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西野カナ 『Love Place』インタビュー
西野カナの新作は、耳で楽しめる曲がいっぱい!
正しい発声法などに捕われすぎない
言葉がはっきり聴こえるような滑舌に気をつける
今回の並びは耳が決め手になっている
これらは全て、今回の取材で西野カナの口から発せられた言葉だ。年頃の女の子の代弁者とされることの多い彼女だが、何より秀でている歌の巧さ。普遍的でしなやかな歌唱力については、これまでどれだけ語られてきたのか。
加えて美麗な容姿や人懐っこいキャラまで合わせ持つ彼女ほど、パフォーマーとしての才を兼ね揃えたシンガーはなかなかいない。……という訳で今回は、ニューアルバム『Love Place』をリリースした彼女に、歌い手としての意識や想いを改めて訊いた。
耳だけでちゃんと伝わるように
--今年の1月に台湾の紅白歌合戦といわれる『超級巨星紅白芸能大賞』へ出演しました。言語の通じない国の象徴的な舞台に選ばれることは、シンガーとしての資質や単純な歌の巧さが問われた所も大きいと思うのですが。
西野カナ:最初は本当に想像がつかなかったし、日本語の歌だからすぐには分かってもらえないだろうと思ってました。以前に台湾盤のタイトルとして自分の曲が全部漢字になっているのを見たことがあるんですけど、やっぱり細かい所までバッチリ通じていることはないというか。だからこそ歌詞以上に歌声が注目されるだろうなとは思っていました。
--西野さんは、しゃくりや特徴的な節回しを多用しない非常にスタンダードな歌い方をしますよね。変に巧っぽく歌わないというか。
西野カナ:自分の選んだ楽曲を自分で作詞していくと、自然とそういう風になっていくんです。逆に、他の人の曲をカラオケとかで歌うと、その人の癖を受け継いで歌ってることもあると思うし。
--自分の歌になると違う?
西野カナ:自分で歌詞を書いていると言葉の響き方や詰め方、譜割も決められるし、何ならリズムやメロディを変えることもできますよね。そういう意味では、歌いにくくないから巧っぽく歌う必要もないというか、そこも自分で操作しているのかなって思います。
--でも世間的には巧っぽく歌う方が主流ですよね。
西野カナ:日本語は響きが硬いからメロディに乗せにくい場合があって、抜けが悪い所には英語を使ったりもします。でも、これだけ歌詞に注目してもらえるんだったら、ちゃんと日本語で意味のあることを書きたい。それが一番大事なことですから、言葉がはっきり聴こえるような滑舌(かつぜつ)は凄く気をつけてレコーディングしています。……元々、あんまり滑舌がよくないんですよ(笑)。
--いやいやいや(笑)。
西野カナ:実際に良く言われるので、聴き取り難いかどうかは気にしますよ。歌詞カードを読みながら聴いてくれる人ばっかりじゃないから、耳だけでちゃんと伝わるように。よりカチッと聴こえるように録ってますね。
今回のアルバムは年齢層がバラバラ
--西野さんのライブは知らない曲でも歌詞が聴き取りやすいし、脳での咀嚼を必要とせずに心まで伝わってきます。かつては民謡なども習っていたそうですが、そうした経験は影響していますか?
西野カナ:逆に、民謡からは“発声法などに捕われすぎない”っていう考え方を学んだ気がしています。ボイトレには正しい発声法や歌唱法がいっぱいあると思うんですけど、あんまりそういうこだわりに捕われすぎない。“民謡の発声法はあるけど私が好きなのは歌謡曲だし……”みたいにラフな考え方ができるようになりました。
--となると、滑舌などの意識はデビューしてから?
西野カナ:そうですね。私は洋楽が好きだし、日本語でも英語に聴こえるような歌詞が好きだったりして、趣味としてはあんまり意味を考えずに歌うことが多かったんです。でも、デビューするタイミングでレコーディングした自分の声を聴いてみた時、歌詞が全然聴こえてこないというか、これじゃ勿体無いですよね。初めて聴いた人にも“この曲は好きかも”って思ってもらいたい。ライブに来てくれるのは歌詞を覚えてきてくれる人だけではないですからね。
--最初のブレイクポイントを迎えた当初、西野さんは“着うた系シンガー”というカテゴライズに組されていました。
西野カナ:そうですね。
--やがてブームは翳っていきますが、それでも西野さんは大きな変化ではなく、シンガーとしての成長を実直に求め続けてきたように見えました。
西野カナ:私も年を重ねていくから成長とか感性とか価値観が変わっていくと思うんですよ。ただ、今は年齢的にちょうど子供と大人の間ぐらいで、10代の人の気持ちが分かるし、大人が言っていることも理解できる。そういう狭間にいるからこそ色んな気持ちで書けますよね。だから今回のアルバムとかは年齢層がバラバラで、色んな自分になりながら書けたと思っています。
“今までこんな高い音あったっけ?”
--今作『Love Place』は、お馴染みのプロローグから「私たち」「Day 7」と、いきなりもの凄い熱量のボーカルが轟く2曲が続きます。迫力すら感じさせるこの2曲を最初に持ってきた意図は?
西野カナ:全部の楽曲が完成して、“Love Place”っていうタイトルも決定してから最後に曲順を決めていったんですけど、じゃあこのアルバムはどういう世界なのか。タイトルがもの凄く大袈裟というか、大きなタイトルでもあるんだけど、フタを開けてみれば生活感たっぷりな日常的なテーマの楽曲ばかりですよね?
--そうですね。
西野カナ:そんな日常にも幸せとか、当たり前の中にもあったかいものを感じて欲しい。そんな願いを込めているから、当たり前なんだけど凄くキラキラした世界っていうイメージを抱いたんです。キラキラしたファンタジーの世界に惹き込みたかったから、プロローグをあえて中途半端な所でバッサリ切って、その瞬間に吸い込まれていくような意味を込めて、私のブレスで始まる「私たち」に持っていったんです。今までは歌詞の内容やストーリーをイメージして曲順を並べていったんだけど、今回は聴感的というか耳に入っていく音を考えて並べましたね。
--この2曲はミュージカルのような世界観でもあり、さらに終盤、西野さんのボーカルがもの凄い迫力になっていくじゃないですか。初めて聴いた時はちょっと驚きましたよ。
西野カナ:今回のアルバムはキーの高い曲がいっぱい入っていて、「Day 7」の最後のフェイクの部分に関しては史上最高にキーが高いと思うんですよ。最初は何も考えずに“いいね! いいね!”なんて言いながらレコーディングを進めていったんですけど、“ちょっと待って。まだフェイク録ってないよね?”って気付いて(笑)。
--このままだと最後がヤバいぞと?(笑)
西野カナ:“あの……、トップの所でファまでいくんだけど、今までこんな高い音あったっけ?”って(笑)。勢いでレコーディングした所もあるので、ライブでやるのは楽しみですね。
--キーを下げるという選択肢はなかったのでしょうか?
西野カナ:レコーディング前のプリプロの段階では半音の上げ下げをしてみたりと色々試したりするんですけど、やっぱりそのキーになっている意味はどの曲にもあるんですよ。より感情的に聴こえたり、迫力を感じられたりと、キーひとつだけで全然違う曲になる。そこもしっかり詰めてやってますね、いつも。
なるべく聴いてくれる人を狭めたくない
--また、5曲目「Be Strong」の歌詞は恋愛の歌と捉えることもできるのですが、単なるラブソングではない作りになっていますね。
西野カナ:“西野カナは女の子からの共感を得て……”ってよく言われますけど、ライブに来ているのは10~20代の女の子だけじゃないし、家族で来てくれる人や年上の男性の方も来てくれる。だからなるべく聴いてくれる人を狭めたくないっていつも考えているんです。 この曲も主軸は“失恋を乗り越える”っていう所ですけど、一番よく聴かれる、一番世の中で鳴るサビの歌詞に関しては、なるべく色んな人に当てはまるように意識して作ってます。
--一方、7曲目の「Love Song」というタイトルは、それこそ恋愛の歌が多いと言われる西野さんにとって非常に大切なタイトルだったと思うのですが?
西野カナ:“ラブソング”って大事なタイトルだから、取っておいたといえばそうなんですよ。音楽って私生活にもめちゃくちゃ影響を与えるし、ふたりの思い出、誰かとの思い出に入り込んできますよね。この曲は“歌おう”とか“響かせよう”っていう言葉を大事な所に入れたかった。だからサビに“歌おう”って言葉を入れたし、それなら「Love Song」っていうタイトルにしました。
--しかもこの曲はアレンジがシンプルですね。
西野カナ:コーラスもそんなに録らなかったし、音数も少なくしたかったんです。言葉をしっかり聴いて欲しい曲だけに、余計な音がいっぱい入ってると気を取られると思ったんですよ。このタイトルだから絶対に注目されると思ったし、それが凄くシンプルな楽曲だったらみんなの思い出とかを足して聴いてもらえるんじゃないかなって。あえて癖のない感じにしたかったんです。
今回の並びは耳が決め手になっている
--10曲目「Honey」では“I love you I love you I love you 言わなくちゃ 伝わらないこともあるの”と歌っていますが、先ほども話した西野さんのパブリックイメージに対する反論のようで面白いですよね。
西野カナ:この曲は長い付き合いになってお互い馴れ合いで手抜きになったカップルの曲なんです。私、恋愛は友情にも家族にも全部当てはまると思うんですよね! 彼氏彼女の関係と似ていると思ってて、馴れてしまうと大事にできなくなったり、離れれば大事にしたりって、家族でも友だちでもなんでもそうじゃないですか。
だけどそこで“自分が変わらなきゃ……”って大きく捉えちゃうと大変だから、これくらいライトで乙女なキュンキュンソングとして書けば、もっとハッピーに色んなことが変わっていくかなって。
--しかも次の曲が「SAKURA, I love you?」という、今カレと元カレの間で揺れる女性を描いた曲なのが面白いですね。
西野カナ:今回の並びは耳が決め手になっているんですが、そういう意味で「SAKURA, I love you?」は場所を選ばない。それくらい一個で成り立っていて爆発力のあるイントロとイメージがあったので、「Honey」の世界観から一瞬にして変えられる起爆剤のような曲として、ここに入れてみました。
--では、シンガーという視点から挙げる今作一番の聴き所はどこだと思いますか?
西野カナ:毎回アルバムでは“バラエティパック”っていうのがテーマになるんですけど、今回は本当に、正にバラエティパックになったかなと。色んな西野カナを録ってきたし、発見してきたから、ちゃんと頭で“これをみんなに聴いて欲しい”って考えながら作ったアルバムなので、楽しんでもらえると思います。
--そして今後は10月から始まるアリーナツアー、そして来年春にも国立代々木競技場 第一体育館でのファイナル公演を含む大規模なツアーが決定しました。
西野カナ:今回のアルバムには耳で楽しんで欲しい曲がいっぱい入っていて、その分ライブは目で観て楽しんで欲しいんです。歌はもちろん、ライブでしかできない目を楽しませること。だから演出も練ってますし、ライブを想定して作っている曲がアルバムには何曲かあるし。パワー感がある曲は多いですよね。
Love Place
2012/09/05 RELEASE
SECL-1178/9 ¥ 3,666(税込)
Disc01
- 01.*Prologue* ~Welcome~
- 02.私たち
- 03.Day 7
- 04.GO FOR IT !!
- 05.Be Strong
- 06.Happy Half Year!
- 07.Love Song
- 08.FANTASY
- 09.Is this love?
- 10.Honey
- 11.SAKURA, I love you?
- 12.たとえ どんなに…
- 13.kiss & hug
- 14.My Place
- 15.*Epilogue* ~Love Place~
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