage 74』(1974年)、『Sergio Mendes』(1975年)、『Homecooking』(1976年)、『Sergio Mendes and the New Brasil '77』(1977年)など、ソウルやAORの要素を取り入れた良作をコンスタントにリリースしていくが商業的に大きな成果をあげるには至らず、それはブラジル'88として発表した『Brasil '88』(1978年)や『Magic Lady』(1979年)にしても同様だった(なお、『Magic Lady』収録の「Summer Dream」は浅野ゆう子が「サマーチャンピオン」と改題しして同年に日本語カバーしている)。
鳴かず飛ばずだった70年代を経て、80年代になるとセルジオのキャリアに大きな転機が訪れる。エレクトラから古巣A&Mに戻ってリリースした1983年作『Sergio Mendes』からカットされた美麗バラード「Never Gonna Let You Go」が全米チャートで4位を記録する大ヒットになったのだ。続く1984年の『Confetti』からも「Alibis」(全米29位)のヒットを生み出して完全復活を印象づけたセルジオは、リリースペースこそ落ちてきたものの『Brasil '86』(1986年)や『Arara』(1989年)といった佳作を発表。再びエレクトラに籍を移してリリースした1992年作『Brasileiro』では、ブラジルのルーツミュージックにスポットを当てた内容が高く評価されて第35回グラミー賞の最優秀ワールドミュージックアルバム賞を受賞した。
- 2006年、10年ぶりの復活を印象づけた新バージョンの「Mas Que Nada」
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公演情報(終了)
セルジオ・メンデス
ビルボードライブ大阪2018年11月9日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
2018年11月10日(土)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ東京
2018年11月12日(月)、13日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:15 Start 21:00
⇒詳細はこちら
関連リンク
文:高橋芳朗
2006年、10年ぶりの復活を印象づけた新バージョンの「Mas Que Nada」
以降90年代は1996年に『Oceano』をリリースするのみにどどまるが、それから10年を経た2006年に突如復活。当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったブラック・アイド・ピーズの頭脳、ウィル・アイ・アムの全面サポートを得てアルバム『Timeless』をリリースする。スティーヴィー・ワンダー、ジョン・レジェンド、ジャスティン・テインバーレイク、エリカ・バドゥ、Q・ティップ(ア・トライブ・コールド・クエスト)ら豪華ゲストを迎えてヒップホップ/R&Bに接近を図った同作は、全米チャートで44位、全英チャートで15位にランクインするなど世界的に大ヒットを記録する。
この『Timeless』を引っ提げてのセルジオの劇的カムバックのテーマソングとして高らかに鳴り響いたのは、ブラック・アイド・ピーズの参加によりヒップホップバージョンとして蘇ったセルジオのデビューヒット「Mas Que Nada」だった。「イパネマの娘」と共にボサノヴァ/ブラジル音楽のシンボルとして認知されている「Mas Que Nada」はセルジオによって広められた経緯からしばしば彼のオリジナル曲と誤解されがちだが、実はサンバホッキ/サンバロックの帝王ジョルジ・ベンが1963年にレコーディングしたものが原作になる(これは「Por Causa De Voce Menina」と共にジョルジの最初のレコーディング曲で、彼のデビューアルバム『Samba Esquema Novo』などで聴くことができる)。
▲Sergio Mendes feat. Black Eyed Peas - Mas Que Nada
「イパネマの娘」には及ばないものの「Mas Que Nada」もカバーされる機会は非常に多く、エラ・フィッツジェラルドやアル・ジャロウといったジャズシンガーをはじめ、日本でもザ・ピーナッツや由紀さおり、松田聖子、東京スカパラダイスオーケストラなどによって歌い継がれてきたが、セルジオのバージョンに次いでよく知られているのがジョルジのオリジナルと同じ1963年にリリースされたタンバ・トリオのレコーディングだ。ブラジル最高峰のジャズサンバグループである彼らの「Mas Que Nada」は、土着的な魅力のジョルジ・ベン版、ポップに洗練されたセルジオ・メンデス版に比べるとジャジーかつスタイリッシュな仕上がりでクラブシーンでも人気が高い。1998年のFIFAワールドカップフランス大会に合わせて放映されたナイキのコマーシャル(ロナウドら当時のブラジル代表選手が出演)で大々的に使われていたのでご存知の方も多いと思う。
▲Tamba Trio - Mas Que Nada
誰のバージョンの「Mas Que Nada」をベストとするか、その好みは人によってさまざまだと思うが、この曲が半世紀もの時間をまたいで2度も世界的ヒットに導いたセルジオのバイタリティの象徴であることはまちがいない。この11月、3年連続でビルボードライブのステージに立つことになるセルジオ。ボサノヴァ誕生60周年を迎えるこのタイミング、御大の演奏で聴く「Mas Que Nada」はきっと格別だろう。
公演情報(終了)
セルジオ・メンデス
ビルボードライブ大阪2018年11月9日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
2018年11月10日(土)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30
2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
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ビルボードライブ東京
2018年11月12日(月)、13日(火)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:15 Start 21:00
⇒詳細はこちら
関連リンク
文:高橋芳朗
セルジオ・メンデス・ベスト
2014/06/25 RELEASE
UCCU-1429/30 ¥ 2,096(税込)
Disc01
- 01.マシュ・ケ・ナダ
- 02.恋のおもかげ
- 03.フール・オン・ザ・ヒル
- 04.コンスタント・レイン
- 05.アフター・サンライズ
- 06.イパネマの娘
- 07.ウィチタ・ラインマン
- 08.愛をもう一度
- 09.ヴィラムンド
- 10.ウォッチ・ホワット・ハプンズ
- 11.カエル
- 12.スカボロー・フェア
- 13.愛を求めて
- 14.ソ・ダンソ・サンバ
- 15.パイス・トロピカル
- 16.もう一度 (モノラル録音)
- 17.デサフィナード
- 18.ドック・オブ・ベイ
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