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ソニー『クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000』
2014年にスタートして好評を博したソニー・ジャズ・コレクション1000シリーズを受け、2016年にスタートした『クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000』。今回もColumbia、Epic、RCAというアメリカを代表するレーベルを中心に、ソニー・ミュージックが所有する膨大なカタログの中から、大名盤をはじめ、ファン待望の再発作品、初CD化となるレア作品までずらり100タイトルを厳選し、1000円(2CDは1500円)で一挙に再発する。
今回は、ウェザー・リポート、ハービー・ハンコック、ブレッカー・ブラザーズなど数々のアーティストのライナーノーツを執筆し、『ディスク・コレクション : フュージョン』、『フュージョン・ミュージシャン150人の仕事』といったフュージョン関連本の監修を務める音楽ライターの熊谷美広氏に、「初心者でも楽しめる作品」、「マニア垂涎の作品」を100タイトルの中から5枚ずつピックアップしてもらった。
ソニー・クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000 特設サイト>>>
<「クロスオーヴァー?」「フュージョン?」という方におススメのマストバイアルバム5枚>
1976年、ジャコ自らが改造したフレットレス・ベースで、チャーリー・パーカーの「ドナ・リー」が奏でられた瞬間、エレクトリック・ベースの歴史が変わった。こんなベース・サウンド、それまで誰も聴いたことがなかった。ここでジャコはまったく新しいエレクトリック・ベースの語法を提示し、世界中の音楽ファンが、この作品に詰め込まれた“ジャコという天才”に驚き、心を奪われたのだった。ベースという楽器の未来が、この1枚に凝縮されていたと言っても過言ではない歴史的傑作。
ジャズ史上最強のグループ、といっても過言ではないウェザー・リポートが1976年に発表し、彼ら黄金時代の幕開けを告げたヒット作。「ブラック・マーケット」「ジブラルタル」など数多くの名曲・名演を収録し、彼らを一躍スター・グループに押し上げた。ファンキーだが緻密なサウンドに加え、当時すでにワールド・ミュージックの要素を取り入れていたジョー・ザヴィヌル(key)の先見性にも注目したい。またレコーディング途中にジャコ・パストリアスがグループに加入し、2曲に参加、衝撃のデビューを飾った。
トム・スコットは、西海岸フュージョン・サックスを代表する名プレイヤー。自己のグループ“L.A.エクスプレス”やソロ活動で聴かせる、豪快でスケールの大きなソロとポップなサウンドで多くのファンを魅了してきた。またソプラノからバリトン、さらにはウインド・シンセサイザーまでも自由に操るテクニックも彼の持ち味だ。これは彼の1981年のライヴ・アルバムで、マーカス・ミラー(b)、スティーヴ・ガッド(ds)、リチャード・ティー(key)など、そうそうたるメンバーを従えてブロウしまくる彼の魅力がギュッと凝縮されている。
ランディ(tp)とマイケル(ts)のブレッカー・ブラザーズが1978年にリリースし、ジャズ/フュージョン・シーンはもとより、ロック・シーンにまで大きな衝撃を与えた歴史的ライヴ・アルバム。一糸乱れぬタイトなホーン・アンサンブル、圧倒的なテクニックによるマイケル渾身のソロ、ヘヴィメタも真っ青のハードなサウンド、そして圧倒的なドライヴ感がひとつになって、まさに“ヘビー・メタル・ビ・バップ”というタイトルどおりのサウンドを展開している。テリー・ボジオのドラムも壮絶。
ジャズからファンク、ワールド・ミュージックまでジャンルの垣根なく活動しているハンコックが、1983年にリリースした問題作。ニューヨークの新進プロデューサー・チーム“マテリアル”を起用し、最先端テクノロジーだったデジタル・シンセサイザーを導入し、当時まだアンダーグラウンドだったヒップ・ホップやスクラッチの要素を大胆に取り入れたサウンドは、シーンに大きなショックを与え、シングル・カットされた「ロック・イット」は、ブキミなビデオ・クリップも話題を呼び大ヒットした。ヒップ・ホップ黎明期の衝撃作。
<マニア垂涎のレア盤5枚>
マイルス・デイヴィス・グループから独立したドラマー、ジャック・ディジョネットが1972年に結成したジャズ・ロック・グループが“コンポスト”。このファースト・アルバムでは、ドラムはボブ・モーゼスがプレイし、ディジョネットはキーボードを演奏している。サイケデリック・ムーヴメントの影響も感じさせる、スペイシーなジャズ・ロックが時代を感じさせて興味深い。彼らはこの後、1973年に『ライフ・イズ・ラウンド』というセカンド・アルバムをリリースして解散する。
1960年代はハービー・ハンコックらと、いわゆる“新主流派”として活動していたヴァイブ奏者のハッチャーソンだが、1970年代後半のコロムビア・レーベル時代は、フュージョン的なサウンドにもアプローチしていた。ここではジョン・アバークロムビー(g)、ジョージ・ケイブルス(key)、ピーター・アースキン(ds)といったメンバーたちとともに、新主流派的なサウンドとフュージョン的なサウンドを巧みに融合したような、クリエイティヴなアプローチを聴かせている。
シダー・ウォルトンは、王道のアコースティック・ジャズ・ピアニストといった印象が強いが、実は1970年代にはフュージョン的なサウンドも展開していた。これは1975年の作品で、ゴードン・エドワーズ(b)とスティーヴ・ガッド(ds)という“スタッフ”のリズム・セクションに、川崎燎(g)なども加わり、ジョン・コルトレーンやセロニアス・モンクの曲などを、まったく原形をとどめないくらいアレンジしまくって、ファンキー&グルーヴィーに聴かせている。
グループ87は、マーク・アイシャム(tp、key)、パトリック・オハーン(b、key)、ピーター・マニュ(g)の3人によって結成されたグループ。1980年リリースのファースト・アルバムにはテリー・ボジオ(ds)とピーター・ウルフ(key)も参加している。参加メンバーの内3人がフランク・ザッパ・グループに在籍していたということもあり、ポップだがちょっぴりひねくれたジャズ・ロック・サウンドを展開している。アイシャムのメロディアスだが変態的なメロディや、ボジオの切れ味鋭いドラムが快感だ。
マイク・ウエストブルックは、1960年代からロンドンを拠点に、斬新なサウンドを展開していたジャズの作編曲家だったが、1971年にリリースしたこの『メトロポリス』で、ジャズとロックとが有機的に融合した音楽を展開してシーンに衝撃を与えた。ジョン・テイラー(p)、ゲイリー・ボイル(g)、ケニー・ホイーラー(tp)など、イギリスの気鋭のミュージシャンたちも加わったビッグ・バンドが紡ぎ出す、ロックのビートと前衛的なジャズが重なり合ったカオス的なサウンドは、今聴いても十分に衝撃的だ。
<熊谷の個人的おススメ盤1枚>
1960年代はファンキー・ジャズ、そして1970年代はフュージョン・テイストのサウンドで高い人気を獲得していたピアニスト、ラムゼイ・ルイス。この1977年の作品は、アース・ウインド&ファイアのラリー・ダンが3曲プロデュースし、アースのメンバーたちも参加。ファンキーだが、いい感じにポップなサウンドを繰り広げ、ラムゼイのピアノも気持ちよさそうに歌っている。当時、学生バンドの間で人気が高かったアルバムで、タイトル曲などはよくコピーされていた。