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ザップ来日記念特集~現存するファンク・グループ最高峰のキャリアを追う
現存するファンク・グループの最高峰は?と問われれば、間違いなく上位に挙げられるのがザップだ。80年代初頭のファンク成熟期に登場し、強靭なグルーヴとトーク・ボックスを使ったユニークなサウンドで一世を風靡したザップ。中心人物だったロジャー亡き今もなお、現役バンドとして世界を駆け回っている。ここではファンクを知るには避けて通れないザップのヒストリーを追ってみたい。
ザップはロジャーこと、ロジャー・トラウトマンを中心に、トラウトマン一家を中心に結成されたグループだ。1951年生まれのロジャーは、米国オハイオ州のハミルトン生まれ。70年代からバンド活動を精力的に行っており、ソウルやファンクを演奏していた。ザップ結成前でよく知られているのが、ロジャー&ザ・ヒューマン・ボディで、1976年には自主制作でアルバムを発表している。
ザップ結成前夜の70年代後半は、いわゆるファンクの黄金期である。ジェイムス・ブラウンからスライ&ザ・ファミリー・ストーンへと少しずつ進化していったファンクは、ジョージ・クリントン率いるP-FUNKによって大きく発展。母体であるパーラメントとファンカデリック以外にも、ブーツィー・コリンズやバーニー・ウォーレルといったスター・プレイヤーを輩出した。その一方で、アース・ウィンド&ファイアーやクール&ザ・ギャングなどが続々と大ヒットを飛ばしてポップ・シーンでも認知が広がっていったことも非常に大きい。また、ロジャーの地元の先輩格に当たるオハイオ・プレイヤーズもすでにブレイクしていた。
ロジャーはジョージ・クリントンに見初められ、トラウトマン兄弟に声をかけてザップを結成。ブーツィー・コリンズの口利きでワーナーからデビューが実現する。そして、1980年にブーツィーも参加したアルバム『Zapp』で華々しくファンク・シーンに登場した。ザップの特徴は、なんといってもロジャーによるトーク・ボックスを通した独特の歌声だ。ねばっこいファンキーなリズムに乗せたロボ声が強烈なファンク・ナンバーの数々はP-FUNKの後継者として絶賛され、ビルボードのR&Bアルバム・チャートでは1位を獲得。シングル・カットされた「More Bounce To The Ounce」もR&Bシングル・チャートで2位まで上昇した。
ちなみに、この「More Bounce To The Ounce」は、その後ヒップホップ・アーティストからサンプリング・ソースとして再評価され、スヌープ・ドギー・ドッグやノトーリアス・B.I.G.などがバックトラックに使用している。また、最近ではマーク・ロンソンがブルーノ・マーズをフィーチャーして大ヒットした「Uptown Funk」の元ネタとなったことも有名な話だ。それほど、ザップの登場は衝撃的であり、音楽シーンに非常に大きな影響力を及ぼしたということがよくわかるだろう。
▲ 「More Bounce To The Ounce」
▲ 「Dance Floor」
ザップの勢いは凄まじく、1982年には2作目のアルバム『Zapp II』をリリース。こちらも、R&Bアルバム・チャートで2位を記録しただけでなく、「Doo Wa Ditty (Blow That Thing)」や「Dance Floor」といったヒット曲を生み出し、一躍ファンク・シーンのトップ・スターとなった。同時期に、プリンスがアルバム『1999』(1982年)でブレイクしたこともあり、ロジャーとプリンスは、80年代へファンクを橋渡しした二大巨頭として高く評価されることになる。
1983年にはサード・アルバム『Zapp III』をリリースし、ここからも「Heartbreaker」や「I Can Make You Dance」などがダンス・フロアを沸かした。また、1985年の4作目『The New Zapp IV U』からは、ギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソンとザップ・ファミリーの歌姫シャーリー・マードックをフィーチャーした「Computer Love」が、ビルボードのR&Bシングル・チャートで8位にまで上るヒットとなり、唯一無二の個性をアピールした。加えて、ロジャーはソロ作品もザップと並行して発表しており、「I Heard It Through the Grapevine」(1981年)や「I Want to Be Your Man」(1987年)などのシングルで、ザップ以上のヒットを放っている。
▲ 「I Can Make You Dance」
▲ 「Computer Love」
しかし、80年代も後半になると、ザップだけでなくファンク自体が下火になっていく。ライバルと謳われたプリンスは独り勝ちしていたが、それ以外のファンク・バンドはP-FUNK勢を含めて軒並みリリースも激減し、細々とライヴ・ツアーで食いつなぐような状況となった。また、ファンクに取って代わるようにして、ヒップホップやコンテンポラリーR&Bが主流となり、ファンク・バンドのレコードが聴ける主戦場であったディスコも衰退していく。ザップは1989年に5作目のアルバム『Zapp Vibe』を発表するが、力作ではあったが時代と合わず不発に終わってしまった。
とはいえ、ザップはライヴ・バンドとして非常に高く評価されていたこともあって、90年代に入ってからも頻繁にツアーを実施し、ロジャーのソロも含めて来日公演を定期的に行ってきた。また、先述の通り、ヒップホップのサンプリング・ソースとしてザップの楽曲が再評価され始めると同時に、若いファンからも注目を集めるようになってきた。ロジャーはキース・スウェット、ジョニー・ギル、ニュー・フレイヴァーといったR&Bのアーティストにゲストで招かれるようになり、1995年には2パックとドクター・ドレーの「California Love」にフィーチャーされて全米で1位を獲得した。しかし、再びザップの時代がやってくるかのように思われたのもつかの間、1999年にロジャーは、メンバーでもあった兄のラリー・トラウトマンによって、金銭上のトラブルにより射殺され、ラリー自身も自殺するという悲劇が起こった。
▲ 「California Love」MV
ロジャーの死とともに崩壊してしまったザップだが、残ったメンバーによって再建され、ツアーを再開する。ロジャー亡き後は、弟のテリー・トラウトマンがトーキング・モジュレーターを駆使してパフォーマンスを行っている。2001年には6作目となる力作アルバム『Zapp VI: Back By Popular Demand』をリリースした。そして、解散することなく、今もなお世界中をツアーし、オーディエンスをファンクのグルーヴの渦に巻き込んでいるのだ。
彼らのライヴの楽しさは、一度体験すれば癖になるはず。ビルボードライブでは、年末のカウントダウンを含め、来日のたびに大いに盛り上がりを見せてくれる。ファンクの真髄を体感したいと思うなら、ザップのライヴにぜひ足を運んでいただきたい。
▲ 「Shy w/ Tuxedo」(Live)
公演情報
Zapp
ビルボードライブ東京:2018/7/11(水)-12(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
ビルボードライブ大阪:2018/7/13(金) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
【BAND MEMBERS】
テリー・トラウトマン / Terry Troutman (Keyboards, Vocals)
バート・トーマス / Bart Thomas (Keyboards, Vocals)
デイル・デ・グロート / Dale De Groat (Keyboards, Vocals)
ロナルド・フロスト / Ronald Frost( Keyboards, Vocals)
レスター・トラウトマン / Lester Troutman (Drums)
アンソニー・アリントン / Anthony Arrington (Sax)
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Text: 栗本 斉
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