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ケシャ『レインボー』発売記念特集~「このアルバムは私自身なの」と語る完全復活作までの道のり
全世界トータル・セールス1300万枚以上を誇り、これまでに米ビルボード誌の表紙を3度も飾った世界的シンガー・ソングライター、ケシャ(KESHA)が、4年ぶり通算3作目となる最新作『レインボー』をリリースした。2009年のデビュー当時から音楽活動を共にしてきたプロデューサーのドクター・ルークとの訴訟問題が原因で音楽活動を休止せざる負えなかったポップ・スターが、人生最大の苦難を乗り越え、遂にその沈黙を破り“新生ケシャ”として、ようやくシーンにカムバックし完全復活。アーティストとして、そして 1 人の人間としても大きく成長した彼女の決死の想いが詰まった新作『レインボー』のリリース、そして待望の来日を記念して、ここで今一度“ケシャ”というアーティストについて振り返ってみたい。
パーティー・アニマル“KE$HA”としてのデビュー
2009年に世界中で大ヒットとなった「ティック・トック」で、“パーティー・アニマル”としての衝撃的なデビューを果たしたことを覚えているだろうか?1987年生まれロサンゼルス出身、ナッシュビル育ちのケシャ。母親が元パンク・ロック歌手で現ソングライターのペベ・セパードということもあり、ケシャは幼少期からソングライティングを始め、17歳の頃にケシャのアーティスト人生にとってキーパーソンとなる音楽プロデューサーのドクター・ルーク(ピンク、アヴリル・ラヴィーン、ケイティ・ペリー等)と出会い、アーティストとしての道を歩んでいくこととなる。
▲Ke$ha - TiK ToK
2009年1月、ケシャはドクター・ルークの推薦によって、デビュー前にも関わらずフロー・ライダーの大ヒット・チューン「ライト・ラウンド」でメイン・パート担当に抜擢された。今楽曲は全米シングル・チャートで1位を獲得し、ケシャにとっては最大のチャンスとなったが、今楽曲のUS版にケシャはクレジットもされず、更にその報酬も得られなかったという。この納得のいかない経験からケシャはアーティスト名に“$”マークを入れることに。同年10月、ドクター・ルークの元、遂に“KE$HA”としてのデビューを果たし、世界中にその名が知れ渡ることとなる。
▲Flo Rida - Right Round (US Version Video)
2010年にリリースされたファースト・アルバム『アニマル』も全世界でのトータル・セールスが 800 万枚を超える大ブレイク。デビュー当時のケシャは、オートチューンを使用したエレクトロニック・ポップのサウンドを全面に押し出し、いわゆるパーティー・ミュージックで一気に人気シンガーへと駆け上がった。またこの年、デビューしたばかりにも関わらず、その注目度の高さから米ビルボード誌の表紙を飾っており、一躍人気者になったことに対し、当時のインタビューで、「時々、自分自身に「ティック・トック」が1位を獲ったのは今年の1月のことなのよ!って思い出させるようにしているわ。だって、(色々なことが物凄い速さで進みすぎて)17年くらい前の話だったかのように感じてしまうの。」とケシャは自身の思いがけない飛躍について語った。
2013 年にリリースされた2作目『ウォーリア』もドクター・ルークがプロデュース。ファースト・アルバムのエレクトロニック・ポップ・サウンドにロックのテイストが取り入れられたキャッチーなレコードが完成した。収録曲の「ダイ・ヤング」や、ピットブルとの共演曲「ティンバー」は全米シングル・チャートで 1 位に輝き、またこの頃には、ソングライターとして、ブリトニー・スピアーズ、アリアナ・グランデ、マイリー・サイラスなどの世界的歌姫たちにも楽曲提供を行うなど、作曲家としての才能も発揮。その飛躍は止まらなかった。ただ、デビュー当時からオートチューンを使用していたこともあり、ケシャはシンガーとして世間から良い評価ばかりを受けているわけではなかった。このことに対し、2012年に表紙を飾った米ビルボード誌のインタビューで、「世間からケシャは歌えないって言われることにもうウンザリよ。だって、私が自信を持って出来る数少ないことの一つが、歌うことなんだもの。」と語り、シンガーとしてのアイデンティティーを示した。
▲Ke$ha - Die Young (Official)
ドクター・ルークとの決別、新生“KESHA”としての再始動
セカンド・アルバムをリリースした翌年(2014年)、ケシャは衝撃的な告白を行う。デビュー前から長年のパートナー、そしてメンターとしてケシャをプロデュースし続けてきたドクター・ルークから10年間に渡り肉体的、精神的苦痛を受けてきたことを明かしたのだ。ケシャの告白により明るみになったこの問題は訴訟問題にまで発展し、その終わりの見えない闘いに彼女は鬱病や摂食障害も引き起こしてしまった。この間、ケシャは自身の作品を世に出す機会を奪われてしまい、音楽活動を休止せざる負えなくなってしまった。
そして2016年、その真相はわからないまま、訴訟は棄却されたが、ドクター・ルークとソニー・ミュージックが契約を解消したことで、ケシャは4年ぶりに活動を再開することができるようになる。この問題は業界内でも大きな反響を呼び、レディー・ガガ、アリアナ・グランデ、ケイティ・ペリーといったアーティストたちがSNS上でケシャを支持し、アデルは【ブリット・アワード 2016】の受賞スピーチで、 「女性の人権を守り、音楽活動が自由にできるようにして欲しい」というケシャの訴えをサポートした。また、ケシャは、その年に最も輝いた女性アーティストや音楽業界関係者を米ビルボードが表彰する【ビルボード・ウーマン・イン・ミュージック・アワード】(2016年)で<トレイルブレイザー賞>を受賞している。
この4年の間に、ケシャ自身の中で計り知れないほどの葛藤があったに違いない。ケシャが人気シンガーとしての地位を確立できたのもドクター・ルークによるプロデュースのおかげという部分もあるのかも知れない。しかし、ケシャはこの苦難をチャンスとして捉え、生まれ変わることを決意したのだ。自身のトレードマークでもあった“$”マークを外し、アーティスト名を“KE$HA”から“KESHA”に改名。これについて、「“何も気にしない女の子”というふりはやめたわ。当時は“強い女の子”だと思われていたけど、見せかけだったって気づいたのよ。名前の“$”マークもその“見せかけ”の一部だった」と語り、ケシャは本当の姿を取り戻した。訴訟棄却後、新生“KESHA”として音楽活動を再開し、ケシャはステージへ戻ってきた。【コーチェラ2016】ではZEDD のステージではコラボレーション楽曲「TRUE COLORS」を披露し、訴訟問題で出演が危ぶまれていた【ビルボード・ミュージック・アワード 2016】にも滑り込みで出演が決定し、ボブ・ディランの「悲しきベイブ(It Ain't Me, Babe)」を熱唱し、圧巻のパフォーマンスで観客を魅了した。
▲Kesha - It Ain't Me, Babe [Billboard Music Awards 2016]
そして、今年(2017年)人生最大の苦難を乗り越えて全てから解き放たれたケシャの想いが詰まった新作『レインボー』が完成し、音楽シーンに完全復活を果たしたのだ。
4年ぶり待望の最新作『レインボー』
「このアルバムは私自身なの。私のことを、今日まで待っていてくれて本当にありがとう。」
ドクター・ルークとの訴訟問題により活動休止を余儀なくされていたケシャが、4年ぶりに晴れて通算3作目のアルバムをリリース。今作は、30年間の人生で最大の苦難を乗り越え、全てから解き放たれた“KESHA”のリアルな心境が映し出された作品となっている。もちろんドクター・ルークなしでプロデュースされた今作。ケシャ自身もプロデュースに関わり、2015年に起こったパリ爆破テロ事件を乗り越えたイーグルス・オブ・デス・メタルやカントリー界の女王=ドリー・パートン、ケシャの母、ペベ・セバートもソングライティングに参加している。また今作のサウンドは、これまでの2作のような王道ポップではなく、自らのルーツでもある、カントリー、ロック、ソウル、サイケデリックといった様々なテイストが組み込まれた、まさに再スタートを果たした新生ケシャを作品全体で感じられる作品となっており、タイトルの“レインボー”には「自分のカラーに戻りたい」という意味が込められている。
リード曲「プレイング」は、ラッパーのマックルモアとのヒップホップ・デュオとして活動し、グラミー賞受賞歴も持つ音楽プロデューサー、ライアン・ルイスらと共作した楽曲。「私は自分の生き方に誇りを持っているわ / もうモンスターは全部消えた / これで一息つける」、「自分の力でやり遂げられるから、あなたはいなくていい / 今まで知らなかった強さを見つけたの」という歌詞の内容から、ドクター・ルークとの決別やこれまでの苦悩を乗り越えてきたケシャ自身のリアルな想いが楽曲に映し出されていることがわかる。最新のオフィシャル・インタビューでは、「私は、ここ数年で本当に強く、自立した女性へと成長したわ。アップダウンのあった長い旅路を終えて今思うのは、人々に聞かせられる“声”を持っていることは、なんてラッキーなことなのだと。だから、ちゃんと真実と良いことのためにこのチャンスを使わないと!と思ったのよ。」と語ったケシャ。今楽曲は、美しいピアノのサウンドと壮大なコーラスで構成されており、オートチューンなしの生の“声”で、これまでにはなかったハイトーン・ヴォイスや、力強さと表現力に磨きのかかったヴォーカルを聴かせている。
▲Kesha - Praying (Official Video)
更なる注目曲として、現在、ミュージック・ビデオが公開されている3曲を紹介したい。
まず、「ウーマン feat.ザ・ダップ・キングス・ホーンズ」は、ケシャのソウルの一面を垣間見れる一曲だ。「私をギュッと抱きしめてくれるような男は必要ないの」という歌詞通り、 “自立した女性”がテーマで、曲調はザ・ダップ・キングス・ホーンズのサウンドと共に、ヴィンテージ感溢れるソウルフルな楽曲となっている。
▲Kesha - Woman (Official Video) ft. The Dap-Kings Horns
続いて、ケシャのロック・サウンドを体感できる一曲、「ラーン・トゥ・レット・ゴー」。「忘れることを覚えなきゃ/過去を手放すことを覚えなきゃ」と歌い、過去に囚われていた自分を解放し、ハッピーエンドに向かっていくというこちらもメッセージ性の強い楽曲となっている。MVには、ケシャの幼少期の映像も使用されている。
▲Kesha - Learn To Let Go (Official Video)
そして、タイトル曲の「レインボー」。ケシャの力強くも優しい歌声が特徴的なエモーショナルなバラード曲だ。「虹を見つけたの、虹よ」、「忘れることも学ばなきゃ、過去は振り返らない」、「傷跡が私たちを個性的にする」、「とてつもなく強い風が吹いてもうダメだと思っても、しっかり頑張るのよ」という歌詞から、過去を振り返るのではなく、この先に希望を見出し、暗い世界に色を塗って“レインボー”を見つけようというポジティブなメッセージが伝わってくる。ミュージック・ビデオはLAのキャピトル・スタジオで、室内楽奏者達と共にレコーディングをしている風景が映し出されている。
▲Kesha - Rainbow (Official Video)
まさに、今作は“レインボー”というタイトルのごとく、多様なサウンドが楽しめるアルバムなのだ。
そして遂に、苦難を乗り越えアーティストとして大きく成長し、新たなる一歩を踏み出したケシャが、この待望の新作を引っ提げ待望の来日を果たす。【サマーソニック2017】や単独公演のステージで、新生“KESHA”は一体どんなパフォーマンスを魅せてくれるのか。アメリカでの全米『レインボー』ツアーも決定し、完全復活を果たしたケシャの爆発的なパフォーマンスも注目したい。
レインボー
2017/08/16 RELEASE
SICP-5573 ¥ 2,420(税込)
Disc01
- 01.バスターズ
- 02.レット・エム・トーク feat.イーグルス・オブ・デス・メタル
- 03.ウーマン feat.ザ・ダップ・キングス・ホーンズ
- 04.ヒム
- 05.プレイング
- 06.ラーン・トゥ・レット・ゴー
- 07.ファインディング・ユー
- 08.レインボー
- 09.ハント・ユー・ダウン
- 10.ブギー・フィート feat.イーグルス・オブ・デス・メタル
- 11.ブーツ
- 12.オールド・フレイムズ(キャント・ホールド・ア・キャンドル・トゥ・ユー) feat.ドリー・パートン
- 13.ゴジラ
- 14.スペースシップ
- 15.エモーショナル (日本盤ボーナス・トラック)
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