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特集:Light Mellow for Early Summer~バーシア、マイケル・フランクス、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス、初夏に聴きたいAORの新作
徐々に暑くて蒸す日が増えてきたこの季節。せめて耳と目だけは、音楽やライブで涼をとりたいもの。かつてビルボードライブとのタイアップで 季節限定のスペシャル・カクテルをプロデュースしていた《Light Mellow Searches》から、今年はこの時期にピッタリなアーティストたちが久々にリリースしたニュー・アルバム、そして来日情報が届いている。AORやシティポップ再評価が進む昨今、現在進行形のベテラン・アーティストたちの動向は、その全盛期を知る人たちだけでなく、若い世代とも共有したいアーリー・サマー・トレジャーだ。
Text: 金澤寿和 (Light Mellow)
初期サウンドが戻ってきた新作を携え11月に来日
まずご紹介したいのは、11月にビルボードライブ東京/大阪での来日公演が決定したバーシア。彼女のジャパン・ツアーは15年以来3年ぶりになるが、今回はこの5月にリリースされたばかりの約9年ぶりのオリジナル・アルバム『バタフライズ』を引っ提げてのステージ。つまり、最新作をフィーチャーしたまったく新しいセットを組むのも、実に9年ぶりということになる。若さを失わないバーシアなので、これはたいへん楽しみだ。
今回の新作『バタフライズ』は、自然体のバーシア、彼女の初期サウンドが戻ってきたのが特徴。前作に当たる『IT’S THAT GIRL AGAIN』は14年ぶりのアルバムだったためか、若干リキんでしまった感があって、ファンの間でも評価が割れた。しかし今回は、9年ぶりとは言っても何度かワールド・ツア−を行なったり、ライブ・アルバムを出したり(日本未発表)と、まったくの隠遁状態にあったワケではなく、ご機嫌なジャジー・ホップ・チューンがナチュラルに耳へ飛び込んでくる。ポップスとジャズ、ラテンをミックスしつつ、それを東欧出身の彼女らしいフェイク感覚でライトに仕上げる。ソロ・デビュー当時の明るさやキラメキ、楽しさ、爽やかさが、今はもっと落ち着いたオトナの表現を纏って、より内省的で心の機微を歌うものに代わっている。それでいて初期バーシアらしいスタイル、瑞々しさを取り戻しているから、とても素直に受け入れられやすい。しかもそこに彼女が得意としているスキャットが入ってくれば、熱心なファンならずとも、思わずニヤリとしてしまう。
また、彼女の出身バンドであるマット・ビアンコのマーク・ライリーとのデュエットも用意された。「Show Time」という曲である。アルバム・デビュー時のマット・ビアンコは、バーシア、ライリー、そしてダニー・ホワイトの3人組。バーシアとダニーは長年活動を共にしていて、彼女の独立から出たばかりの最新作に至るまで、ずっと公私に渡るパートナーとなっている。対してライリーは、2人が去った後はマーク・フィッシャーを迎え、ツー・メン・ユニットとしてマット・ビアンコを維持してきた。ところが16年末に、相方フィッシャーが逝去。現在はライリーが一人でグループを背負って立っている。そのフィッシャーへのトリビュートの意を込めて、バーシア、ライリー、ダニーの3人が曲を書き、一緒に歌うコラボレイションを収めた。これは往年のファンには聴き逃せないところだろう。
▲Basia - "Matteo" (live) 2018
このところシャーデーが映画のサウンドトラックとして8年ぶりの新曲をリリースしたり、スウィング・アウト・シスターが新作・来日を発表、ワークシャイやブロウ・モンキ—ズ、エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンもアルバムを出すなど、80〜90年代に活躍した英欧のおしゃれ系アーティストたちが活発に動いている。その中心に立つ存在として、バーシアのニュー・アルバム『バタフライズ』と、11月の来日公演は見逃せない。
大ベテラン・シンガー・ソングライターのブレない指向性
続いてのご紹介は、もはやレジェンドと呼ぶのがふさわしい大ベテランのシンガー・ソングライター、マイケル・フランクス。今年73歳になった彼が出したのは、『ザ・ミュージック・イン・マイ・ヘッド』。前作『タイム・トゥゲザー』から約7年ぶり、通算18作目となるオリジナル・アルバムである。
時は過ぎゆく。多くのものが変わる。
しかしながら、変わらないものもある…。
これは、新作収録曲「Bluebird Blue」の楽曲解説に寄せたマイケル自身のコメントだ。でもそれがすなわち、マイケルの音楽の核心であり、デビュー40余年が経過した今も変わらぬ彼のスタンスなのである。デビュー前は大学の教壇に立っていたこともあるインテリで、現在は動物愛護団体の活動に力を入れる菜食主義のナチュラリスト。優しく繊細な歌声や囁くようなヴォーカル・スタイル、ジャズやボサノヴァを下地にしたしなやかな音楽性は、メジャー・デビュー盤である『THE ART OF TEA』(76年)や『SLEEPING GYPSY』(77年)頃のまま、何ら変わりがない。今やポップ・クラシックにもなっている「アントニオの歌」の芳しい歌世界が当時のままというのは、もはやミラクルである。特に彼は英米ではコンテンポラリー・ジャズにカテゴライズされていたため、流行や時代の潮流とも一定の距離感を保つことが許された。日本ではAORシンガーとしてキャリアを築いているけれど、マイケルほど指向性にブレがなく、しかも長期に渡って安定した創作を続けている人は他に知らない。
それゆえ、7年ぶりのニュー・アルバムと言っても、サポート陣に大きな変化はなく…。プロデュースに立っているのは、元イエロージャケッツで今は復活したジェフ・ローバー・フュージョンに籍を置くジミー・ハスリップ、ブラジル音楽のスペシャリスト:ギル・ゴールドスタイン、マイケルのツアー・バンドのまとめ役チャールズ・ブレンジグ、いまのマイケルにとって一番の良き理解者スコット・ペティート、そして昨年急逝した人気ギタリストでフォープレイでも弾いていたチャック・ローブが1曲。実は今回、マイケルが真っ先に新曲のデモを渡したのがチャックで、彼は病身を押して素晴らしいトラックを完成させ、マイケルを驚かせた。その後も作業を続けていたマイケルに彼の訃報が届くと、マイケルはショックを受け、数ヶ月間レコーディングを中断せざるを得なかったという。
▲Michael Franks - "Antonio´s Song"
リリース情報
『ザ・ミュージック・イン・マイ・ヘッド』
- マイケル・フランクス
- 2018/05/23 RELEASE
- 国内盤 | PCD-27038
- [定価:¥ 2,700(tax out.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
『AMウェイヴズ』
- ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
- 2018/05/02 RELEASE
- 国内盤 | PCD-24720
- [定価:¥ 2,400(tax out.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
公演情報
ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス / Young Gun Silver Fox
ビルボードライブ大阪:2018/8/16(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
ビルボードライブ東京:2018/8/18(土)>>公演詳細はこちら
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
バーシア / Basia
ビルボードライブ東京:2018/11/5(月)- 6(火)>>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
ビルボードライブ大阪:2018/11/8(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
関連リンク
Text: 金澤寿和 (Light Mellow)
デヴィッド・ボウイの遺作にインスパイア…?
その他にも、前作で再会したベテラン・ギタリストのデヴィッド・スピノザ、実力派サックス奏者エリック・マリエンサルやボブ・ミンツァー、ゲイリー・ミーク、多くのリーダー作を出している在米ブラジル人ギタリストのホメロ・ルバンボなど、馴染みの顔が参加。一方で、神保彰の最近のソロ活動を支える名手オトマロ・ルイーズ(kyd)が参加したり、ピーター・ゲイブリエルのツアーにも抜擢されたジャズ・ピアノの才媛レイチェルZが故ジョー・サンプルを髣髴させるピアノを披露する初顔合わせも。同じく、前衛ジャズのみならずイギー・ポップやジョン・ケイル、ルーファス・ウェインライトらと共演しているニューヨーク・ベースのクセ者ドラマー:ベン・ペロウスキーの参加は、もしかしてデヴィッド・ボウイの遺作『★(ブラックスター)』にインスパイアされたのでは…?と、想像を逞しくしてしまう。
表向きは何も変わらないが、実はそこにピリリと隠し味を忍ばせたり、さり気なくシニカルな表現を織り込むのがマイケル流。ジェントルでナイーヴだが、40年以上もひとつのスタイルを貫いてきたのだから、これは逆にかなり頑固者だし、柔らかな物腰とは裏腹に、鋼のような意思の持ち主といえるのだ。
そのためか、彼の影響力も着実に次世代へ浸透している。名曲<アントニオの歌>のカヴァーが多いのは言うまでもないが、ヨーロッパで発表されたばかりのリオ・シドラン(ベン・シドランの息子)の新作が、その名もズバリの『COOL SCHOOL – The Music of Michael Franks』というマイケル作品のカヴァー集なのだ。そこでは1曲マイケル自身がゲスト参加し、リオとデュエットを披露している。
そんなマイケルの新作『ザ・ミュージック・イン・マイ・ヘッド』。あとは13年以来となるジャパン・ツアーを待つばかりだ。
初来日公演決定!ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
そして最後にもうひと組、《Light Mellow Searches》に近いところから、強力リコメンドするアーティストをピックアップしておこう。それは8月のビルボードライブ東京/大阪での初来日公演が決定していヤング・ガン・シルヴァー・フォックス(YGSF)。彼らはUK産のモダン・ソウル・バンド:ママズ・ガンの中心人物アンディー・プラッツと、LAを拠点に活動するマルチ・ミュージシャン/プロデューサー:ショーン・リーによるスペシャル・プロジェクト。
▲Introducing Young Gun Silver Fox [West End Coast LP]
2015年の1stアルバム『WEST END COAST』で、AORファンのみならずブルー・アイド・ソウルやシティ・ポップ・ファンまで、世代を超えた支持を取り付け、まだ出たばかりの2ndアルバム『AM WAVES』で更に裾野を広げつつある。それこそ世代によっては、プラッツの本家ママズ・ガンより高い期待を寄せているほどで、初めてのジャパン・ツアーはまさに待望。ボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェル、クリストファー・クロス、マイケル・マクドナルド/ドゥービー・ブラザーズ、ケニー・ロギンズ、ホール&オーツ、アメリカ、フリートウッド・マック、エアプレイ(デヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンのユニット)、ビル・チャンプリン、アンブロージア、ネッド・ドヒニー、ニコレット・ラーソン、シーウインド等など。2人がフェイヴァリットに挙げる名前に反応してしまう方々は、チェックして、まず損はない。いま欧米では“ヨット・ロック”と持て囃される 70〜80’s AORの今の形が、YGSFを通じて見えてくるだろう。ライトメロウな音楽好きは、こちらも見逃し厳禁だ。
▲Young Gun Silver Fox - Lovely Day (Live in Amsterdam)
リリース情報
『ザ・ミュージック・イン・マイ・ヘッド』
- マイケル・フランクス
- 2018/05/23 RELEASE
- 国内盤 | PCD-27038
- [定価:¥ 2,700(tax out.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
『AMウェイヴズ』
- ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス
- 2018/05/02 RELEASE
- 国内盤 | PCD-24720
- [定価:¥ 2,400(tax out.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
公演情報
ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス / Young Gun Silver Fox
ビルボードライブ大阪:2018/8/16(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
ビルボードライブ東京:2018/8/18(土)>>公演詳細はこちら
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
バーシア / Basia
ビルボードライブ東京:2018/11/5(月)- 6(火)>>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 19:00 / 2nd Stage Open 20:45 Start 21:30
ビルボードライブ大阪:2018/11/8(木) >>公演詳細はこちら
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
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Text: 金澤寿和 (Light Mellow)
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