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滝千春 インタビュー~オール・プロコフィエフ・リサイタルに込めたメッセージ



インタビュー

 2018年にデビュー10周年を迎えるヴァイオリニスト、滝千春。2015年よりピクテ投信投資顧問株式会社のピクテ・パトロネージュ・プロジェクトのアーティストに選ばれ、ベルリンで活躍するジャズドラマーとカイザーヴィルヘルム記念教会で共演するなど、バロックからコンテンポラリーまで、ヴァイオリンの可能性を最大限に広げる音楽活動を国際的に展開している。現在ベルリンと日本を拠点に意欲的な活動を続ける彼女が、デビュー10周年を記念して2018年3月8日にオール・プロコフィエフ・プログラムによるリサイタルを行う。今回のプログラミングから師の教え、楽曲に対する想いまで、滝千春本人に話を聞いた。デビュー10周年記念インタビュー!

プロコフィエフの「物語性」を楽しんで頂きたいプログラミング

――今回のプログラムについてお聞かせください。

滝千春:ヴァイオリンという楽器の魅力と、プロコフィエフという作曲家の魅力を伝えたいという両方の想いがあってリサイタルプログラムを組みました。特に今回は『ピーターと狼』をはじめ、『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』など、見たときにパッとわかっていただける作品名がならんでいて、プロコフィエフという作曲家に親しみのない方々にも親近感が沸くようなプログラムになったのではないかなと思います。

――今回取り上げるソナタ以外の楽曲は、全て劇作品のアレンジ曲ですね。これらの作品を取り上げたモチベーションなどをお聞かせください。

滝:今回のプログラムでは、「物語性」というようなことを大事にしたいと思っていて。プロコフィエフ自身が「物語」を大事にしていた人でしたから。彼自身短編集を出していたりしますし、常にそういう発想が彼の中にあったのだと思うのです。彼は、物語に出てくるキャラクターの設定とかすごく上手だった人だと思うし、それが音楽にも現れていますよね。

 『ピーターと狼』はまさにその代表的な作品と言えると思います。そんな思いから、『ピーターと狼』を、このオール・プロコフィエフのリサイタルプログラムの中に組み込めたらきっと面白いだろうなと思って。そこにプロコフィエフのやりたかったことが凝縮されるのではないかと思ったんです。そうすれば私の伝えたいことも、伝わりやすいかなと思いました。

 『ピーターと狼』って、「プロコフィエフの作品」というよりは、作品自身が独り立ちしていると思うんです。プロコフィエフの作品に親しみが無い人でも、この曲を聴けば「あ、これプロコフィエフだったんだ」って思う方もいらっしゃると思うんですよね。そういうこともあって、プロコフィエフという作曲家の良さを伝えるにはうってつけの作品だと思ったのです。

――『ロミオとジュリエット』や『シンデレラ』は、大規模オーケストラ編成のアレンジ版ですが、ヴァイオリン1本で表現する苦労などはありますか。

滝:そうですね、特に『ロミオとジュリエット』は、かなりエモーショナルな作品で、個人的には好きなのですが、例えばジュリエットのテーマなんかは管楽器のかなり高い音を使われているので、それに寄せていくのはかなり難しいですね。だから、ヴァイオリンとしては違う切り口でやらなければいけないなって、考えています。ジュリエットの可愛らしさとか、飛び跳ねる感じとか、そういうのをどうヴァイオリンで表現しようかというのは苦労しています。でもヴァイオリンだからこそ出来る表現というのはあると思うので、それを模索中です。

師から教わったのはロシア音楽の音色と、演奏そのものに対する意識

――ロシア人であるブロン先生から、プロコフィエフについてどのようなレッスンを受けられたのでしょうか。

滝:ブロン先生にはトータルで10年くらい教えて頂いていたのですが、先生がプロコフィエフについてどういうレッスンをしたか…、というよりも、ご自身がロシア人なので、先生が持つ感性とか音色というものが、ロシア音楽にはピッタリだったと思います。やはり作曲家ごとに合う音色とかっていうものはありますよね。「血には勝てない」というか……。日頃ずっと先生の音を聴いていたので、音色の作り方についてはその影響があるのかもしれない。自分の中で、迷いが無い感じがしますね。

――その後師事されているガヴリーロフ先生から受けたレッスンはどのようなものですか?

滝:ガヴリーロフ先生は、そもそも音楽とはどういうものか、ヴァイオリンというものはどういうものなのか、ということをすごく熟知している方で、私がちょうどスランプだった時期、ヴァイオリンをもう一回きちんと誰かに教えてもらいたいと思ったときに先生に出会い教えて頂くことになりました。私が先生に師事した大きなひとつの理由は、そもそも楽器を鳴らすというのはどういうことなのか、ということをイチから教えてくれる方だったからです。

 だから、大きい音を出せばいいとか、指が回ればいいとか、そういうごまかしが一切きかないんです。パフォーマンスだけではなくて、ヴァイオリンという楽器を通してその音楽を奏でることの責任を教えて頂きました。現在、ガヴリーロフ先生は88歳になるのですが、今でも現役で弾いていっらしゃいます。88歳になっても弾いていられる…、体に無理無く演奏し続けていられるという、ご自身がその証明になっていると思います。

――よく指摘されることや印象的な教えみたいなものはありますか?

滝:そうですね、技術的なことになってしまうのですが……ヴァイオリンを弾くときに体がヘンなクセを持ってしまっている方って結構いて、頭が動いてしまったり、足の位置がまわってしまったり。でも先生は「楽器を弾くのは左手と右手だけだ」と言うんです。「頭は必要ないだろう、なんで動いてるんだ」と。

 ヴァイオリンというのは、弦があって、弓があって、その弦と弓がクロスするその部分で音が創られていて、本体がうまく振動することで良い音が鳴るわけですが「そこだけに意識を集中させろ」と言われるんです。よく見せたいからと思って動く体の動きというのは、先生にとってはムダなものでしかないのです。いい音を出す為だからこそ出てきた動きはいいんですけど、表面的なパフォーマンスする為の動きというものを先生は本当に許さないのです。それは常に言われますし、今でも言われるとハッとすることがあります。

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プロコフィエフ作品との出会いは、ヴァイオリンソナタ2番

――オール・プロコフィエフ・プログラムということで、プロコフィエフという作曲家との出会いについて教えてください。

滝:プロコフィエフの作品を初めて弾いたのは17歳くらいだったと思います。ある音楽祭の発表会で弾かなくてはいけなくて、必死で練習していたのを覚えているのですけれど、本番で弾いたときに、ものすごく評判が良かったんです。思い起こしてみると、自分の中でも楽しかったなというのがあって。「あ、もしかしてこの曲得意なのかもしれない」と思ったのがきっかけでした。プロコフィエフの作品に関しては自分の中で苦労が無かった、結構すんなり入ってきた作曲家でした。

――その時は何を弾かれたんですか?

滝:ヴァイオリンソナタの2番です。

――原曲であるフルートソナタを聴くより先にヴァイオリンソナタを弾いたのですか。

滝:ヴァイオリンソナタが先でした。

――元はフルートの為に書かれた曲ということで、ヴァイオリンだと音色が創りにくい、もしくは逆にヴァイオリンの方がいいと思うところなどありますか?

滝:そうですね、ヴァイオリニスト目線だからかもしれないのですが、やりづらいというところは全く無いですし……フルートよりヴァイオリンの方がいいと思ってしまうんですよね(笑)。いろいろ自分の中で「こう弾いてみたい」と思うことも多く、弾きがいがあります。



▲ 「Debussy Violin Sonata, Beethoven Violin Sonata」


――その後はプロコフィエフの作品とはどのように出会っていかれたんですか。

滝:2番を弾いてだいぶ経ってからソナタの1番を弾きました。この曲はまさにヴァイオリンの為に書かれた曲ですし、2番とはかなり感じが違います。光と影の対比で言うなれば、2番が「光」で、1番は「影」に当たるのではないかなと思いますね。1楽章のある音型では、プロコフィエフがオイストラフに「墓の間をすり抜ける風の音のように弾いてくれ」と要求したことがあると読んだことがあります。

――ヴァイオリニストであるオイストラフの、プロコフィエフに対する影響は大きかったのでしょうね。

滝:そうですね、ヴァイオリンソナタ2番も、オイストラフの申し出でフルートソナタからの編曲が行われたわけですから、すごく影響は大きかったと思います。弾きたくなる気持ちもよく分かりますし、ヴァイリニストとして「オイストラフ、よくぞ言ってくれた!」という気持ちです(笑)。当時フルートソナタとしてはあまり演奏されることがなかったらしく、ヴァイオリン編曲をのぞまれていたということもありますし……というわけで私はヴァイオリン版の方がいいと思っています!(笑)

 私自身、ヴァイオリンソナタの2番は、このプログラムの中では最も多く本番で弾いてきた作品ですし、ヴァイオリン版を聴いたことの無い方には、これを機会に是非聴きに来て頂きたいです。プロコフィエフによるヴァイオリンソナタは2つしか無いのですが、両方とても評価の高い曲で、それを弾けるというのは、ヴァイオリニストで良かったなと思うところです。

 今年はプロコフィエフ来日100年という記念の年でもあります。日本には2ヶ月くらい滞在していたこともある、非常に日本とは関係の深い作曲家です。そういう意味でも親近感をもって聴きに来て頂ければ嬉しいです。

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