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P!NK(ピンク)『ビューティフル・トラウマ』発売記念特集 ~コンプレックスも美しいと語る最新作までの道のり

PINK

 グラミー賞3冠、全世界トータル・アルバム・セールス6,000万枚を誇るポップ・クイーン=P!NK(ピンク)が、5年振り、通算7作目のスタジオ・アルバム『ビューティフル・トラウマ』を2017年10月13日にリリースした。2000年のデビュー以降、数多くのヒット曲を輩出し続けてきたP!NK(ピンク)。新作の発売を記念し、改めてデビューからポップス界の世界的ヒットメイカーたちが参加した話題の最新作までの軌跡をたどっていきたい。

ポップ・クイーン=P!NK(ピンク)誕生までの道のり

 米ペンシルベニア州出身、9月8日に38歳の誕生日を迎えたばかりのピンク。父親の影響で、ボブ・ディランやジミ・ヘンドリックスといったロック界のレジェンドたちに影響を受け、自身も音楽に目覚める。音楽活動をしていた10代の頃にクラブで見出され、トニ・ブラクストンやTLCなど、90年代を代表するR&Bシンガーを輩出した、ラフェイスとレコード契約した。

CD
▲『キャント・テイク・
ミー・ホーム』

 そのラフェイスの創業者、L.A.リードがプロデュースしたシングル「ゼア・ユー・ゴー」で、2000年2月にデビュー。この曲が、米ビルボード・ソング・チャート最高7位の大ヒットとなり、同年4月に発表したデビュー・アルバム『キャント・テイク・ミー・ホーム』も、全米だけで200万枚、全世界で400万枚を超えるセールスを記録した。本作からの2ndシングル「モスト・ガールズ」は、デビュー曲を超える最高4位をマークし、全英5位、カナダ2位、オーストラリアでは自身初のNo,1獲得を果たした。ショックピンクのベリーショートに、ワイルドなルックス。ビジュアルは現在のピンクと変わりないが、当初の楽曲は、デスティニーズ・チャイルドやTLCなどを手掛けていたシェイクスピアや、ブラック・ミュージック界の重鎮、ベイビーフェイスが手掛ける、R&Bが中心の内容だった。

 翌2001年6月には、クリスティーナ・アギレラ、リル・キム、マイアとコラボした、映画『ムーランルージュ』の主題歌「レディ・マーマレード」が自身初の全米No,1に輝き、同年のMTV ビデオ・ミュージック・アワードで「最優秀ダンスビデオ賞」を、翌2002年のグラミー賞では「最優秀ポップ・コラボレーション賞」を受賞した。ミュージックビデオでは、キャリアの中でも最も露出度の高い、セクシーなピンクが堪能できる。


▲P!nk - Most Girls


CD
▲『ミスアンダストゥッド』

 2001年11月に発表した2ndアルバム『ミスアンダストゥッド』は、R&B路線の1stアルバムや「レディ・マーマレード」とはまったく違うテイストの、ロックやダンス・ポップを取り入れた作品になった。このアルバムからは、ピンクのキャリアを代表する名曲「ゲット・ザ・パーティー・スターテッド」が、全米4位・全英2位の大ヒットを記録。その後、「ドント・レット・ミー・ゲット・ミー」(米8位/英6位)、「ジャスト・ライク・ア・ピル」(米8位/英1位)とヒットを連発し、アルバムは全世界で1200万枚のメガヒットとなった。

CD
▲『トライ・ディス』

 2003年11月にリリースした3rdアルバム『トライ・ディス』は、さらにロック色を強めた内容に。ピーチズとデュエットした「オー・マイ・ゴッド」や「トラブル」が全英チャートでTOP10入りするなど、ヨーロッパ諸国を中心にヒットしたが、アメリカでは前作のようなヒットには恵まれなかった。しかし、アルバムのクオリティは高く、今でもファンからの支持は厚い。翌2004年には、グラミー賞で「最優秀女性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス」を受賞し、ビヨンセ&ブリトニー・スピアーズと共演した「ペプシ」のCMも、大きな話題になった。



▲P!nk - Get the Party Started (from Live from Wembley Arena, London, England) ft. Redman


CD
▲『アイム・ノット・デッド』

 4作目のスタジオ・アルバム『アイム・ノット・デッド』(2006年)からは、「フー・ニュウ」(米9位/英5位)や「ユー・アンド・ユア・ハンド」(米9位/英10位)などの米・英TOP10ヒットが生まれ、オーストラリアやドイツで初のアルバム1位に輝くなど、前作の2倍以上のセールスを記録。タイトル通り、まさに“復帰作”に相応しいアルバムになった。マックス・マーティンやドクター・ルークといった人気プロデューサーが手掛けただけはあり、シングルカットできる強力なタイトルが揃っている。

CD
▲『ファンハウス』

 翌2008年8月にリリースした「ソー・ホワット」で、「レディ・マーマレード」以来、7年振りの全米シングル・チャートNo,1に輝く。ピンク名義(ソロ)のシングルとしては、初の快挙。当時離婚したばかりのケアリー・ハートが出演したミュージックビデオと、「旦那とはもう終わったの。だから何?」という、衝撃的な歌詞の内容が話題になった。この勢いに乗せて、同年10月に発売した5枚目のスタジオ・アルバム『ファンハウス』も、全米アルバム・チャートで最高2位をマークし、自己最高位を更新。全英アルバム・チャートでは、初のNo,1獲得を果たした。「ソー・ホワット」に続くシングル曲「ソーバー」、「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー」もスマッシュヒットを記録し、女王の貫録をみせた。


▲P!nk - So What


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CD
▲『グレイテスト・ヒッツ』

 2010年には、デビュー10周年を記念した初のベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』を発表。本作に収録された新曲「レイズ・ユア・グラス」が3曲目の全米No,1に輝き、2ndシングル「ファッキン・パーフェクト」も全米最高2位の大ヒットとなった。華々しく飾ったデビュー10周年を皮切りに、その後もアーティスト、プライベート共に躍進が止まらない。同年には2008年に離婚したケアリー・ハートと再婚し、2011年6月に第一子となる女児=ウィローを出産した。

CD
▲『トゥルース・アバウト・ラヴ』

 2012年にリリースした、通算6枚目のスタジオ・アルバム『トゥルース・アバウト・ラヴ』は、全米アルバム・チャートで初のNo,1に輝き、全世界で700万枚を売り上げる大ヒットに。「ブロウ・ミー(ワン・ラスト・キス)」、「トライ」が2曲連続の全米・全英TOP10ヒットとなり、米ロックバンド=FUN.のボーカル、ネイト・ルイスとデュエットした3rdシングル「ジャスト・ギブ・ミー・ア・リーズン」は、全米チャートで3週の首位をマークする、自身最大のヒット曲となった。翌2013年のグラミー賞では、本作が「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム部門」にノミネートし、ビルボード・ミュージック・アワードでは「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。

 2014年10月には、シティー・アンド・カラーのダラス・グリーンとYou+Me(ユー・アンド・ミー) というユニットを組み、アルバム『ローズ・アヴェニュー』をリリース。全米4位、カナダでは首位を獲得するなど、世界各国でTOP10入りするヒットとなった。2016年4月、映画『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』の主題歌としてリリースした「ジャスト・ライク・ファイア」が、通算15曲目の全米TOP10入り(最高10位)を果たし、映画のプレミアや、ビルボード・ミュージック・アワードでのアクロバティックなパフォーマンスも話題となった。同年12月には第2子となる男児=ジェイムソンを出産し、インスタグラムに投稿した家族写真がフォロワーから大絶賛されている。


▲P!nk - Just Like Fire (2016 Billboard Music Awards Performance)


 そして今年2017年8月、シングル「ホワット・アバウト・アス」で完全復帰を果たす。この曲は今年大ヒットしたエド・シーランの「シェイプ・オブ・ユー」などを手掛ける音楽プロデューサー、スティーブ・マックとジョニー・マックデイドが制作したロック・バラードで、無くした愛や壊れた幸せについて問いかけ、答えを導くという、人生や社会情勢について歌ったナンバー。ピンクが力強く放つメッセージ性の強い歌詞は、本当に心に響く。コンプレックスを包み隠さず明かした「ドント・レット・ミー・ゲット・ミー」や、ドラッグ中毒で亡くなった友人に捧げた「フー・ニュー」、“完璧すぎる必要はない”と、弱者の目線で歌った「ファッキン・パーフェクト」がヒットしたのも、リスナーが歌詞に共感したからだろう。


▲P!nk - What About Us (Official Video)


 現地時間8月27日にLA開催されたMTVビデオ・ミュージック・アワードでは、新曲「ホワット・アバウト・アス」含むヒット曲のメドレーを披露。同アワードでは、最高栄誉とされる「マイケル・ジャクソン・ビデオ・ヴァンガード賞」を受賞した。同賞は、過去にマドンナやビヨンセなどのトップシンガーが受賞を果たしている。また、受賞スピーチで語ったメッセージも大きな話題に。その内容は、6歳になった愛娘=ウィローに向けられたもので、自分の容姿が「男の子みたいで醜い」と話す娘に対し、マイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイといった中性的なレジェンド・アーティストたちや、男性的だとバカにされてきた自分自身が、コンプレックスや世間の批判に負けず、自分らしさを貫いてキャリアを成功させたことを伝えたという。そして、「だから私たちは変わらないのよ。人々がもっと色々な形の美しさを見れるようになるため、その人たちを助けるの。そして、ここにいるアーティストのみなさん、いつもインスパイアしてくれてありがとう。真実の自分でいてくれてありがとう。どうか輝き続けて。(ウィローに対し)あなたは美しい。愛しているわ」とコメントした。


▲P!nk Performs "Get The Party Started", "Raise Your Glass", & More! | 2017 VMAs | MTV


CD
▲『ビューティフル・トラウマ』

 新作のタイトル『ビューティフル・トラウマ』には、その愛娘や全ての人たちがもつコンプレックスやトラウマも、美しいものだというポジティヴな意味が込められている。そういった想いが綴られたタイトル曲は、優しく語りかけるような歌い出しから、壮大なサビに繋げるオープニングらしいゴージャスなナンバー。この曲の他にも、叫ぶように訴える「ホワットエヴァー・ユー・ウォント」や、静かなイントロから徐々にロック色を強めていく「フォー・ナウ」など、ピンクらしいパワーポップが収録されている。一方、力強さを抑えて丁寧に歌う、感傷的なピアノバラード「バット・ウィー・ロスト・イット」や、柔らかな響きで諭すように歌う「ワイルド・ハーツ・キャント・ビー・ブロークン」、サビの高音が印象的な「ユー・ゲット・マイ・ラブ」など、ナイーヴで繊細な世界を醸し出す、バラード曲も傑作揃い。


▲P!nk - Whatever You Want (Lyric Video)


 静と動の見事なバランスが取れているだけではなく、UKのロックバンドを彷彿させる、スピード感のあるポップチューン「ホウェア・ウィー・ゴー」や、プレイン・ホワイト・ティーズのようなフォーク調の「バービーズ」、ここ最近のアルバムにはなかった、フロア向けのエレポップ・チューン「シークレッツ」、拍手でリズムを取り、ゴスペル隊をバックに歌う「ベター・ライフ」など、ジャンルもバラエティに富んでいる。怪しげなアラビア風のイントロから始まる、国内盤ボーナストラックの「ホワイト・ラビット」も面白い。ちなみにこの曲は、映画『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』の劇中歌として、P!NKがジェファーソン・エアプレインをカバーしたもので、未配信曲のため貴重なトラックとなっている。また、2曲目の「リベンジ」では、2010年リリースの『リカヴァリー』 で共演し、『トゥルース・アバウト・ラヴ』収録の「ヒア・カムズ・ザ・ウィークエンド」で再タッグを組んだ、ラッパーのエミネムと再び共演。両者のコラボらしからぬ、ほのぼのとした空気感のカントリーやフォークを取り入れたナンバーで、エミネムもお得意の高速ラップは封印し、主に歌を担当するという、過去の作品ではなかったような仕上がりとなった。ここまでしっかり歌っているエミネムを聴けるのは、この曲が初めてではないだろうか。

 アルバムの制作陣には、これまでの作品でも多くの楽曲を手掛けてきたマックス・マーティンとグレッグ・カースティン、テイラー・スウィフトやケイティ・ペリーなど人気シンガーを手掛けるシェルバック、FUN.のメンバーであるジャック・アントノフ等がクレジットされている。

 ジャケットには、赤いフードのついた白いドレスにサングラスという、個性的なファッションに身を纏ったピンクが、威風堂々写っている。圧倒的な自信が表れているようだ。「このアルバムを誇りに思う」とコメントした新作『ビューティフル・トラウマ』は、コンプレックスや圧力に屈しない、ピンクらしさが存分に感じられる復帰作にして最高傑作になった。


▲P!nk - Beautiful Trauma (Audio)


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