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ボーイズⅡメン『アンダー・ザ・ストリートライト』発売記念特集 ~“歌の力”に改めて回帰した新作のヒントを荘 治虫が紐解く
1990年代初頭にR&Bヴォーカル・グループの確かな伝統をヒップホップ世代のサウンドに乗せてブレイクし、その美しいハーモニーと情熱的な歌声で世界を魅了し続けてきたボーイズⅡメン。発表したスタジオ・アルバムは優に10枚を超え、ビルボードのR&B/ポップの両チャートにおいて共に5曲で首位を獲得するなど数々の名曲を生み出してきた彼らが、初のドゥーワップ・アルバム『アンダー・ザ・ストリートライト』を作り上げた。グループの軌跡を振り返るとともに、アカペラ・シーンの盛り上がりから新たなチャレンジに挑んだ背景に迫る。
正攻法のバラード&ハーモニーで上り詰めたボーイズⅡメン
1991年、伝統あるモータウンから、そのレーベルと自らの出身地であるフィラデルフィアに敬意を払った「Motownphilly」で鮮烈なデビューを飾ったボーイズⅡメンは、古き良きR&Bヴォーカル・グループのハーモナイジングをヒップホップ・ジェネレーションならではの新しい感性にミックスさせ、R&Bフィールドばかりかポップ・マーケットでも大成功を収めてきた。フィリーの芸術高校で知り合ったショーン・ストックマン、ネイザン・モリス、ウォンヤ(発音はワンイェーに近い)・モリス、マイケル・マッケリーの4人(マッケリーは2003年に脱退)が成し遂げたものを誰の目にも分かりやすく掲げるとするなら、総計6400万枚ものアルバム・セールスに4つのグラミー賞、そしてハリウッドの殿堂入りといったところだろうか。
▲Boyz II Men - Motownphilly
彼らが放った数々のヒットの中でも、グラミーに輝いた「End Of The Road」(1992年)と「I'll Make Love To You」(1994年)の2曲は、ボーイズⅡメン自身だけでなく制作したベイビーフェイス(前者はLAリードらとの共作/共同プロデュース)にとっても代表作と言えるもので、彼のライヴでもいまなお重要なレパートリーとしてお約束のように歌われているほどだ。美麗でいて強靭なソングライティングにボーイズIIメンの完璧なハーモニーが響く、真の名曲たちである。
その後もバッド・ボーイ率いるショーン・パフィ・コムズや、TLC/デスティニーズ・チャイルドのヒットで名をあげたシェイクスピアなど旬なプロデューサーたちを次々に起用して時代に即したヴォーカル・グループのサウンドを聴かせてくれたものの、チャートを賑わせたのはジャム&ルイスと組んだ「4 Seasons Of Loneliness」や、ベイビーフェイスとの「A Song For Mama」といった奇をてらうことのないバラードの方で、それこそがハーモニーを重視する彼らの強みを活かすものだった。
▲Boyz II Men - 4 Seasons Of Loneliness
『アメリカン・アイドル』、ペンタトニックス、『glee』…
21世紀アメリカポップス界での“歌”の復権
もちろん、変化を恐れず変化を止めないところがR&Bの美点であり面白さでもある。変則ビートにクランク&B、オートチューンによるロボ声ヴォーカル、EDM、アンビエントなどなど、様々な音楽的語彙を駆使して自在に変化するR&Bは魅力的だ。しかし、そうした言わばサウンド主導の音楽の在り方とはまた別の価値軸が2000年代に育っていったように思う。それは『アメリカン・アイドル』に端を発する歌の復権だ。
日本でも放送されたこのオーディション番組は、人種を超えて愛される実力本位の歌い手を発掘するその過程をつぶさに視聴者と共有することで高視聴率を記録。誰もが知る著名な曲を巧みに歌いこなすアマチュアたちが次々に現れ、その歌力や表現力を目の当たりにした視聴者たちは、“初めに歌ありき”という実に当たり前のポップスの真実に改めて気づかされることになった。『アメリカン・アイドル』から数々の才能ある新人がデビューを飾る中、2009年には対象をアカペラ・グループとした『The Sing-Off』がスタート。ショーン・ストックマンが審査員に名を連ねるこの番組の第3シーズンを制したグループこそ、日本でも高い知名度を誇るペンタトニックスである。『The Sing-Off』にはボーイズⅡメンもゲストとしてパフォーマンスを披露し、ヴェテラン・ヴォーカル・グループとしての揺るぎない存在感を印象付けていた。
▲Boyz II Men - Acapella Medley (NBC The Sing Off)
アカペラへの注目は、後に6シーズンを続けることになる高校のグリー部を舞台にしたミュージカル・コメディ『glee』によってドラマの世界で大爆発を起こし、アカペラ・クラブで喉を競い合う大学生たちを描いた映画『ピッチ・パーフェクト』もヒット。シリーズ化された同作は3作目がそろそろ公開になるところだ。
さらにもう一本、今回の新作アルバムにつながるであろうドラマがある。2016年にフォックスで放映された『グリース・ライブ!』だ。1978年に公開されたジョン・トラボルタ/オリヴィア・ニュートン・ジョン主演によるミュージカル映画『グリース』をなんと生放送ドラマとしてリメイクしたスリリングなこの作品で、ボーイズⅡメンはコミカルなナンバー「Beauty School Dropout」を歌うティーン・エンジェルの役を演じたほか、オープニングの街頭のシーンで「Motownphilly」の一節を歌っている。
▲Boyz II Men - Beauty School Dropout
活動25周年を祝すべき原点回帰作『アンダー・ザ・ストリートライト』
『グリース』は1959年夏の高校生たちを描いた作品だったこともあり、彼らの歌う「Beauty School Dropout」は当時のドゥーワップ・グループにも遠くないアレンジとなっていたわけだが、このことがドゥーワップをテーマとしたニュー・アルバム『アンダー・ザ・ストリートライト』を作るひとつのヒントになったのではないかと想像する。
『アンダー・ザ・ストリートライト』は、ほぼ全曲がカヴァー・ナンバーとなる(「Ladies Man」のみ以前にボーナス・トラックとして発表済みの曲の新ヴァージョン)。それも、冒頭のザ・ティーネイジャーズ・フィーチャリング・フランキー・ライモンによる「Why Do Fools Fall In Love」(1956年のヒット)を始めとしてほとんどが1950年代中盤から1960年代中盤のドゥーワップ期の名曲たちだ。収録曲のうち、その「Why Do~」や、フラミンゴスのヴァージョンが有名な「I Only Have Eyes For You」、ハートビーツの「A Thousand Miles Away」は名画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)の劇中に使われていたので、R&Bリスナーのみならずアメリカン・ポップスのファンにもお馴染みのはず。
▲Frankie Lymon+The Teenagers - Why Do Fools Fall In Love
一般に古いナンバーのカヴァーと言えば、現代的なアレンジを盛り込むことも考えられるが、ボーイズⅡメンはむしろ原曲の世界から離れようとしない。最も短い尺を持つビルボード首位曲として知られるモーリス・ウィリアムズ&ザ・ゾディアックスの「Stay」はバックのアレンジはもちろんのこと、その約1分半の長さまでほとんど変えていないほど。つまり、目新しいサウンドや意表を突く構成で驚かせるのではなく、あくまで歌で勝負する道を選んだ。
とはいえ、もちろんヴォーカルにはボーイズⅡメンらしさをしっかりとしたためている。とくに顕著なのが、ブライアン・マックナイトとのコラボによる「I'll Come Running Back To You」(サム・クックのカヴァー)などの3曲。バックの演奏を一切排除した完全なアカペラで聴かせる「I'll Come~」はジャジーな和声に力強いリードが乗る彼らならではの深みのあるソウルに仕上がり、同じく洒脱なハーモニーをバックにマックナイトを交えて次第に熱を帯びていく「A Sunday Kind Of Love」も絶品というほかない。ちなみにボーイズIIメンとマックナイトと言えば、R&Bファンの間では両者によるクリスマス・ソング「Let It Snow」(1993年)が隠れた名曲として知られている。抜群の相性の良さをみせるこの組み合わせがまた楽しめるというだけで手を伸ばしたくなるリスナーもいるに違いない。さらにテイク6との夢のコラボが叶った「A Thousand Miles Away」まであるのだから、アカペラ・ファンにはたまらないはず。活動25周年を迎えたボーイズⅡメンを祝うにふさわしい原点回帰作であり、ヴォーカルのプリミティヴな魅力に迫ったアルバムだ。
▲Boyz II Men and Brian McKnight - Let It Snow
ツアー情報
BOYZ II MEN 25th ANNIVERSARY JAPAN TOUR
2017年12月12日(火)会場:大阪 オリックス劇場
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888 毎日:10時~18時
2017年12月13日(水)会場:神奈川 パシフィコ横浜 国立大ホール
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799 平日:11時~18時 土日祝:10時~18時
2017年12月19日(火)会場:東京 新高輪プリンスホテル 飛天の間
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799 平日:11時~18時 土日祝:10時~18時
関連リンク
文:荘 治虫
アンダー・ザ・ストリートライト
2017/10/25 RELEASE
SICP-5619 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.ホワイ・ドゥ・フールズ・フォール・イン・ラヴ feat.ジミー・マーチャント
- 02.ア・サウザンド・マイルズ・アウェイ feat.テイク6
- 03.ステイ
- 04.アイ・オンリー・ハヴ・アイズ・フォー・ユー
- 05.アップ・オン・ザ・ルーフ
- 06.アイル・カム・ランニング・バック・トゥ・ユー
- 07.ティアーズ・オン・マイ・ピロウ
- 08.ア・サンデー・カインド・オブ・ラヴ feat.ブライアン・マックナイト
- 09.エニワン・フー・ノウズ・ホワット・ラヴ・イズ feat.アンバー・ライリー
- 10.レイディース・マン
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