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向谷 実 アルバム『THE GAMES-East Meets West 2018』LAレコーディング・レポート



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 向谷 実のアルバム『THE GAMES』が10月3日にリリースされる。この作品は、ロサンゼルスを拠点に活動しているレジェンドともいうべきミュージシャンたち、そして日本のトップ・ホーン奏者たちがロサンゼルスに赴き、ロサンゼルスでレコーディングを行うという、まさにスペシャルな作品になった。そんなレコーディングの模様を、レポートとしてお届けしよう。

~DAY1~

 ロスアンゼルス・レコーディングの1日目。今回のレコーディングに使われたユナイテッド・スタジオは、かつて“オーシャン・ウェイ・レコーディング”という名称で知られ、フランク・シナトラ、ハービー・ハンコック、マイケル・ジャクソン、エリック・クラプトン、TOTOなどをはじめとする数多くのスーパースターたちが使用した、由緒あるスタジオだ。今回のプロジェクトのテーマである“East meets West”は、日米のミュージシャンたちが、対等な関係で、それぞれの個性を出しながらひとつの音楽をクリエイトしていく、というのが基本コンセプトになっており、そこで向谷 実は、1982年に録音されたカシオペアとアメリカのミュージシャンとの共演アルバム『4×4』で初めて共演し、その後もプライベートでの付き合いが続いていたというドン・グルーシンをコ・プロデューサーに迎え、日米のトップ・ミュージシャンたちの融合による音楽を作り上げることを目指したという。

 ユナイテッド・スタジオに、ドン・グルーシン(key)、ハーヴィー・メイソン(ds)、エイブラハム・ラボリエル・シニア(b)、ポール・ジャクソン・ジュニア(g)、アーニー・ワッツ(sax)というグレイトなミュージシャンたちが集まってきた。みんな古くからの付き合いだけあって、和気あいあいだ。ただ、近年のレコーディングではこういったメンバーが一堂に会して録音することは珍しくなってきているので、まるで同窓会のように、みんなで楽しそうに盛り上がっている。

 またエンジニアのドン・マレーは、デイヴ・グルーシン、リー・リトナー、フォープレイ、エルトン・ジョンなど数多くのアーティストの作品を手がけ、グラミー賞も2度受賞している巨匠という、まさにスーパーなレコーディングである。

 まず最初にレコーディングされたのは、向谷 実の書き下ろし曲「Friendship」。東日本大震災の時、アメリカ軍が日本のために行なった災害救助・救援活動“トモダチ作戦”に感銘を受けた彼が、国籍、人種、宗教などを越え、ひとつになって何かをやり遂げることの素晴らしさを表現した曲だが、向谷 実がそのことをメンバーたちに伝えると、ミュージシャンたちの表情も引き締まっていく。そして最初に全員でデモ・テープを1度聴き、リハーサルなしでいきなりレコーディングに入るというのだから驚異的だ。それでもメンバーたちは名人芸を繰り広げ、圧倒的グルーヴを聴かせるのだからすごいと言うほかない。結局2テイクで完了。

 その後もアーニー作曲の「Letter From Home」、ポール作曲の「2 for 10,000」の2曲がレコーディングされたが、どちらも数テイク、「2 for 10,000」にいたっては1テイクで完了になるのだからとんでもない人たちだ。エイブラハムとハーヴィーはプレイバックを聴きながら踊り出し、ポールのジョークでみんなが大笑いするなど、雰囲気も抜群だ。向谷 実も、そんな彼らとの緊張感あふれるセッションを心から楽しみ、渾身の演奏で応えている。

 1日目ながら、とても充実し、内容の濃いレコーディングとなった。そして明日からは一体どうなるんだろうという、期待がさらに膨らんでいく初日だった。

~DAY2~

 レコーディング2日目。昨日のレコーディングが順調だったこともあり、メンバーたちもみんなとてもリラックスしている。

 今日の1曲目は、エイブラハム作曲の「Holidays」。彼らしいカリプソ・タッチのハッピーな楽曲だ。エイブラハムが曲のイメージをメンバーに伝え、ウォーミングアップも兼ねてリハーサル、そしてそのまま本番へ。エイブラハムとハーヴィーの、ゆったりとしながらもグルーヴするリズムが実に気持ちいい。アーニーはソプラノ・サックスに持ち替えてメロディを軽快に歌っているが、これ、誰かが指示したのではなく、アーニー自身のセンスでチョイスしたそうだ。こういったところからも、彼らのこの作品に対する真剣な思いが伝わってくる。途中に出てくる超絶キメも、みんな難なく決め、エイブラハムとアーニーの掛け合いソロも気持ちいい。

 そしていよいよ今回のレコーディングでのハイライトのひとつ、タイトル曲の「The Games」のレコーディングだ。向谷 実とドンとの共作曲で、オリンピックをイメージしたというこの曲、複雑なリズム・フィギュアと構成を持つ難曲だが、メンバーたちが真摯に意見を出し合い、より良いサウンドを目指していく。アーニーのテナーが大らかにメロディを歌い、ポールのギターのリズム・カッティングがメチャクチャにカッコいい。一度リハーサルをやったあと、ポールのアイディアで向谷 実がオルガン・サウンドでプレイすることになったが、それによって楽曲の世界観がよりスケールの大きなものになり、さらにアーニーがフルートをオーヴァーダビングして、よりゴージャスなサウンドになっていく。本当に、みんなでひとつになって音楽を作り上げていくという、世界最高峰のミュージシャンたちによる音の競演である。

 本日はこの2曲でレコーディングは終了し、メンバーやスタッフによる夕食会が開かれた。そしてチームの絆と親睦がさらに深まって、ハリウッドの夜は更けていく........



 

 

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~DAY3~

  レコーディング3日目。ロサンゼルスのミュージシャンたちとのセッションは今日が最終日だ。

  1曲目はハーヴィー作曲の「Argentina」。美しいメロディを持ったボサ・ノヴァ・テイストのナンバーで、ドンのアコースティック・ピアノ、向谷 実のシンセサイザー、ポールのアコースティック・ギターが心地よいコードを紡ぎ出し、アーニーのテナーが朗々とメロディを歌い上げる。ドンのピアノ・ソロもロマンチックだ。こういったメロディアスな楽曲での、メンバーみんなの歌心の素晴らしいこと。この曲もテイク1でO.K.となった。

 

  2曲目はドン作曲の「Catwalk」。複雑極りないキメがある超絶ナンバーで、さすがにこのメンバーたちも苦戦するが、何度か演奏していくうちにビシビシとキマっていくのだから、ほんとうにすごい人たちだ。向谷実のピアノ・ソロ、アーニーのテナー・ソロ、ポールのギター・ソロもエネルギッシュで、ハーヴィーのドラムもアグレッシヴにドライヴしていく。

 

  3曲目、そしてこのメンバーでの最後の録音となる曲は、向谷 実のカシオペア時代の名曲「Corona」。サンバのリズムに乗せてアーニーがテナー・サックスでメロディを吹き、ポールのアコースティック・ギターがリズムを奏でると、雰囲気がガラリと変わり、まったく新しい曲のように聴こえるから音楽は不思議だ。複雑なユニゾンのキメもバッチリだ。後半、ポールが小型の12弦アコースティック・ギター(キーがC#だということだ)によるコード・カッティングをダビングして、よりエスニックなムードに変わり、完全に新しい「Corona」に生まれ変わった。これにはきっと、カシオペアのヴァージョンを知っている人も驚くことだろう。

 

  これで、このメンバーたちとのレコーディングは終了。この6人の、まさに音楽の世界遺産のようなミュージシャンたちが一堂に会して、それぞれの名人芸を発揮しつつ、ひとつになってアンサンブルして、楽器で会話していくという奇跡を、目の当たりにした3日間だった。

 

  明日は1日お休みで、明後日からは、東京からやって来るホーン・セクションとのレコーディングだ。

 
~DAY4~

  1日のお休みを挟んで、今日が実質的なレコーディング4日目。午前中は、向谷 実とドンの2人によるダビングなど、細かく緻密な作業が続く。

 

  午後、日本からのホーン・セクションがロスアンゼルスに到着し、スタジオがまた賑やかになった。エリック・ミヤシロ(tp)、本田雅人(sax)、中川英二郎(tb)、二井田ひとみ(tp)という日本を代表するプレイヤーたちだ。通常、こういったレコーディングでは、ホーンは東京で別で録ることが多いのだが、同じスタジオで、同じ環境で、同じエンジニアで録ることに意味がある、と向谷 実は言う。

 

  彼らはロスの空港から直接スタジオ入りというハードなスケジュールにもかかわらず、到着するや否や、エリックが「じゃあ始めましょうか」と言って、早速レコーディングが始まった。いやはや、こちらもすごい人たちだ。

 

  まずは「Catwalk」から。日本人4人にアーニーが加わるという、まさに夢のホーン・セクションだ。スタジオ内でドンが指揮をし、5人のホーン・プレイヤーたちがタイトなアンサンブルを聴かせる。そのサウンドは元気いっぱいでパワフルだ。ベーシック・トラックでは、ハーヴィーやエイブラハムがとても自由でグルーヴィなリズムでプレイしているので、ホーン・セクションがそれに合わせてグルーヴし、さらにまとまったアンサンブルを聴かせなければならないという、実はけっこう難易度の高いミッションなのだが、それを難なくこなすのだから、やはりホーンのメンバーもただ者ではない。「彼らはプロフェッショナルだ」とドンも関心している。

 

  2曲目は「Letter From Home」。アーニーが吹くメロディのバックで、エリックのアレンジによる4人のアンサンブルが炸裂する。アーニーも「Perfect! I'm very happy」と満足げだ。

 

  そして3曲目は「Friendship」。向谷 実の指揮でレコーディングが進行し、タイトなアンサンブルがビシビシ決まる。ドンも「カンゼンダ」と日本語でご機嫌だ。ここで本日は終了。

  リズム・セクションのサウンドもすごかったが、そこにホーンが入るとサウンドがもっともっと分厚くなり、よりゴージャスになる。すべてが完成した時、いったいどんな音楽が出来上がるのだろう。明日からのレコーディングがさらに楽しみになってきた。

~DAY5~

  レコーディング5日目。実質的なレコーディングとしては今日が最終日だ。ホーンの4人に加えて、ドンとアーニーも立ち会ってレコーディングが始まった。

  本日の1曲目は「2 for 10,000」。ホーン・セクションもただ譜面通りに吹くのではなく、ポールのソロに合わせて、細かいアレンジをその場で微調整しながら録音していく。このあたりの柔軟性はさすがだし、日本のホーン・セクションの実力の高さを示したプレイだといえるだろう。彼らの仕事の早さにドンやアーニーもびっくりしている。

  2曲目は「Corona」。ホーンのラインはかなり複雑だが、アンサンブルがタイトに決まる。するとハーヴィーがレコーディングを覗きに来た。彼もそのサウンドに満足そうだ。そして本田雅人のソロが新たにダビングされ、この楽曲がよりエモーショナルになっていく。

  3曲目は「The Games」。ドンの指揮で録音が進行し、緻密なホーン・リフも次々と決まる。アーニーも「Cool!」とご満悦だ。アーニーと本田雅人との2サックスによるハモり、アーニーと中川英二郎との掛け合いも心地いい。さらにエリックのアイディアで、アーニーのフルートと二井田ひとみのミュート・トランペットとのアンサンブルもフィーチャーされ、録音が完了。最後は全員で全曲のプレイバックを聴き返し、みんな納得のレコーディング終了となった。

  わずか5日間という、かなりハードなスケジュールのレコーディングだったが、日米の強者たちの素晴らしい演奏と高い音楽性によって、とてもハイ・クォリティでハッピーな作品が出来上がった。向谷 実を中心に、日米のトップ・ミュージシャンたちが真摯なセッションを繰り広げたこのアルバムは、最近では珍しいくらい、時間と手間と労力をかけ、ある意味とても愚直に、かつてのアナログ・レコーディングの良さを現代に継承した作品だといえるのかも知れない。だからこそ、今の時代の音楽ファンに聴いてほしいと思う。いい楽曲といい演奏といい音質で作られた音楽は、こんなにも感動的なのだ。

  そしてその成果は、10月のアルバム・リリース、そして11月のライブで、ぜひ皆さんの目と耳で確認してみてほしい。

向谷実 ドン・グルーシン アーニー・ワッツ ハーヴィー・メイソン エイブラハム・ラボリエルSr. ポール・ジャクソンJr. エリック・ミヤシロ 本田雅人「THE GAMES-East Meets West 2018-」

THE GAMES-East Meets West 2018-

2018/10/03 RELEASE
VICJ-61778 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.フレンドシップ
  2. 02.コロナ
  3. 03.キャットウォーク
  4. 04.アルゼンチン
  5. 05.トゥー・フォー・テンサウザンド
  6. 06.ホリデイズ
  7. 07.ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン
  8. 08.レター・フロム・ホーム
  9. 09.ザ・ゲームス

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