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ジャスティン・ティンバーレイク『マン・オブ・ザ・ウッズ』発売記念特集~アメリカン・ミュージックのルーツをアップデートした最新作



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 グラミー賞10冠に輝く世紀のスーパー・マルチ・エンターテイナー=ジャスティン・ティンバーレイクが、世界待望の最新作『マン・オブ・ザ・ウッズ』を2018年2月2日にリリースした。全米1位を獲得した前作『20/20エクスペリエンス』から約5年ぶりの今作は、自身のルーツから今の姿までを音楽に全力で投影させたという自信作だ。このリリースを記念し、国内盤のライナーノーツを担当している新谷洋子氏に、ジャスティン・ティンバーレイクが歩んできたこれまでのキャリア、そして最新アルバムについて紐解いてもらった。

ミュージシャン、俳優としての才能を開花

 アメリカの音楽界において、全米最大のスポーツ・イベントであるNFLスーパーボールのハーフタイム・ショーに出演することは、真のスターとして認められことを意味する。約5年ぶりのアルバム『マン・オブ・ザ・ウッズ』を携えて、第52回スーパーボールで最多記録にあたる3回目のパフォーマンスを行なおうとしているのが、ほかでもなくジャスティン・ティンバーレイクだ。



▲Justin Timberlake - Filthy (Official Video)


 1回目は2001年。言うまでもなく当時はまだボーイズ・グループ、イン・シンクの一員だった。幼い頃からショウビズ界を志していた彼は、15歳の時にイン・シンクに参加。1996年にデビューするとヨーロッパ先行でブレイクし、その後本国でも人気に火が点いて、セカンド『ノー・ストリングス』(2000年)は国内だけで1,500万枚近いセールスを達成し、サード『セレブリティ』(2001年)も大ヒットを記録。ジャスティンは最年少メンバーながら、その甘くソウルフルな歌声と、ダンサーとしての実力を駆使してリード・シンガーを務めただけでなく、ソングライター兼プロデューサーとしての才覚も早くから見せつけていた。

CD
▲『ジャスティファイド』

 そういう意味でソロ転向は必至だと思われていた彼。21歳にして、ソロ名義のデビュー・アルバム『ジャスティファイド』(2002年)でポテンシャルを花開かせる。音楽的実験には積極的だったイン・シンクは、作品を重ねるごとにR&Bやヒップホップの影響を色濃く反映させていったが、『ジャスティファイド』ではその路線をさらに追及。『セレブリティ』でもコラボしたザ・ネプチューンズ=ファレル・ウィリアムス&チャド・ヒューゴーに加えて、ティンバランドを音楽的パートナーに選び、本格的なR&Bアルバムを完成させたのである。インスピレーション源として仰いだのは、スティーヴィー・ワンダーとマイケル・ジャクソン。スティーヴィーの古典ソウル、マイケルのファンクをバランス良く織り交ぜて、フレッシュにして洗練された楽曲の数々を披露し、ヴィジュアルでも少し大人なイメージを打ち出したことは、ご承知の通りだ。



▲Justin Timberlake - Rock Your Body


 すでに厚いファン層を築いていたジャスティンは、全米チャート最高2位を記録したこのアルバムを、世界合計で1,000万枚近く売り、歌って踊れるポップスターとして早速ポジションを確立。2004年2月には、2度目のハーフタイム・ショー出演が実現している。しかし彼は急いで新作に取り掛かるのではなく、音楽活動を一休みしてハリウッドに進出することを選んだ。イン・シンク時代に交際していたブリトニー・スピアーズとの関係を題材にしたとされるシングル「クライ・ミー・ア・リヴァー」のPVなどで、なかなかの演技力を示していただけにそれも驚きではなく、『アルファドッグ破滅へのカウントダウン』や『ブラック・スネーク・モーン』といった映画に相次いで出演。セカンド・アルバム『フューチャー・セックス/ラヴ・サウンズ』が届いたのは、2006年後半のことだ。



▲Justin Timberlake - Cry Me A River (Official)


CD
▲『フューチャー・セックス
/ラヴ・サウンズ』

 同アルバムは悠々と全米ナンバーワンを獲得。今度もティンバランドの手を借りて、ほぼ全編で自ら共作・共同プロデュースにあたったジャスティンは、デヴィッド・ボウイのようなロック・ミュージシャンたちからも刺激を受け、より折衷的で技巧的なサウンドを志向。タイトル通りにフューチャリスティックかつセクシーに変化を遂げて賞賛を浴び、「セクシー・バック」「マイ・ラヴ」「ワット・ゴーズ・アラウンド…カムズ・アラウンド」と3曲のシングルを全米チャートの頂点に送り込む。これら3曲が好例で、役者経験を経て彼のPVは、ミニ・ムービーと呼ぶに相応しいスケールを誇るようになり、公開の度に大きな注目を浴びることに――。



▲Justin Timberlake - What Goes Around...Comes Around


CD
▲『20/20エクスペリエンス』

 またこの頃にはティンバランドとチームを組んで、デュラン・デュランやマドンナといった大物たちの作品でもプロデューサーとして活躍していたが、ツアーがひと段落すると再び俳優業に専念。あの『ソーシャル・ネットワーク』などを撮影して数年間を過ごし、2013年になって何の前触れもなく、『20/20エクスペリエンス』と『20/20エクスペリンス2/2』から成る2部構成のサード・アルバムを発表する。引き続きティンバランドと組んだジャスティンは、ジェイZをフィーチャーした「スーツ・アンド・タイ」に象徴される前編では、オーガニックでレトロなテイストを押し出し、「TKO」を擁する後編ではアップビートでモダンな音作りを行なって、2枚を対比。共に全米チャート初登場1位を獲得し、『20/20エクスペリエンス』のほうはアメリカで同年の年間ベストセラー・アルバムとなったものだ。



▲Justin Timberlake - Suit & Tie (Official) ft. JAY Z


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ルーツに回帰した最新作『マン・オブ・ザ・ウッズ』

CD
▲『トロールズ 
オリジナル・サウンドトラック』

 こうして、ミュージシャン、俳優、ミュージシャン……とフォーカスを切り替えながらマイペースにキャリアを築き、毎回たっぷり時間をかけてクオリティの高いアルバムを制作した彼はいよいよ、アメリカを代表するエンターテイナーへと成長。双子のアルバムのあとはまたしばらく時間が空くのかと思いきや、2016年には音楽界にカムバックを果たし、新たなチャレンジと向き合う。そう、ミュージカル・アニメーション映画『トロールズ』に声優として主演するにあたって、サントラも自ら監修。オリジナル曲を綴ると共に、プロデューサーとして多数のゲストを迎えてレコーディングを指揮したのである。このうち、テーマ・ソングに使われたファンクポップ・アンセム「キャント・ストップ・ザ・フィーリング!」が5曲目の全米ナンバーワン・シングルとなり、国内で2016年最大のヒットを記録。もちろんアメリカに限らず世界中でチャートを席巻するに至った。



▲CAN'T STOP THE FEELING! (From DreamWorks Animation's "Trolls") (Official Video)


CD
▲『マン・オブ・ザ・ウッズ』

 そんな風に大きな実を結んだ『トロールズ』関連の音楽制作に、俄然創作欲をかき立てられた彼は、そのまま曲作りを続行。メイン・コラボレーターには、『ジャスティファイド』で自分を支えてくれたティンバランドとファレルとチャドを指名したが、37歳になったジャスティンが仕上げた4作目『マン・オブ・ザ・ウッズ』は、さすがにファースト・アルバムとは全く趣向が異なる作品だ。何しろ彼をインスパイアしたのは、女優の妻ジェシカ・ビールと、3年前に誕生した息子サイラスを始めとする自身の家族、そしてアメリカ南部にある自分のルーツ。妻子の声も織り交ぜてふたりへの愛情を歌ったり、南部出身者としての誇りを語ったりして、かつてないほど内省的な歌を聴かせているのである。



▲Justin Timberlake - Man of the Woods (Official Video)


 また、先行シングルの「フィルシー」こそ従来の作品の流れを汲んだR&B志向だったが、音楽的にも今回はルーツに回帰。生まれ故郷のテネシー州メンフィスが育んだブルース、ソウル、ロックンロール、カントリー……つまりアメリカン・ミュージックの源泉にあるサウンドを、ヒップホップやエレクトロのプロダクションで21世紀的表現にアップデートするのが、狙いだったようだ。だから全編にギターの音が大々的にフィーチャーされ、「セイ・サムシング」のPVには、ゲスト・シンガーのクリス・ステイプルトンと一緒に、アコギを片手に歌う姿があったりもする。ちなみに、第60回グラミー賞で3冠に輝いたばかりの実力派カントリー・アーティストであるクリスのほかには、古風なソウル・バラード「モーニング・ライト」でアリシア・キーズをデュエット・パートナーに起用。共にオーセンティックな重みをアルバムに与えていると言えよう。



▲Justin Timberlake - Say Something (Official Video) ft. Chris Stapleton


 そんなジャスティンは、ティーン・アイドルとして出発しながらも地道に音楽的評価を勝ち取り、20年間シーンの頂点に立ち続けるという偉業を達成した稀有な存在だ。それゆえにジャスティン・ビーバーからワン・ダイレクションの面々に至るまで、同様に若くしてデビューした男性ミュージシャンにとってはひとつの理想像であり、与えた影響は大きい。才能に恵まれたからだと言えばその通りなのだが、常に表現の幅を広げようとするクリエイティヴな向上心や、スキャンダルとは無縁の実直で謙虚なパーソナリティも、彼の成功と無関係ではないはず。原点に立ち返ることで進化し、ジャンルの枠からも解き放たれた『マン・オブ・ザ・ウッズ』は、そういうジャスティンだからこそ辿り着けた新境地であり、次の20年の始まりでもあるのだろう。



▲Justin Timberlake - Supplies (Official Video)


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