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作曲方法や最近のフェイバリットは?- フレンチ・エレクトロの重要人物FKJにインタビュー
フランスのマルチ・インストゥルメンタリスト/プロデューサーFrench Kiwi JuiceことFKJ。1人で7つの楽器を操るライブ・パフォーマンスと、ヒップホップ的なサンプリングとビートのセンス、R&Bの要素も含むメロウネスなムードとフレンチ・エレクトロの系譜をなぞるような洗練されたグルーヴを特徴としている。今回Billboard JAPANでは、アジア・ツアー初日となる来日公演を直前に控えたFKJにインタビューを実施。現在のプレイ・スタイルに至るまでの経緯や作曲の方法、FKJが今聴いている音楽などについて話を訊いた。(※インタビュー日は9月5日)
なぜFKJは1人でいくつもの楽器を演奏するスタイルになったのか
−−最初は何の楽器から演奏を始められたんですか?
FKJ:7歳の時にサックスで遊んでいたのが最初かな。
――サックスに触れていたのは家族か誰かの影響ですか?
FKJ:親が僕に楽器を演奏させたくて「何か選んで」と言ってくれたんだ。その時僕はサックスを選んだけど、1年ぐらいで遊ぶのを止めてしまって。その後6年間は何も演奏しなかったんだけど、本格的に作曲しようと思って12歳の時にギターを始めたよ。
−−ギター以外にも様々な楽器を演奏するようになったのは何故?
FKJ:ギターで作曲を始めたんだけど、音をどんどん重ねたくなったんだ。それで奏法が似ていたベースを始めて、ドラムの音が欲しくなったから自分で叩いて、次にシンセサイザーを弾いていたらピアノの音を足したくなって。1番最初に弾き方を習得したのはギターだけど、そのスキルをピアノの演奏などにも応用しながら様々な楽器に触れるようになったよ。
−−楽器は全部独学ということですか?
FKJ:そうなんだ。音楽をひたすら聴きながらね(笑)
−−当時はどんな音楽を聴かれていましたか?
FKJ:色々な音楽を聴いていたよ。ボサノヴァやジャマイカミュージック、ジャズなどジャンルは問わずずっと音楽に対してオープンな姿勢でいるので、すべての音楽からインスピレーションを受けて作曲ができるんだ。13歳や14歳の時に作っていたものはそういったインスピレーションが1つに合わさっているような曲だったね。
−−作曲を始めようと思ったきっかけはありますか?
FKJ:音楽を通じて伝えたいことがあったというのが一つだね。それと、初めは音を模索しているだけで楽しかったんだけど、普段聴けないような音を聴いてみたかったというのが作曲を始めたもう一つの理由だよ。
−−その“普段聴けないような音”は自分で音を重ねていくうちに出来上がった?
FKJ:今は間違いなく、探していたものや聴きたかった音が聴けているよ。でも最近はツアーなどで忙しいというのもあって、ピアノの前に座って自分のスキルを磨いたり、音楽をたくさん聴いてリプロデュースしたりするという時間が中々ないから、その感覚を楽しむことができなくて少し寂しいんだよね。
▲FKJ-「Skyline」
−−なるほど。その分新しい場所に行ったりすることで、また違った刺激はありますか?
FKJ:そうだね。いつも違った場所に行って、見るものや会う人すべてにインスパイアを受けているよ。
−−今までにバンドを組んだ経験はありますか?
FKJ:2度あるよ。14歳の時に初めてバンドを組んだんだけど、その時のバンドはファンク寄りのバンドだった。2つめに組んだバンドは、もっとブルージーだったよ。
−−バンドの中では何の楽器を担当されていたんですか?
FKJ:最初のバンドではギターとキーボードで、2つめのバンドではキーボードとサックスを演奏していたよ。
−−以前、映画音楽を勉強されていたこともあるそうですね?
FKJ:うん。だけど特に作曲を習っていたというわけではなく、映画の中で音声を録る技術などを習っていたんだ。
−−では、映画音楽に興味があるというよりは作曲のために音楽技術を学んでいたということでしょうか?
FKJ:その通りだよ。サウンドトラックが好きだったというよりは、音楽科学やテクニック面に興味があったんだ。
−−なるほど。今のFKJの音楽も実験的な部分があるし、音楽科学という表現はしっくりきますね。
FKJ:確かに、その時習った技術を今の自分の音楽に取り入れてブレンドしている感覚はあるので、正しいのかもしれないね。
−−バンドなども経験しながら、現在の“FKJ”のスタイルとして1人で全ての楽器を演奏されるようになったのはどうしてですか?
FKJ:実際にバンドを組むというのは、メンバーとビジョンを共有したり人対人のリアルなコネクションがあったりして素晴らしいことなんだけど、僕は自分のサウンドが自分の中ですでに確立されてしまったから、バンドを組むよりも1人で演奏するスタイルを選んだんだ。今後バンドを組むことはないと思うんだけど、誰かと一緒に曲を作ることは、もちろんしていきたいよ。
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最近のコラボレーションやフェイバリットアーティストについて
−−コラボレーションの機会もきっと多いですよね。最近はマセーゴと演奏されていた「Tadow」の動画を拝見しました! 最近は日本でも、アーティスト同士がラフに声を掛け合ってコラボレーションすることも増えましたが、この人と演奏したい!と思うアーティストとはどのようにコミュニケーションを取られていますか?
FKJ:アーティストごとに全然違うストーリーがあるよ。マセーゴの場合は、アメリカのコロラド州にあるデンバーという街でショーをした時に、僕のオープニング・アクトが彼だったんだ。それまでマセーゴのことを知らずに、会場に向かう飛行機の中でたまたま彼の曲を聴いていて、当日サウンドチェックがスタートした時に「え!これさっきまで聴いていた曲だ!」って驚いたよ。そしたらマセーゴも「実は僕も飛行機の中で、あなたをことを知らずにたまたま曲を聴いていたんだ」って(笑)
−−素敵な偶然ですね。
FKJ:しかも、その日は僕のバースデーで皆がステージ上でバースデーソングを歌ってくれるシーンもあったんだよ。その時のマセーゴのライブがとってもクレイジーでかっこよかったから、後日パリにあるレッドブルスタジオに彼を呼んだら、スタジオでインプロヴィゼーションをする為だけにアメリカから来てくれたんだ。
−−凄い…!動画を拝見していても2人の息がぴったりだし、インプロヴィゼーションとも思えないぐらい素晴らしい演奏でした。
FKJ:ありがとう。マセーゴとは今まで1度も一緒に演奏した事がないのに、たった1回のインプロヴィゼーションで曲ができたんだ。「Tadow」は天からの贈り物みたいなものだよ。
▲Fkj&Masego-「Tadow」
−−運命的な出会いだったんですね。今後コラボレーションしてみたいアーティストはどなたですか?
FKJ:実はコラボレーションしたい相手をメモしたとっても長いリストがあるんだけど、長すぎて思い出せないな…(笑)今思い浮かんだのは、カナダ出身のポモや、ダニエル・シーザー、後はテニスンもコラボレートしてみたいアーティストだね。後、永遠に僕がコラボレーションを望んでいる相手はディアンジェロだよ。
▲D'Angelo - 「Brown Sugar」
−−どのアーティストとのコラボレーションも観てみたいです。だけど、今きっとFKJとコラボレーションしたいと言うアーティストも多いですよね。オファーはきますか?
FKJ:確かに結構オファーを頂いていて、スタジオでセッションする予定もあるんだけど…まだ秘密にしておかないといけないよね(笑)
−−楽しみにしておきます(笑)他のアーティストの音楽はどういうふうにチェックされてますか?
FKJ:前はSoundCloudで新しいアーティストを見つけることが多かったんだけど、(SoundCloudの)規模が大きくなりすぎちゃって、1年半ぐらい前にあまり使わなくなったんだ。最近気に入ってるプラットフォームは、YouTubeとSpotifyかな。後はレコードだね。良いアーティストに出会いたい時にレコードをディグっていることが多いよ。
−−レコードの良さはどういうところですか?
FKJ:バイナルでリリースしたばかりの新しいアーティストも探せるし、ソウルやファンクのルーツとなる音楽を探すこともできるし、古い曲でも自分が発見した時に「新しいな」と思うことができるので、音楽との出会いを楽しめるところかな。
−−最近出会った音楽やアーティストのお気に入りはいますか?
FKJ:最近のフェイバリットはSZAの『Ctrl』。アルバムが全体的に大好きで、特に1曲目が気に入ってるよ。
▲SZA「Supermodel」
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作曲方法や楽曲制作のインスピレーション
−−作曲するときは、楽器の構成などを頭の中でイメージしてから弾き始めるのか、それともとにかく何か楽器を弾き始めてから考えるのか、決まっていますか?
FKJ:2通りの全く逆の方法で作曲することが多いんだ。1つは、例えば料理していたり運転していたりシャワーを浴びていたり、音楽と関係なくリラックスしている時に突然メロディーが降りてきたら、それをiPhoneにこんな風に(メロディを口ずさむボイスメモを再生しながら)録音しておいて、後で楽器を足して作り上げていくパターン。もう1つは、例えばピアノの前に1時間ぐらい座って弾いてみて、それを聴き返して他の楽器を肉付けしていくパターンだね。頭で考えてから演奏に落とし込むのと、演奏してからアイディアを膨らませるのと、2つの逆の角度から作曲しているよ。
−−メロディとビートだと、メロディの方が先に浮かんできますか?
FKJ:そうだね、メロディから浮かぶことの方が多いかな。僕の中でも、リズムと比べてメロディの方が重要な要素になっていると思うんだ。だけど、面白いリズムが浮かんだら、ビートから作っていく場合もあるよ。
−−東京での公演を皮切りに、アジア・ツアーがスタートしますね。前回の来日公演では多くの日本のファンがあなたのパフォーマンスに衝撃を受けていましたが、今回はどんなショーになりそうですか?
FKJ:僕は、元々クラブ・シーンで活動はしていたし、前回の来日公演も場所が渋谷のクラブだったんだけど、今少しクラブとは距離を置いていて、今回はよりコンサートチックなライブを目指しているんだ。僕自身も明日の公演はすごく楽しみだよ。クラブのお客さんはダイナミックな方が多いけど、明日来てくれる人はもっとシャイな人たちかな?ということなども気になっているね。
−−今回、日本の滞在中もずっとスタジオにいらっしゃると伺いました。
FKJ:そうなんだ。昨日も今日も、ずっとスタジオにいるよ。本当はもっと東京でも色んな場所を探検してみたかったけど、少し残念だね(笑)前回日本に来たときは、日本酒を飲みに日本酒バーに行ったり、お寺にも行ったりして楽しかったよ。
−−前回来日された時にも、スタジオでインプロヴィゼーションの曲を演奏されてましたよね。
FKJ:今回は朝から晩までずっとスタジオで制作しているんだけど、前回は確かスタジオにいる時間がすごく少なくて。短い時間で曲を作ったんだ。
−−その時の曲のタイトルは「Tokyo」でしたが、何か東京から受けたインスピレーションがあったのでしょうか?
FKJ:たくさんあったよ。場所が変わるごとに違うインスピレーションのトリガーが引かれて、どんどんとメロディが降りてくるんだ。
−−常に見るものや聴いている音がインスピレーションになっているんですね。今も新しい曲を制作しているんですか?
FKJ:昨日1曲作って、今朝も1曲完成したよ。
−−楽曲を制作する時に悩まれることもありますか?
FKJ:もちろんあるけど、その状況を恐れてはいないよ。できなくて悩んでいてもその時に急にできるようにはならないし、自分を強いてまで作ろうとすると嫌になってしまうから、スタジオに入って何も浮かばなければ外に出て友達に会ったり映画を観たり音楽とは関係ないことをして時間を過ごしてみるんだ。そしたら、結局それも全部インスピレーションになって曲になっていくよ。
−−気分が変わればまたそこで生まれる音があるんですね。
FKJ:その通りだよ。スタジオにいる時といない時ではインスピレーションが変わるんだ。例えば昨日はずっと東京のスタジオにいたけど、iPhoneに昔録音していた音を聴きながら演奏してみると新たな曲になったりして、そういうのも面白いよね。だから、今回のアジア・ツアーでも色んな場所でたくさんの新しいインスピレーションを受けそうな予感がしているから、僕自身もすごく楽しみだよ!
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FRENCH KIWI JUICE
2017/09/06 RELEASE
RBCP-3211 ¥ 2,530(税込)
Disc01
- 01.WE AIN’T FEELING TIME
- 02.SKYLINE
- 03.BETTER GIVE U UP
- 04.GO BACK HOME
- 05.VIBIN’ OUT FEAT (((O)))
- 06.CANGGU
- 07.BLESSED
- 08.DIE WITH A SMILE
- 09.LYING TOGETHER (INTERLUDE)
- 10.LYING TOGETHER
- 11.JOY
- 12.WHY ARE THERE BOUNDARIES
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