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【再掲】特集:元ちとせ~常に開かれた視点を持ち、普遍的なメッセージを歌う
どれだけ多くの人々にインパクトを与え、そして魅了してきたのだろうか。元ちとせのデビュー曲「ワダツミの木」が発表されてから15年が経つ。神秘的で野性味に溢れ、島唄特有の空気を醸し出した名曲を生み出した彼女は、今もその当時の印象のまま力強く活動を続けている。常に開かれた視点を持ち、普遍的なメッセージを歌い続けてきた元ちとせの15年を振り返っておこう。
元ちとせは1979年生まれ、鹿児島県の奄美大島出身。小さな集落で生まれ育ち、幼い頃より三線と島唄を教わった。高校生の時にはすでにその歌が映画『男はつらいよ 寅次郎紅の花』で使われる程の実力となっており、高校3年生で奄美民謡大賞を受賞。単独名義のCDやテレビ・ドキュメンタリー番組も制作され、若き天才少女と讃えられた。しかし、彼女は美容師になるという夢があり、高校卒業後は島を出て関西で違う道を歩むことになる。
しかし、やはり歌の道を捨てきることはできず、20歳を目前に上京。CDショップでアルバイトしながら、シンガーとしてのアイデンティティを模索していった。2001年3月には、シュガーキューブスやヴェルヴェット・アンダーグラウンド、あがた森魚などをカヴァーしたミニ・アルバムをインディーズでリリース。同年8月には全曲オリジナルで固めた2作目のミニ・アルバム『コトノハ』を発表した。
こういった活動を経て、メジャー・デビューが決定する。そして、レピッシュの上田現が作詞作曲プロデュースを手がけた「ワダツミの木」が、2002年2月にリリースされた。奄美民謡特有のコブシを効かせた歌い方を武器に、レゲエ調のアーシーなアレンジがぴったりと交わり、ノンタイアップでありながらもじわじわとセールスを伸ばして、この年の年間チャートのトップを記録した。また、同年7月にリリースされたデビュー・アルバム『ハイヌミカゼ』も大ヒットを記録し、日本レコード大賞のベストアルバム賞を受賞した。
彼女にとって、この「ワダツミの木」が最初にヒットしたことは、非常に幸運なことだった。奄美民謡の実力をしっかりとベースにしているのはもちろん、いわゆる民謡界に留まるのではなく、世界が広がっているイメージが新鮮だったからだ。翌2003年発表のセカンド・アルバム『ノマド・ソウル』では、ディープ・フォレストのエリック・ムーケがプロデュースした楽曲が収められるなど、ワールドミュージック的な視点で民謡やポップスを捉えた傑作となり、さらに高い評価を得た。
その後も、2005年には反戦歌「死んだ女の子」を坂本龍一と共演し、2007年にはアイルランドのザ・チーフタンズと共演するなど、通常のJ-POPを遥かに超えたスケールを感じさせる活動を続け、サード・アルバム『ハナダイロ』(2006年)、4作目となった『カッシーニ』(2008年)、そして洋邦それぞれの名曲をカヴァーした『Occident』と『Orient』(2010年)など、力作アルバムが続いた。また、オフィスオーガスタのスター・メンバーで結成された福耳や、同郷のヴォーカリストである中孝介とのお中元など、ユニットや客演を含めて幅広い活動を続けていった。
2015年にはアルバム『平和元年』を発表。戦後70年の節目の年ということもあり、今こそ平和を考えてほしいという意図で制作された本作は、太平洋戦争後に米国統治下だった奄美大島で生まれ育った彼女にとって、避けては通れないテーマの作品であった。ピート・シーガーの名曲を中川五郎が訳した「腰まで泥まみれ」や、谷川俊太郎と武満徹のコンビによる合唱曲「死んだ男の残したものは」など、魂込めて歌った平和へのメッセージ・ソングが多数収められ、幅広い世代で高く評価された。
▲ 「腰まで泥まみれ」MV
結婚と出産というイベントを経てからの彼女は、東京から故郷の奄美大島に拠点を移し、マイペースで活動するようになっている。しかし、それだけに流行に流されることなく、地に足のついた落ち着いたイメージが強くなったといえるだろう。「ワダツミの木」でデビューした当時の新鮮さは損なわず、どこか孤高で凄みのあるライヴ・パフォーマンスも健在だ。今年は記念すべきデビュー15周年を迎える年であり、恒例のライヴ・シリーズ「冬のハイヌミカゼ」もビルボードライブで行われる。あらためて日本が誇る本物のソウル・ミュージック(魂の歌)を体感してもらいたい。
公演情報
<NEW!>
元ちとせ
Billboard Live "歌会元(うたかいはじめ)"
ビルボードライブ大阪:2018/11/19(月)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2018/11/21(水)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30 / 2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
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Text: 栗本斉
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