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第60回グラミー賞公式アルバム『2018 GRAMMY® ノミニーズ』発売記念特集~【グラミー賞2018】を渡辺志保が徹底解説
今年で60回目を迎える世界的な音楽の祭典【グラミー賞授賞式】。多岐ジャンルにわたって贈られる【グラミー賞】のカテゴリー数は80を超え、一つ一つノミネート作品を追っていくのは至難の技だ。そんなリスナーの必携アイテムといえば、毎年リリースされているコンピレーション作品の最新版『2018 GRAMMY®ノミニー』である。今年は主要部門を含む21曲が収録され、ジャンルを超えてノミネート楽曲をおさらいすることができる。グラミー本番まで予習として楽しむもよし、また、ここ1年間のヒット曲を復習するのにも最適なコンピレーション作品のリリース(2018年1月24日発売)を記念し、音楽ライターの渡辺志保氏に【グラミー賞2018】の見どころについて解説してもらった。
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ブラック・ミュージックの歴史にその名を刻むのは?
いよいよ今月末に迫ってきたグラミー賞授賞式。グラミー賞といえば、音楽版アカデミー賞とも言われ、世界の音楽界において最も権威を持つ栄えある賞レースだ。今年で60回目を迎えるその授賞式は、これまでの会場であるロサンジェルスのステイプルズ・センターから15年ぶりにニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンへと舞台を移し、60周年のアニバーサリー・イヤーならではの風も感じさせる。
さて、今年何よりも大きなトピックとしてとして報じられているのが、主要部門の多くがブラック系そしてラテン系のアーティストで占められていることだ。まず、最も注目を集めるとも言われる年間最優秀レコード部門に並ぶのは、ジェイ・Z、ケンドリック・ラマー、ブルーノ・マーズ、チャイルディッシュ・ガンビーノといったヒップホップ・R&B系の歌手と、ルイス・フォンシ&ダディー・ヤンキーとラテン界のビッグスターらが並ぶ。ロック・ポップス系の歌手は、年間最優秀アルバム部門にノミネートされたロード、年間最優秀楽曲部門にノミネートされたジュリア・マイケルズのみだ。昨今のブラック・ミュージック、そしてラテン・ミュージックの勢いを十分に感じさせるラインナップでもあるし、昨今、おもにアメリカ国内の社会問題になっている人種や国籍の多様性のあり方を反映しているとの見方もできる。今年の最多ノミネート・アーティストは、ベテラン・ラッパーのジェイ・Zが8部門でリード。続いて、現ヒップホップ・シーンのキングとも言われるケンドリック・ラマーが7部門で続き、来日公演のチケットも即ソールド・アウト、かつマイケル・ジャクソンの再来とも言われる人気R&B歌手のブルーノ・マーズが6部門のノミネートとなる。女性に焦点を当てると、ケンドリック・ラマーと同じレーベル:TDEからデビューしたSZA(シザ)が、年間最優秀新人賞など5部門にノミネートされ、女性アーティストとしては最多だ。
▲JAY-Z - The Story of O.J.
ここ20年においてブラック系のアーティストが主要部門を制したのは2度しかなく、しかもヒップホップ作品が年間最優秀アルバムに輝いたのは長いグラミー賞の歴史でたった一度だけ、2004年のアウトキャスト『Speakerboxxx/The Love Below』のみだ。今年、もしもジェイ・Zかケンドリックのどちらかが年間最優秀アルバムを受賞すれば、史上2枚目のグラミー賞受賞ヒップホップ・アルバム作品として歴史にその名が刻まれることとなる。ラッパー2名が主要部門で争う、という図式もグラミー史上においては非常に珍しく、どのトロフィーがどちらのラッパーの手に渡るかも、同じく見ものだ。ケンドリック・ラマーは『Good Kid, M.A.A.D City』(2012)、『To Pimp A Butterfly』(2015)、そして『DAMN.』(2017)とアルバム作品が3作続けて年間最優秀アルバムにノミネートされた数少ないアーティスト(同じ記録を持つのは、同じくラッパーのカニエ・ウエストである)。三度目のチャンスで、いよいよ年間最優秀アルバムを手にすることが出来るのか。そして去年は、主要3部門と言われる年間最優秀レコード、年間最優秀アルバム、年間最優秀楽曲すべてにそれぞれアデルとビヨンセがノミネートされ、そのすべてのトロフィーをアデルが勝ち取ったことも話題になった。今年はジェイ・Zとブルーノ・マーズが両者とも主要3部門すべてにノミネートされており、こちらも、どちらの手にそれぞれトロフィーが渡るのかが楽しみである。
▲Kendrick Lamar - HUMBLE.
政治、フェミニズム…社会的意識を主張する声
また、ポップ部門にも目を向ければ、いつも以上に個性豊かな女性アーティストが多い点にも気がつくだろう。レディー・ガガ、ケシャ、P!NKそしてケリー・クラークソンなど、これまでに政治やフェミニズムといった点からも自らの主張を声に、そして歌にしてきたディーヴァが多くノミネートされている。特にケシャは数年前にレコード・プロデューサーからのセクハラを訴え、勇気ある行動を示した数少ない女性歌手の一人だ。こうした彼女らの作品が、グラミー賞のステージでどう評価を受けるのかも見所の一つだろう。
▲Kesha - Praying (Official Video)
昨年の授賞式では、ケイティ・ペリーやア・トライブ・コールド・クエストのパフォーマンス、そしてビヨンセやジェニファー・ロペスのスピーチなど、随所に<アンチ・トランプ>の意識が表れる一幕が多く見られた。トランスジェンダー女優として活躍するラヴァーン・コックスがプレゼンターとして登場したのも、多様性を容認する社会の必要性を訴えてのことだったのかもしれない。
▲Beyoncé Wins Best Urban Contemporary Album | Acceptance Speech | 59th GRAMMYs
つい最近も、ゴールデングローブ賞における #TimesUp や、 #WhyWeWearBlack というハッシュタグにまつわる運動が話題になったばかりで、昨今のアメリカの賞レースの場はこうした社会的意識を主張する場所としても機能するようになっている。今年のグラミー賞では、アルバム『DAMN.』でアメリカの現状を嘆いたケンドリック・ラマーを始め、ケンドリックとも共演した最新楽曲「American Soul」も話題のU2(言うまでもなく、彼らはかつてより社会問題を軸とした、メッセージ性の強い楽曲やパフォーマンスを披露してきたことでも知られる)や、レディー・ガガ、P!NK、かねてより同性愛者であることを公言してきたエルトン・ジョンとLGBTシーンをサポートしてきたマイリー・サイラスとのジョイント・ステージなどのパフォーマンスが予定されている。こうした中で、どのようにそれぞれの<主張>が披露されるのかという点にも注目だ。ロジックとアレッシア・カーラ、カリードによる、自殺防止を呼びかけて大きい反響を呼んだメッセージ・ソング「1-800-273-8255」のパフォーマンスにも期待が高まる。
▲Logic - 1-800-273-8255 ft. Alessia Cara, Khalid
いずれにせよ、今年も各々のアーティストの夢や主張、もちろん音楽性が詰まったグラミー賞授賞式が開催されることは間違いない。冒頭に紹介したコンピレーションを片手に、ぜひとも楽曲群の素晴らしさと、トロフィーをめぐるドラマティックな展開の両方を味わって頂きたいと思う。また、ノミネート情報に加え全アルバム収録楽曲を徹底解説した『2018 GRAMMY® ノミニーズ』特設サイトも公開中なので、授賞式前までにあわせて要チェックだ。
リリース情報
『2018 GRAMMY® ノミニーズ』
- 第60回グラミー賞公式アルバム
- 2018/1/24 RELEASE
- 国内盤(全21曲) | SICP-5649
- 豪華スリーヴケース仕様|歌詞対訳付き
- [定価:¥ 2,592(tax in.)]
- 詳細・購入はこちらから>>
配信情報
輸入盤/配信(全21曲)
iTunesでの購入はこちらから>>
※iTunes、iTunes Storeは、Apple Inc.の商標です。
特設サイト
『2018 GRAMMY® ノミニーズ』特設サイト
詳細はこちらから>>
番組情報
【第60回グラミー賞授賞式 WOWOW番組情報】
「生中継!第60回グラミー賞授賞式」
2018年1月29日(月) 午前8:30 [WOWOWプライム]※二カ国語版(同時通訳)
「第60回グラミー賞授賞式」
2018年1月29日(月) 夜10:00 [WOWOWライブ]※字幕版
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Text: 渡辺志保
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