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特集:宮本笑里~彼女だからこそ生み出すことができた音楽とは?
昨年、デビュー10周年を迎えた、ヴァイオリニストの宮本笑里。世界的なオーボエ奏者であり、指揮者としても活躍した宮本文昭を父に持つことでデビュー当時は話題を呼んだが、彼女は独自の道を歩み、自分自身でキャリアを築いてきた。クラシックという枠にとどまらず、幅広い感性で音楽を捉え、宮本笑里だからこそ生み出すことができた音楽とはどういうものなのか。ここでは、4つのキーワードで、彼女の10年間を振り返ってみたい。
1. ベースはクラシック音楽
7歳でヴァイオリンを始めた宮本笑里は、幼少期をドイツで過ごし、東京音楽大学付属高校から同大学へ進学。その後、桐朋学園のカレッジ・ディプロマコースに編入し、その腕を磨いていった。基礎を叩き込んでいるため、言うまでもなくクラシックは彼女のベースである。これまで発表したアルバムにも、本格派ヴァイオリニストとしての腕前がわかる名曲を多数収めている。デビュー作『smile』(2007年)ではボロディン「ダッタン人の踊り」、2作目の『tears』(2008年)ではグノーの「アヴェ・マリア」、3作目の『dream』(2009年)ではマスネの「タイスの瞑想曲」と、ロマンティシズムに溢れたメロディを奏でるというイメージが強い。誰もがどこかで聴いたことがある楽曲が多く、クラシック・ファン以外にもアピールできる選曲がメインだ。しかし一方では、ヴィエニャフスキの「2つの性格的なマズルカ」やバッハの「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」といった通好みの楽曲をセレクトしているところもポイントが高い。
2. 彼女だけのオリジナル・ナンバー
クラシック系のミュージシャンは、それほどオリジナル楽曲を重視しない傾向にあるが、宮本笑里は書き下ろし楽曲の演奏にも積極的だ。デビュー作『smile』では岩代太郎による大作「無言歌集」が圧巻だったし、2作目『tears』には、河野伸、妹尾武、羽毛田丈史といったピアニストたちからの楽曲提供を受けた。その後も、CHI-MEY作曲の「ESPERANZA」や同じヴァイオリニストである吉田翔平の「ZERO」など、テレビ番組ですっかりおなじみとなった楽曲もある。THE 世界遺産のテーマとなった服部隆之による「Les enfants de la Terre〜地球のこどもたち〜」や、大島ミチルが手がけたNHK大河ドラマのサントラ『天地人』など、テレビや映画のタイアップ曲は、代表曲になっているものが多い。最新作『amour』には、中島ノブユキや鳥山雄司も楽曲提供している。また、宮本笑里自身も、作曲家として「birth」や「flower」などを生み出している。
▲「birth」MV Short Ver.
3. スタンダードナンバーからJ-POPまでポップスも
基本的には、クラシックの名曲とオリジナル楽曲の2本柱で作品を作り続けてきた宮本笑里だが、姉の結婚を祝うために木村カエラの「Butterfly」をカヴァーし、アルバム『for』(2010年)のボーナストラックに収録した。また、母親となってからの初のアルバム『birth』(2015年)では、アストル・ピアソラの「リベルタンゴ」、エンニオ・モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ」、ディズニー映画の名曲「星に願いを」などをレパートリーに加え、最新作『amour』(2017年)でも、ミシェル・ルグランの「シェルブールの雨傘」やセリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go On」、JUJUの「やさしさで溢れるように」をカヴァーしている。クラシック曲もポップスも彼女の演奏スタンスは変わらず、メロディが際立つ演奏を聴くことができる。
▲「You Raise Me Up」Short Ver.
4. ジャンルを越えたコラボレーション
もしかしたら、これが宮本笑里の最大の特徴かもしれない。彼女はいわゆるクラシック畑だけでなく、様々なジャンルのミュージシャンやシンガーとコラボレートしてきた。実父である宮本文昭を筆頭に、福山雅治、CHEMISTRY、ケイコ・リー、中孝介、エリック・マーティン、T-SQUAREと、とにかく幅広い。また客演だけでなく、自身の作品でもその傾向は顕著。スウィートボックスの元ヴォーカリストであるジェイドとのユニット、Saint Voxの『Saint Vox』(2009年)や、沖縄の歌い手たちとともに沖縄音楽とクラシックの融合を試みた『大きな輪』(2011年)などはかなり振り切った作品だった。また、仙台フィルハーモニー管弦楽団と共演し、ポール・ボッツをゲストに迎えた『renaissance』(2012年)は感動的な作品となった。それ以外にも、Solita(クレモンティーヌの娘)、ジェイク・シマブクロ、平原綾香、May J.、沖仁などが彼女のオリジナル・アルバムにゲスト参加している。こういったコラボの面白さを楽しめるのも、宮本笑里の魅力なのだ。
▲「風笛〜Love Letter〜 featuring 平原綾香」メイキング
公演情報
宮本笑里
10th anniversary special live
Guest: 池田綾子(Vocal)
ビルボードライブ東京:2018/3/18(日)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2018/3/21(水)
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
>>公演詳細はこちら
【BAND MEMBERS】
宮本笑里(vn)
吉田翔平(vn)
岸田勇気(key)
木村将之(b)
齋藤たかし(ds/perc)
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Text: 栗本斉
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