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クリス・ブラウン『ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン』発売記念特集~新たな黄金期を予感させる超大作を読み解く
クリス・ブラウンが2枚組45曲入りという大ボリュームの新作8thアルバム『Heartbreak on a Full Moon』を2017年11月3日にリリース、そして本作の国内盤が11月15日に発売される。デビュー当初から圧倒的な成功をおさめつつ、時に不穏なドラマにも彩られてきたクリス・ブラウンのキャリア。だが、近年はコンスタントな活動で、後者のイメージを払拭しつつあるようにも思える。そんな中で放たれた渾身の新作は、果たしてどのような意味を持つのか? また、その音楽的な魅力は? 稀代のスターの最新作を、音楽ライターの渡辺志保氏に解説して貰った。
誰よりも“影の部分”を多く経験してきた現代のスーパースター
<スーパースターは孤独だ>とは、よく言われるフレーズだ。大きな歓声に囲まれ、まばゆいスポットライトを浴びながらも、その環境は幸せなことばかりではない。大きな成功を手にしたスターは、それと同じだけの孤独や挫折を味わっているのかもしれない。そんな影の部分を誰よりも多く経験してきた現代シーンのスーパースターといえば、このクリス・ブラウン以外にいないのではないか。
1989年にヴァージニアの小さな町で生まれたクリスは、小学生の頃にはすでにその才能を開花させ、誰よりも早いスピードでスターダムに駆け上ってきた。わずか16歳の時に発表したデビュー・シングル「Run It!」はいきなり全米1位を獲得し、マイケル・ジャクソンやアッシャーに続くスーパー・エンターテイナーとして順調すぎるキャリアのスタートを切り、その後も「Yo (Excuse Me Miss)」、「Kiss Kiss」、「With You」など、ヒット・シングルを連発してきた。やがて、稀代のポップスターであるクリスは、同じく世界中でヒットを飛ばしていたポップ・ディーヴァのリアーナと交際を始めることとなる。二人は数々のアワードやファッション・ショー、バケーションの場など、どこに行くにも一緒。仲睦まじいカップルの姿は度々パパラッチにもその姿をキャッチされてきた。しかし、2009年2月、クリスは大きな過ちを犯した。リアーナと口論になり、彼女に暴力を振るったのだった。クリスの攻撃を受け、顔じゅうにアザができ、おぞましいほどに目元が腫れ上がった衝撃的なリアーナの写真は世界中に出回り、クリスは若きポップスターから一転、<暴力を振るう乱暴なDV男>としてのレッテルを貼られることになった。その騒動の直後に発売された3rdアルバム『Graffiti』は「I Can Transform Ya」などのヒット・シングルを生むも、全米チャートにおいては最高位7位と、これまでの彼の記録と比較するとやや奮わぬ結果に。事件以降は世間の風当たりも強く、さらにクリスはその後も暴力沙汰を幾度か起こし、メディアでは常にクリスの逮捕劇が報道されるほどになってしまった。今年の6月に一部の劇場とNetflixで公開された彼のドキュメンタリー・フィルム『Chris Brown: Welcome To My Life』では、当時のことを「極度の鬱状態だった」と振り返り、自分のことを「アンダードッグ(負け犬)」と表現していたほどだ。
▲Chris Brown - Welcome To My Life (Trailer) HD
そんなクリスだったが、2011年には4thアルバム『F.A.M.E.』のシングルとしてEDMライクな「Yeah 3x」を、翌年にもアッパーなダンス・トラック「Turn Up the Music」をリリースし、新たなクリス・ブラウン・サウンドを見事に構築していった。いっときのどん底時代が嘘であったかのように人気を取り戻したクリスは、コンスタントなペースで順調にアルバムをリリースし、その度に大規模なツアーを成功させてきた。と同時に、アフロジャックやキッド・インク、DJキャレド、ニッキー・ミナージュなど、枚挙にいとまないほどの数の客演もこなし、シーンにとってクリスの存在がいかに大きなものかを示してきた。
▲Chris Brown - Yeah 3x
ただ、その間にもトップ・モデルの恋人、カルーチェ・トランとのイザコザや、カルーチェと一時的に別れていた間に生まれた娘(当時、クリスに隠し子がいたと報道された)、度重なるビーフや暴行事件など、相変わらずクリスの周りには常にドラマが付きまとうように。そんな中、2015年に発売された7thアルバム『Rolyalty』では、ジャケット写真で隠し子と騒がれた実娘のロイヤルティちゃんを抱き、楽曲も「Back to Sleep」や「Fine By Me」、「Zero」など、よりオーセンティックなR&Bに加え、ファンクの要素も盛り込んだ楽曲が目立ち、改めてR&Bスターとしてのクリスの表現力を強調するかのようであった。
▲Chris Brown - Back To Sleep (Explicit Version)
リリース情報
ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン
2017/11/15 RELEASE
<国内盤CD>
SICP-5632/3 スペシャル・プライス 2,700円(tax in.)
※初回のみステッカー封入
【Disc01】
01. ロスト & ファウンド
02. プライバシー
03. ジューシー・ブーティー feat. ジェネイ・アイコ & R.ケリー
04. クエスチョンズ
05. ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン
06. ローゼズ
07. コンフィデンス
08. ロック・ユア・ボディー
09. テンポ
10. ハンドル・イット feat. デージ・ローフ & リル・ヨッティ
11. シップ
12. エブリバディ・ノーズ
13. トゥ・マイ・ベッド
14. ホープ・ユー・ドゥー
15. ディス・エイント
16. プル・アップ
17. パーティー feat. グッチ・メイン & アッシャー
18. センセイ feat. A1
19. サマー・ブリーズ
20. ノー・イグジット
21. ピルズ&オートモバイルズ feat. ヨー・ゴッティ、ア・ブギー・ウィット・ダ・フーディ&コダック・ブラック
22. ハート・ザ・セイム
【Disc02】
01. アイ・ラヴ・ハー
02. ユー・ライク
03. ノーウェア
04. アザ―・ニ**ズ
05. タフ・ラヴ
06. パラダイス
07. カヴァード・イン・ユー
08. イーヴン
09. ハイ・エンド feat. フューチャー & ヤング・サグ
10. オン・ミー
11. テル・ミーホワット・トゥー・ドゥー
12. フラストレイテッド
13. エネミー
14. イフ・ユアー・ダウン
15. バイト・マイ・タング
16. ラン・アウェイ
17. ディス・ウェイ
18. イエロー・テープ
19. レディ・ウィップ
20. ハングオーバー
21. エモーションズ
22. オンリー・フォー・ミー feat. タイ・ダラー・サイン&ヴァース・シモンズ
23. グラス・エイント・グリーナ―
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フルボリュームの新作が表現する“本気のクリス・ブラウン”
『Royalty』から丸2年。さらに成長したクリスが放つ新作アルバム『Heartbreak on a Full Moon』は、2枚組・全45曲、全長約2時間40分という、他に類を見ない史上最強の内容を誇る作品に仕上がった。実際の45曲全てを聴いた筆者の率直な感想は、<クリスは本気である>ということ。これまでの数年間、常にドラマやゴシップが先行して報道されていたクリスではあるが、それらを振り払うように、これまでの作品と比べても、最も濃度の濃いR&Bサウンドを打ち出して来た。例えばそれは、アルバムのジャケット・イメージからも伝わって来る。本作にフィーチャーされたのは、ディスコグラフィー史上初めて、クリスの顔写真を排除したアルバム・カバー。ピンク色の満月の中心に浮かぶのは、生々しく(だが美しく)描かれた心臓の絵。そしてそこから、血液のように真紅のインクが滴っており、そこからも、生身の人間としてのクリスの決意を感じ取ることが出来るようだ。
そして、本作に向けてリリースされてきたシングルの数々も、クリスの本気度が伺い知れるようだった。女性との苦い過去を赤裸々に、そしてエモーショナルに吐露した「Grass Ain't Greener」に始まり、2016年12月に発表された「Party」では、過去にアッシャーレディー・ガガのバック・ダンサーも務めるなど世界で活躍する日本人ダンサー、RIEHATAをMVにフィーチャー。スリリングなバトル・シーンや、スキルとクリエイティヴィティに溢れるクリスのダンス・シーンもふんだんに含んだビデオ動画は瞬く間に話題になり、動画再生回数は1.7億回を突破するほどに。2017年に入ってからも、「Privacy」、「Pills & Automobiles」、「Questions」といったMVを立て続けに発表して話題をかっさらった。これはあくまで筆者の所感であるが、この夏は東京のクラブのフロアでもとにかくクリス・ブラウンの歌声ばかりが響いていた気がする。ノリやすく、かつバランスよくトレンドを捉えたサウンドとリマーカブルなクリスの歌声の相性はどれも抜群で、まさにクリスの絶頂期が戻って来たようだった。
▲Chris Brown - Party (Official Video) ft. Gucci Mane, Usher
また、ヒップホップやR&Bリスナーに嬉しい仕掛けとして、『Heartbreak on a Full Moon』には、これまで以上に多様なレジェンドたちへのオマージュ…つまりはサンプリングや歌詞の引用などが見られる。この点もまた、クリスの本気さが表れている点かもしれない。シングルの「Questions」、「Privacy」ではそれぞれケヴィン・リトルの「Turn Me On」、 レッド・ラット「Tight Up Skirt」を引用し、昨今のトレンドでもあるカリブのヴァイブスを吹き込んだ。そして、R.ケリー(!)とジャネイ・アイコを迎えた「Juicy Booty」では、2パックの「California Love (Remix)」の印象的なフレーズと、ザ・ノトーリアスB.I.Gの「Juicy」……のさらに元ネタとして有名な、エムトゥーメイの同名曲を超大胆にサンプリング。「To My Bed」ではアッシャーの「Nice & Slow」の一部を下敷きにし、極め付けは「Even」で、あのマイケル・ジャクソンの「Remember The Time」をメロディに用いて、偉大な先人のエッセンスを取り込みながらも美しい佳曲へと昇華している。
▲Chris Brown - Privacy (Explicit Version)
他、グッチ・メインやリル・ヨッティ、ヨー・ゴッティにコダック・ブラック、ヤング・サグやフューチャーと、次々とヒット・シングルを生み出しているスター・ラッパーたちが多く参加しているのも嬉しい点だ。これまでにタイガやキッド・インクら、旬なラッパーたちと多くのアンセムを生み出してきたクリスだが、その心意気は本作にも強く表れている様子。
▲Chris Brown - Questions (Official Video)
先日、NYの人気ヒップホップ・ラジオ局であるHOT97のインタビュー番組に出演したクリスは「このアルバムには、自分のオーディエンスが好きなものを詰め込んだ。R&Bが好きな子にはよりR&Bを、ポップスが好きな子にはもっとポップスの要素を感じてもらえると思う。でも、そう言った要素はこれからも僕自身のエッセンスとなるもの」と語った。同番組で「僕のスマホの中には未発表曲が後800曲はある。そうやって(曲を作り続けていくことで)自分のクリエイティヴィティを保っている」とも語っていたクリス。新作は、2時間40分という長い長い旅路のように思えるが、実際に聴いてみると、クリスの明確なビジョンと決意のもとに作られた楽曲ばかりが並んでおり、それぞれが独立し、個性を持った佳曲ばかりが押し寄せる。現在、まだ28歳のクリス。様々なドラマを経験しながらも、R&Bシンガー、いや、世紀のエンターテイナーとしては、これからのキャリアこそが見せ場のピークなのかもしれない。
世界的ダンサーRIEHATAによるSpotify最新Hip Hop/R&Bプレイリスト
クリス・ブラウン最新アルバムのリリースを記念し、「Party」のMVにも参加するなど世界を股にかけて活躍するダンサー=RIEHATAが選んだ最新Hip Hop/R&Bを収録したプレイリストがSpotify「STOKED!」にて期間限定公開中!
リリース情報
ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン
2017/11/15 RELEASE
<国内盤CD>
SICP-5632/3 スペシャル・プライス 2,700円(tax in.)
※初回のみステッカー封入
【Disc01】
01. ロスト & ファウンド
02. プライバシー
03. ジューシー・ブーティー feat. ジェネイ・アイコ & R.ケリー
04. クエスチョンズ
05. ハートブレイク・オン・ア・フル・ムーン
06. ローゼズ
07. コンフィデンス
08. ロック・ユア・ボディー
09. テンポ
10. ハンドル・イット feat. デージ・ローフ & リル・ヨッティ
11. シップ
12. エブリバディ・ノーズ
13. トゥ・マイ・ベッド
14. ホープ・ユー・ドゥー
15. ディス・エイント
16. プル・アップ
17. パーティー feat. グッチ・メイン & アッシャー
18. センセイ feat. A1
19. サマー・ブリーズ
20. ノー・イグジット
21. ピルズ&オートモバイルズ feat. ヨー・ゴッティ、ア・ブギー・ウィット・ダ・フーディ&コダック・ブラック
22. ハート・ザ・セイム
【Disc02】
01. アイ・ラヴ・ハー
02. ユー・ライク
03. ノーウェア
04. アザ―・ニ**ズ
05. タフ・ラヴ
06. パラダイス
07. カヴァード・イン・ユー
08. イーヴン
09. ハイ・エンド feat. フューチャー & ヤング・サグ
10. オン・ミー
11. テル・ミーホワット・トゥー・ドゥー
12. フラストレイテッド
13. エネミー
14. イフ・ユアー・ダウン
15. バイト・マイ・タング
16. ラン・アウェイ
17. ディス・ウェイ
18. イエロー・テープ
19. レディ・ウィップ
20. ハングオーバー
21. エモーションズ
22. オンリー・フォー・ミー feat. タイ・ダラー・サイン&ヴァース・シモンズ
23. グラス・エイント・グリーナ―
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