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Moon ソロ・デビュー・アルバム『Kiss Me』リリースインタビュー
韓国ジャズシーンきってのクール・ビューティーな歌姫Moonが、ソロ・デビュー・アルバム『Kiss Me』を2018年2月7日にリリースした。Moonは韓国の人気ジャジー・ポップ・ユニットWINTERPLAYのメンバー、ヘウォンとして活動し、日本やアジアなどでツアーを行うなど、韓国以外でも精力的に活動を行い、ファン層を増やしていった。キャリア初のソロ・アルバムには、原田知世のプロデュース・ワークで知られる伊藤ゴローがプロデュース&アレンジを担当し、TOKUや小沼ようすけ、ハクエイ・キム、太田剣といった日本のジャズの中核を担うミュージシャンがゲスト参加。ジャズの領域を超えた“今の”ジャズを彼女なりに表現したカバー10曲は、とても優しいタッチに仕上がっている。今回、リリースから数日たったMoonに話を伺い、アルバムに込めた思いやジャズの可能性などをたっぷりと話してもらった。
ソロ・アルバムを出す時があったら、「キス・ミー」を絶対に入れたいと思っていた
――先日、日本ソロ・アルバム『Kiss Me』が発売されましたが、今の心境はいかがでしょうか?
Moon:自分が夢に見ていた作品を、本当に満足のいく素晴らしい方たちと一緒に作り上げることが出来て、とても嬉しいです。こういった機会はそう容易く手に入るものではないので、私はとても幸運だと思っています。いまは、より多くの人にいかにしてこの作品を聴いてもらえるか、そして披露出来るかということを考えています。
―――これまでWINTERPLAYとして韓国のみならず日本や世界各国で活動をされていましたが、WINTERPLAYの活動時からソロのお話はあったのでしょうか?
Moon:WINTERPLAYにいた時は、少なくとも直接私のもとにソロ活動のオファーが来たことはありませんでした。グループの一員としてやるべきことをすることに、当時の私は最善を尽くしていましたし、言わばWINTERPLAYという絵の中にいるヘウォンとして、皆さんからも見られていたと思っています。
――今後はソロとして音楽活動をされていきますのが、どのようなアーティスト像を思い浮かべていますか?
Moon:どんな音楽を自分が表現していくかが基本になっていくと思います。「自分がやりたいことってなんだろう?」と考えて、それに基づいて今回のデビュー・アルバムを作りました。例えば今作を携えた公演など、いろんな機会を通して、多くの人に聴いてもらうことが今の一番の課題です。皆さんに披露する機会は様々な形があると思いますし、ある意味、それはソロの強みでもあると思うんです。一人で歌うことも出来ますし、他の方とのコラボレーションなど、いろんな形が可能だと思うので、そういう機会を自分でも掴み取って、それをきちんと活かす努力をする必要があると感じています。
――今作は伊藤ゴローさんが全面プロデュースされていますが、伊藤さんとの出会いはいつ頃だったのでしょうか?
Moon:実際に伊藤さんにお会いしたのは、昨年、アルバムを作ると決まった後、具体的に選曲の過程に入ったタイミングでしたが、伊藤さんの音楽は以前から知っていました。今回のアルバムを作るにあたって、こういう方向性で行きたいと私が望んだものと、音楽のカラーが、伊藤さんとマッチして、今回一緒にお仕事をする機会を得られました。
――今作はご自身がやりたいことがベースになっているとおっしゃりましたが、曲順や選曲も全てご自身で決められたのでしょうか?
Moon:選曲に関しては、私が歌いたいと思っていた曲と、プロデューサーのゴローさんやスタッフの方たちから提案が出た曲の中から10曲を厳選しました。曲順に関しては悩んだところでもあります。というのも、実際にレコーディングして、その後にミキシングやポストプロダクションの過程を経るうちに、レコーディングをしながら聴いていた感覚と出来上がった時の感覚が少しずつ違ってきたからです。スタッフの皆さんと膝を突き合わせながら、まるでブロックを埋めていくかのように、ベストな順序にしました。
――そうなんですね。どれくらいレコーディングされたのでしょうか?
Moon:レコーディングのスケジュールとして大体1週間くらい取って来日したのですが、最初の3日間は楽器プレイヤーの皆さんがレコーディングをして、その後の3日間くらいで私の歌をレコーディングしました。
――では、3日間でレコーディングしきらなくてはいけなかったんですね。結構大変ではなかったですか?
Moon:こういうレコーディングの仕方は私も初めてでした。今まで韓国でCDを出した時は1日に1曲か2曲くらいのペースだったのですが、今回は1日に2~4曲歌わなくてはいけなくて、最初は少し心配していました。ただ、選曲の段階から自分が歌いたい曲を入れてもらっていましたし、制作の時間を節約するために、韓国であらかじめ準備をたくさんしてから日本に来ました。私や伊藤ゴローさん、そしてスタッフのそれぞれの目的地が同じ場所だったので、大きな無理もなく、無事に終えられました。
――わかりました。今作のアルバム・タイトルでありリード曲でもあるのが「キス・ミー」ですが、シックスペンス・ノン・ザ・リッチャーが歌う原曲は、日本ではTV-CMに使われたりして、かなり有名な曲です。韓国でも有名なんでしょうか?
Moon:(日本語で)有名です(笑)。いつか忘れてしまいましたが、韓国でもCMに使われたことがあって、そのCM自体もすごく出来がいいもので、出演していた俳優さんもこの曲も有名になりました。私が歌ったこの曲を聴いた方から、「こんな感じでも歌えるんだね」と言われるようになりました。
――世界中で多くの人がこの曲をカバーしていますが、Moonさんらしさを出すために心掛けたことはありますか?
Moon:いつかソロ・アルバムを出す時があったら、この曲を絶対に入れたいと思っていました。良いなと思う曲は、聴いた瞬間に「自分だったらこう歌いたいな」とか、「こう表現したいな」というイメージが思い浮かぶんです。この曲の軽やかな美しさをそのままに、ミディアムなスウィングにしたいと思っていました。私の知る限り、他の方のカバーでこういったアレンジをされたバージョンは無かったですし、この曲にはこの感じが合うと自信を持っていたので、それがそのまま表現されていると思います。
――先程、このアルバムにはご自身が歌いたい曲を入れたとおっしゃりましたが、収録されている曲は、Moonさんが昔から聞いていた曲がメインなのでしょうか?
Moon:「キス・ミー」や、「キス・オブ・ライフ」、「イン・ア・センチメンタル・ムード」は、私が今まで歌ってきた、あるいは、そんなにたくさん歌っていないけど、たくさん聴いてきた曲です。一方で「ブラザジア」や「プライベート・アイズ」は、「こんな曲はどう?」とゴローさんから提案された曲です。このアルバムを通じて知ることになった曲なのですが、まだ私の知らない素敵な曲がこんなにあるんだと思いました。また、こういう曲を歌える機会が次いつあるんだろうかという気持ちで歌いました。
―――原曲はロックやR&Bなど、ジャズ以外のジャンルですが、普段もジャズ以外の音楽を聞いているのですか?
Moon:そうですね。普段はジャンルに関係なく、良いなと思うものはどんなジャンルのものでも聴きます。こんな曲を聴いていると言ってびっくりされるような音楽も聴いているんですよ。リンキン・パークとか激しいロックも聴きます。今作には合わないので、歌いたい曲のリストには入れませんでしたが(笑)。
――(笑)。今回英語で歌われていますが、英語には慣れていらっしゃるようですね。
Moon:若い頃から、洋楽のポップスを練習してきましたし、ジャズも90%くらいは英語の曲なので、いつの頃からか英語で歌うことにさほど負担を感じなくなりました。
――韓国語でジャズを歌うのはどうですか?
Moon:ポップスをジャズ風に歌ったことはあって、WINTERPLAYの時にも歌いましたが、どうしても制約が伴ってきます。というのも普通の歌謡曲をスウィングやボサノヴァ風にするには、それに合うメロディと発音が必要になってくるんです。
公演情報
アルバム『Kiss Me』発売記念ライヴ
渋谷 JZ Brat SOUND OF TOKYO
2018年6月3日(日)、4日(月)
出演:Moon(vo)、伊藤ゴロー(g)、佐藤浩一(p)、鳥越啓介(b)、守真人(ds) ※ゲスト有
詳細・ご予約:TEL 03-5728-0168 www.jzbrat.com
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いろんなものに吸収されやすく、取り込みやすいのがジャズの強み
――今回アレンジに関して、参加ミュージシャンたちとどのように話を進めていったのでしょうか?
Moon:音楽に関することをたくさんお話する必要はあったのですが、スタジオでは対話をするというよりも、演奏に合わせて私が歌い、互いに「ここはこうした方がいいんだな」と感じながら色々アレンジをしていきました。本来だと言葉という壁がありますが、今回、言語はあまり意味を持たない、あまり必要ではないと感じさせてくれました。プレイヤーたちがプレイをして、私はその音を聴いて「こう歌うべきだ」と瞬間で感じられたので、そこで少しずつ直していきました。
――ミュージシャン同士、言葉なしでも互いの意志が伝わるものなのですか?
Moon:私がイメージすることと伊藤ゴローさんの目標を、他のミュージシャンの方々も理解してくれて、それに合わせて演奏してくださったからこそ出来たことで、ひとつのアイデア、ひとつのビジョンを全員で共有できてこそ、初めてそれが可能になると思うんです。例えば、いくらこちらがこういう風にしたいと思っていても、プレイヤーの誰かが「それは嫌だ」と心を閉ざしてしまっていたら、お互いに通じ合うことは出来なかったと思います。
――なるほど。3曲目の「キス・オブ・ライフ」も結構有名な曲で、シャーデーの原曲は滑らかなピアノでイントロスタートしますが、Moonさんのバージョンはドラムのリズミカルなサウンドが特徴的ですね。
Moon:実際に私からリズミカルなスタートにしてほしいというリクエストは出していないのですが、この曲もすごく有名で、多くの人がカバーしているだけあって、ただ歌うだけでは意味がないと思ったんです。もちろん私のアルバムなので、私Moonが歌うということで意味を見いだせないこともないんですが、聴く人にとっては、今までの「キス・オブ・ライフ」と大差がないと、大きな意味を持たないと思ったので、Hip-Hopテイストのドラムとシンセサイザーを入れることで、平凡で誰もが知っているようなバージョンではなく、特別な1曲になるのではと思いました。歌に関しては、例えば私がビヨンセのように歌っても、それもまた逆にありふれたものになってしまったかもしれません。あくまでも私が解釈した「キス・オブ・ライフ」で、私が表現出来る歌い方で表現したいと思ったんです。
――この曲はアルバム全体を通しても、雰囲気がガラリと違う曲に仕上がっているという印象を受けました。
Moon:おっしゃる通り、そういった要素も必要だと思ったんです。この曲はちょっと違うなと思える要素を、この曲だけでなく、いくつかに散りばめることによってアルバム全体の均衡を保ちました。そのバランスの取り方がもの凄く難しかったのですが、伊藤ゴローさんがとてもうまく作ってくださいました。
――収録されている「クァンド、クァンド、クァンド」はWINTERPLAYでも歌われていますが、この曲を今作にも入れた理由はあったのでしょうか?
Moon:この曲はWINTERPLAYの時からよく歌っていて、多くの方に愛されてきた曲でもあります。今回ソロという新しい出発をするにあたって、聴いてくれる人に何かプレゼントのような意味合いを持つ曲を入れたいと思っていました。韓国ではカフェでよくWINTERPLAYの「クァンド、クァンド、クァンド」が流れていて、「この曲が好きです」と言ってくださる方がたくさんいらっしゃるんですが、考えてみると、WINTERPLAYの曲はもう10年近くも前の曲なので、今歌ったらこんな感じになると比較するのも面白いと思ったんです。また自分がどんな風に変わったかもチェック出来るとも思いました。でも一番の理由は聴いてくださるファンの方へのプレゼントという意味ですね。
――WINTERPLAYでの活動と、これからのソロ活動をミックスさせた意図もあったのでしょうか?
Moon:そうとも言えると思います。実際に私はWINTERPLAYとして活動をしていたし、それ以前の活動も含めて私がここまで成長してきた過程の一部でもあるので、ソロになったからといって、今までのことを無かったことにする気は全然ないですから。
――実はMoonさん、WINTERPLAYで2009年11月にビルボードライブで公演をされていますが、当時のことを覚えていらっしゃいますか?
Moon:もちろん、他のことは忘れてもあの時のことは忘れていません(笑)!本当に印象的だったので覚えています。まだ新人だった私達の初めてのワンマン来日公演で、あんな素敵なステージに立たせて頂けるのは稀なことだったので、私達はとても運が良かったと思いますし、ある意味、目が肥えてしまったとも思っています(笑)。
――ビルボードライブでは、カマシ・ワシントンやロバード・グラスパーといった、新しいジャズを作るアーティストもライブを行っていますが、こういったアーティストをご存知ですか?
Moon:そういった方たちの音楽もチェックしています。ジャズの面白いところはそういった革命的なところにあると思います。昨今の音楽はジャンルがきっちりと線引きされておらず、大分あいまいになってきました。ジャズは昔からあって、過去の音楽ではあるものの、ジャズ以外の音楽と結合しながら、あるいは分解されながら形を変えて新しいジャズが生まれています。他のジャンルの音楽と違うところで、強みでもあると思うのが、いろんなものに吸収されやすくもあり、ジャズに取り込みやすくもあるということです。私が出したアルバムも今の時代には、こんなジャズの形があるんだと示していると言えると思います。
――日本では韓国の音楽というとK-POPが断トツで強く、Moonさんのジャズ・アルバムのリリースは新鮮であり驚きでもあるのですが、韓国のミュージックシーンにおけるジャズの立ち位置はどんな感じなのでしょうか?
Moon:「韓国のジャズシーンはどうですか?」と聞かれていつも答えているのは、プレイヤー達が演奏出来る機会はさほど多くないということと、一般的に多くの人が触れる音楽にはまだ至っていないということですね。ただ、海外で勉強している方はたくさんいますし、絶えずジャズの活動をしている方もいらっしゃいます。それを披露出来る場の大小というのは、短期間で解決されることは難しいですが、レベル自体は上がっているので、引き続きいろんな人に働きかけ、いろんな場所でドアを叩き続ければ、一般の人にも浸透する何らかの方法が見いだせるのではと思っています。
――Moonさんはこれからもジャズ路線でご活動されていくおつもりですか?
Moon:以前受けたインタビューで、「様々な形の音楽を聴かせてくれましたが、一度もジャズでなかったことはありませんね」と言ってくださったことがあるんです。それは私が目指すことでもあるのですが、ジャズという音楽がいかに多くの可能性を秘めているのかというのを、歌っていても感じますし、きっと音楽を聴いている人も、それを分かって下さると思うんです。様々なジャズの道を進んでいくにあたって、まずは私自身が持つジャズという器の大きさをだんだんと広げていく必要があると思っています。
――分かりました。今作はMoonさんの自信作だと言えると思いますが、もしセカンド・アルバムを作る時が来たら、どんな作品にしたいと思いますか?
Moon:ファースト・アルバムを出したばかりなので、次回作のことを何も考えてないのですが…セカンド・アルバムももちろん出したいです(笑)。今作の一番の基本は、良いサウンドであること、良いメロディの曲であること、そして良い歌唱であることです。この3つを盛り込むことを基本としたのですが、この点に焦点を当てつつ、維持するのが、いかに難しいかも改めて感じました。これらは基本のことなので、今後も保ち続けようと思っています。もし次回作を作るのであれば、世に出ている美しい曲はまだまだたくさんあるので、それらを自分の歌として歌うことが大切だと思いますし、私の頭の中にあるメロディや単語を音楽に込めて表現することが、とても大切になってくると思っています。
▲Moon『Kiss Me』Teaser
公演情報
アルバム『Kiss Me』発売記念ライヴ
渋谷 JZ Brat SOUND OF TOKYO
2018年6月3日(日)、4日(月)
出演:Moon(vo)、伊藤ゴロー(g)、佐藤浩一(p)、鳥越啓介(b)、守真人(ds) ※ゲスト有
詳細・ご予約:TEL 03-5728-0168 www.jzbrat.com
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