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小野リサ「exciting jazz samba!」インタビュー ~高橋健太郎と語る、サンバ&ジャズとブラジル音楽の底なしの陽気さ~



 いよいよ10月3日より、【exciting jazz samba! The boys from Ipanema meets the girls from Tokyo.】と題された小野リサのクラブ・ツアーがスタートする。小野リサにとっては、レコーディングでも気心の知れたブラジル人音楽家のメンバー、そして気鋭の日本人女性音楽家と、初めてライブ共演する貴重なステージとなる。

 Billboard JAPANでは先日も「exciting jazz samba!」をテーマにした小野本人の選曲によるプレイリストも公開したばかり。さらに今回はツアー企画第二弾として、本人のツアー直前インタビューをお届けする。今回のツアーの内容についてはもちろん、前述の「exciting jazz samba!」プレイリストについて、さらには小野リサの音楽観の片鱗にも触れるような幅広いインタビューとなった。聞き手は音楽評論家の高橋健太郎氏。公演に向けて、ぜひご一読頂きたい。

小野リサ“exciting jazz samba!”プレイリスト

「なんでそんなに楽しくなれるの?」

――バンドとのステージはビルボードでは久しぶりだと思いますが、今回のメンバーとやろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

小野:(マルコス・ニムリヒテル、ジェファーソン・レスコウィッチ、ラファエル・バラータの)3人は、いつも私のアルバムのレコーディングでは、ちょこちょこ演奏してくれているんですけど、一緒にライブで演奏するのは初めてなんです。レコーディングとライブは全く別物なので、彼らの素晴らしさがどんな風に発揮されるのか、期待しています。

――ピアノのマルコスさんはソロ・アルバムもたくさん出していますよね。もともとはクラシックの畑の人なのでしょうか?

小野:そうですね。マリオ・アジネーという、レコーディングでもアレンジを一緒に手掛けてくれている人が、彼とも一緒に、ジョビンのシンフォニーやジャズなどのプロジェクトでご一緒して。彼ら3人はトリオとしての活動もしているので、どんな音楽が一緒にできるのかな?と考えているところです。


▲Marcos Nimrichter Trio - Amor e Maracangalha

――まだ100%見えているわけではないんですね。

小野:100%ではないですね。

――マリオさんのピアノには、クラシックとジャズの両方がある。ブラジルのミュージシャンや音楽は、ジャズなどのポピュラー音楽とクラシックの間に、壁があまりないような気がします。

小野:そうですね。元々ジョビンはヴィラ=ロボスが大好きで、ヴィラ=ロボスは自分の音楽の中にブラジルのポピュラー音楽の要素を取り入れました。ジョビンはその反対のことをして、自分の音楽にクラシックの要素、例えばチェロを取り入れたりしました。そのような部分でも区切られていないのかな、と思います。


▲Heitor Villa-Lobos - Modinha (Seresta nº5) - Played by Jobim

――それはきっと、19世紀くらいからそうなんでしょうね。

小野:そうですね。メヌエットやポルカの影響でショーロが出来たり。

――今回のライブのコンセプトは選曲から決まっていったんですか?

小野:去年ブラジル人のミュージシャンたちと演奏した時に、すごく楽しかったんですね。ベースとドラムのグルーヴもそうですし、シンガーソングライターのデビット・シルバーというアーティストも加わり、ブラジルの音楽家は本当に「楽しい!」と思いました。それがお客さんにも伝わり、楽しいライブになったので、今回もそのような所を引き出したいなと思って、マルコスたちに声をかけました。

――小野さんの音楽は、ボサノヴァを最もベースにしていますが、ボサノヴァって一人でも出来る音楽ですよね。でも、今回はやはりもう少し、バンドで出来る音楽、ジャズなりサンバなりをやりたかった?

小野:そうですね。

――小野さんは、ボサノヴァを始める前は、サンバのセッションをたくさんやられていたんですよね? その頃にやっていたことと、今回やろうとしていることは結びついてますか?

小野:もちろん、どこかで紐が繋がっているとは思うんですけど、丸きりそれをやるわけではないと思います。自分なりに色々変わっている部分もありますし。一番伝えたいことは、最初にアルバムを作った頃と同じで、ブラジルの音楽を通して日本の方に「楽しさ」「楽しくなる術(すべ)」を感じてもらいたい、っていうことなんです。

――ブラジルのミュージシャンって、そこのところのアティチュードが違いますよね。

小野:違いますね~。

――くよくよしない、というか、シリアスになり過ぎない。音楽の内部では、本当はすごく難しいことをやってると思うんですけど、出てくるものとしては、陽気な、陽性な、うつむかないものがあるな、といつも思います。

小野:今回のベースの人(レスコウィッチ)にも「なんでそんなに楽しくなれるの?」って聞いたことがあるんですよ。そうしたら「それには色々“ワケ”があるんだよ」って言ってましたね(笑)。

――それはどういう“ワケ”なんでしょうか?

小野:やっぱり「ブラジルで生きていく」ということは、とても大変ですよね。毎日いろんなことが変わったり、治安が悪かったりする。彼らはそのような中でずっと暮らしてきているのです。黒人のミュージシャンもそうですけど、辛いことを経験してから彼らから出る“笑い”は、本当に嬉しそうで楽しそうな“笑い”なんだ、ということだと思います。

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「洋服に合わせ過ぎてしまうと、自分じゃなくなる」

――今回のセットリストについても教えてください。いま手元に頂いているのは、仮のセットリストの段階ということですが、すごく英語の歌が多いですよね。

小野:そうですね。でも、まだ当日まで変更すると思います。

――「Jazz Samba」と言っても、「(ブラジルの)サンバをジャズ的に演奏する」というより、「ジャズの曲をサンバのフィーリングを入れて演奏する」というイメージに近そうです。

小野:そうですね。私の過去のアルバムに、そういう楽曲が結構あるので、それをどうしようかな、と考えているところです。

――小野さんはポルトガル語と英語と、最近は日本語の歌もたくさん歌っていらっしゃいますけど、言葉が違うことで、歌う上で何が一番違いますか?

小野:そんなに変わらないですね。言葉が変わっても……変わらない。

――小野さんはすごくレパートリーが広いですよね。最近はそれこそ演歌も歌っていたり。アレサ・フランクリンが亡くなってから、彼女の歌を色々聴いていたんですけど、アレサもものすごく曲調の幅が広い。カントリーの曲を歌っていたりもする。でも、全部「アレサ・フランクリンの歌」に聴こえるんです。その後に今回の取材の話があって、小野さんの歌をあらためて聴いていたら「小野さんも一緒だなぁ」と思いました。その辺は特に意識せずにも自然にできてしまうものなのでしょうか?

小野:そうですね…あんまり深く考えてみたことはないんですけど…。スタイルは変われないというか。最近はディスコとか、もっと声を張り上げて歌うジャンルを歌ったりしていて、それなりに葛藤もあるんですが…(笑)。でも、洋服のようなイメージで「カントリーの洋服」や「ディスコの洋服」も、着るのは結局、自分ですから。洋服に合わせ過ぎてしまうと、自分じゃなくなる…というようなことは思ったりしますね。

ジャズ&サンバ…様々なシンガーと小野リサ

――続いてプレイリストのお話も聴きたいのですが、この選曲はむしろブラジル音楽としての「ジャズ・サンバ」ですよね。

小野:そうですね。

――小野さんの中で「サンバ」と「ボサノヴァ」ってどのように位置付けられているんでしょうか?

小野:ミディアム・テンポがボサノヴァで、アップ・テンポがサンバ(笑)。結局サンバから全てが来ているので。

――はい。サンバを一人で歌えばボサノヴァになる、というところはありますよね(笑)。

小野:サンバは大衆的な音楽ですよね。語彙も、ボサノヴァはもう少しインテリジェンスな音楽で、ジョビンもそう。サンバはもっとブラジル国民の大衆的なもので「あなたが好き」「私は○○だ」みたいな、リズムのビートを生かしたような、直接的な言葉が多い。ラテン音楽でいうとサルサみたいな。

――同じ歌詞をひたすら繰り返しますよね。

小野:そうそう。そこでみんなが一緒に歌ったり。でも、実はインテリジェンスな部分もあって、言葉が時折、すごく哲学的なこともあるんですけどね。

――小野さん個人の歴史の中では、MPBとかボサノヴァが先で、後からサンバ…みたいな順番はあるんですか?

小野:全部同時ですね。カーニバルでサンバも踊っていたし、ジョアン・ジルベルトが歌う曲も歌う半分はサンバですから。あんまり括りは関係ないかなと思います。

――ブラジルの少女時代に、すでにサンバで踊っていたんですね。今回のプレイリストで、ドリス・モンテイロは、小野さんにとってどんなシンガーですか?

小野:素晴らしいですね。歌の中にある、サンバのシンコペーションが気持ち良いです。

――ドリス・モンテイロはしっとりした曲も多いですけど、そういう中にも入っている?

小野:言葉の伝え方に入っていると思います。

――あと、レニー・アンドラーヂは実際に共演もしたんですよね。

小野:ビルボードでね。

――どんな方でしたか?

小野:歌が大好きな人ですね。ブラジル音楽を歌っているシンガーで、アドリブのスキャットも得意な人って、イリアーヌ・エリアスはいますけど、あまり多くはいないので。その意味でも彼女は画期的だったし、オリジナリティもあって、説得力のある歌ですよね。

――なるほど。あとはこのプレイリストで聴いて、このエミリオ・サンチアゴの曲がすごく好きになりました。サウンドもモダンですよね。

小野:エミリオは何でも歌えるシンガーでしたね。ボレロも、ジャズも、サンバも歌える。本当にマルチ・シンガーでした。お亡くなりになって、とても残念です。ピアノのマルコスもずっと彼のサポートメンバーでした。

――小野さんはジャズ・ボーカルを勉強したことはあるんですか? スキャットの技術とか。

小野:残念ながら勉強してないですね。ジャズはただ聴くばかりでした。

――アメリカのジャズ・シンガーで好きな人は?

小野:シャーリー・ホーンとか、チェット・ベイカー、ナット・キング・コール、カーメン・マクレエ、ブロッサム・ディアリー。フランク・シナトラもそうですし。もちろんサラ・ヴォーンも。王道の人たちは大好きですね。

――逆に、苦手なタイプのシンガーは?

小野:苦手なタイプですか(笑)。誰だろう……これと言ってはないのかも知れない…。

――日本の歌手の曲も聴きますか?

小野:実はあんまり知らなくて(笑)。最近は日本の音楽とかも歌うので聴くんですけど、その中で好きだったのは、ちあきなおみさんとか。


▲黄昏のビギン ちあきなおみ(1992)

――今の時代の人はどうです?

小野:今の時代の人ですか? うちの子供に聞かないと分からないかも(笑)。でも、みんな上手よね? これから勉強します!(笑)

――10歳で日本に戻ってからも、ほぼブラジルの音楽しか聴いてないんですね。普通にユーミンとかは聴いてないですか?

小野:ユーミンは入ってきました! 彼女はボサノヴァもやっていましたし。あとは陽水さんの「少年時代」とかも聴いてました。

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ブラジル音楽は、何でもある音楽

――最近歌っている古い歌謡曲などは、記憶の中にはあるんですか?

小野:ないですね。私は本当にブラジル音楽だけで、イタリア音楽やカントリーも、本当に初めて聴いたものばかりだったんです。(ジャンルをテーマにした)アルバムを作ることになって、そこから初めて聴き始めるから、ゼロからのスタートどころかマイナスからのスタート(笑)。ビートルズやカーペンターズも、もちろん街で流れているくらいのものは知ってるけど、詳しくは聴いていなくて、一曲をじっくり聴くこともなかったんです。

――じゃあ、常に新しい素材として挑んでるんですね。ブラジル音楽をベースにしつつも、新しい素材をもっと歌っていきたい、という気持ちはどこからやってくるんでしょう?

CD
▲『BOSSA HULA NOVA』
(2001年)

小野:「音楽の旅」の企画は、デビューして10年くらい経ってに「さて…」という感じで始めたものでした。ハワイアンとかも、初めはどの曲も同じに聴こえるんです。きっとサンバを初めて聴いた方も、どの曲も同じに聴こえると思うんですけど、それと同じですね(笑)。でも、しばらくずっと聴いていると、だんだん「この曲はこうなんだ」とか、仕分けが自分の中で出来てくる。その上で「この曲が良いかな」と思ったものを歌ってみて。自分が歌ったら、聴いた方の歌と「どこがアプローチが違うんだろう?」とか「果たして私が歌って意味があるのかな?」とか、色んなことを考えて、試みてみるんです。

――それはいつもCDやレコードを聴いてアプローチを考えるんですか? それとも、誰か先生に習うことは?

小野:ハワイアンの時は、日本人で詳しい方がいらっしゃって、色々と教えて頂きながら勉強しました。アラブの音楽の時は、コネクションが全くなかったので、とりあえずタワーレコードに行って店員さんに「アラブの音楽に詳しい人がいないか?」を聞いたら、たまたまそこにサラーム海上さんがいらっしゃって紹介してもらって。そこからさらにウードの先生を紹介してもらって…行き当たりばったりでやっていますね(笑)

――チャレンジングですね。でも、他の地域の音楽でも、歌ってみると「実はブラジル音楽に近い」っていうことも?

小野:ありますね。ブルーグラスを歌った時は、ブラジルの北東部にアメリカからの移民がたくさん入ってきた街があって、そこの音楽がブルーグラスにすごく似ていることに気がつきました。

――逆に言うと、ブラジル音楽ってそれくらい何でもある音楽なんですよね。

CD
▲『NAIMA -meu anjo-』
(2004年)

小野:そうですね。アラブの楽器を学んだ時に気付いたのは、アサード兄弟とか、エグベルト・ジスモンチとか、バーデン・パウエルとか、ブラジルのギターの名手は、ほとんどがアラブ系なんです。

――なるほど。

小野:ブラジル音楽の一番の原点はギターだと思うんですけど、そのルーツを辿ると、やっぱりアラブに繋がっていて。ジョアン・ボスコもそうですね。

――バーデン・パウエルのアラブ的なところはどんなところですか?

小野:やっぱり早弾きとかね。バーデンの場合は黒人の血も入っているので、リズムの迫力はそういうルーツもあると思います。

――小野さんは子どもの頃にバーデンと会われているんですよね? その頃はすでにギターを?

小野:いや、全然やっていなかったですね(笑)。父がお正月にバーデンの家に行く時に一緒について行って、子供たちと一緒に遊んで…。そんな中で、バーデンがギターを弾いている場面も、あんまり記憶はないんですけど…あったかも知れないですね。彼と一緒の時間を過ごせたことは宝物ですね。

日本女子 VS ブラジル男子

――あと、今回のビルボード公演で新たにチャレンジすることや、アプローチとして今までと違うことはありますか?

小野:今回は相川瞳さん(パーカッション/ヴィブラフォン)も演奏に参加してくれて、日本の頑張っている素晴らしい女子とブラジルの男子でバトルする(笑)。いま日本の女子は世界中で大活躍ですよね。サックスのような、昔は男性が演奏していたような楽器を女性も演奏したりする。素晴らしいことだと思います。ブラジルでもそのような現象はありますね。

――女性の管楽器奏者は増えていますよね。

小野:みんな素晴らしく勉強しているし、いっぱい吸収してやっているので、今回も楽しみですね。

――小野さんは全曲でギターを弾かれるんですか?

小野:どうしましょうかね。弾いたらきっと気持ち良いだろう、とは思いますけど…。やっぱりバンドのグルーヴが一番の楽しみですね。

――最終的な内容は、マルコスさんと達と実際に会ってから決まるんですね。

小野:やっぱり会って、サウンドを出してみないと分からないですね。感じることも変わってくるし、紙に書いた通りに行かないこともある。ステージに立ってみないとね。私はずっとライブハウスで歌ってきたので、お客さんの反応も敏感に感じるんです。そこで「あ、この曲は次に歌った方が良かったのか」って気づくこともあるし。ジョアン・ジルベルトも、手元に曲目が書いてあって、お客さんの反応を見ながら、その場で順番を考えて演奏していたみたいです。

――DJみたいですね。

小野:DJはそうなんですね。なるほど! 本当は何でも演奏できるようにしておいて、お客さんの様子を見ながら曲順を変えられるのが理想なんですけど、メンバーが多いと、その場で曲順を変えるのも難しいですからね。でも、今でもリハーサルで曲順を入れ替えることはあります。そうやって臨機応変に考えながら、最終的にはお客さんの皆さんがハッピーになることが一番なんです(笑)。

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(オムニバス) 小野リサ ナラ・レオン アントニオ・カルロス・ジョビン カルロス・リラ タンバ・トリオ ジョアン・ドナート トゥーツ・シールマンス「フィーノ・ボサ・ノヴァ~エストラ」

2004/06/23

[CD]

¥2,670(税込)

PEACE BOSSA
小野リサ「PEACE BOSSA」

2004/06/23

[DVD]

¥3,080(税込)