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メイリー・トッド来日記念特集~高橋芳朗が紐解くカナダの奇才=メイリー・トッドの魅力



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 ソウル、ディスコ、R&B、エレクトロニック・ミュージックなど多様なジャンルを融合したサウンドと、マルチメディア・アーティストならではのエネルギッシュなパフォーマンスで2013年の公演も好評を博したメイリー・トッドが、約4年ぶりの最新アルバム『Acts Of Love』とともに2018年2月13日に一夜限りの来日公演を行う。これを記念し、音楽ジャーナリストでラジオパーソナリティも務める高橋芳朗氏に、ここで改めてカナダの奇才=メイリーの魅力とキャリアの軌跡を追ってもらった。

茶目っ気あふれる実験精神で才能を開花

 メイリー・トッドには、特別な思い入れがある。というのも、自分がパーソナリティを務めていたTBSラジオの音楽番組『高橋芳朗 HAPPY SAD』(2011年4月~2012年9月)を通じてまだ一部の好事家にしか知られていなかった彼女の存在を広く日本のリスナーに紹介することができたからだ。2012年1月29日の放送でゲストのDJ YANATAKEがフリーダウンロードの注目作品としてピックアップしたのが、まだリリースされてまもなかったあのキラーチューン「Hieroglyphics」だった。



▲ Maylee Todd - Hieroglyphics


 カナダはトロントを活動の拠点に置く自称「マルチメディア・アーティスト」のメイリー・トッドは、2006年に地元のエレクトロニカシーンで活躍していたVitaminsforyouのアルバム『The Legend of Bird's Hill』でレコーディングデビュー。並行してトロントのインディペンデントアーティストが結集した大所帯バンド、Henri Faberge and the Adorablesの一員としてアルバム『Henri Faberge and the Adorables』をリリースしている。ここでメイリーはヴォーカルを担当するのみにとどまらず、ギター、ハーモニカ、アコーディオン、グロッケンシュピールなどを演奏して早くもバーサタイルな才能を発揮。以降たびたび垣間見せるトロピカリア(1960年代後半にブラジルで勃発した芸術運動。音楽をはじめ、演劇、映画、現代アートなどのカウンターカルチャーが連動して広がっていった)に対する憧憬も、すでにこの時点でうかがうことができる。

 その後、やはり地元のエレクトロポップユニットであるWoodhandsとのコラボレーションを経て(2008年作『Heart Attack』、2010年作『Remorsecapade』共に参加。後者に収録の「Dissembler」はメイリーのチャーミングなヴォーカルを全編にフィーチャーしたエレポップの秀作)、2010年にはトロントのDo Right! Musicからアルバム『Choose Your Own Adventures』を引っ提げて念願のソロデビュー。スムーズなボサノバから疾走感あふれるジャズファンクに展開していく「Summer Sounds」、穏やかなアコースティックバラードと思いきや優雅なジャズワルツへと鮮やかな変貌を遂げる「Heart Throb」など、ジャケットにも表れている彼女の茶目っ気あふれる実験精神はここで早くも全面開花を迎える。

 そして2012年には、メイリーの運命を大きく変えることになるメロウディスコクラシック「Hieroglyphics」をリリース。その評判を受けて同系統の「Baby's Got It」で追い打ちをかけたのち、2013年4月に満を持して発表したのが出世作となるセカンドアルバム『Escapology』だ。



▲Maylee Todd - Baby's Got It


アルバムごとにちがった表情を見せる、カメレオン

CD
▲『エスカポロジー』

 明らかに「Heart Throb」のアイデアを発展させた「Successive Mutations」や「Protection Plan 101 a.k.a. Quit Before Getting Fired」に続くメイリー流ララバイといった趣きの「Clementine's Nights」など、『Choose Your Own Adventures』の流れを汲むアプローチも散見できるが、先行の2曲でほのめかされていたようにここでのメイリーのモードはネオソウルへと移行。いつになく妖艶な歌声を聴かせるアーバンミディアム「I Can't Stand It」、ウーリッツアーのなめらかな音色が心地よいスティーヴィー・ワンダーのオマージュ「First and Last」、そして情熱的な歌い込みがまぶしいサザンソウル流儀のバラード「I Tried」など、持ち前のカラフルなポップセンスを維持しながらも真摯なソウルフィーリングにあふれる傑作をつくりあげた。

 『Escapology』の成功後もメイリーはあくまでマイペースな活動を続け、2015年末には突如ハウス調のシングル「Lonely」を発表(京都で撮影したミュージックビデオも話題を集めた)。



▲Maylee Todd - Lonely


CD
▲『アクツ・オブ・ラヴ』

 Kan SanoやAnthony Valdezとのコラボレーションを重ねたのち、2017年末になってようやくサードアルバム『Acts Of Love』を完成させた。従来のイノセントなイメージを覆すモノトーンの落ち着いたアートワークにも示唆されているとおり、ここでメイリーはRhyeやMoonchildあたりにも通じるミニマルでアンビエントなソウルミュージックを展開。マドンナ「Physical Attraction」を下敷きにしたと思われるシンセポップ「Eye To Eye」やドナ・サマーにチャネリングしたような今様ミュンヘンディスコ「Disco Ducks 5000」など例外もいくつかあるが、静謐なトーンを基調とするアルバムのほぼ全編でジャネット・ジャクソン~アリーヤの系譜を継ぐセンシュアルなヴォーカルを披露している。「Hieroglyphics」や「Baby's Got It」の路線を期待していたリスナーにとって、内省的でパーソナルな色合いを濃くする『Acts Of Love』の方向性(セルフプロデュースのもと自宅のスタジオで制作したことも影響しているのだろう)はちょっとした戸惑いがあるかもしれないが、もはやアルバムごとにちがった表情を見せるこのカメレオンぶりこそがメイリーの本分といえるだろう。



▲Maylee Todd - Downtown (Official Video)


 こうしたメイリーの音楽性の変遷を踏まえると、今回の約5年ぶりの来日公演がどのようなステージになるのか、ちょっと見当がつかないところがある。前回は『Escapology』の内容に応じたカバー曲(シルヴィア・ストリップリン「You Can't Turn Me Away」、イヴリン・シャンペン・キング「Love Come Down」、アイズレー・ブラザーズ「Work To Do」、ダリル・ホール&ジョン・オーツ「I Can't Go For That」など)をふんだんに盛り込んだエンターテインメント性の高いパフォーマンスを見せてくれたが、2016年12月には自ら「音楽のプラネタリウム」と評する「Maylee Todd's Virtual Womb」なるマルチメディアショウを開催していることもあり(このときの模様はYouTubeで見ることができる)、そこで得た成果をもとにした新機軸を導入してくる可能性も大いに有り得るだろう。いずれにしてもライブの体験性を殊更に重要視しているメイリーのこと、一筋縄ではいかないライブになるのはまちがいない。



▲Maylee Todd's Virtual Womb


メイリー・トッド「アクツ・オブ・ラヴ」

アクツ・オブ・ラヴ

2017/11/15 RELEASE
DR-74JP ¥ 2,310(税込)

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