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ロジャー・ウォーターズ『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』発売記念特集
ロジャー・ウォーターズが、新作アルバム『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』を発表した。本作は、1992年にリリースされた前作『死滅遊戯』からなんと25年ぶりとなり、長年のファンを大いに沸かせている。あたかも今年2017年は、ピンク・フロイドがデビューして50周年にあたる記念すべき年。充実した内容の傑作を生み出したことを素直に喜びつつも、このアルバムを作り上げるまでの足取りをたどってみたい。
ロジャー・ウォーターズは1943年、英国生まれ。1960年代後半にシド・バレットらとともにピンク・フロイドを結成。1967年にデビューするが、シドが翌年に脱退してしまう。デヴィッド・ギルモア、リチャード・ライト、ニック・メイスンとの4人組として再出発したピンク・フロイドは、サイケデリック・ロックからプログレッシヴ・ロックへと方向転換し、力作アルバムを続々と発表していく。とくに、1970年の『原子心母』と1973年の『狂気』は彼らの代表作としてだけでなく、世界のロック・シーンにおける金字塔となり、名実ともに世界最大級のスケール感を持ったバンドへとのし上がっていった。
その後、『炎~あなたがここにいてほしい』(1975年)をはさんでからの『アニマルズ』(1977年)では、ロジャーの楽曲が5曲中4曲を占め、実質的に彼がイニシアチブをとるバンドとなった。そしてこの頃から、それぞれのソロ活動も活発化。1979年の2枚組大作『ザ・ウォール』の制作時にはリチャード・ライトが解雇されるなど、ますますロジャーのワンマン・バンドの色合いが濃くなっていく。1983年の『ファイナル・カット』においては、他のメンバーはスタジオ・ミュージシャン的な扱いとなり、ほぼロジャーのソロ・アルバムといってもいい内容となった。
この当時、大規模なツアーの赤字問題、ソロ作品やそれに伴うライブの失敗など、様々な壁にぶち当たっている。そして、メンバーやマネージャーとの確執も取り返しがつかなくなり、ロジャーは正式にピンク・フロイドを脱退。デヴィッド・ギルモアらとの訴訟問題にまで発展し、様々な条件のもと和解となったが、後味の悪い結果となった。デヴィッド中心に新スタートを切ったピンク・フロイドは、1987年にアルバム『鬱』、1994年に『対』を発表してセールス的にも成功するが、ロジャーは「ニセモノだ」とばっさりと切り捨て、自分が抜けた後のグループを徹底的に批判した。
一方、そのロジャーは、ピンク・フロイド脱退直前の1984年に、本格的なソロ・アルバム第一弾『ヒッチハイクの賛否両論』を発表。エリック・クラプトンやキング・クリムゾンなどに参加していたメル・コリンズなどのゲストを迎え、夢をテーマにしたコンセプト・アルバムを構築した。また、1986年には核戦争をテーマにしたアニメーション映画『風が吹くとき』のサウンドトラックを手がけ、こちらも高い評価を獲得。そして、翌1987年には2作目のソロ・アルバム『RADIO K.A.O.S.』を発表。架空のラジオ局を舞台にしたコンセプト・アルバムで、当時の社会風刺を盛り込むことで見事な傑作に仕上がった。しかし、同時期に発表されたピンク・フロイドの『鬱』との売り上げやコンサート動員の比較では惨敗となり、そのショックもあってしばらくはツアーも封印してしまう。
1992年には3作目のソロ・アルバム『死滅遊戯』を発表。ジェフ・ベック、ドン・ヘンリー、TOTOなどのゲストを迎えながらも、現代社会を痛烈に批判した内容を構築し、ピンク・フロイド時代以上にストレートなメッセージを持った傑作として高く評価された。この作品のあとにツアーを行うのではないかとの噂もあったが、結局は実現に至らずに時が過ぎてしまう。
90年代以降、アルバムのリリースは途絶えたが、この時期は充電期間といえるだろう。沈黙の後の1999年には、突如ワールドツアーを発表し、3年間に渡る大規模なツアーを敢行。また21世紀に入ってからは、ベスト・アルバム、オペラ・アルバム、いくつかの映画音楽、そして誰もが待ち望んでいたピンク・フロイドのメンバーとしてのライブ出演、ソロでの『狂気』の再現ツアーなどを次々と実現させ、その後の、2010年から『ザ・ウォール』の再現ツアーでは商業的な大成功を収めた。
▲ロジャー・ウォーターズ
『イズ・ディス・ザ・ライフ・
ウィ・リアリー・ウォント?』
こうした様々な復活劇を経てからの新たな展開といえるのが、今回リリースされた4作目のソロ・アルバム『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』である。この作品を聴けば分かる通り、まさにロジャー・ウォーターズの世界がはっきりと打ち出された、彼にしか作り得ない壮大なスケールの作品となっているのだ。全体がコンセプチュアルなものであるのはもちろん、メドレー形式を効果的に使い、鼓動、時計の音、ラジオからの喋り声といったSEも多数取り入れ、『狂気』や『アニマルズ』にも通じるダイナミックなサウンドからは、往年のファンなら思わずニヤリとしてしまうシーンがあちこちに隠されている。加えて、「こんな人生を本当に望んでいるのか?」というタイトル通り、政治や環境といった世界にはびこる様々な問題に肘鉄を食らわせるような言葉が散りばめられているのだ。このあたりは、ぜひ歌詞カードをにらみながら聴いてもらいたい。
▲ Roger Waters - 'Is This the Life We Really Want?'
ただ、こういったある種の難解に捉えられがちな要素を、きっちりとロックというエンターテイメントのフォーマットに落とし込み、メッセージ先行になりすぎずに音楽作品として完成させているのは、ロジャーの才能がまだまだ枯渇せず現役である証拠だ。また、今作でプロデューサーとして関わったナイジェル・ゴドリッチの役割も非常に大きいだろう。レディオヘッドやベックなど数々の名盤を作り出してきたゴドリッチからのサジェスチョンは、ロジャーを大いに刺激し、時には怒らせながらも、傑作を生み出すというゴールまで一直線に導いていったことは想像に難くない。まさに、ピンク・フロイドのデビューから50年の間に蓄積していったロジャーのアイデンティティが、本作に詰まっているのだ。
この『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』からの展開は、まだまだ未知数だ。しかし、ロジャー・ウォーターズの音楽が、けっして過去の遺物ではなく、現代に生き続けている音楽であることが証明されたのは間違いないだろう。陰鬱とした世界情勢が続く限り、『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』は聴く者に問題提起をし続けるはず。そして、ロジャー・ウォーターズという怪物が、閉塞した音楽シーンと現代社会に必要であることを、あらためて実感することだろう。
イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?
2017/06/07 RELEASE
SICP-5425 ¥ 2,640(税込)
Disc01
- 01.ホエン・ウィ・ワー・ヤング
- 02.デジャ・ヴ
- 03.ザ・ラスト・レフュジー
- 04.ピクチャー・ザット
- 05.ブロークン・ボーンズ
- 06.イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?
- 07.バード・イン・ア・ゲイル
- 08.ザ・モスト・ビューティフル・ガール
- 09.スメル・ザ・ローゼズ
- 10.ウェイト・フォー・ハー
- 11.オーシャンズ・アパート
- 12.パート・オブ・ミー・ダイド
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