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Spotify 2017年間ランキングを分析
音楽ストリーミング・サービスの世界最大手、Spotifyの日本上陸は、この国の音楽文化をどのように変えていくのか? その将来を見定める上でも非常に興味深いのが、このたび発表された2017年のSpotify ジャパンランキングだ。各楽曲の単純な再生回数に加えて、国や地域毎の再生数も保持・発表しているSpotifyならではのビッグ・データを活用したランキングは、通常のCDランキング等のチャートとはまた異なる傾向を示している。なにはともあれ、まずは昨年<日本国内で最も再生されたアーティスト/アルバム/楽曲>のTOP5から、その内容を確認してみよう。
TOP Photo: Redferns
日本国内で最も再生されたアーティスト
1. ONE OK ROCK
2. エド・シーラン
3. 清水翔太
4. AAA
5. ザ・チェインスモーカーズ
日本国内で最も再生されたアルバム
1. ÷(Divide)/ エド・シーラン
2. Ambitions / ONE OK ROCK
3. Purpose / ジャスティン・ビーバー
4. 24K Magic / ブルーノ・マーズ
5. Memories...Do Not Open / ザ・チェインスモーカーズ
日本国内で最も再生された楽曲
1. Shape of You / エド・シーラン
2. Stay (with Alessia Cara)/ Zedd
3. 打上花火 / DAOKO × 米津玄師
4. Something Just Like This / ザ・チェインスモーカーズ & コールドプレイ
5. Despacito - Remix / ルイス・フォンシ、ダディー・ヤンキー feat. ジャスティン・ビーバー
まず、目を引くのが、エド・シーランの圧倒的な強さ。因みにこれはグローバル・ランキングでもほぼ同じ結果で、Spotifyのスポークスパーソンも「2017年は間違いなくエド・シーランの年」とコメントしている。そしてもうひとつ特記したいのが、ONE OK ROCKが<日本国内で最も再生されたアーティスト>の1位になったこと。ワンオクについてはまた後述するが、この結果は彼らが2012年から海外のSpotifyで配信を行うなど、いちはやくストリーミングを活用してきたことと無関係ではない。ほかにも洋邦のトップ・アーティストが混在する2017年のSpotifyジャパンランキングは、いわゆる「ガラバゴス化」が指摘されてきた日本の音楽マーケットに、いよいよ変化の兆しが見えてきたことを示唆している。2018年以降さらにSpotifyが定着していけば、ここ日本の音楽シーンがグローバル化していく可能性も一気に広がっていくはずだ。
そんな上記のデータにくわえて、Spotifyからさらに興味深いランキングが提供された。早速こちらも順位を確認してみよう。
海外で最も再生された国内アーティスト
1. ONE OK ROCK
2. RADWIMPS
3. BABYMETAL
4. 坂本龍一
5. 植松 伸夫
6. 小瀬村 晶
7. AmPm
8. 久石 譲
9. TERIYAKI BOYZ
10. 畠山地平
1~3位については言わずもがな。2016年の同ランキングでもトップ3を席巻した3組が、国内でのサービスが本格化した2017年も安定した強さを見せることになった。なかでもワンオクは<海外で再生された国内アーティストの楽曲>でも10位以内に2曲がランクイン。アメリカのレーベル〈フュエルド・バイ・ラーメン〉とも提携して海外でのプロモーションに力を注いできた成果が、ここで見事に実を結んでいる。
このランキングの注目すべきところはここから。まず4位の坂本龍一は、映画のテーマ曲である「The Revenant - Main Theme」(映画『レヴェナント:蘇りし者』)と「Merry Christmas Mr. Lawrence」(映画『戦場のメリークリスマス』)が<海外で再生された国内アーティストの楽曲>の10位以内にそれぞれランクイン。2017年の坂本は8年ぶりの新作『async』が国内外で高評価を獲得していたが、実はそのほかにも読書のBGM向けな「Reading Soundtrack」などのムード系プレイリストで過去の代表曲がコンスタントに再生されつづけており、それがこのランキング上位につながったようだ。また、ニューヨークやパリ、ロンドンなどの都市部にリスナー層が多いこともこのアーティストらしい特徴といえる。
5位の植松伸夫は、RPG『ファイナルファンタジー』シリーズの大半の楽曲を手がける作曲家で、とにかくゲーム音楽ファンからの人気が絶大。リスナーの所在地もアメリカやイギリス、はたまたメキシコやシンガポールなど世界各地に分布しており、それこそSpotifyの公式プレイリスト「Gaming Anthems」からユーザーが個人的に作成したものまで、彼の楽曲はビデオゲームをテーマとする様々なプレイリストを介して聴かれているようだ。
6位の小瀬村晶は、数々の映画や舞台、CM音楽を手がけている作曲家。その才能はピッチフォークなどの有力メディアからも高く評価されており、2016年リリースのアルバムにはデヴェンドラ・バンハートが参加するなど、実際に海外シーンとのつながりも深い。なかでもピアノを主体とした楽曲には定評があり、Spotifyでは世界に340万人以上のフォロワーを持つ人気プレイリスト「Peaceful Piano」に入ったことで一気にリスナー数がひろがった。そのほかにも「88 Keys」などのピアノ系プレイリストや、「Sleep」や「静寂と黄昏」などの睡眠をテーマにしたプレイリストにも小瀬村の楽曲は加えられており、こちらも2曲が<海外で最も再生された国内アーティストの楽曲>の10位以内にランクイン。また、イスタンブールで多くのリスナー数を獲得しているという興味深いデータも出ている。
7位のAmPmは、Spotify総再生回数の9割以上が日本以外の地域でカウントされているという、まさに異例づくめの覆面ユニット。ファースト・シングル『Best Part of Us』がグローバルのバイラルチャート(SNSでの口コミランキング)で38位にチャートインするや否や、その翌日にはUSのバイラルチャートで6位に入り、リリースからわずか10日で再生数100万回を突破。現在では1000万回に到達し、『Best Part of Us』は<海外で再生された国内アーティストの楽曲>の年間2位にのぼりつめている。本業であるデジタル・マーケティングの一環として音楽活動をスタートさせたというAmPmの二人は、いわばこの楽曲で、「Spotifyでチャート解析やヒットの傾向分析を徹底的に行えばグローバルでヒットを狙うことは可能」ということを証明してしまったのだ(勿論それは決して容易ではないのだが)。
8位の久石譲については、もはや説明は不要だろう。彼がこれまでに劇中音楽を担当してきた映画、特に宮崎駿監督と北野武監督の作品には熱心なファンが多く、やはりそのリスナー層も世界各地にひろがっている。実際、Spotifyにはそんな映画ファンのユーザーがジブリをテーマに作成したプレイリストなどが数多く存在しており、それが再生回数の増加につながっているようだ。
9位はファッション・デザイナーのNIGO率いるTERIYAKI BOYZ®。もしかすると「なぜ今?」と思った方もいるかもしれないが、<海外で再生された国内アーティストの楽曲>の年間一位は、なんと彼らが2006年にリリースした「Tokyo Drift(Fast & Furious)」なのだ。おそらくその要因は、この曲が主題歌だった映画『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」のシリーズ最新作が2017年に公開されたこと。こうして過去のヒット曲がなにかしらのきっかけで再び掘り起こされるのも、また一度人気に火がつくと長期的に聴かれるのも、ストリーミング・サービスならではのパターンだ。
10位の畠山地平は、現行のアンビエント/ドローン・ミュージックを牽引しているアーティストのひとり。傾向としては坂本龍一や小瀬村晶らと同じく、集中したいときやリラックスしたい時、あるいは就寝前などの生活シーンに合わせたムード系プレイリストでよく聴かれているようだ。リスナーの所在地も世界各地にひろがっており、アメリカでの再生回数が非常に多いのも特徴的だ。
最後にここで<海外で聴かれた国内アーティストの楽曲>のランキングも掲載しておこう。
海外で最も再生された国内アーティストの楽曲
1. 「Tokyo Drift」(ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT サウンドトラック)
TERIYAKI BOYZ®
2. 「Best Part Of Us」AmPm feat. Michael Kaneko
3. 「Take What You Want」ONE OK ROCK
4. 「ユーリ!!!オン・アイス」梅林太郎
5. 「The Beginning」ONE OK ROCK
6. 「Inside River #1」小瀬村 晶
7. 「心臓を捧げよ!」Linked Horizon
8. 「レヴェナント」坂本龍一
9. 「戦場のメリークリスマス」坂本龍一
10. 「Hicari」小瀬村 晶
年明けの発表によれば、Spotifyの有料ユーザー数は全世界で7000万人を突破。当然そのなかには国内アーティストの潜在的なリスナーも数多く存在しており、見事そこを開拓したのが上記のアーティストということになる。日本での正式なサービス開始から約1年。Spotifyが日本市場でもこのまま成長していけば、国内アーティストが国内での有名・無名に関わらず人気プレイリストなどを介して海外で成功するケースは今後ますます増えてゆくだろう。これからは日本のアーティストも海外のマーケットを狙うのが当たり前。そんな時代は、すぐそこまできている。
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