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クラウド・ルー来日記念特集~台湾の国民的スター来日を機に紐解く、台湾ポップスシーンの歴史と今
シンガーソングライター、クラウド・ルーが11月に初のビルボードライブ公演を行う。シンプルで自然体な音楽の魅力で、本国台湾では数々の音楽賞を総なめ。また、アリーナ規模の公演も幾度となく成功させている国民的スターが、貴重なクラブ・ライブを繰り広げる。台湾はもちろん、香港、そして日本でも人気が高まる彼について、今回Billboard JAPANでは音楽評論家の関谷元子氏に、台湾ポップスの歴史と共にそのキャリアやサウンドについて解説してもらった。いま注目の彼をより深く理解するために是非ご一読いただきたい。
台湾ポップスのはじまりと、中華圏への広がり
今日本人が海外旅行で最も行きたい場所ランキングが発表されると、いつも上位にあがるのが台湾だ。実際、台湾に行くフライトは常に満席で、台湾を歩いていると多くの日本人が台湾を楽しんでいるのを目撃する。が、それに比べ、日本人にとって台湾のポップスがよく知られているとは言いがたい。しかし、台湾は、実際、中国語を話す人びとのエリア=中華圏では、良質なポップスを生み出す重要な拠点となっている。
世界中でポピュラー音楽が始まった20世紀初頭あたり、もちろん台湾でもポップスが始まった。台湾の最初のポップスは、1931年の「烏貓行進曲」、歌ったのは日本でいう芸妓さんの秋蟾だ。この時期台湾は日本の植民地であり、日本のレコード会社が台湾に会社を開き、ローカルのレコード会社も次々に出てきて、30年代、台湾語ポップス(当時は台湾語がメインの言語)は大きく花開いた。今でも若いシンガーがカヴァーしたりとよく聞かれる曲「望春風」「月夜愁」などはこの時代の作品である。
▲陶喆 David Tao – 望春風 Spring Wind (官方完整版MV)
戦後、日本が去り国民党が台湾を支配することになり、彼らの言語、日本でいう北京語が強いられ、台湾語ポップスは弱体化するなど時代とともにポップスの様相も変化を遂げていった。しかし、台湾の人はいつも音楽を忘れず、政府の締めつけがあっても上手にかわしながらポップスを作り歌った。音楽は台湾人のアイデンティティを表現するものであった。
90年代、戒厳令が解除されてからの台湾では、自由な表現が可能になり、多彩なポップスが生まれた。それまで虐げられていた台湾語ポップス、原住民と呼ばれる人びとの豊かな音楽文化、客家人の文化も積極的に紹介されるようになった。
一方、大きな市場をもつ中国が経済的発展を遂げるにあたり、中国との共通言語、北京語で歌われる台湾のポップスは、台湾のみならず中国でも大きな力を持つようになる。1996年にアルバム・デビューした原住民のシンガー、チャン・ホイメイ(張惠妹)は、その卓越した歌唱力で中華圏全体での成功を収め、99年には中華圏最高のスーパーバンドMaydayがデビュー、2000年になると今も絶大な支持を得ているシンガー・ソングライター、ジェイ・チョウ(周杰倫)がソロ・アルバムをリリース、2001年には日本のコミックを台湾でドラマ化した『流星花園』の主人公F4の4人がアジア全体で人気を博した。など、台湾から中華圏全体で成功するアーティストが続々と出ていった。そして、中華圏で、台湾ポップスはゆるぎない地位を占めるようになっていったのだ。
▲ジェイ・チョウ(Jay Chou) 【君を待っている】
- 2008年のデビューからクラウド・ルーが国民的スターになるまで
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クラウド・ルーが2008年のデビューから国民的スターになるまで
本稿の主人公、台湾のシンガー・ソングライター、クラウド・ルーがデビュー・アルバムをリリースしたのは、そんな中の2008年だ。そして、クラウドは、それまでに台湾、そして中華圏でもいなかった新しい個性でデビュー、あっという間に、特に若者に絶大な支持を得た。
クラウドは、交通事故で入院しているときに足を動かせないこともあって、友人がくれたギターを弾きそして作曲も始めた。そして、大学のコンテストに出た時の審査員だった今の事務所の社長に認められ、まずはEPでデビューすることになる。そして2008年、デビュー・アルバム『100種の生活』をリリース。このアルバムの最初に収録されているのが『早安,晨之美』という曲だ。日本語に訳すると、「おはよう、晨之美」。晨之美というのは台北で有名な朝ごはん屋さん。この曲でクラウドは、晨之美に行けばいつもたくさんの朝ごはんがあるよ、と歌う。このように、日常を切り取った誰もが共感する歌詞を愛嬌のあるメガネの顔でTシャツに短パンといった親しみやすいルックスで歌った。そしてサウンドは相当かっこよくヴォーカルも驚くほど上手、そんなことが相俟って、あっという間に大ブレイクした。
結果クラウドは翌年、台湾で、いや中華圏で最も影響力のある音楽賞、金曲奨(ゴールデン・メロディ・アワーズ)で最優秀新人賞と最優秀作曲賞を獲得した。この年、最優秀アルバム賞を取った香港のスーパーポップ・シンガー、イーソン・チャン(陳奕迅)は、受賞時に「この賞はクラウドが取るべきだったと思う」と言い彼を絶賛した。
▲盧廣仲 Crowd Lu 【早安晨之美】 Official Music Video
クラウド・ルーのサウンドは洋楽の影響が比較的強い。私がはじめてクラウドにインタヴューしたのは、2009年、金曲賞のノミネートが発表されたまさにその日だった。そこで、好きなアーティストはロバート・ジョンソンと言われびっくりしたのを覚えている。実際、彼の母親はソウル・ミュージックが大好きで家でしょっちゅう流れていて、家の2階に行くとおばあちゃんが台湾の民俗芸能を聞いているという環境だったそう。この事を聞くと妙に納得してしまうのだが、つまりクラウドの音楽には、洗練と泥臭さの二つが混在しており、まさにそれが彼の魅力になっている。
クラウドにとって大きな転換期になったのが、去年はじめてドラマ『お花畑から来た少年(植劇場-花甲男孩轉大人)』に主演したことだ。このドラマ、台湾では高視聴率を記録、この年を代表するドラマになった。クラウドは、大学をいつまでも卒業できない要領の悪い男子。心から愛する祖母が危篤になり田舎に帰ることになり、そこに集まった親戚のそれぞれの問題が浮き彫りになるといったストーリーだ。クラウドは初めての演技とは思えないほど自然体で、感情豊かに演じている。そしてこのドラマの音楽も彼が担当している。クラウドは、この、台湾の田舎を舞台にした泥臭いドラマに、アコースティック・ギターが清々しいシンプルで控えめなサウンドを作った。そして、主題歌である『魚仔』も台湾の2017年を代表する曲になった。台湾語と北京語が行き来するクラウドらしいしみじみとしたこのラブ・ソングは、今回のライブでも歌われるのではないか。クラウドは「国民的初孫」と呼ばれるようになり、老若男女に愛される人気者になった。
今年、クラウドはこの『魚仔』をもって、金曲奨で最優秀楽曲賞と最優秀作曲賞を受賞。そして、現在台湾のエミー賞、金鐘奨(ゴールデン・ベル・アワード)では『植劇場-花甲男孩轉大人』がなんと11部門でノミネートされている。もちろん、クラウドの主演男優賞も含まれている。この賞、発表は10月6日なので、この文章を皆さんが読まれている時はすでに結果が出ているのだろう。※追伸:無事に(!)新人賞&主演男優賞とW受賞しました。
▲盧廣仲 Crowd Lu 【魚仔】 Official Music Video (花甲男孩轉大人主題曲)
もはや飛ぶ鳥を落とす勢いのシンガー、クラウド・ルー。その快進撃は、日本でも始まっている。
ビルボード・ライブの2日前、11月16日にはマイナビBLITZ赤坂でのライブが予定されているがすでにソールドアウト。そして18日にBLITZとは全く趣の違うビルボードでのライブが追加公演として発表され、チケットの売り上げは好調と聞いている。
ビルボードには、台湾のアーティストとして初めての出演を果たした。また、アジアのアーティストとしても韓国のBoAに続いて2人目だそうだ。そんな栄誉の中、クラウドはどんなバンド・サウンドで、どんなライブをしてくれるのだろうか。
最新、台湾・中華圏のポップミュージック事情
台湾は、今バンド・ブームといっていい。様々なサウンドの様々な個性をもつ若いバンドが次々に出て、若者を中心に多くの支持を得ている。中華圏のスーパーバンドであるMaydayは、先日北京オリンピックの開会式が行なわれた10万が入る、通称「鳥の巣」で2日間のライブを成功させた。一方で、台湾で今現在最も若者に支持されているのが、草東没有派對(No Party For Cao Dong)と茄子蛋(EggPlantEgg)という2つのバンドだ。Maydayのまっすぐな青春讃歌といったテイストとは全く違うし、そもそもこの2つのバンドも全く個性が違う。もしご興味があったら、この2つの名前を動画サイトで検索してみてほしい。歌詞も含め、台湾の若者に支持をされているのはこういったバンドなのだ。
▲草東沒有派對 No Party For Cao Dong - 山海 Wayfarer [Official Music Video]
中国でヒップホップが禁止、といったニュースをご覧になったことがあるかもしれない。これは、裏を返せば、中国でヒップホップが大変な人気を博しているということの証しに他ならない。そしてもちろん台湾には以前からヒップホップ・アーティストが存在してきた。90年代初頭、ロサンゼルスで育ったL.A.Boyzという男性グループは、ポップながらヒップホップ・テイストを感じさせブレイクした台湾最初のグループだった。そういう長い歴史があって、今、頑童MJ116というユニットが若者の間でスーパースター的な存在になっている。台湾最大のライブ会場、台北アリーナをすぐにソールドアウトにするし、もちろん中国でも人気だ。
▲頑童MJ116【幹大事 BIG THING】Official Music Video
2014年、台湾の金曲奨で中国のシンガー・ソングライター、リー・ロンハオ(李榮浩)が最優秀新人賞を受賞したことで、もともと中国では実績ある彼が、中華圏全体で人気を博し、ついには台北アリーナでライブを成功させるに至った。つまり、台湾で成功するということは、中華圏全体で注目をあびることになる。東南アジアやアメリカで育った中華系のアーティストもまずは台湾でデビューを試み、そしてそこから巨大市場の中国で大きなビジネスをする。
▲李榮浩 Ronghao Li - 年少有為 If I Were Young (華納 Official HD 官方MV)
しかし、台湾の音楽業界でこういうことを言う人もいる。もう何年かしたら、台湾はチャイニーズ・ポップスのハブではなくなり、今度は中国のポップスそのものが大きな力を持つのではないかと思う、と。
実際どうなるのかは、誰にもわからない。しかし、21世紀になる前から、人口2300万の台湾が生み出すポップスが14億近い中国を席巻してきたことは確かなのだ。
と同時に、彼らの動きを見ていると、台湾だ中国だということがそもそも間違っているのかもしれないとも思う。実際、中国では当たり前のように台湾のアーティスト、あるいは台湾の音楽業界の人たちは活動しているのだ。台湾のポップ・シーン~中華圏のポップ・シーンを見ていると、まさに今が激動の時代であり、外から見ても、興味がつきない。
今や、日本のアーティストも、毎日のように誰かが台湾でライブをしたりプロモーションをしている。もともと台湾は日本の文化にリスペクトがあり受け入れる空気があるし、ブラック・ミュージックよりもロック系が強いという日本と共通する部分もある。台湾は音楽祭もたくさんあるし、もはや台湾で日本のアーティストがライブをするのは、日常のことになっている。
台湾のアーティストも、実は、日本でライブを積極的に行なっている。Maydayは武道館で毎年2日間ライブを行なっているし、前述したチャン・ホイメイも一昨年行なったし、今年は前述した草東没有派對もだ。東京では台湾の多くのアーティストがよくライブを行なっている。
そんな、日本で活動をしている様々な台湾のアーティストの中でも、クラウド・ルーは、実は、最も日本人にフィットするアーティストではないかと思っている。クラウドは9月22日に【中津川 THE SOLAR BUDOKAN】、23日に【京都音楽博覧会】に出演した。中津川では何曲かでパーカッションの若森さちこが入り、ホストの佐藤タイジがギターで2曲共演した。京都は、1人きりの弾き語り。これが本当に素晴らしかった。クラウドの広々とした清々しい声が青空にのぼっていき、原曲を知る人がびっくりするクレイジーなアレンジ、ギターの超絶テクニック。その集中力あるパフォーマンスに、両フェスで、他の出演者とスタッフのかたから多くの賛辞をもらっていた。この2つのフェスでクラウドを見た人は、ほぼ全員が、クラウド初体験だ。それでも演奏が進むにつれて、身体を揺らしたり大声で「最高!」と叫ぶ人もいたし、ツイッターでも「クラウト・ルーすごい!」と多くの人が書いたという。
そして、11月18日のビルボード、今度はバンド編成になる。ビルボードというスペシャルなステージで、また違ったクラウド、一歩進化したクラウドが見られるのではないかと、今から期待している。
台湾の音楽聴いたことがない、という方たちも、是非、今まさに旬の、台湾のトップ・アーティスト、クラウド・ルーの、間違いなく日本の方たちにも愛されるであろう素晴らしい音楽とヴォーカルを堪能してほしいと、心から願っている。彼の音楽は、あの台湾の人たちの温かさ、優しさ、明るさ、そして強さそのものなのだから。
▲盧廣仲 クラウド・ルー【幾分之幾】日本語訳詞付き Official Music Video
文:関谷元子
What a Folk!!!!!!
2017/08/23 RELEASE
POCS-1614 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.Happy Chakra
- 02.一坪半 ~4.95㎡ Dream~
- 03.携帯 (一)
- 04.夏の歌
- 05.ムーンライト備忘録
- 06.今日はここで眠ろう
- 07.善良なメガネ
- 08.携帯 (二)
- 09.ウェディング・リング
- 10.星座の愛情物語~蟹座は愛し続けられるのか
- 11.自分を信じなきゃ
- 12.いつも信じて (「自分を信じなきゃ」 日本語ver.) 【Bonus Track】
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