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PEDRO(BiSHアユニ・Dソロプロジェクト)始動『zoozoosea』インタビュー
いつも自信なさげで、どこでも居心地悪そうで、WACKメンバー全員集合の仕事は「地獄」と表現するほど人見知りで、でも普通に寂しがりやで……BiSHという大ブレイク中のグループの人気メンバーでありながら、決して華やかではない脳内生活をしてきたアユニ・Dの中で育くまれた世界が今爆発。ソロプロジェクトとして始動したバンド、PEDRO(ペドロ)デビューミニアルバム『zoozoosea』の中で見事に表現された。今作同様、どこをどう切り取ってもアユニ・Dの人生=世界のインタビュー、ぜひご覧頂きたい。
実は一番寂しい想いをしてきたBiSH「…まぁ馴染めたら楽しいんでしょうけど」
--BiSHアユニ・Dソロプロジェクト、PEDRO始動。まさかのバンドでのソロ活動がスタートしました。このインタビューをしている時点では、まだ世間の人は誰もこの状況を知らない訳ですが、ソロデビューを控えた今の心境を聞かせてもらえますか?
PEDRO [BiSH AYUNi D Solo Project] / THE BIRTH OF PEDRO [INTRODUCTION]
--今までアユニだけ呼び出されるようなことはなかったの?
アユニ:そうですね。怒られるときは大体みんなで怒られるんで。だから意味が分からなかったんですけど、そこで渡辺さんに「ベースやらないか?」と言われたときは……今はすごく楽しいし、面白いし、有り難いんですけど、そのときは自分だけがフィーチャーされるみたいなことがすごくイヤで、「なんで私がやらなきゃいけないんだ!」とちょっと思っちゃったんですけど、渡辺さんの「やらないか?」は「やれ」ってことなんで。--(笑)
アユニ:やらなきゃいけないと思って「はい」みたいな。--バンドをやること自体に対してはどんな気持ちだったの?
アユニ:まず楽器弾けないし……でも中学3年生のときに受験がイヤになって、逃げ道を作ろうと思ったときに友人が持っていたベースをちょっと借りて、ほんの1ヶ月ぐらいですけどベースを触っていて、「将来、機会があればバンドマンになれたらいいな」とちょっと思っていたんで、だから今は楽しいです。--では、元々バンド好きではあったの?
ヒトリエ『センスレス・ワンダー』MV / HITORIE - Senseless Wonder
--渡辺さんは旧BiS時代から「椎名林檎みたいな子をプロデュースしたいんだよね」みたいな話をちょくちょくしていて、でもアイドルプロデューサーの異端児的な存在を確立していったので、なかなかやれずにいたと思うんですけど、PEDROのデビュー作『zoozoosea』を聴いたときに「あ、やれてるじゃん」って個人的に感じたんですよね。
アユニ:へぇー!--だから7年ぐらいの時を経て、想定外の形であったかもしれないけれど、ソレが実現しているプロジェクトだったりもするのかなと思いました。
アユニ:なるほど。でもその渡辺さんがやりたかったことがコレなのかは分かんないです(笑)。歌詞もひとつも直されなかったし……--でも歌詞をひとつも直されなかったということは、それだけアユニが描いた世界観がもう完成されていたからなんじゃないの?
アユニ:そうなんですかね? 渡辺さん、どんどんグループ増やしているし、何かのインタビューでも「自分で自分の首絞めてる」って言ってたし、忙しくて会う機会も本当に少なくなったんで……--そこはWACKを大きくしていく為にも守っていく為にも仕方ないと思うんですけど、正直寂しい?
アユニ:ちょっと寂しいときもありますけど……何年か前までのように細かいところまでいろいろ言ってくれたりすることは、今あんまりなくなったので。でも渡辺さんありきの私たちなんで……そうですね。--BiSHは『ミュージックステーション』にも出たし、横浜アリーナでワンマンも成功させたし、オリコン1位も獲ったし、次々とソロデビューもしてるし、端から見たら順風満帆で恵まれた子たちというイメージもあると思うんですけど、実はいちばん寂しい想いをしてきた子たちなのかもしれないなと思っていて。実際はどう?
BiSH / HiDE the BLUE[TO THE END @ 横浜アリーナ]
--ムロはデビュー前から北海道で友達だったんですよね?
アユニ:そうですね。--その友達が同じWACKからデビューするってどんな感覚だったんですか?
アユニ:イヤだったです、すごく。別に学校は一緒だった訳じゃないんですけど、でも私がBiSHに入ってからもほぼ毎日LINEしていたりとか、そんなに毎日LINEするような友達はムロパナコの他にいなかったんで。だから複雑だなと思いましたけど、今はすごく楽しいです。--その複雑さというのは、みんなが知らない自分のことも知っちゃっている人がWACKに来ちゃう面倒臭さみたいなモノ?
アユニ:完全にそうですね(笑)。でも最近すごく「ムロパナコが入って良かった」と思ったのが、近頃WACK所属メンバー全員での仕事が結構あって、それが丸一日とか掛かるんですよ。で、30人ぐらい女の子がいて、楽屋はおっきいひとつの部屋で、そこにみんなと居なくちゃいけなくて。まぁ私が自分から馴染めていないだけなんですけど、本当に地獄みたいで。--(笑)
アユニ:だからひとりで勝手に違う部屋とか行ったりするんですけど、そのときにムロパナコが来てくれたりとか、ムロパナコと「ふたりでどっか遊びにいこう」って出掛けたりとか、そういうことも出来るようになったから、それはすごく楽しいです。--逆に何でも知ってくれてるから気を遣わないで済むし、それで助かっていると。先程「地獄」と言っていましたが、それは学校の教室的な息苦しさだったりするんですかね? 何がそんなにイヤなんだろう?
アユニ:めちゃくちゃ個人的なことを言うと、声のデカい人が居る空間がすごく苦手なんです(笑)。BiSHだけだったら個人個人がやりたいことやっている感じなので、うるさく騒ぐ感じじゃないんですよ。でも他のグループはまぁ全員ではないけど明るい子たちが多いから……。--だから馴染めない?
アユニ:自分から馴染んでないだけなんですけど。……まぁ馴染めたら楽しいんでしょうけど。--学校でもそうだったの?
アユニ:そうですね。だから結果的に仲良くなる女の子はムロパナコとか、そういう変な、ちょっとおかしい子。- アユニの変化~バンド始動「BiSHに入ってから今がいちばん楽しいかも」
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
アユニの変化~バンド始動「BiSHに入ってから今がいちばん楽しいかも」
--では、BiSHは居心地の良い場所になってる?
アユニ:うん、そうですね。--加入当初は自分の立ち位置やキャラみたいなモノが分からなくて悩んでいましたけど、今は完全にアユニ・Dのポジションを確立しましたよね。
アユニ:立ち位置とかキャラとかはよく分かんないんですけど、素を完全に出して生活できる場所には、ここ半年~1年ぐらい前からなっています。--どうして素をさらけ出せるようになったんだろう?
アユニ:メンバーひとりひとりと仲良くなれた……うーん、なんだろう? まぁ慣れですかね。ただ慣れるのに時間がかかってしまった。BiSHはお互いにお互いが興味を持たないんで。--無理に干渉し合わないから、それがアユニの性質に合っているところもあるんでしょうね。どこに居ても居心地の悪さを感じている印象はありますけど、BiSHはそうじゃなくなったという。
アユニ:そうですね。入りたての頃はBiSHも居心地悪かったし、それまでの学校生活も「つまらない」という感情だけで生きてしまっていたんですけど、今は「つまらない」という感情は完全に自分の中から消え去っているし、この活動というか、環境というか、仕事をしながら生きていく中で、感情が敏感になったし、少しのことで悲しくなったり、少しのことで嬉しくなったりするんで……前よりは自分の気持ちも出せるようになった。--BiSHはアユニ加入以降、アユニの同世代ぐらいの若いファンもどんどん増えていきましたよね。それについてはどう思いますか?
アユニ:特典会とかは「他のメンバーより若い子が多いね」ってよく言われますね。ファンクラブの層とかもやっぱり私は若い子が多いらしくて、それはすごく嬉しいです。--それは何でだと思います?
アユニ:歳が近いから。--以上?
アユニ:何ですかね(笑)。アレなんですかね? 学校生活がつまんなくて、でもBiSHに入って人に勇気を与えたみたいな。客観的に見ると、たぶんそう思われがちなんで、それなのかな? ちょっとは人に影響を与えられているのかな。違うか。私のアレじゃないです。すみません。違います。--いや、違ってはいないんじゃないですか(笑)。自分がそういう影響を与えられる存在になっているというのは……
アユニ:いや、今のは調子に乗って言っちゃったんで! 本当は違う(笑)。--でもここまで来たらどう考えても影響力は持っちゃっている訳で。そこはどう受け止めているの?
アユニ:ツイートとか気軽に出来なくて、ちょっとイヤです。--窮屈ではあるんだ?
アユニ:はい。イチ言ったら100万ぐらい返ってくるんで。「いや、そういうことじゃないよ」と思ったりして。--じゃあ、今も生きづらくはあるんですね。
アユニ:そうですね。でも言いたいことは言っていきましょう。と今思いました(笑)!--でも、篠崎さん(※エイベックスのBiSHディレクター)もPEDROのドキュメンタリー映像で仰っていましたが、そういうアユニの性質が今回のロックバンドというフォーマットにばっちりハマったところはありますよね。
アユニ:「ベースを買え」と言われたのが今年の2月で、そこから7月に曲が決まったり、作詞を始めたりするまでは不安しかなかったんですけど、本格的に動き出したら本当に面白くて。まず「どんな曲にしたいか?」というところからマスタリングまでぜんぶ関われたので、今まで知らなかったこともいっぱい知れたし、すごく面白いし、有り難いなと思います。自分が作詞してバンドで歌うなんて「ベースを買え」と言われるまで想像もしていなかったし、今でも「なんだこいつ?」みたいにきっと思われるのかなっていう怖さはありますけど、だから自分だけフィーチャーされるのはイヤだと思っていたんですけど、今回は衣装も自分から「こういう風にしてください」みたいな感じでそってぃーさん(※外林健太/BiSH衣装デザイナー兼オフィシャルカメラマン)に頼んでやってもらったり、ぜんぶ自分の意見を取り入れて作ってもたえたので、正直、BiSHに入ってから今がいちばん楽しいかもしれない。本当にこの期間に学べたことがたくさんあるんで! 今がいちばん面白い。--人生の中でいちばん面白い?
アユニ:うーん……そうですね(笑)。--ベースを弾く姿、田渕ひさ子さん(※PEDRO「自律神経出張中」MV&9/25初ライブに参加)にも褒められていましたけど……
PEDRO [BiSH AYUNi D Solo Project] / 自律神経出張中 [OFFICIAL VIDEO]
--でもお世辞ではないと思いますよ。単純に「良い」と思ったんじゃないですか。
アユニ:そうなんですかね? でも嬉しかったです。--そんな素晴らしいギタリストのバックアップもあり、格好良い楽曲群も仕上がりましたし、今回のプロジェクトには自信があるんじゃないですか?
アユニ:いや、曲はめちゃめちゃ格好良いですし、ドラムの方もめちゃめちゃ格好良いですし、ひさ子さんもめちゃめちゃ格好良いから自信……自信というか、すごく格好良いと思うんですけど、私がどうなのかっていう。歌もこれまで1曲丸々ひとりで歌うことなんてなかったんで。歌が上手い訳じゃないし、ちょっと宇宙人みたいとか言われたこともありますし、だから「歌い方変えたい」と思ってボイトレ通ったりしてきたんですけど……--でもそのアユニの声が今回のバンドはめちゃくちゃ生きてますよね。BiSHにおいても近年はすごく堂々と歌うようになったし、すごく魅力的な歌を歌えていると思います。
アユニ:堂々と歌えるようになったのは、完全に松隈さん(※松隈ケンタ/BiSH及びPEDROサウンドプロデューサー)のおかげです。松隈さんの偉大な力があってこそですね。ボイトレに通えば声は出せるようになるんですけど、歌い方とかはどうしてもアイドルっぽい感じになっちゃっていて。でも松隈さんがレコーディングのときにいろんな歌い方を教えて下さって、私に合ったというか、私の声が生かせる歌い方を開発して下さった。今まで淡々とした歌い方しかできなかったけど、例えば「布袋さんの歌い方を意識しろ」「アユニはいろんな種類の歌い方が出来る人だ」と言われたりして面白い歌い方も出来るようになったり、だから本当にこれは松隈さんの力です。--では、歌うことに対して嫌な意識がなくなった?
アユニ:全くないです。むしろ楽しいです。そう思うようになりました。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
自分が共感できるPEDROデビュー作「孤独を歌って、人の孤独を救う」
--ちなみに、BiSHでの自分とPEDROでの自分は別モノになるのかな?
アユニ:うーん、別モノ。楽器を持つのと持たないのは本当に大きい違いなんで。--「楽器を持たないパンクバンド」が今回楽器を持っちゃうんだもんね。
アユニ:だから全然違いますね。本当に楽しいです。すごくしあわせな環境でやれているから「楽しい」と言うのもあるんですけど。これが自らバンド組んでやっていくんだったら全然何も出来ないと思うし。--それにしても2月に「ベースを買え」と言われてからこの短期間でPEDROやアユニ・Dの世界観をよくここまで濃厚に完成させてみせましたよね。アユニだけじゃなく、このプロジェクトに関わっている人たち含めて。
アユニ:そうなんですよ。私が世界観を創り出したというより、他の方々が私の世界観を出せるようにしてくれたので……凄いですよね! 本当に! こんな場所に居られるなんてアレですわ。はい。--PEDROの世界観って言葉にするとどんな感じ?
アユニ:今の自分。--では、今の自分はどんな自分?
アユニ:さっきも言ったように元々「つまらない」だけで出来ている人間だったんですけど、本当にここ最近で感情がすごく豊かになったんで……なんて言えばいいんでしょうね? 前のインタビューで「アユニは直感的で動物的な人間だと感じました」と言われて、自分でも「たしかに」と思って。今まで結構隠していた部分とか猫かぶっていた部分があったんですけど、今は本当の性格を出せるようになっていて、それを言葉で表すなら「直感的で動物的」だなと思って。それが今の自分です。--特に今回のバンドではそれを隠す必要がありませんからね。
アユニ:そうですね。というか、知らないうちに隠してなかった。自然とそうなっていたんですよね。--ソレを出しちゃっていいプロジェクトをこのタイミングで用意出来たことも凄いし、確実に新しいモノが生まれましたよね。WACKのこれまでの何かの延長線上にあるモノというよりは、全くもって新しいモノがアユニとアユニの世界観を表現しようとしたチームによって生まれている。そこに驚きがありました。
アユニ:私も最初に「バンドやれ」と言われたときのイメージは、プー・ルイさん(※元BiSリーダー)が組んでいたルイフロ的な感じだと思っていたので、今この結果に辿り着いたのは自分でも意外です。--「アユニってこんな性質を持った子だったんだ?」と新たに知ることも出来たし、これまでのBiSHにおけるアユニのストーリーの見え方も変わったかもしれない。
アユニ:本当ですか? 嬉しい! ……嬉しいんですかね? 良いこと?--良いことだよ(笑)。だって、自分も楽しみでしょ? このアユニ・Dを世に発信できるのは。これが良い評価を得たときにさ、もしかしたら「PEDRO一本でやりたい」と思うぐらい嬉しくなっちゃうかもしれないじゃないですか。
アユニ:いや、そういう想像はしないようにしています。私的にはこれで終わり。--え、これで終わりなの?
アユニ:私的にはそう思ってるんで、今だけ楽しませて頂いている。--それは敢えて先のことは考えないようにしている、ということ?
アユニ:別に先のことを考えても暗いことしか考えられないんで! だからいつでも先のことは考えないようにしているんです。それは今回のプロジェクトに限らず。だって、言葉でもし「続けるよ」って言われても……なんか社会に出て「本当に人って簡単に信用しちゃいけないな」と学ばされてしまったので(笑)。奇想天外なことのほうが多い世界だから先のことは考えない。でもライブは決まっているので、そのライブは本当に頑張りたいと思っています。--PEDROの活動は今後のBiSHにも生かせそう?
アユニ:曲の感じ方とか変わったので、それは生かせると思います。今までは曲を聴いていても体が自然にノるということがなかったんです。だからレコーディングも「もっと元気出して。もっと曲にノって」みたいなことを言われて頑張ってノっていた感じだったんですけど、今はどの曲を聴いていても勝手に頭の中がノらされりするんで、今後のBiSHのレコーディングも楽しみです。「この曲がどうやって出来ていったのか」みたいなこともPEDROでは全部見てきたので、そこもBiSHに生かせるんじゃないかなって。--BiSHの楽曲に対しても「どうやって出来た曲なのか」そのメカニズムにも自然と興味を持つようになっていくかもしれないし、そうなるとそれはもう音楽家ですよね。
アユニ:いや!--(笑)。PEDROのデビューミニアルバム『zoozoosea』は、どんな作品に仕上がったなと感じていますか?
アユニ:自分の中でいちばん共感できるアルバム。今流行っている恋愛ソングとか何が良いのか分かんなくて、でも世間にはそれが響いているんで、私のこのアルバムが響くのかはちょっと分かんないんですけど、でも私には響く。--世間に響く音楽がないから自分で自分に響くアルバムを作ったんですね。
アユニ:そうですね(笑)。すでに自分には良い影響を与えているんで。--自分以外にはどんな人に響くと思いますか?
アユニ:根が暗い人。以前「孤独を歌って、人の孤独を救う」みたいな話を聞いて、それがすごく格好良いなと思って。人間って「自分だけがこう思っている」と思っていることは大抵多数の人が思っていることだったりするんで、このアルバムもそうだったら良いなという感じですかね。--では、最後に今作『zoozoosea』を手に取るであろう皆さんにメッセージを。
アユニ:あんまりイヤなこと言わないでください!一同:(笑)
アユニ:なんて言えばいいですかね? でも……ひとりでも、ひとりでも心に影響を与えられたら嬉しいです。はい。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
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