Billboard JAPAN


Special

坂口喜咲2ndソロアルバム完成記念 おおくぼけい(アーバンギャルド)と制作過程を振り返る



インタビュー

 坂口喜咲(ex-HAPPY BIRTHDAY)が、2ndソロアルバム『あなたはやさしかった』をリリースした。2015年4月に自身のバンド“HAPPY BIRTHDAY”が解散、それとほぼ同タイミングで発表された1stソロアルバム『朝が壊れてもあいしてる』から約3年ぶりとなる本作は、クラウドファンディングで資金を募り、おおくぼけい(アーバンギャルド)や君島大空(高井息吹と眠る星座)、闇日本5000(まん腹)をはじめとする多くのミュージシャンたちの力を借りながら完成させたもの。


 今回ビルボードジャパンでは、坂口とおおくぼけいによる対談インタビューを実施。坂口曰く「常に楽しかった」という共同作業のこと、3年の空白期間の中で変化した彼女のミュージシャン・シップ、斬新なミュージック・ビデオの撮影秘話など、二人に話を聞いた。

求められてるなって思ったんですよ

――まず初めに、お二人の馴れ初めについてお聞きしたいのですが。

おおくぼけい:共通の友人がおりまして。

――お話ししてみたら意気投合して、今回のコラボレーションに至った?

坂口喜咲:私の方からお願いしました。以前から面識はあったんですけど、ソロのアルバムを聴いて、わーってなって連絡したんです。

おおくぼ:僕のソロ作を聴いて「こういう音が良い」みたいなことを言ってくれたんですよね。

――それはおおくぼさんのソロアルバムから、これから作る自分の2ndアルバムに取り入れられるような要素を感じた、ということでしょうか?

坂口:とにかく面白いものを作りたいと思っていて、けいさまとなら!と思いました。

おおくぼ:僕のソロアルバムというのがちょっと変わったサウンドのもので、プログレッシブだったりアバンギャルドな要素が多かったんです。だけど全体の音としては、エッジが立ったものというより、やわらかく聴きやすいポップな感じ。

坂口:丸い、暖かいサウンドというか。音がすごくたくさん入ってるのに、それがジャキジャキ耳に来なくて。



おおくぼけい - 20世紀のように


――アーバンギャルドのそれとはまた違ったプロダクションですよね。

おおくぼ:わりと逆のアプローチでしたね。最初に会った時はその話をしてくれたよね。

坂口:ピアノの曲が入ってて、それにすごく感動したんです。ぜひ一緒にやってみたいと思って、声をおかけしました。

――おおくぼさんは坂口さんにどんな第一印象を抱きましたか?

おおくぼ:僕もこのお話をいただく前にライブを観てはいたんですけど、これがまた特殊なものだったんですよ。即興でやってて、普段とは違うスタイルの。歌やギターはもちろん、iPhoneとかも使ってたかも。その一つひとつが“上手いな”って思ったんです。

坂口:本当ですか!?

おおくぼ:音楽の力を色々持ってる人なんだなと。あれが第一印象でした。

坂口:何をやったかあんまり覚えていない30分だったんですけど、とにかくやったこともないような、めちゃくちゃなことをやってみようと思って。名義も“きいちゃん from 坂口喜咲”という訳のわからないものにしてたと思います。

――即興ライブだったからこそ、坂口さんの才能がありのまま浮き彫りになったのかもしれないですね。ではご一緒したいと依頼がきた時、即決でOKを?

おおくぼ:そうですね。正直ちょっと不安もありました。アーバンギャルドとも、自分のソロとも違うサウンドだったので。

――アレンジャーとして、どちらとも違うスタンスで臨みました?

おおくぼ:アレンジ仕事って、アレンジャーごとにスタンスが違うと思っていて、例えばアーティストの素材をそのままに「どう良くするか」ってことを考えるタイプもいれば、逆にアレンジャー自身がアーティストで、自分の色も出しつつコラボレーションみたいな形で仕事することもある。今回に関しては、曲によって違うスタンスでやりましたかね。



『あなたはやさしかった』全曲トレイラー


――例えば「あたしの彼氏の悪口言うやつ全員殺す」の場合は?

おおくぼ:「あたしの彼氏の悪口言うやつ全員殺す」は、どちらかというと“自分らしさ”をミックスした感じ。「お花になりたい」は、プレイヤー兼アレンジャーって感じで、曲に寄り添ってみました。プレイヤーとして参加した他の曲に関しては、その楽曲をどう生かすか、ということを心掛けましたね。

坂口:元々一番に「あたしの彼氏の悪口言うやつ全員殺す」のアレンジをお願いしていました。なので、この曲が一番色が出てる。

おおくぼ:求められてるなって思ったんですよ。デモを聴いた時に「あ、これはもう好き放題やったほうがいいんだろうな」と。

――坂口さんはおおくぼさんとのスタジオ・ワークを振り返ってみていかがでしたか?

坂口:すごく楽しかったです。そもそもレコーディングも、人とスタジオで曲を作る作業も久しぶりで。すごく細かくストイックに音と向き合ってくださって、本当に幸せでした。作品を作る時、熱量とか曲との向き合い方って人によって違うと思うんですけど、おおくぼさんはすごく高いエネルギーでバァーっとドォーンとしてくれて、常に楽しかったです。

おおくぼ:ギターの君島(大空)くんにもすごく細かく言ってしまいましたね。でも僕の要望に応えてくれるだけじゃなくてたくさん自分の色やアイディアを出してくれて、結局だいぶ自由にやっていただきました。凄く良かったなぁ。あと、どこまで言っていいのかなと思いつつ、歌録りのディレクションも僕がしたんです。

――もうほとんどプロデューサーのような。

坂口:歌のディレクションをしていただくのは久しぶりでした。ソロ活動を始めるまでは、ヴォーカル・ディレクションがあるのが当たり前だったので、それがなくなってしまった時、正直不安だったんですよ。「これで合ってるのかな?」みたいな。今作ではキーもテンポも歌い方もベストな部分を探し続けてはいたんですけど、やっぱり客観的にディレクションしてもらえるとかなり助かりましたね。

おおくぼ:彼女のすごいところは、「こうしたほうがいいんじゃない?」って言うとすぐに対応してくれるところ。「あたしの彼氏の悪口言うやつ全員殺す」なんて、結構コーラス重ねてて。

坂口:すごい本数重ねましたよね。その全部を鍵盤で探してくださって。この曲は特にしっかりしたコーラスを入れることができました。

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刺激的でありつつ、難しいなって思ったんです

――今作では多くの参加アーティストの方々がクレジットされてますが、これには何かきっかけが?

坂口:うーん、自分一人じゃできないことを友達に手伝ってもらってるうちに、それが広がっていった結果ですかね。

――ある意味1stの制作時の反省点でもあったりする?

坂口:1stアルバムを作ってる時はまだバンドやってたんですよ。解散タイミングとほぼ同時期くらいかな。なので、「一人でできる」みたいな意地を張ってた部分もありますね。勘違いと、誤解と、調子に乗ってるっていうんですかね。でも、どうしても一人ではできないことが増えてきて、単純にもっと良いものを作るには、きちんと人と向き合っていかなきゃいけないなと思って。今回、人と向き合うことは大きなテーマでした。

――おおくぼさんさんは、一人のリスナーとして今作にどんな感想を持ちましたか?

おおくぼ:シンプルにバラエティ豊かだなって思いましたね。月並みな言い方になりますけど、一つひとつに愛が詰まってる。ずっとライブとかで歌ってきた曲もありますよね。愛着もあるだろうし。

――では参加アーティストとして、何か新鮮だなと感じたことはありますか?

おおくぼ:最初のミーティングの時に、ポップかつエッジの効いたものを作りたいけど、それと同時にやわらかい、丸い音にしたいんだって話があって、例として聴かせてくれた音が90年代くらいのものだったんです。でも坂口さんは、その当時の音楽をやりたいわけじゃなく、あくまで今の音楽をやりたいわけで、そういうアプローチが刺激的でありつつ、難しいなって思ったんです。そういう音楽って、自分に深みがないとできないものだと思うので。

――それは他のプロジェクトにはない感覚ですか?

おおくぼ:うーん、そうですね。いろんな方向性がありますけど、アーバンギャルドではエッジを立てよう立てようって感じで丸くしようみたいなことは考えないですね。他だと、戸川純さんとのコラボではサウンド云々というか、自分をぶつけていく感じに近いからまた雰囲気が違います。

――なるほど。今作の中でお気に入りの曲があれば教えてください。

おおくぼ:アレンジも担当した「お花になりたい」は、ライブで聴いた時に感動した記憶があったので、関わることができて嬉しかったですね。自主制作でアコギだけの音源を一度出してるよね? それがすごくいいんですよ。「これ超えなくちゃいけないのかぁ」みたいな。超えないまでも、別の感動を作らなくちゃいけない。結果的にほぼピアノ一本になりましたが。



お花になりたい 坂口喜咲


――アルバムのリリース・パーティーとして、7月29日にはバンドセットでのライブが予定されています。

坂口:今年からバンドセットで活動し始めたんですけど、今のメンバーとはまだ2回くらいしかライブやってないんです。アルバムのレコーディング・メンバーなんですけど。

――久々のバンド形態を主軸に据えた活動はいかがですか?

坂口:私、元々ハンドマイクで歌いたいんですよ。なので弾き語りは、どうしても“一番表現できる形”じゃないっていう気持ちが自分の中にあって。弾き語りも楽しいんですけど、できるならバンドでやりたいってことは、今までファンの方たちにも言ってたことなんです。なので本当に念願で、ただただ楽しく嬉しいですね。

おおくぼ:それこそ僕、この前バンド編成のライブ見たんですけど、かっこよかったです。かっこよかったし面白かった。レコーディング・メンバーもすごくかっこいい演奏をしてました。

坂口:私、4人組バンドってやったことないんですよ。ずっと2ピースでやってきて、そこにサポートが入る形。で、今回は3人ともサポートだから、どういう空気感になるのかなって手探りでした。

――みなさん若い方ですよね。

坂口:年下と同い年なんですけど、一緒にやっていくにつれて、みんな自分の意見を出してくれるようになって、少しずつバンドらしくなってきましたね。本人たちの引き出しがそれぞれ様々で、そのおかげでかっこよくなったと思ってます。私一人が全部決めてしまったら絶対に面白くないし、なるべく自由に楽しみながら演奏したいです。

――共に作品を作り上げた、というのも大きいかもしれないですね。

坂口:そもそも初めからレコーディングを想定して集めたメンバーなんですよ。ドラムのねつ(のりお)くんは、バンドでドラムを叩くのは6~7年ぶり?だったはずです。

おおくぼ:そうなの? めちゃくちゃ味があってよかった。

坂口:ねつくんとは一番早くからスタジオ入ってたかな。たくさん助けてもらいましたね。

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やりたいことをやる、好きなものを作る

――「地下鉄」のミュージック・ビデオでは、坂口さんが地下鉄内で男性に抱っこされながら進む、というシュールな映像となってます。

坂口:バタバタのスケジュールの中、関西で映像を作ってるタニガワヒロキくんがやってくれる、という話になって、「もう大阪行く!」って向こうに行って、初対面のドラマーの男の子に抱っこしてもらいました。

――間にはホテルでの映像もインサートされて。

坂口:まず初めに監督と「どういうものが好きか?」ってやり取りをして、私が「キラキラしたものとかネオンが好きで、ラブホとか好き」って言ったら、「俺もラブホ好きやねん」ってなって撮りに行きました。好きなものを詰め込む、という感覚は音もジャケも映像も同じでした。



地下鉄 坂口喜咲


――前作のアートワークもホテルで撮影されたものですもんね。

坂口:いい感じのホテルは最近かなり探しましたね。

おおくぼ:エントランスのパネル映像に忠実な部屋の内装ってあるの?

坂口:違うんですよー! あの部屋も、パネルにはメリーゴーラウンドが映ってたんです。でも入ってみたらミッキーとミニーがいて、上にドナルドダック、お風呂にダンボで、「やばい、これ映っちゃダメなやつじゃん」って(笑)。

――アートワークの話だと、前作ではリアルな生活感みたいな生々しさがあったのに対して、今作はバキバキに華やかですね。写真家のうつゆみこさんによるものですが。

坂口:そうです。私がファンでお願いしたんです。今作は、とにかくやりたいことをやる、好きなものを作る、ということに徹底していたので、とにかくかっこいいと思えるジャケットを作ろうと思いました。

おおくぼ:これ牛タン?

坂口:タンです。肉と魚の2パターン撮ったんですけど、全部本物で貝とか生きてて登ってくるんですよ。

――これがショップに並んでいたら、めちゃくちゃ目立ちそうですね。

坂口:そうですね。ドン引きしますかね。

おおくぼ:いや?

坂口:私、男性のお客さんてあんまりいないんですよ。なので、ぜひライブ来てください。

――それってバンド時代から?

坂口:ずっとです。みんなの悩みだったんですよ、昔から。

おおくぼ:でも良いことのような気もするけどね。

坂口:嬉しいですよ。まぁもういいんです、おじさんは。

おおくぼ:なんでおじさんに限定するの(笑)。

坂口:音楽が好きな男性には来てほしい(笑)。ただ、アイドル的な女性シンガー・ソングライター枠には入れないし入る気もないので、図太くなっちゃったというか。もちろんたくさんの方に聴いてほしいんですけど、音楽じゃなくて、女の子が見たいだけのおじさんは、別にいいです。

――バンド時代から客層が変わった印象ってあります?

坂口:あんまりないですね。

おおくぼ:今作はクラウドファンディングの協力も募ったんだよね。

坂口:そうなんです。一人が何万円も負担する構図には絶対にしたくなくて、自分でも出せる金額に設定したつもりです。一生後悔しないように、考えました。結果的に2週間くらいで目標額を達成できて、本当に感謝でしたね。

――ファンのみなさんの力も借りて完成したアルバムの発売を祝うべく、リリース・パーティーの開催も決まっています。

坂口:けいさまも出てくれます。

おおくぼ:僕も出ます。

――どんなライブになるでしょう?

坂口:みんなの気持ちが詰まったアルバムができたので、ライブもあったかい雰囲気になるといいなと思ってます。

――おおくぼさんとも初パフォーマンスですよね。

坂口:めちゃめちゃ楽しみなんですけど私! けいさまの鍵盤は本当にやばいです!

――もちろん他メンバーさんの手腕にも要注目ということで。

坂口:そうですね。みんなかっこいいので楽しみにしていてほしいです。きいちゃんの歌も是非!

おおくぼ:ハンドマイクだしね。

写真



Interview by Takuto Ueda / Photo by Yuma Totsuka

場所:Billboard cafe & dining produced by Billboard Live(東京ミッドタウン日比谷)

坂口喜咲「あなたはやさしかった」

あなたはやさしかった

2018/06/20 RELEASE
KISA-2 ¥ 2,420(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.あいのうた
  2. 02.靴下
  3. 03.地下鉄
  4. 04.ポークカツ
  5. 05.あたしの彼氏の悪口言うやつ全員殺す
  6. 06.DECEMBER
  7. 07.スロープ OVER THE RAINBOW
  8. 08.夏の姫
  9. 09.お花になりたい

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